StudyMed医師国家試験

治験の説明で「省いていいこと」はひとつもない―CRCが伝えるべき被験者の約束ごと

第104回医師国家試験 C問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第104回 C問題 第9問

臨床研究(治験)コーディネーターからの説明として適切なのはどれか。

  1. a.家族を交えず本人のみに説明する。
  2. b.主治医の希望に沿って説明を進める。
  3. c.費用負担については説明しない。
  4. d.被験者が守るべき事項について説明する。
  5. e.発生の可能性が低い有害事象については説明しない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、治験に参加してもらう人への説明、つまりインフォームド・コンセントの基本を問う問題だ。説明を担う臨床研究コーディネーター、略してCRCがどんな立場で何を伝えるべきか、という視点で考えてみよう。
医学生医学生
CRCって、臨床実習で腫瘍内科を回ったときに治験の外来で見かけました。看護師さんだった気がします。
ドクタードクター
そう、看護師や薬剤師、臨床検査技師などが担うことが多い専門職だ。治験責任医師のもとで、被験者への説明の補足、来院スケジュールの管理、服薬指導、相談対応などを行い、被験者と医師、製薬企業などの治験依頼者をつなぐ橋渡し役になっている。
医学生医学生
医師が説明して、CRCはその補助という位置づけなんですね。
ドクタードクター
その通り。そして治験はGCP、つまり「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」に従って行われる。被験者には説明文書を使って十分に説明し、文書で同意を得ることが必要だ。説明文書に載せるべき項目も決められていて、その中に「被験者が守るべき事項」が含まれている。これが今回の正解だよ。
医学生医学生
守るべき事項というと、具体的には何でしょう。治験薬をきちんと飲むこと、くらいしか思いつきません。
ドクタードクター
用法・用量や飲み方はもちろん、併用してはいけない薬、来院日や検査のスケジュール、日誌の記録、体調が変わったときの連絡方法、他の医療機関を受診するときに治験参加を申し出ることなどだね。これを守ることは被験者自身の安全を守り、同時に正確なデータを得るためにも欠かせない。
医学生医学生
併用禁止薬を知らずに近所のクリニックで薬をもらったら、副作用の評価も効果の判定もできなくなりますね。
ドクタードクター
まさにそう。だからこそCRCが丁寧に説明するんだ。では他の選択肢も見ていこう。家族を交えずに本人だけに説明する、というのはどうかな。
医学生医学生
同意するのは本人なので、家族がいると本人の意思が曲げられそうな気もして……本人だけのほうが良い気がしてしまいました。
ドクタードクター
その心配は理解できるけれど、同意の主体が本人であることと、家族の同席を排除することは別の話だ。家族がいれば本人の理解や判断を助けられるし、参加中の服薬管理や体調変化への気付きにも協力してもらいやすい。本人が希望すれば家族を交えて説明してよいんだ。未成年者や判断能力が十分でない人なら、むしろ代諾者への説明と同意が必要になる。
医学生医学生
主治医の希望に沿って説明を進める、というのは、主治医が治験担当医師なら自然な気もします。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。説明の目的は、被験者が内容を理解して自分の意思で判断できるようにすること。医師の意向に合わせると、参加への誘導や情報の偏りが生じうる。CRCは被験者の立場に立って、理解度や疑問に合わせて中立的に説明することが求められるんだ。
医学生医学生
費用負担を説明しないというのは、明らかにおかしいですよね。お金のことは参加を決めるうえで大事なので。
ドクタードクター
その通り。費用負担も説明文書の記載事項だ。治験薬や一定の検査費用は治験依頼者の負担になる一方、それ以外の診療費には自己負担が生じうる。また、交通費などを補う負担軽減費が支払われることも多い。こうしたことはきちんと伝える必要がある。
医学生医学生
発生の可能性が低い有害事象を省くのは、不安をあおらないための配慮かなとも思ったんですが……。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、それは許されない。頻度が低くても重大なものを含めて説明しなければ、十分な情報に基づく判断とはいえず、インフォームド・コンセントが成立しない。それに、どんな症状に気をつければよいかを伝えておけば、早期発見・早期対応にもつながるんだ。
医学生医学生
要するに、情報は省かず、説明者の都合も入れず、本人が自由に判断できるようにする、ということですね。
ドクタードクター
よくまとまったね。発展知識として、治験は薬機法とGCP省令に基づき、実施医療機関の治験審査委員会、IRBの承認を受けて行われる。段階は、主に健康成人で安全性や体内動態をみる第I相、少数の患者で用法・用量を探る第II相、多数の患者で有効性を検証する第III相、そして承認後の第IV相がある。
医学生医学生
基礎医学の医療倫理の講義で習ったヘルシンキ宣言も関係しますか。
ドクタードクター
大いに関係する。ヘルシンキ宣言は、研究参加者に目的や方法、予想される利益と危険性を十分に説明し、自由意思による同意を得ること、同意はいつでも不利益なく撤回できることを求めている。臨床の現場でも、「参加をやめても今後の治療で不利益を受けない」と明確に伝えることは、被験者の安心につながる大切なポイントだよ。

