StudyMed医師国家試験

アルコールが効かない相手―ノロウイルスと食中毒の「型」で解く知識問題

第104回医師国家試験 D問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第5問

食中毒で正しいのはどれか。

  1. a.我が国ではブドウ球菌食中毒の患者数が最も多い。
  2. b.サルモネラ食中毒の原因食品は生の魚介類が多い。
  3. c.腸炎ビブリオ食中毒の潜伏期間は2~6時間である。
  4. d.ボツリヌス食中毒の治療には抗菌薬を投与する。
  5. e.ノロウイルスの消毒には次亜塩素酸ナトリウムが有効である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は食中毒の代表的な病原体について、患者数、原因食品、潜伏期間、治療、消毒法を横断的に問う問題だ。一つひとつ暗記するより、病原体を「毒素型」「感染型」「ウイルス性」に分けて整理すると、正誤の判断がぐっと楽になる。まずは型の違いから確認しよう。
医学生医学生
毒素型は食品の中で菌がつくった毒素を食べて発症して、感染型は食べた菌が腸の中で増えて発症する、と微生物学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。毒素型は毒素がすでにできているから潜伏期間が短く、しかも菌を殺しても毒素は残るので、抗菌薬は本質的な治療にならない。感染型は菌が腸で増えるまで時間がかかるから、潜伏期間は半日〜数日と長めになる。この原則を頭に置いて選択肢を見ていこう。まず、我が国で食中毒の患者数が最も多い病原体は何だと思う?
医学生医学生
おにぎりで起こる黄色ブドウ球菌はよく聞くので、多いのかなと思っていました。
ドクタードクター
有名だけれど、患者数で最も多いのはノロウイルスで、例年全体のおよそ半数前後を占める。給食や仕出し弁当、飲食店で1件あたり数十〜数百人規模の集団発生を起こしやすいからだ。細菌性に限っても、事件数ではカンピロバクターが多い。黄色ブドウ球菌は手指の化膿創から汚染される代表的な毒素型食中毒だけれど、患者数最多ではないんだ。
医学生医学生
サルモネラの原因食品が生の魚介類というのも、何か違う気がします。卵のイメージがありました。
ドクタードクター
正しい感覚だ。サルモネラの主な原因は鶏卵とその加工品、例えば自家製マヨネーズや洋菓子、それに鶏肉などの食肉だ。鶏の卵巣や卵管が感染すると、卵の中身まで汚染されることがある。ミドリガメなどの爬虫類からの感染も知られているね。生の魚介類が原因になる代表は腸炎ビブリオのほうだ。
医学生医学生
その腸炎ビブリオの潜伏期間が2〜6時間というのは、感染型にしては短すぎますよね。
ドクタードクター
いい推論だ。腸炎ビブリオは感染型で、潜伏期間はおおむね6〜24時間。2〜6時間という短さは、毒素型の黄色ブドウ球菌の特徴だね。腸炎ビブリオは好塩性の海水細菌で、海水温が上がる夏に増え、刺身や寿司が原因になる。真水に弱いので、魚介類を真水でよく洗うこと、低温で保存することが予防になる。
医学生医学生
ボツリヌスも毒素型だから、抗菌薬は効かないということでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。食餌性ボツリヌス症は、いずしや真空パック食品、缶詰など嫌気状態の食品の中で菌がつくった神経毒素を摂取して起こる。毒素は神経筋接合部でアセチルコリンの放出を阻害し、眼瞼下垂や複視、嚥下障害から始まる下行性の弛緩性麻痺を起こし、呼吸筋麻痺で命に関わる。治療の中心は、まだ神経に結合していない毒素を中和する抗毒素血清をできるだけ早く投与することと、人工呼吸管理を含む全身管理だ。
医学生医学生
神経内科の講義で、重症筋無力症との鑑別でボツリヌスが出てきました。早く抗毒素を打つのが大事なんですね。
ドクタードクター
そう、結合してしまった毒素は抗毒素でも外せないからね。では残る選択肢、ノロウイルスの消毒に次亜塩素酸ナトリウムが有効という記述はどうかな。
医学生医学生
病院実習では手指消毒にアルコールを使っていますが、ノロウイルスのときは石けんと流水で手を洗うように言われました。アルコールが効かないからですか。
ドクタードクター
まさにそこが正解の根拠だ。ノロウイルスはエンベロープ、つまり脂質の外膜をもたない小型のRNAウイルスで、脂質膜を壊して効く消毒用エタノールや逆性石けんが効きにくい。一方、次亜塩素酸ナトリウムはウイルスのタンパク質や核酸を酸化して不活化するから有効なんだ。だから、この記述が正しい。
医学生医学生
インフルエンザやコロナウイルスはエンベロープがあるから、アルコールで効く、ということですね。
ドクタードクター
その対比は大切だ。ロタウイルスやアデノウイルスもエンベロープをもたず、アルコールに抵抗性を示しやすい。実際の対応では、嘔吐物や便で汚れた場所には約0.1%、手すりや調理器具などの環境には約0.02%程度の次亜塩素酸ナトリウムが目安になる。加熱も有効で、食品は中心温度85〜90℃で90秒以上が推奨されている。
医学生医学生
ノロウイルスは冬に多くて、カキなどの二枚貝が原因になることが多いんですよね。
ドクタードクター
そうだね。それに加えて、感染した調理従事者を介した食品汚染や、吐物・便からのヒト−ヒト感染でも広がる。少量のウイルスでも感染が成立するから、病棟で嘔吐した患者さんがいたら、手袋・ガウン・マスクを着けて速やかに吐物を処理し、乾燥して舞い上がる前に消毒することが大切だ。ほかにも、カンピロバクターは鶏肉の加熱不足が原因で潜伏期間が2〜7日と長く、ギラン・バレー症候群を合併しうること、腸管出血性大腸菌は溶血性尿毒症症候群を起こしうることも一緒に押さえておこう。

