StudyMed医師国家試験

「朝食後」が飲めない理由だった―生活に薬を合わせるアドヒアランスの発想

第104回医師国家試験 C問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第104回 C問題 第18問

50歳の男性。定期健康診断のため会社の医務室で産業医の診察を受けた。かかりつけ医から,1日1回,朝食後に服用する降圧薬を処方されている。しかし残業で帰宅が遅く,起床時間も遅いために朝食をとる習慣がなく,服薬しない日が多い。診察時の血圧170/100 mmHg。  この患者の服薬状況を改善させるための発言として最も適切なのはどれか。

  1. a.「残業を減らすよう会社側へ指示します」
  2. b.「このままでは脳血管や心臓の発作を起こします」
  3. c.「頭痛かめまいを感じるときは必ず飲んでください」
  4. d.「毎日医務室に来て血圧を測り,血圧が高いときには必ず飲んでください」
  5. e.「毎日規則的に服薬できる時間に変更可能かどうか,かかりつけ医に尋ねてください」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、降圧薬をきちんと飲めていない患者さんに、産業医としてどう声をかけるかという問題だ。考えるポイントは、なぜ飲めていないのかという原因と、産業医という立場でできること・すべきことの2つだよ。
医学生医学生
血圧がかなり高いので、まずは飲まないと危ないことをしっかり伝えるべきだと思いました。
ドクタードクター
危険性の説明自体は必要だね。この血圧は日本高血圧学会の分類でII度高血圧にあたり、放置すれば脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まる。でも、この患者さんが飲めない理由は何だったかな。
医学生医学生
朝食をとる習慣がないので、「朝食後」の薬を飲むタイミングがない……ということですね。
ドクタードクター
そう。薬が効かないのではなく、処方された服薬タイミングと生活リズムが合っていないことが問題なんだ。原因がここにある以上、怖がらせても解決しない。正解は、毎日規則的に服薬できる時間に変更可能かどうか、かかりつけ医に尋ねてもらうことだ。
医学生医学生
降圧薬って、食後じゃなくても飲めるんですか。薬理の講義では「食後」が当たり前のように思っていました。
ドクタードクター
長時間作用型の降圧薬の多くは食事の有無にかかわらず服用でき、夕食後や就寝前に変えられることも多い。ただし処方を変えられるのは処方医だから、産業医はかかりつけ医への相談を勧める形をとる。職域と主治医をつなぐのが産業医の役割なんだ。
医学生医学生
なるほど。では、脅すような言い方がだめなのはなぜですか。内容自体は正しいですよね。
ドクタードクター
内容は事実でも、恐怖心をあおって服薬を迫ると反発や不安を招きやすい。しかも朝食をとらない生活という根本原因は何も変わらない。行動変容を促す声かけとしては不適切なんだ。
医学生医学生
頭痛やめまいがあるときに飲む、というのは、症状と関係づけて覚えやすい気もしますが。
ドクタードクター
そこが典型的な誤解だよ。高血圧の多くは無症状で、症状と血圧値は必ずしも一致しない。降圧薬は頓用薬ではなく、毎日血圧を下げ続けて合併症を防ぐ薬だ。飲んだり飲まなかったりすると血圧が大きく変動するし、クロニジンやβ遮断薬のように急な中止で血圧が跳ね上がるリバウンドを起こす薬もある。
医学生医学生
毎日医務室で測って高いときだけ飲む、も同じ理由で誤りですね。
ドクタードクター
その通り。1日1回の測定値で内服の要否は決められないし、処方医と違う飲み方を産業医が独断で指示することになる。毎日通わせるのも負担が大きくて続かない。
医学生医学生
残業を減らすよう会社に指示する、はどうでしょう。生活リズムの改善にはつながりそうです。
ドクタードクター
産業医は事業者に勧告や助言はできるけれど、業務を「指示」する立場ではない。就業上の措置を求めるなら、まず本人の意向を確認して同意を得る必要もある。それに、残業が減っても朝食をとるようになる保証はなく、服薬の改善に直結しないんだ。
医学生医学生
患者さんの生活を変えさせるより、治療のほうを生活に合わせる、という考え方なんですね。
ドクタードクター
まさにそれがアドヒアランスの考え方だ。コンプライアンスは「医療者の指示に患者が従うか」という一方向の概念だったけれど、アドヒアランスは患者自身が治療方針の決定に参加して、実行可能な方法を一緒に考えることを重視する。
医学生医学生
臨床実習で循環器内科を回ったとき、指導医の先生が配合剤で錠数を減らしていたのも、その工夫の一つですか。
ドクタードクター
そうだね。1日1回の長時間作用型薬を選ぶ、配合剤で錠数を減らす、一包化やお薬カレンダーを使う、夜勤者や朝食をとらない人には服用時刻を合わせる、副作用があれば薬を変える。家庭血圧を測ってもらうのも、効果を患者さん自身が実感できて継続の動機づけになる。飲めていない患者さんには、まず「なぜ飲めないのか」を責めずに聞くことから始めよう。

