「待つ」ことが治療の一部になる―日本の心臓移植と補助人工心臓の現実
第104回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
我が国における心臓移植の現状について正しいのはどれか。
- a.待機期間が短い。
- b.対象は若年者に限られている。
- c.施行数は急速に増加している。
- d.最も多い原疾患は虚血性心筋症である。
- e.移植前,強心薬治療と補助人工心臓装着とを受けている。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
日本の心臓移植は欧米に比べてドナーが極端に少なく、待機期間は年単位に及ぶため、多くの患者は強心薬の持続点滴を経て補助人工心臓(VAD)を装着し、移植への橋渡しとして待機しています。原疾患は拡張型心筋症が最多で、虚血性心筋症も多い欧米とは異なり、対象年齢は若年者に限られずおおむね65歳未満が目安です。2010年の改正臓器移植法により家族承諾での提供や15歳未満からの脳死下提供が可能になり施行数は増えてきましたが、待機患者数に対しては依然不足しています。「ドナー不足」を起点に待機期間・VADの役割・法制度をつなげて理解することは、重症心不全診療と移植医療の現状を把握する土台になります。
解答・解説
正解はeです
心臓移植は、薬物治療や非薬物治療(心臓再同期療法、弁膜症の手術など)を尽くしても改善しない重症心不全に対する最終的な治療である。日本では1997年の臓器移植法施行により脳死下での臓器提供が可能となったが、提供者(ドナー)が欧米に比べて極端に少ない状態が続いている。 本問は、この「ドナー不足」を軸に考えると整理しやすい。 ・ドナーが少ない → 移植を受けられるまでの待機期間が非常に長い ・待機期間が長い → その間に心不全が進行し、強心薬の持続点滴だけでは維持できなくなる ・そのため多くの患者が補助人工心臓(ventricular assist device:VAD)を装着して、移植までの「橋渡し(bridge to transplantation:BTT)」とする 日本の心臓移植レシピエント(移植を受ける患者)の大部分は、移植前に強心薬治療を経て補助人工心臓を装着した状態で待機しており、eが正しい。原疾患は拡張型心筋症が最多であり、虚血性心筋症が多い欧米とは異なる。対象年齢も若年者に限られてはいない。施行数は、2010年の改正臓器移植法施行後に増加してきたものの、本問出題当時は累計数十例にとどまり、「急速な増加」とは程遠い状況であった。
選択肢考察
- ×a. 待機期間が短い。
日本は先進国の中でも臓器提供数が特に少なく、心臓移植の待機期間は非常に長い。最も緊急度の高い区分(Status 1)で登録された患者でも、移植までの待機は数年単位に及び、近年でも平均4〜5年程度とされる。待機中に亡くなる患者も少なくない。欧米での待機期間が数か月程度であることと比べても長く、社会的な課題となっている。
- ×b. 対象は若年者に限られている。
心臓移植の適応は年齢だけでは決まらず、若年者に限定されてはいない。日本の適応基準では、レシピエントの年齢はおおむね65歳未満が望ましいとされ(かつては60歳未満)、高齢であっても全身状態によって個別に判断される。むしろ課題だったのは小児への移植である。1997年の臓器移植法では15歳未満の脳死下臓器提供が認められていなかったため、小児の患者は国内で移植を受ける道がほぼ閉ざされ、海外への渡航移植に頼らざるを得なかった。2010年の改正法全面施行により、本人の意思が不明でも家族の承諾で提供が可能となり、15歳未満からの脳死下提供も可能になった。
- ×c. 施行数は急速に増加している。
1997年の臓器移植法施行後、脳死下の提供は長年ごく少数にとどまり、心臓移植は2010年初めの時点で累計70例程度に過ぎなかった。2010年の法改正以後は提供数が増え、心臓移植も徐々に増加して近年は年間100例前後行われるようになったが、登録待機患者数に対して移植数は依然として不足している。少なくとも出題当時、施行数が「急速に増加している」状況ではなく、誤りである。
- ×d. 最も多い原疾患は虚血性心筋症である。
日本の心臓移植で最も多い原疾患は拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM)であり、心臓移植例の過半数を占める。次いで拡張相肥大型心筋症(肥大型心筋症が進行して心室が拡張・収縮不全となった状態)などが続き、虚血性心筋症は少数である。欧米では虚血性心筋症も拡張型心筋症と並んで主要な原疾患であり、この点が日本との違いである。
- ○e. 移植前,強心薬治療と補助人工心臓装着とを受けている。
心臓移植の適応となる重症心不全患者は、まずドブタミンやミルリノンなどの強心薬の持続点滴で循環を維持する。しかし日本では待機期間が非常に長いため、強心薬だけでは状態を保てなくなり、補助人工心臓(VAD)を装着して移植を待つことが一般的である。日本の心臓移植レシピエントの大多数が移植前にVADを装着しており、正しい記述である。現在は体内に埋め込むタイプの植込型VADが普及し、装着したまま自宅で生活しながら待機することも可能になっている。
心臓移植の適応
・従来の治療法では救命・延命が期待できない重症心不全が対象である。 ・主な対象疾患: 拡張型心筋症、拡張相肥大型心筋症、虚血性心筋症、その他の心筋症、先天性心疾患など。 ・除外条件の例: 不可逆的な肝・腎機能障害、活動性の感染症、重症の肺高血圧(肺血管抵抗が高く不可逆なもの)、悪性腫瘍、薬物依存やアルコール依存、本人・家族の理解や協力が得られない場合など。
補助人工心臓(VAD)の役割
・BTT(bridge to transplantation): 心臓移植までの橋渡し。日本ではこれが主な使い方である。 ・BTR(bridge to recovery): 心機能の回復までの橋渡し(劇症型心筋炎など)。 ・DT(destination therapy): 移植を前提とせず、長期の在宅治療として植込型VADを用いる。日本では2021年に保険適用となった。 合併症として、感染(ドライブライン感染など)、血栓塞栓症、脳卒中、出血などに注意が必要である。
日本の臓器移植法の流れ
・1997年: 臓器移植法施行。脳死下提供には本人の書面による意思表示と家族の承諾が必要で、15歳未満からの提供は不可。 ・2010年: 改正法全面施行。本人の意思が不明でも家族の承諾で提供可能に。15歳未満からの脳死下提供も可能となった。親族への優先提供の意思表示も認められた(同年1月施行)。
移植後の管理
拒絶反応を防ぐため免疫抑制薬(カルシニューリン阻害薬など)を生涯服用する。遠隔期の問題として、感染症、移植心冠動脈病変(心臓移植後の冠動脈に起こるびまん性の狭窄)、悪性腫瘍などがある。日本の心臓移植後の生存率は良好で、国際的な成績と比べても遜色ない。
POINT
・日本の心臓移植はドナー不足が最大の問題で、待機期間は数年単位と長い ・原疾患の最多は拡張型心筋症(欧米では虚血性心筋症も多い) ・待機中の多くの患者は強心薬治療を経て補助人工心臓(VAD)を装着し、移植への橋渡しとする ・対象は若年者に限られない(レシピエント年齢はおおむね65歳未満が望ましい) ・2010年の改正臓器移植法で家族承諾による提供と15歳未満の脳死下提供が可能に
