痛いか、痛くないか、羊水は多いか少ないか―妊娠の異常を「病態」から結びつける
第104回医師国家試験 D問題 第4問
国試問題にチャレンジ
疾患と症状・検査所見の組合せで正しいのはどれか。
- a.前置胎盤 ―― 有痛性の出血
- b.頸管無力症 ―― 有痛性の子宮収縮
- c.HELLP症候群 ―― 血小板数20万
- d.Potter症候群 ―― 羊水指数〈AFI〉9 cm
- e.双胎間輸血症候群 ―― 羊水量不均衡
対話形式の解説
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ドクターまとめ
妊娠の異常を症状・所見と結びつけるには、病態から考えるのが近道です。前置胎盤は子宮収縮や血腫を伴わない無痛性の警告出血、常位胎盤早期剥離は有痛性出血と子宮の板状硬が特徴で、頸管無力症も痛みのない頸管開大である点が切迫流早産との違いです。HELLP症候群は血小板10万/μL以下が目安で、Potter症候群は胎児尿の欠如による高度の羊水過少(AFI 5 cm以下)と肺低形成を来すため、正常範囲の数値とは結びつきません。双胎間輸血症候群は一絨毛膜双胎の胎盤血管吻合による血流の偏りが本態で、受血児の羊水過多と供血児の羊水過少という羊水量不均衡が中心的所見となります。羊水を胎児の尿の産生と嚥下のバランスとして理解しておくと、羊水異常をきたす疾患全般の鑑別にも応用できます。
解答・解説
正解はeです
テーマ
妊娠中の代表的な異常について、その特徴的な症状や検査所見を正しく結びつけられるかを問う問題である。各疾患の「病態」から症状・所見を導けるようにしておくと、組合せ問題に強くなる。
考え方
・出血や子宮口開大が「痛みを伴うか」は、病態が子宮収縮や胎盤後血腫を伴うかどうかで決まる。前置胎盤(無痛性出血)と常位胎盤早期剥離(有痛性出血・子宮の硬直)、頸管無力症(無痛性の頸管開大)と切迫流早産(有痛性の子宮収縮)を対比して覚える。 ・検査値の組合せでは、その値が正常範囲か異常かを判断する必要がある。血小板数の正常値(約15万〜35万/μL)や羊水指数(AFI)の基準(羊水過少は5 cm以下、羊水過多は24〜25 cm以上)を押さえておく。 ・双胎間輸血症候群は一絨毛膜双胎の胎盤血管吻合による血流の偏りが本態であり、その結果が両児の尿量と羊水量の差として現れる。
選択肢考察
- ×a. 前置胎盤 ―― 有痛性の出血
前置胎盤は、胎盤が内子宮口を覆う、またはその近くに付着した状態である。妊娠後期に子宮下部が伸展したり頸管が開大したりすると、伸びにくい胎盤との間にずれが生じて付着部から出血する。子宮収縮や胎盤後血腫を伴わないため、典型的には腹痛のない「無痛性」の性器出血であり、警告出血と呼ばれる。有痛性の出血で、子宮が板状に硬くなるのは常位胎盤早期剥離の特徴である。
- ×b. 頸管無力症 ―― 有痛性の子宮収縮
頸管無力症は、子宮頸管の支持力が弱いために、陣痛などの子宮収縮がないにもかかわらず妊娠中期に頸管が短縮・開大し、胎胞が膨隆して流早産に至る病態である。自覚症状に乏しいことが特徴で、経腟超音波検査での頸管長短縮や、帯下の増加・下腹部の違和感を契機に見つかる。有痛性の子宮収縮を伴うのは切迫流産・切迫早産である。治療・予防として頸管縫縮術(Shirodkar法、McDonald法)が行われる。
- ×c. HELLP症候群 ―― 血小板数20万
HELLP症候群は、溶血(Hemolysis)、肝酵素上昇(Elevated Liver enzymes)、血小板減少(Low Platelets)を3徴とする妊娠・分娩期の重篤な病態で、多くは妊娠高血圧症候群に合併する。上腹部痛・心窩部痛で発症することが多い。代表的なSibaiの診断基準では、血小板数10万/μL以下、AST 70 IU/L以上、LDH 600 IU/L以上で溶血所見を伴うことが求められる。血小板数20万/μLは正常範囲であり、本症の所見に合わない。
