StudyMed医師国家試験

「出す力」が負ける瞬間―高齢男性の尿閉と抗コリン薬

第104回医師国家試験 C問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第104回 C問題 第13問

高齢男性で尿閉をきたす可能性があるのはどれか。

  1. a.β遮断薬
  2. b.抗コリン薬
  3. c.カルシウム拮抗薬
  4. d.スルホニル尿素薬
  5. e.サイアザイド系利尿薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢男性に尿閉を起こしうる薬を選ぶ問題だ。カギは「排尿がどの自律神経で動いているか」と「高齢男性にはもともとどんな背景があるか」の2点。まずは排尿の仕組みから整理しよう。膀胱から尿を押し出すとき、どの神経が働いているかな。
医学生医学生
生理学の講義で、排尿は副交感神経、蓄尿は交感神経と習いました。
ドクタードクター
その通り。骨盤神経を通る副交感神経から放出されたアセチルコリンが、排尿筋のムスカリン受容体、主にM3に作用して膀胱を収縮させる。一方で交感神経は、β3受容体を介して排尿筋をゆるめ、α1受容体を介して膀胱頸部や前立腺部尿道を締めて、尿をためる方向に働くんだ。
医学生医学生
ということは、尿閉を起こす薬は「押し出す力を弱める薬」か「出口を締める薬」ということですね。
ドクタードクター
見事な整理だ。前者の代表が抗コリン作用をもつ薬、後者がα刺激作用をもつ薬だね。ここで高齢男性という条件が効いてくる。どうしてだと思う?
医学生医学生
前立腺肥大症があるからですか。泌尿器科の実習で、外来の高齢男性の多くが前立腺肥大症の薬を飲んでいて驚きました。
ドクタードクター
そう。前立腺肥大症では、もともと膀胱の出口が狭くなっている。膀胱はそれでも頑張って押し出しているけれど、そこに抗コリン薬が加わって排尿筋の収縮力が落ちると、閉塞に打ち勝てなくなる。残尿が増えて、ついには尿閉に至るわけだ。だから正解は抗コリン薬になる。
医学生医学生
β遮断薬も自律神経の薬なので迷いました。βを遮断したら膀胱にも何か起きそうです。
ドクタードクター
良い疑問だね。排尿筋をゆるめているのはβ3受容体だから、仮にそこを遮断しても排尿筋の弛緩が妨げられる方向、つまり尿をためにくくなる方向に働くだけで、尿閉にはつながらない。実際、臨床でβ遮断薬の排尿への影響が問題になることはほとんどない。注意すべきは徐脈、心不全の悪化、喘息の誘発、低血糖症状のマスクといった副作用だよ。
医学生医学生
カルシウム拮抗薬は平滑筋をゆるめる薬だから、膀胱の収縮も弱めそうな気がします。
ドクタードクター
理屈としては気になるところだけど、臨床的に尿閉の原因薬として扱われることはない。押さえるべき副作用は顔面紅潮、頭痛、下腿浮腫、歯肉増殖、それにベラパミルの便秘あたりだ。
医学生医学生
スルホニル尿素薬とサイアザイド系利尿薬は、排尿とは関係が薄そうですね。
ドクタードクター
そうだね。スルホニル尿素薬は膵β細胞からのインスリン分泌を促す薬で、高齢者や腎機能障害のある人の遷延性低血糖が一番の注意点だ。サイアザイドは遠位尿細管のNa-Cl共輸送体を阻害して尿量を増やす薬で、膀胱の収縮や出口抵抗には直接作用しない。副作用は低カリウム血症、低ナトリウム血症、高尿酸血症、高血糖、高カルシウム血症などが有名だね。
医学生医学生
利尿薬で尿が増えると頻尿にはなっても、出せなくなるわけではない、ということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。では応用編だ。抗コリン作用をもつ薬は、いわゆる抗コリン薬だけではない。ほかにどんな薬を思いつく?
医学生医学生
三環系抗うつ薬や、第一世代の抗ヒスタミン薬でしょうか。CBTの勉強で口渇・便秘・尿閉のセットとして覚えました。
ドクタードクター
まさにそれ。ほかにも抗精神病薬、トリヘキシフェニジルなどの抗パーキンソン病薬がある。それに、市販の総合感冒薬には第一世代抗ヒスタミン薬やプソイドエフェドリンのような交感神経刺激成分が入っていることが多くて、風邪薬を飲んだ翌日に尿が出なくなって救急外来に来る高齢男性は珍しくない。オピオイドも尿閉の原因になるね。
医学生医学生
だから高齢者の急性尿閉では、市販薬も含めて服薬歴を聞くことが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。もう一つ、過活動膀胱の治療薬として抗コリン薬を前立腺肥大症の男性に使う場面もある。その場合は、まずα1遮断薬などで閉塞を治療し、残尿量を確認しながら慎重に使う。多くの抗コリン作用薬は、添付文書で排尿障害のある前立腺肥大症に禁忌または慎重投与とされているから、処方前のチェックを習慣にしよう。β3作動薬のミラベグロンやビベグロンといった選択肢も知っておくといい。