まとめ

治験の説明は、GCPに基づき説明文書を用いて行い、被験者本人が十分に理解したうえで自由意思により判断できるようにすることが原則です。説明文書には目的・方法、予測される効果と危険性(まれでも重大な有害事象を含む)、補償、費用負担、同意撤回の自由、被験者が守るべき事項などが含まれ、どれも省略してはいけません。被験者が守るべき事項には服薬方法、併用禁止薬、来院スケジュール、体調変化時の連絡などがあり、被験者の安全と正確なデータの両方を支えます。家族の同席は差し支えなく、主治医の都合で説明内容を左右してはならず、CRCは中立的な立場で被験者と医師・治験依頼者をつなぐ役割を担います。ヘルシンキ宣言に通じるこの考え方は、治験に限らずあらゆる医療行為の同意取得の土台となります。

解答・解説

正解はdです

本問は、治験(臨床試験)におけるインフォームド・コンセント(説明を十分に受け理解したうえでの自発的な同意)の基本と、臨床研究(治験)コーディネーターの役割を問う問題である。

臨床研究(治験)コーディネーターとは

臨床研究コーディネーター(CRC:clinical research coordinator)は、治験責任医師・治験分担医師のもとで治験が倫理的・科学的に適正かつ円滑に進むよう支援する専門職であり、看護師、薬剤師、臨床検査技師などが担うことが多い。被験者(治験に参加する人)に対しては、医師による説明の補足、スケジュール管理、服薬指導、相談対応などを行い、被験者と医師・治験依頼者(製薬企業など)との橋渡し役となる。

治験の説明で押さえるべき原則

治験は「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP:Good Clinical Practice)に従って行われ、被験者には説明文書を用いて十分に説明し、文書で同意を得なければならない。説明文書には、治験の目的・方法・期間、予測される効果と危険性・不利益、他の治療法の有無、健康被害が生じた場合の補償、参加は自由意思でありいつでも撤回でき、撤回しても不利益を受けないこと、プライバシーの保護、費用負担、被験者が守るべき事項、問い合わせ先などを記載することが定められている。

考え方

説明は被験者本人が理解し、自由な意思で参加を判断できるように行うのが原則である。したがって、情報を省略する(費用・まれな有害事象)、説明者側の都合に合わせる(主治医の希望)、家族の同席を一律に排除する、といった対応は適切でない。被験者が守るべき事項(服薬方法、併用禁止薬、来院スケジュールなど)は、被験者の安全と試験の信頼性に直結するため必ず説明すべき内容である。

選択肢考察

  1. ×a.  家族を交えず本人のみに説明する。

    同意の主体は被験者本人であるが、家族の同席を排除すべき理由はない。家族が同席すれば本人の理解や意思決定を助け、参加中の服薬管理や体調変化への気付きなどの協力も得やすくなる。本人が希望すれば家族を交えて説明してよい。また、未成年者や判断能力が不十分な人が被験者となる場合には、代諾者(本人に代わって同意する法定代理人など)への説明と同意も必要となる。