まとめ

降圧薬は症状の有無や1回の血圧値で飲むかどうかを決める薬ではなく、毎日継続して血圧を下げ、脳卒中や心疾患などの合併症を予防する薬です。服薬が続かないときは原因を把握し、本問のように朝食をとらない生活と「朝食後」という指示が合わない場合は、処方医に服用時刻の変更を相談するのが現実的な解決策です。恐怖をあおる説明や本人の同意なく職場へ介入すること、症状や1回の測定値に応じた服薬指示は不適切です。患者が治療方針の決定に参加し実行可能な方法を一緒に考えるアドヒアランスの視点は、服用回数の削減や配合剤、一包化などの工夫とともに、慢性疾患の診療全般で欠かせません。産業医は治療そのものではなく、主治医との連携を通じて治療と就業の両立を支える立場であることも押さえておきましょう。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

50歳の男性で、かかりつけ医から降圧薬を処方されている高血圧症の患者である。処方は「1日1回、朝食後」であるが、残業で帰宅が遅く起床も遅いため朝食をとる習慣がなく、結果として服薬しない日が多い。診察時の血圧は170/100 mmHgで、診察室血圧140/90 mmHg以上という高血圧の基準を大きく上回り、日本高血圧学会の分類ではII度高血圧(160〜179/100〜109 mmHg)に相当する。降圧が不十分な原因は、薬の効果不足ではなく、処方された服薬タイミングと患者の生活リズムが合っていないことによる服薬の抜けであると読み取れる。

設問の考え方

問われているのは、産業医として服薬状況を改善させるための声かけである。降圧薬は症状を和らげる薬ではなく、長期間にわたって血圧を下げ続けることで脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎障害などの合併症を予防する薬であり、毎日継続して服用することが前提となる。 服薬が続かない理由が「朝食をとらない生活」にある以上、患者の生活を無理に変えさせたり、脅して従わせたりするのではなく、患者が実際に続けられる服薬方法へ処方を調整するのが現実的である。処方内容を変更できるのは処方医(かかりつけ医)であるため、産業医は患者とかかりつけ医の連携を促す立場をとる。このように、患者の生活背景を踏まえて医療者と患者が一緒に実行可能な治療法を考える姿勢が、服薬アドヒアランスの向上につながる。

選択肢考察

  1. ×a.  「残業を減らすよう会社側へ指示します」

    産業医は労働者の健康を守るために事業者へ勧告・助言・指導を行うことはできるが、会社に対して業務内容を「指示」する権限をもつわけではない。また、就業上の措置を求める場合でも、まず本人の意向を確認し同意を得たうえで進めるべきである。さらに本問の問題点は朝食をとらないために朝食後の服薬ができないことであり、残業が減ったとしても生活リズムが変わる保証はなく、服薬の改善に直結しない。いきなり職場環境に踏み込むのは不適切である。

  2. ×b.  「このままでは脳血管や心臓の発作を起こします」

    未治療・コントロール不良の高血圧が脳卒中や虚血性心疾患のリスクを高めること自体は事実であり、合併症の説明は必要である。しかし、恐怖心をあおって服薬を迫る言い方は患者の反発や不安を招きやすく、服薬できない根本原因(朝食をとらない生活と服薬タイミングの不一致)を何も解決しない。行動変容を促す声かけとしては適切ではない。

