「消しゴムの硬さ」でも安心しない―前立腺肥大症の初診で必ずやるべき2つのこと
第103回医師国家試験 I問題 第59問
国試問題にチャレンジ
67歳の男性。1年前からの夜間頻尿と尿意切迫感とを主訴に来院した。直腸診で表面滑らかで腫大した前立腺を触知する。弾性硬で圧痛はない。尿所見:蛋白(-),糖(-),沈渣に赤血球2~4/1視野,白血球1/数視野。 対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.尿培養
- b.PSA測定
- c.腹部単純CT
- d.膀胱内圧測定
- e.国際前立腺症状スコアによる問診
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢男性の夜間頻尿や尿意切迫感などの下部尿路症状では、前立腺肥大症による膀胱出口部閉塞を考え、直腸診で表面平滑・弾性硬の腫大を確認します。初期評価で特に重要なのは、国際前立腺症状スコア(IPSS、7項目0〜35点)とQOLスコアによる症状の客観的評価と、同年代に多く直腸診だけでは否定できない前立腺癌を除外するためのPSA測定です。感染所見がなければ尿培養は不要で、前立腺体積や残尿は被曝のない超音波で評価し、膀胱内圧測定は侵襲的なため二次検査として位置づけられます。治療ではα1遮断薬が中心となり、5α還元酵素阻害薬はPSAを約半分に低下させる点に注意が必要です。「良性らしい所見でも癌を除外する」「症状を数値で追う」という考え方は、泌尿器診療に限らず初診時評価の基本姿勢として役立ちます。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
・67歳男性。1年前からの夜間頻尿と尿意切迫感(蓄尿症状)。 ・直腸診:前立腺は腫大し、表面平滑、弾性硬(消しゴム程度の硬さ)、圧痛なし。 ・尿所見:蛋白・糖陰性。沈渣で赤血球2~4/1視野、白血球1/数視野と、有意な血尿・膿尿はない。
診断に至る考え方
高齢男性の下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)では、まず前立腺疾患を念頭に置き、直腸診を行う。 ・前立腺肥大症:びまん性に腫大し、表面平滑・弾性硬で、中心溝(左右葉の間のくぼみ)が浅くなる。 ・前立腺癌:石のように硬い(石様硬)結節を触れ、表面不整となる。 ・急性前立腺炎:発熱を伴い、前立腺に強い圧痛・熱感がある。 本例は平滑・弾性硬・圧痛なしで、前立腺肥大症に典型的である。膿尿がなく発熱の記載もないため、前立腺炎や尿路感染症は否定的である。前立腺肥大症では、排尿困難などの排出症状だけでなく、本例のような夜間頻尿・尿意切迫感などの蓄尿症状(膀胱出口部閉塞に伴う二次的な過活動膀胱)も高頻度にみられる。
設問への考え方
前立腺肥大症が疑われる初診時には、①症状の程度を客観的に評価すること、②同じ年代に多く、症状や直腸診だけでは否定できない前立腺癌を除外すること、が重要である。前者には国際前立腺症状スコア(IPSS)などの質問票、後者には血清PSA(前立腺特異抗原)測定を用いる。いずれも非侵襲的で、診療ガイドラインでも初期評価で行うべき基本的な検査として位置づけられている。
選択肢考察
- ×a. 尿培養
尿培養は、膿尿や細菌尿があって尿路感染症や前立腺炎が疑われる場合に、原因菌と薬剤感受性を調べるために行う。本例は沈渣の白血球が1/数視野と正常で、発熱や圧痛もなく、感染を疑う根拠がない。初期評価として尿培養を行う必要はない。
- ○b. PSA測定
PSA(prostate-specific antigen:前立腺特異抗原)は前立腺上皮から分泌される蛋白で、前立腺癌のスクリーニングに用いる血液検査である。基準値は一般に4.0ng/mL以下とされ、それを超えると癌の可能性を考えて精査(MRI、生検など)を検討する。前立腺癌は主に辺縁域から発生し、早期には症状も直腸診での異常も乏しいことが多いため、直腸診で肥大症らしい所見であっても癌の合併は否定できない。本例は前立腺癌の好発年齢の高齢男性であり、PSAを測定して癌を除外する必要がある。なお前立腺肥大症や前立腺炎でもPSAは上昇しうるため、値の解釈には前立腺体積なども考慮する。
