骨導は正常、気導だけが落ちる―オージオグラムから「音の通り道」の故障箇所を突き止める
第104回医師国家試験 D問題 第1問
国試問題にチャレンジ
オージオグラムを別に示す。 障害部位として考えられるのはどれか。2つ選べ。

- a.鼓膜
- b.血管条
- c.耳小骨
- d.蝸牛神経
- e.有毛細胞
対話形式の解説
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ドクターまとめ
オージオグラムでは、気導が外耳から中枢までの音の通り道全体を、骨導が内耳以降の機能を反映します。骨導が正常で気導のみが低下し気導骨導差がある場合は伝音難聴であり、障害部位は外耳や中耳、すなわち鼓膜や耳小骨と考えます。一方、血管条や有毛細胞などの内耳、蝸牛神経より中枢の障害では気導と骨導がともに低下して差がない感音難聴となります。中耳は面積比とてこ比で音圧を増幅しており、純粋な伝音難聴は最大でも約60dB程度にとどまる点も押さえておきたい知識です。図から障害部位を推定する力は、耳鏡所見や画像と組み合わせて原因疾患と治療方針を決める耳鼻咽喉科診療の出発点となります。
解答・解説
正解はa, cです
オージオグラムの読み方
オージオグラム(純音聴力検査の結果を示した図)では、横軸が周波数(125〜8,000 Hz)、縦軸が聴力レベル(dB)で、下に行くほど聞こえが悪い。記号は一般に、右気導が○、左気導が×、右骨導が[(またはコ字形)、左骨導が]で表す。気導は外耳→中耳→内耳→神経という音の通り道全体を、骨導は頭蓋骨の振動で直接内耳を刺激するため内耳以降の機能を反映する。
本図の所見
・右気導(○):全周波数で約45〜60 dBと低下している。 ・右骨導([):約10〜20 dBでほぼ正常範囲にある。 ・左気導(×)と左骨導(]):いずれも約10〜20 dBで正常範囲にあり、両者の差はない。 したがって右耳には、骨導が正常で気導だけが低下した状態、すなわち気導骨導差(air-bone gap)が約30〜40 dB存在する。これは内耳以降の機能は保たれ、音が内耳に届くまでの経路(外耳・中耳)に障害がある「伝音難聴」のパターンである。
設問への考え方
伝音難聴の障害部位は外耳(外耳道)と中耳(鼓膜・耳小骨・中耳腔・耳管)である。一方、内耳(蝸牛の有毛細胞・血管条など)や蝸牛神経より中枢の障害では気導・骨導がともに低下し、両者の差がない「感音難聴」となる。選択肢の各部位が外耳・中耳に属するのか、内耳・神経に属するのかを判断すればよい。
選択肢考察
- ○a. 鼓膜
鼓膜は外耳と中耳の境にあり、音波を振動として耳小骨へ伝える伝音系の構成要素である。穿孔(慢性中耳炎や外傷)、肥厚、石灰化(鼓室硬化症)、癒着などがあると振動の伝達効率が落ち、骨導は保たれたまま気導のみが低下する伝音難聴となる。本図の右耳の所見に合致する障害部位である。
- ×b. 血管条
血管条は蝸牛外側壁にある組織で、内リンパを産生し約+80 mVの内リンパ電位(蝸牛内電位)を維持している。有毛細胞が音を電気信号に変換するための「電源(バッテリー)」の役割を担う。障害されると内耳性(感音性)難聴となり、気導・骨導がともに低下するため、骨導が正常な本図とは合わない。
- ○c. 耳小骨
耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)は中耳にあり、鼓膜の振動をてこの原理で増幅して卵円窓から内耳へ伝える。耳硬化症によるアブミ骨の固着、外傷や真珠腫による耳小骨連鎖の離断、奇形などで伝音難聴を生じる。連鎖が完全に離断すると最大で約60 dBの伝音難聴になるとされる。本図の気導骨導差を説明できる障害部位である。
- ×d. 蝸牛神経
蝸牛神経は有毛細胞からの信号を脳幹の蝸牛神経核へ送る神経であり、内耳より中枢側に位置する。聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)などで障害されると後迷路性の感音難聴となり、気導・骨導がともに低下する。骨導が正常な本図の所見とは一致しない。
- ×e. 有毛細胞
有毛細胞は蝸牛のコルチ器にある感覚受容細胞で、基底板の振動を電気信号に変換する(内有毛細胞が主に信号伝達、外有毛細胞が増幅を担う)。騒音、加齢、耳毒性薬物(アミノグリコシド系など)などで障害されると内耳性の感音難聴となり、気導と骨導がともに低下する。本図の伝音難聴パターンとは合わない。
難聴の分類とオージオグラム
・伝音難聴:骨導正常、気導低下(気導骨導差あり)。障害部位は外耳・中耳。原因として耳垢栓塞、外耳道閉鎖症、急性・慢性中耳炎、滲出性中耳炎、真珠腫性中耳炎、耳硬化症、耳小骨離断などがある。純粋な伝音難聴では聴力低下は最大でおよそ60 dB程度にとどまる。 ・感音難聴:気導・骨導ともに同程度に低下(気導骨導差なし)。内耳性(迷路性)と後迷路性(蝸牛神経より中枢)に分けられる。原因として加齢性難聴、騒音性難聴(4,000 Hz付近の低下=c5 dip)、突発性難聴、メニエール病(初期は低音域障害)、薬剤性難聴、聴神経腫瘍などがある。 ・混合性難聴:気導・骨導ともに低下し、さらに気導骨導差もある。
伝音系の構造
外耳道で集められた音は鼓膜を振動させ、耳小骨連鎖を介して卵円窓に伝わる。鼓膜と卵円窓の面積比(約17倍)と耳小骨のてこ比(約1.3倍)によって音圧が増幅され、空気から内耳のリンパ液への伝達効率の悪さ(インピーダンスの違い)が補われている。この仕組みが損なわれると伝音難聴となる。
内耳の構造
蝸牛には内リンパ腔(蝸牛管)があり、血管条が高K+の内リンパと正の蝸牛内電位を維持する。コルチ器の有毛細胞が機械的振動を電気信号に変換し、蝸牛神経を経て中枢へ送る。
POINT
・オージオグラムは、骨導が正常で気導のみ低下(気導骨導差あり)なら伝音難聴、気導・骨導ともに低下して差がなければ感音難聴と読む。 ・伝音難聴の障害部位は外耳・中耳(外耳道、鼓膜、耳小骨など)。 ・感音難聴の障害部位は内耳(有毛細胞、血管条など)と蝸牛神経以降の中枢側。 ・記号:右気導○、左気導×、右骨導[、左骨導]。