  2. ×b.  主治医の希望に沿って説明を進める。

    説明は被験者が内容を理解し、自発的に判断できることを目的に行う。主治医(治験担当医師)の意向に合わせて説明の内容や進め方を変えると、参加への誘導や情報の偏りが生じうる。コーディネーターは被験者の立場に立ち、被験者の理解度や疑問に合わせて、中立的で分かりやすい説明を心がける必要がある。

  3. ×c.  費用負担については説明しない。

    費用負担は被験者が参加を判断するうえで重要な情報であり、説明すべき事項としてGCPにも定められている。治験では、治験薬の費用や一定期間の検査・画像診断の費用などが治験依頼者の負担となる一方、それ以外の診療費には被験者の自己負担が生じうる。また、来院に伴う交通費などの負担を軽減するための費用(負担軽減費)が支払われることが多い。これらの内容や、治験薬の受け取り方法なども説明する。

  4. ○d.  被験者が守るべき事項について説明する。

    被験者が守るべき事項は、GCPで説明文書に記載すべき事項の一つとされている。具体的には、治験薬の用法・用量と飲み方、併用してはならない薬剤(併用禁止薬)、来院日程や検査スケジュール、日誌の記録、体調に変化があったときの連絡方法、他の医療機関を受診する際の申し出などである。これらを守ることは被験者自身の安全確保と、正確な治験データの取得の両方に不可欠であり、コーディネーターが服薬指導や来院支援の一環として丁寧に説明する。

  5. ×e.  発生の可能性が低い有害事象については説明しない。

    予測される危険性・不利益は、頻度が低いものであっても重大なものを含めて説明すべきである。頻度が低くても起こりうる有害事象(治験薬との因果関係を問わず治験中に生じた好ましくない出来事)を伏せると、被験者は十分な情報に基づいて判断できず、インフォームド・コンセントが成立しない。また、症状の早期発見・早期対応のためにも、どのような症状に注意すべきかを伝えておく必要がある。

治験とは

治験は、医薬品や医療機器の製造販売承認を得るために、人を対象として有効性と安全性を確かめる臨床試験である。医薬品医療機器等法(薬機法)とGCP省令に基づいて実施され、実施医療機関の治験審査委員会(IRB:institutional review board)の審査・承認を受けて行われる。

治験の段階

・第I相試験:主に少数の健康成人を対象に、安全性や体内動態(吸収・分布・代謝・排泄)を調べる。 ・第II相試験:少数の患者を対象に、有効性・安全性を検討し、適切な用法・用量を探索する。 ・第III相試験:多数の患者を対象に、既存薬やプラセボとの比較などにより有効性・安全性を検証する。 ・第IV相試験(製造販売後臨床試験):承認・販売後に実施する。

CRCの主な業務

・被験者への対応:説明の補助、同意取得の支援、来院日程の調整、服薬指導、相談・心理的支援、体調変化の聴取と医師への報告。 ・検査・検体の管理:検体の準備・処理、検査部門との連携、被験者の検査誘導。 ・データ管理:症例報告書(CRF)作成の支援、原資料との照合への対応。 ・関係者との調整:治験依頼者のモニター(モニタリング担当者)やIRB事務局などとの連絡調整。

インフォームド・コンセントの倫理的基盤

ヘルシンキ宣言(世界医師会による人を対象とする医学研究の倫理原則)は、研究参加者に目的・方法・予想される利益と危険性などを十分に説明し、自由意思による同意を得ること、同意はいつでも不利益なく撤回できることを求めている。

POINT

・治験の説明は、被験者本人が理解し、自由意思で判断できるように行う。 ・目的・方法、予測される効果と危険性(まれな有害事象を含む)、補償、費用負担、同意撤回の自由、被験者が守るべき事項などを説明文書に基づいて説明する。 ・家族の同席は差し支えない。主治医の都合で説明内容を左右してはならない。 ・CRCは治験責任医師の指導のもとで被験者と医師・治験依頼者をつなぎ、治験の円滑な実施を支援する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。