まとめ

食中毒は、食品中で産生された毒素による毒素型(黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌など)、腸管内で菌が増える感染型(サルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクターなど)、ウイルス性(ノロウイルス)に分けて整理すると理解しやすく、毒素型は潜伏期間が短く抗菌薬が本質的な治療にならない点が特徴です。我が国で患者数が最も多いのはノロウイルスで、エンベロープをもたないためエタノールが効きにくく、次亜塩素酸ナトリウムや加熱による消毒、石けんと流水での手洗いが基本となります。サルモネラは鶏卵・鶏肉、腸炎ビブリオは生の魚介類(潜伏期間6〜24時間)が原因となり、ボツリヌス食中毒の治療は抗毒素血清と呼吸管理です。病原体の性質から疫学・潜伏期間・治療・消毒法を導く考え方は、院内感染対策や集団発生への対応など臨床現場でもそのまま役立ちます。

解答・解説

正解はeです

食中毒の代表的な病原体について、疫学(患者数)・原因食品・潜伏期間・治療・消毒法を横断的に問う知識問題である。 食中毒の病原体は、病原体の性質によっておおまかに次のように整理できる。 ・細菌性食中毒のうち毒素型:食品中で菌が増殖して産生した毒素を食べることで発症する(黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌嘔吐型)。毒素がすでにできているため潜伏期間が短い(ブドウ球菌では数時間)ことが多く、菌を殺す抗菌薬は本質的な治療にならない。 ・細菌性食中毒のうち感染型:摂取した菌が腸管内で増殖・侵入して発症する(サルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌など)。菌が増えるまで時間がかかるため、潜伏期間は半日〜数日と長めである。 ・ウイルス性食中毒:ノロウイルスが代表で、我が国の食中毒患者数の第1位を占める。 各選択肢について、「どの病原体か」「毒素型か感染型か」「原因食品は何か」を思い浮かべれば正誤を判断できる。ノロウイルスはエンベロープ(脂質の外膜)をもたないウイルスであり、エタノールが効きにくく、次亜塩素酸ナトリウムや加熱が有効であるという点が正解の根拠となる。

選択肢考察

  1. ×a.  我が国ではブドウ球菌食中毒の患者数が最も多い。

    誤り。我が国の食中毒統計で患者数が最も多い病因物質はノロウイルスであり、例年、全患者数のおよそ半数前後を占める。ノロウイルスは給食・仕出し弁当・飲食店などで1件あたり数十〜数百人規模の集団発生を起こしやすいためである。細菌性に限っても、事件数ではカンピロバクターが多く、患者数ではウェルシュ菌やカンピロバクター、かつてはサルモネラ・腸炎ビブリオが上位であった。黄色ブドウ球菌食中毒はおにぎりや弁当など手指を介した汚染で起こる代表的な毒素型食中毒ではあるが、患者数が最多というわけではない。

  2. ×b.  サルモネラ食中毒の原因食品は生の魚介類が多い。

    誤り。サルモネラ(非チフス性サルモネラ、特にSalmonella Enteritidisなど)の主な原因食品は、鶏卵とその加工品(自家製マヨネーズ、洋菓子、卵焼きなど)、鶏肉・食肉、乳製品である。鶏の卵巣や卵管が菌に感染すると卵の内部まで汚染されることがある。また、ミドリガメなどの爬虫類やペットからの感染も知られる。潜伏期間はおおむね半日〜3日(多くは12〜48時間)で、発熱・腹痛・下痢(ときに血便)を呈する。生の魚介類が原因食品となる代表は腸炎ビブリオである。

  3. ×c.  腸炎ビブリオ食中毒の潜伏期間は2~6時間である。

    誤り。腸炎ビブリオは摂取後に腸管内で増殖して発症する感染型であり、潜伏期間はおおむね6〜24時間(平均12時間前後)である。2〜6時間程度の短い潜伏期間は、すでに産生された毒素を摂取する毒素型の黄色ブドウ球菌食中毒(平均約3時間)の特徴である。腸炎ビブリオは好塩性の海水細菌で、夏季に海水温が上がると増殖し、刺身・寿司など生の魚介類が原因となる。激しい腹痛と水様性下痢が主症状で、真水に弱いため魚介類を真水でよく洗うこと、低温保存が予防となる。