- ×d. Potter症候群 ―― 羊水指数〈AFI〉9 cm
Potter症候群(Potterシークエンス)は、両側腎無形成などにより胎児尿が産生されず高度の羊水過少となり、その結果として肺低形成、特徴的な顔貌(Potter顔貌:両眼離開、鼻の扁平化、耳介低位など)、四肢の変形・関節拘縮などを来す予後不良の病態である。羊水指数(AFI:子宮を4分割して各区画の最大羊水深度を合計した値)は5 cm以下で羊水過少と判断され、Potter症候群ではほとんど羊水がみられないことが多い。AFI 9 cmは正常範囲であり、本症の所見ではない。
- ○e. 双胎間輸血症候群 ―― 羊水量不均衡
双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)は、一絨毛膜双胎において胎盤表面の血管吻合を通じた血流が一方に偏ることで生じる。血液を送り出す側(供血児)は循環血液量が減って乏尿となり羊水過少・発育不全を、受け取る側(受血児)は循環血液量過多となり多尿による羊水過多・心不全(胎児水腫)を来す。診断基準は一絨毛膜双胎で、受血児の羊水過多(最大羊水深度8 cm以上)と供血児の羊水過少(最大羊水深度2 cm以下)が同時に存在することであり、両児間の羊水量不均衡が本症の中心的な所見である。
双胎間輸血症候群の要点
・発生:一絨毛膜双胎(一絨毛膜二羊膜双胎が大半)の約10%前後に発生する。二絨毛膜双胎では胎盤が別々のため原則として起こらない。 ・病態:胎盤内の動脈−静脈吻合を介した一方向性の血流の偏り。 ・供血児:循環血液量減少、乏尿、羊水過少、膀胱が描出されない、発育不全。羊水がほとんどなく羊膜に張り付いたように見える状態をstuck twinと呼ぶ。 ・受血児:循環血液量過多、多尿、羊水過多、膀胱の拡大、心拡大・心不全、胎児水腫。 ・重症度分類:Quintero分類(I期:羊水量不均衡のみ、II期:供血児の膀胱が描出されない、III期:臍帯動脈・静脈管などの血流異常、IV期:胎児水腫、V期:一児または両児の死亡)。 ・治療:妊娠16〜26週未満では胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)が標準的な治療である。
妊娠中の出血・痛みの鑑別
・前置胎盤:無痛性、反復する警告出血。内診は禁忌で、経腟超音波で診断する。 ・常位胎盤早期剥離:有痛性、子宮の板状硬、胎児機能不全、DIC(播種性血管内凝固)を合併しやすい。 ・頸管無力症:無痛性の頸管開大。 ・切迫流早産:有痛性の規則的な子宮収縮。
羊水量の評価
・羊水指数(AFI):5 cm以下で羊水過少、24〜25 cm以上で羊水過多。 ・最大羊水深度(MVP):2 cm以下で羊水過少、8 cm以上で羊水過多。 ・羊水過少の原因:胎児の腎・尿路異常(Potterシークエンス)、前期破水、胎盤機能不全など。 ・羊水過多の原因:消化管閉鎖(食道・十二指腸閉鎖)、嚥下障害を来す中枢神経異常、糖尿病合併妊娠、TTTSの受血児など。
HELLP症候群
妊娠高血圧症候群に合併することが多く、上腹部痛・悪心で発症し、DIC、肝被膜下血腫・肝破裂、常位胎盤早期剥離などを合併しうる。治療の基本は母体の全身管理と速やかな妊娠の終結(分娩)である。
POINT
・前置胎盤は無痛性出血、常位胎盤早期剥離は有痛性出血。 ・頸管無力症は子宮収縮(痛み)を伴わずに頸管が開大する。 ・HELLP症候群は溶血・肝酵素上昇・血小板減少(10万/μL以下が目安)。 ・Potter症候群は両側腎無形成などによる高度の羊水過少(AFI 5 cm以下)と肺低形成。 ・双胎間輸血症候群は一絨毛膜双胎に特有で、受血児の羊水過多(MVP 8 cm以上)と供血児の羊水過少(MVP 2 cm以下)という羊水量不均衡が特徴。
