かぜの後の激しい回転性めまい―眼振の「向き」で読み解く前庭神経炎
第103回医師国家試験 I問題 第73問
国試問題にチャレンジ
43歳の男性。めまいのため搬入された。6日前から微熱がありのどが痛く,風邪だと思ったが放置していた。今朝,目が覚めたら天井が回る感じがして,立ち上がると倒れそうになった。寝ていてもめまいが強く,吐き気があり,動けない状態になった。意識は清明。体温36.8℃。脈拍76/分,整。血圧140/84mmHg。難聴はなく,眼振を認める。眼球運動に異常を認めない。頭部単純CTで異常を認めない。 この患者で見られる眼振はどれか。

- a.
- b.
- c.
- d.
- e.
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
上気道炎が先行したのち、難聴を伴わない激しい回転性めまいが突然起こって持続する場合は、前庭神経炎を考えます。片側の前庭機能が急に低下するため、健側が相対的に優位となり、急速相が健側を向く方向固定性の水平(回旋混合)性眼振が出現し、急速相の方向を見たときに最も強くなります(Alexanderの法則)。一方、注視方向性眼振、上眼瞼向き・下眼瞼向きの純垂直性眼振、純回旋性眼振は脳幹・小脳病変を示す中枢性の所見です。頭部CTが正常でも後頭蓋窩の梗塞は否定できないため、神経症状の確認やHINTSによる評価が重要です。眼振の向きと性状から病変部位を推定する考え方は、救急外来でめまい患者を安全に振り分けるための基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・43歳の男性。6日前から微熱と咽頭痛があり、上気道炎(かぜ)の症状が先行していた。 ・今朝起きたときから、天井が回るような回転性めまいが始まった。安静にしていても強く、悪心を伴い、動けなくなった。 ・意識は清明である。難聴はない。眼振はあるが、眼球運動には異常がない。頭部単純CTにも異常はない。
診断の考え方
めまいの診療では、まず命に関わる中枢性めまい(小脳・脳幹の梗塞や出血など)を除外し、次に末梢性(内耳・前庭神経)の疾患を鑑別する。 ・中枢性めまい:本例は意識清明で、眼球運動障害もなく、CTも正常であり、中枢性を積極的に疑う所見は乏しい。ただしCTは後頭蓋窩の早期梗塞を見落としやすい。構音障害、四肢・体幹の運動失調、複視などの神経症状がないことや、眼振の性状(注視方向で向きが変わらないか、垂直性・純回旋性ではないか)もあわせて確認する必要がある。 ・Ménière病:回転性めまいに加えて、難聴・耳鳴・耳閉感を繰り返すのが特徴である。難聴がない本例では否定的である。 ・突発性難聴(めまいを伴うもの):難聴がないので否定的である。 ・良性発作性頭位めまい症(BPPV):頭を特定の位置に動かしたときに、数十秒以内の短いめまいが起こる。本例のように、安静にしていても強いめまいが持続することはない。 ・前庭神経炎:上気道感染などが先行したあとに、難聴を伴わない激しい回転性めまいが突然起こり、数日間持続する。本例に最もよく合う。
設問への考え方:前庭神経炎の眼振
前庭神経炎では、片側の前庭機能が急に低下する。すると左右の前庭からの入力のバランスが崩れ、健側(障害されていない側)が相対的に強く働く。その結果、緩徐相が患側へ、急速相が健側へ向かう水平性(実際には水平回旋混合性)の眼振が出る。この眼振は、どちらを見ても急速相の向きが変わらない(方向固定性)。また、急速相の方向を見たときに最も強くなる(Alexanderの法則)。 図の見方は、上段が上方視、下段が下方視、中央が正面視、両脇の欄が左右の側方視で、矢印は急速相の向きを示す。本問の図では、左端の欄が右方視、矢印「←」が右向きの眼振にあたる。正面視と上下左右のすべての注視位置で一方向(右向き)の水平性眼振を示すbが、前庭神経炎(左側の障害)に合致する。
選択肢考察
- ×a.
右方視のときにだけ反時計回りの回旋性眼振が出て、それ以外の注視位置では眼振がない図である。水平成分を伴わない純回旋性の眼振は、延髄など脳幹の病変でみられることがある。片側の前庭機能が急に落ちたときに出る眼振は、水平性(水平回旋混合性)で、正面視を含むほぼ全方向に出る。本例の前庭神経炎の急性期の所見とは合わず、誤りである。
- ○b.
正面視と上下左右のすべての注視位置で、同じ向き(右向き)の水平性眼振が出る図である。これは方向固定性の水平性眼振で、片側の末梢前庭障害に典型的な所見である。前庭神経炎の急性期には、急速相が健側を向く眼振が自発的に出る。この図は左側の前庭神経炎で説明がつく。眼振は急速相の方向を見たときに最も強くなり、固視(1点を見つめること)によって抑えられやすい。そのためFrenzel眼鏡を使って固視を取り除いた状態で観察すると、よくわかる。本例で見られる眼振として正しい。
- ×c.