  4. ×d.  ボツリヌス食中毒の治療には抗菌薬を投与する。

    誤り。食餌性ボツリヌス症は、嫌気状態の食品(いずしなどの発酵食品、真空パック食品、缶詰・瓶詰など)の中でボツリヌス菌が産生した神経毒素を摂取して発症する毒素型食中毒である。毒素は神経筋接合部でアセチルコリンの放出を阻害し、眼瞼下垂・複視・嚥下障害・構音障害から始まる下行性の弛緩性麻痺を起こし、呼吸筋麻痺で死亡しうる。原因は菌そのものではなく毒素であるため、抗菌薬では治療にならない。治療の中心は、まだ神経に結合していない血中の毒素を中和する抗毒素血清(乾燥ボツリヌスウマ抗毒素)のできるだけ早期の投与と、人工呼吸管理を含む全身管理である。

  5. ○e.  ノロウイルスの消毒には次亜塩素酸ナトリウムが有効である。

    正しい。ノロウイルスはエンベロープをもたない小型RNAウイルスで、脂質膜を壊して効果を発揮する消毒用エタノールや逆性石けんが効きにくい。一方、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤の成分)はウイルスのタンパク質や核酸を酸化して不活化するため有効である。目安として、嘔吐物や便で汚れた場所の処理には約0.1%(1,000 ppm)、調理器具や手すりなど一般的な環境の消毒には約0.02%(200 ppm)程度の濃度が用いられる。また加熱も有効で、食品は中心温度85〜90℃で90秒以上の加熱が推奨されている。手指の衛生には、アルコールに頼らず石けんと流水による十分な手洗いが基本となる。

主な食中毒の整理

・黄色ブドウ球菌(毒素型):耐熱性のエンテロトキシンが原因で、加熱しても毒素は壊れない。潜伏期間は1〜6時間(平均約3時間)と短く、激しい嘔吐が主症状。手指の化膿創からの汚染が多く、おにぎり・弁当が原因食品となる。 ・ボツリヌス菌(毒素型):いずし、真空パック食品、缶詰など。潜伏期間は8〜36時間程度。下行性の弛緩性麻痺。治療は抗毒素血清と呼吸管理。なお、乳児ボツリヌス症は芽胞を含むハチミツなどを摂取し、腸管内で菌が増えて毒素を産生するもので、1歳未満の乳児にハチミツを与えてはならない。 ・セレウス菌:嘔吐型(チャーハンなど米飯、毒素型で潜伏期間が短い)と下痢型がある。 ・腸炎ビブリオ(感染型):生の魚介類、夏季に多い。潜伏期間6〜24時間。 ・サルモネラ(感染型):鶏卵・鶏肉など。潜伏期間は半日〜3日。発熱を伴いやすい。 ・カンピロバクター(感染型):鶏肉の生食・加熱不足が主な原因。潜伏期間2〜7日と長い。細菌性食中毒で事件数が多い。発症後にギラン・バレー症候群を合併することがある。 ・腸管出血性大腸菌(O157など、感染型):牛肉・生野菜など。潜伏期間3〜8日。ベロ毒素により血便を生じ、溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こしうる。 ・ウェルシュ菌:カレーやシチューなどの大量調理食品。加熱後に室温で放置すると芽胞が発芽・増殖する。 ・ノロウイルス:冬季に多く、二枚貝(カキなど)の生食や、感染した調理従事者を介した食品汚染、吐物・便からのヒト−ヒト感染で広がる。潜伏期間24〜48時間。少量のウイルス量でも感染が成立する。

消毒薬とエンベロープ

エンベロープをもつウイルス(インフルエンザウイルス、コロナウイルスなど)はアルコールで比較的容易に不活化されるが、エンベロープをもたないウイルス(ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなど)はアルコールに抵抗性を示しやすい。後者には次亜塩素酸ナトリウムや加熱が有効である。

POINT

・我が国で食中毒の患者数が最も多い病因物質はノロウイルスである。 ・ノロウイルスはエンベロープをもたず、エタノールが効きにくい。消毒は次亜塩素酸ナトリウムか加熱(85〜90℃・90秒以上)。 ・毒素型(黄色ブドウ球菌など)は潜伏期間が短く、感染型(腸炎ビブリオ、サルモネラなど)は長い。腸炎ビブリオは6〜24時間。 ・原因食品:サルモネラ=鶏卵・鶏肉、腸炎ビブリオ=生の魚介類、カンピロバクター=鶏肉、ボツリヌス=いずし・真空パック食品。 ・ボツリヌス食中毒の治療は抗毒素血清と呼吸管理であり、抗菌薬ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。