まとめ

排尿は副交感神経のアセチルコリンが排尿筋のムスカリンM3受容体に作用して起こり、交感神経はβ3受容体を介した排尿筋の弛緩とα1受容体を介した膀胱出口の収縮で蓄尿を担います。そのため薬剤性尿閉は、抗コリン作用で排尿筋の収縮力を弱める薬と、α刺激作用で出口抵抗を高める薬が主な原因となります。前立腺肥大症で出口が狭い高齢男性では、抗コリン薬が加わるだけで尿閉に陥りやすく、三環系抗うつ薬、第一世代抗ヒスタミン薬、総合感冒薬、オピオイドなども同様の注意が必要です。一方、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、スルホニル尿素薬、サイアザイド系利尿薬は尿閉の原因薬としては扱われません。自律神経による排尿調節を理解し、高齢者の急性尿閉ではまず市販薬を含む服薬歴を確認する姿勢が、薬剤性有害事象の予防と早期発見につながります。

解答・解説

正解はbです

尿閉とは、膀胱に尿がたまっているのに自力で排出できない状態である。排尿は、膀胱の排尿筋が収縮し、同時に膀胱頸部・尿道の括約筋がゆるむことで成り立つ。この調節には自律神経が関わっている。 ・副交感神経(骨盤神経):アセチルコリンがムスカリン受容体(主にM3)に作用して排尿筋を収縮させる → 排尿を促す ・交感神経(下腹神経):β3受容体を介して排尿筋を弛緩させ、α1受容体を介して膀胱頸部・前立腺部尿道の平滑筋を収縮させる → 蓄尿を促す したがって、薬剤性の尿閉は主に次の2つの機序で起こる。 ①排尿筋の収縮力を弱める薬:抗コリン作用をもつ薬(抗コリン薬、三環系抗うつ薬、第一世代抗ヒスタミン薬、抗パーキンソン病薬の一部、抗精神病薬など) ②膀胱出口の抵抗を高める薬:α刺激作用をもつ薬(総合感冒薬などに含まれる塩酸プソイドエフェドリンなどの交感神経刺激成分) 高齢男性では前立腺肥大症によって、もともと膀胱出口の通過障害があることが多い。そこに排尿筋の収縮力を低下させる抗コリン薬が加わると、膀胱の押し出す力が閉塞に打ち勝てなくなり、尿閉を起こしやすい。本問はこの機序を理解しているかを問うている。

選択肢考察

  1. ×a.  β遮断薬

    誤り。β遮断薬は心臓のβ1受容体などを遮断して心拍数・心収縮力を下げ、高血圧・狭心症・心不全・頻脈性不整脈などに用いられる。排尿筋を弛緩させる受容体はβ3受容体であり、これを遮断しても理論上は排尿筋の弛緩が妨げられる方向(蓄尿しにくくなる方向)に働くだけで、尿閉の原因にはならない。副作用として問題になるのは徐脈、心不全の悪化、気管支喘息の誘発、低血糖症状のマスクなどである。

  2. ○b.  抗コリン薬

    正解。抗コリン薬は、アセチルコリンがムスカリン受容体に結合するのを妨げ、副交感神経の働きを抑える。膀胱では排尿筋の収縮が弱まるため、前立腺肥大症などで膀胱出口に通過障害のある高齢男性では、残尿の増加から尿閉に至ることがある。このため、多くの抗コリン作用をもつ薬剤では、前立腺肥大症などによる排尿障害のある患者への投与が禁忌または慎重投与とされている。過活動膀胱の治療薬(抗コリン薬)を前立腺肥大症の男性に用いる場合は、α1遮断薬などで閉塞を治療したうえで、残尿量を確認しながら慎重に使う。抗コリン薬の他の副作用として、口渇、便秘、眼圧上昇(閉塞隅角緑内障の急性発作)、頻脈、認知機能低下・せん妄などもある。