正面視では眼振がなく、右を見ると右向き、左を見ると左向き、上を見ると上向き、下を見ると下向きの眼振が出る図である。つまり、見た方向に急速相が向く注視方向性眼振(注視誘発眼振)である。視線を保持する神経積分器(脳幹と小脳)の障害でみられ、小脳・脳幹の病変や、抗てんかん薬・アルコールなどの薬物の影響が原因となる。中枢性を示す所見であり、末梢性の前庭神経炎には合わない。誤りである。
- ×d.
正面視、上方視、下方視、左方視では下向きの眼振、右方視では上向きの眼振という図である。主体は垂直性眼振である。下眼瞼向き眼振は、小脳(片葉)の障害や、Arnold-Chiari奇形などの頭蓋頸椎移行部の病変でみられる中枢性の所見である。しかも、左右の注視で垂直成分の向きが逆になるという不自然な組み合わせで、典型的な臨床像には当てはまらない。末梢前庭障害の眼振ではなく、誤りである。
- ×e.
すべての注視位置で上向きの眼振が出る図である。上眼瞼向き眼振と呼ばれ、延髄・橋・小脳虫部などの病変やWernicke脳症で出る中枢性の眼振である。末梢前庭の障害では、純粋な垂直性眼振は原則として出ない。前庭神経炎の所見ではないので、誤りである。
前庭神経炎
・病態:前庭神経の急性の炎症で、片側の前庭機能が低下する。ウイルス感染(単純ヘルペスウイルスの再活性化など)が関与すると考えられ、上気道炎が先行することが多い。 ・症状:突然始まる激しい回転性めまいが数日持続し、悪心・嘔吐を伴う。蝸牛症状(難聴・耳鳴)はない。めまい発作は通常、繰り返さない。 ・検査: 眼振:健側向きの方向固定性・水平回旋混合性眼振。 head impulse test(頭部を急速に回旋させる検査):患側へ回したときに、遅れて視線を戻す眼球運動(キャッチアップサッカード)が出る。 温度眼振検査(カロリックテスト):患側で反応が低下する(半規管麻痺〈CP〉)。 聴力検査:正常である。 ・治療:急性期には安静、制吐薬、抗めまい薬を使い、副腎皮質ステロイドを投与することもある。中枢の代償(脳が左右差に適応すること)を促すため、早めに前庭リハビリテーションを始める。ふらつきが数週から数か月残ることがある。
末梢性めまいと中枢性めまいの眼振の違い
・末梢性:水平性または水平回旋混合性で、どこを見ても向きが変わらない(方向固定性)。固視で抑えられる。Alexanderの法則に従う。 ・中枢性:注視方向性眼振、純粋な垂直性眼振(上眼瞼向き・下眼瞼向き)、純回旋性眼振がある。固視で抑えられにくい。 ・急性の持続性めまいでは、HINTS(head impulse test、眼振の方向、斜偏倚〈skew deviation〉)の3項目が中枢性の検出に役立つ。head impulse testが正常で、方向交代性眼振や斜偏倚がある場合には、脳幹・小脳の梗塞を疑う。
めまいを起こす主な末梢性疾患
・BPPV:頭位を変えたときに短時間(1分以内)のめまいが起こる。難聴はない。最も頻度が高い。 ・Ménière病:回転性めまいが反復し、変動する低音障害型の難聴、耳鳴、耳閉感を伴う。内リンパ水腫が原因である。 ・前庭神経炎:先行感染のあとに、持続する激しいめまいが1回起こる。難聴はない。 ・めまいを伴う突発性難聴:急に高度の難聴が起こり、めまいを伴う。
Alexanderの法則
末梢性の眼振は、急速相の方向を見たときに最も強くなる。急速相の方向を見たときにだけ出る眼振がⅠ度、正面視でも出るものがⅡ度、反対側を見ても出るものがⅢ度である。前庭神経炎の急性期には、Ⅲ度の眼振がみられることが多い。
POINT
・先行感染のあと、難聴を伴わない激しい回転性めまいが持続すれば、前庭神経炎を考える。 ・前庭神経炎の眼振は、急速相が健側を向く方向固定性の水平性(水平回旋混合性)眼振である。 ・注視方向性眼振、垂直性眼振(上眼瞼向き・下眼瞼向き)、純回旋性眼振は、中枢性めまいを示す。 ・頭部CTが正常でも小脳・脳幹の梗塞は否定できない。神経症状とHINTSで中枢性病変を見落とさないようにする。