  3. ×c.  「頭痛かめまいを感じるときは必ず飲んでください」

    高血圧は多くの場合無症状で、症状の有無と血圧値とは必ずしも一致しない。降圧薬は症状があるときだけ飲む頓用薬ではなく、毎日継続して血圧を下げておくことで合併症を防ぐ薬である。症状に応じて飲んだり飲まなかったりすると血圧が大きく変動し、薬剤によっては中断後に血圧の急上昇(リバウンド現象。例えば中枢性交感神経抑制薬のクロニジンやβ遮断薬の急な中止)を起こすおそれもある。

  4. ×d.  「毎日医務室に来て血圧を測り,血圧が高いときには必ず飲んでください」

    1日1回測った血圧の値だけでその日に飲むか飲まないかを決めるのは、cと同様に降圧薬の使い方として誤りである。血圧は1日の中でも変動しており、1回の測定値で内服の要否を判断することはできない。また処方医の指示と異なる服用方法を産業医が独断で指示することにもなり、毎日医務室に通わせるのは患者の負担が大きく継続も困難である。

  5. ○e.  「毎日規則的に服薬できる時間に変更可能かどうか,かかりつけ医に尋ねてください」

    服薬できない原因は、朝食後という服薬タイミングが患者の生活に合っていないことにある。長時間作用型の降圧薬の多くは食事の有無にかかわらず服用でき、服用時刻を夕食後や就寝前などに変更することも可能な場合が多い。患者が毎日確実に飲める時間へ処方を調整すれば、服薬の抜けが減り降圧効果が安定する。処方変更の判断は処方医が行うものであり、産業医がかかりつけ医への相談を勧めるのは、職域とかかりつけ医の連携を通じてアドヒアランスを高める適切な対応である。

コンプライアンスとアドヒアランス

服薬コンプライアンスは「患者が医療者の指示にどれだけ従っているか」という概念で、医療者が決め、患者が従うという一方向の関係を前提としている。これに対し服薬アドヒアランスは、患者自身が治療方針の決定に積極的に参加し、その決定に沿って治療を続けることを重視する概念である。アドヒアランスには、治療内容(服薬回数・剤形・副作用)、患者側の要因(生活習慣・病気の理解・経済状況)、医療者側の要因、両者の信頼関係などがかかわる。現在の服薬指導では、その治療法が患者にとって実行可能か、服薬を妨げている因子は何か、それをどう解決するかを医療者が患者と一緒に考えることが求められる。

アドヒアランスを高める工夫の例

・服用回数を減らす(1日1回の長時間作用型薬剤を選ぶ) ・配合剤を用いて錠剤数を減らす ・生活リズムに合わせた服用時刻にする(朝食をとらない人、夜勤者など) ・一包化、お薬カレンダーの利用 ・家庭血圧の測定を勧め、治療効果を患者自身が実感できるようにする ・副作用の有無を確認し、あれば薬剤を変更する

降圧治療の目的

降圧治療の目的は、高血圧によって起こる脳卒中、冠動脈疾患、心不全、慢性腎臓病、大動脈疾患などの発症や進展を予防することである。高血圧は自覚症状に乏しいため、症状の有無ではなく血圧値に基づいて継続的に治療する必要がある。

産業医の役割

産業医は、労働者の健康管理(健康診断結果に基づく措置、面接指導など)、作業環境・作業の管理、健康教育などを担い、必要に応じて事業者に勧告・助言を行う。個々の労働者の疾病治療そのものは主治医が担うため、産業医は主治医と連携して治療と就業の両立を支援する立場にある。

POINT

・降圧薬は症状の有無や1回の血圧値で飲む・飲まないを決める薬ではなく、毎日継続して服用する薬である。 ・服薬が続かないときは、原因を把握し、患者の生活に合わせた実行可能な服薬方法を一緒に考える(アドヒアランスの考え方)。 ・処方の変更は処方医が行う。産業医はかかりつけ医との連携を促す。 ・恐怖心をあおる説明や、本人の同意なく職場へ介入することは不適切である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。