  3. ×c.  カルシウム拮抗薬

    誤り。カルシウム拮抗薬は血管平滑筋へのカルシウム流入を抑えて血管を拡張させる代表的な降圧薬で、狭心症の治療にも用いられる。排尿への影響は臨床的に問題になることがほとんどなく、尿閉の原因薬として扱われない。主な副作用は顔面紅潮、頭痛、動悸、下腿浮腫、歯肉増殖、便秘(特にベラパミル)などである。

  4. ×d.  スルホニル尿素薬

    誤り。スルホニル尿素(SU)薬は、膵β細胞のSU受容体に結合してインスリン分泌を促す2型糖尿病治療薬である。排尿機能に直接影響する作用はない。最も注意すべき副作用は低血糖であり、特に高齢者や腎機能障害のある患者では遷延性低血糖をきたしやすい。体重増加も副作用として知られる。

  5. ×e.  サイアザイド系利尿薬

    誤り。サイアザイド系利尿薬は、遠位尿細管のNa+-Cl−共輸送体を阻害してナトリウムと水の排泄を促す薬で、主に降圧薬として用いられる。尿量を増やす方向に働き、膀胱の収縮や出口の抵抗には直接作用しないため、尿閉の原因薬とはみなされない。なお、遠位尿細管でのカルシウム再吸収を促して尿中カルシウム排泄を減らすため、カルシウム結石の再発予防に使われることがある。副作用は低カリウム血症、低ナトリウム血症、高尿酸血症、高血糖、脂質異常症、高カルシウム血症などである。

尿閉の主な原因

・下部尿路の閉塞:前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄、膀胱結石・膀胱頸部硬化症 ・排尿筋の収縮障害(神経因性膀胱):糖尿病性神経障害、脊髄損傷、腰部脊柱管狭窄症、骨盤内手術後 ・薬剤性:抗コリン作用薬、α刺激作用薬、オピオイドなど ・その他:飲酒、長時間の排尿我慢、便秘、術後・麻酔後

尿閉をきたしうる主な薬剤

・抗コリン薬(鎮痙薬、過活動膀胱治療薬、抗パーキンソン病薬のトリヘキシフェニジルなど) ・三環系抗うつ薬、フェノチアジン系などの抗精神病薬 ・第一世代抗ヒスタミン薬(総合感冒薬・鼻炎薬に含まれることが多い) ・交感神経刺激薬(プソイドエフェドリンなど) ・オピオイド(モルヒネなど) ・ベンゾジアゼピン系薬(筋弛緩作用)

下部尿路の自律神経支配

・副交感神経(骨盤神経、S2〜S4):ムスカリン受容体(M3)→排尿筋収縮(排尿) ・交感神経(下腹神経、Th10〜L2):β3受容体→排尿筋弛緩、α1受容体→膀胱頸部・前立腺部尿道収縮(蓄尿) ・体性神経(陰部神経、S2〜S4):外尿道括約筋を収縮させる(蓄尿)

薬理学との対応

・前立腺肥大症の治療:α1遮断薬(タムスロシンなど)で出口抵抗を下げる、5α還元酵素阻害薬で前立腺を縮小させる、PDE5阻害薬(タダラフィル) ・過活動膀胱の治療:抗コリン薬、β3作動薬(ミラベグロン、ビベグロン)

POINT

・排尿筋の収縮は副交感神経(ムスカリンM3受容体)が担うため、抗コリン薬は排尿筋収縮を弱め、尿閉の原因となる。 ・前立腺肥大症のある高齢男性では、抗コリン作用をもつ薬(抗コリン薬、三環系抗うつ薬、第一世代抗ヒスタミン薬、総合感冒薬など)で尿閉を起こしやすい。 ・多くの抗コリン作用薬は、前立腺肥大症などによる排尿障害のある患者に禁忌または慎重投与である。 ・高齢者の急性尿閉では、まず服薬歴(市販の感冒薬を含む)を確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。