- ×c. 腹部単純CT
前立腺の大きさ(体積)や形態、膀胱内への突出の程度、残尿量は超音波検査(経腹的または経直腸的)で十分に評価でき、放射線被曝もない。単純CTでは前立腺の内部構造の評価は難しく、前立腺肥大症の初期評価として行う意義は乏しい。なお前立腺癌が疑われた場合の局所評価にはMRIが用いられる。
- ×d. 膀胱内圧測定
膀胱内圧測定は、膀胱にカテーテルを入れて生理食塩水などを注入しながら内圧を測定する尿流動態検査(ウロダイナミクス検査)の一つで、排尿筋の不随意収縮、膀胱容量、コンプライアンスなどを評価する。神経因性膀胱の診断や、手術適応を判断する際の詳細な病態評価に用いる。カテーテル挿入を伴う侵襲的な検査であり、初診時の基本評価として最初に行うものではない。
- ○e. 国際前立腺症状スコアによる問診
国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score:IPSS)は、残尿感、昼間頻尿、尿線途絶、尿意切迫感、尿勢低下、腹圧排尿、夜間頻尿の7項目を各0~5点で評価する質問票である(合計0~35点)。0~7点が軽症、8~19点が中等症、20~35点が重症とされる。症状の重さを数値化することで、治療適応の判断や治療効果の判定に役立つ。あわせて、現在の排尿状態に対する満足度をQOLスコア(0~6点)で評価する。前立腺肥大症が疑われる男性の初期評価で必ず行うべき問診である。
前立腺肥大症の概要
・加齢と男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)の影響で、前立腺の移行域(尿道周囲)が腺腫様に増生する良性疾患である。 ・一方、前立腺癌は主に辺縁域(直腸側)から発生するため、直腸診で触れやすい。
症状(下部尿路症状)
・排出症状:尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿 ・蓄尿症状:昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁 ・排尿後症状:残尿感、排尿後尿滴下 進行すると、多量の残尿、尿閉、溢流性尿失禁、水腎症・腎機能障害、膀胱結石などをきたす。
初期評価で行う主な検査
・問診:病歴、IPSS・QOLスコア、排尿日誌 ・身体所見:直腸診 ・尿検査(血尿・膿尿の確認) ・血清PSA測定 ・超音波検査(前立腺体積、残尿量) ・尿流測定(最大尿流量の低下を確認) 症例に応じて、腎機能検査、尿細胞診、内圧尿流検査などを追加する。
直腸診の比較
・前立腺肥大症:腫大、表面平滑、弾性硬、中心溝の消失 ・前立腺癌:石様硬、表面不整な結節 ・急性前立腺炎:腫大、熱感、著明な圧痛(前立腺マッサージは菌血症を招くため禁忌)
治療
・薬物療法:α1遮断薬(タムスロシン、シロドシン、ナフトピジル)、PDE5阻害薬(タダラフィル)、5α還元酵素阻害薬(デュタステリド:前立腺を縮小させるが、PSA値を約半分に低下させるため評価時に注意)。蓄尿症状が残る場合は抗コリン薬やβ3作動薬を追加することがある。 ・手術療法:経尿道的前立腺切除術(TURP)、ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)など。尿閉の反復、腎機能障害、膀胱結石、薬物療法抵抗例などが適応となる。
POINT
・高齢男性の下部尿路症状では前立腺疾患を考え、まず直腸診を行う。表面平滑・弾性硬なら肥大症、石様硬の結節なら癌を疑う。 ・前立腺肥大症の初期評価の基本は、IPSS(+QOLスコア)による症状評価、尿検査、PSA測定、超音波(前立腺体積・残尿量)、尿流測定である。 ・PSAは直腸診所見にかかわらず前立腺癌の除外に測定する(基準値4.0ng/mL以下が目安)。 ・IPSSは7項目・0~35点で、0~7軽症、8~19中等症、20~35重症。 ・尿培養は感染所見がなければ不要、膀胱内圧測定は侵襲的な二次検査、画像評価はCTより超音波。
