「我慢できない尿意」の正体―尿量・排尿量・残尿で読み解く過活動膀胱
第103回医師国家試験 I問題 第58問
国試問題にチャレンジ
65歳の女性。尿意切迫感,切迫性尿失禁および夜間頻尿を主訴に来院した。尿所見:蛋白(-),糖(-),沈渣に赤血球0~2/1視野,白血球1~3/1視野。尿量1,000~1,300mL/日,排尿量80~200mL,残尿量10~20mL。昼間排尿回数8~10回,夜間排尿回数2,3回。 対応として適切なのはどれか。
- a.水分制限
- b.抗菌薬投与
- c.睡眠薬投与
- d.α1遮断薬投与
- e.抗コリン薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
頻尿をみたら、まず1日尿量で多尿かどうかを確認し、多尿がなく1回排尿量が少なければ蓄尿障害と考えます。尿路感染(膿尿)、血尿をきたす膀胱癌・結石、残尿の多い排出障害を除外したうえで、尿意切迫感を中心に頻尿・夜間頻尿・切迫性尿失禁を認めれば過活動膀胱と診断できます。薬物療法の柱は、排尿筋のムスカリン受容体を遮断する抗コリン薬と、排尿筋を弛緩させるβ3作動薬であり、膀胱訓練や生活指導などの行動療法と組み合わせます。抗コリン薬は閉塞隅角緑内障や尿閉で禁忌で、高齢者では認知機能低下にも注意が必要です。水分制限は多尿のとき、α1遮断薬は排出障害のときに用いるものであり、排尿の神経支配から「溜める」「出す」のどちらを助けたいかを考えることが、下部尿路症状の診療の基本になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・65歳女性。主訴は尿意切迫感、切迫性尿失禁、夜間頻尿。 ・尿検査:蛋白(-)、糖(-)。沈渣で赤血球0~2/1視野、白血球1~3/1視野と、いずれも正常範囲である(おおむね赤血球・白血球とも5個/1視野未満が正常)。 ・1日尿量1,000~1,300mL:正常範囲であり、多尿はない。 ・1回排尿量80~200mL:正常(おおむね200~400mL)より少ない。 ・残尿量10~20mL:ごく少なく、排出障害はない(残尿50mL以上で有意とされることが多い)。 ・昼間排尿回数8~10回、夜間排尿回数2~3回:昼間頻尿(8回以上)と夜間頻尿(夜間に1回以上排尿のために起きる)がある。
診断に至る考え方
頻尿の鑑別では、まず「尿量が多いのか(多尿)」「1回に溜められる量が少ないのか(蓄尿障害)」を区別する。本例は1日尿量が正常で1回排尿量が少ないため、膀胱に尿を溜める機能の障害が原因である。 蓄尿障害をきたす疾患のうち、膀胱炎などの尿路感染症は膿尿(白血球増加)がないため否定的、膀胱癌・膀胱結石は血尿がないため可能性は低い。糖尿は陰性で、糖尿病による浸透圧利尿も考えにくい。残尿が少ないので、残尿によって実質的な膀胱容量が減る神経因性膀胱(低活動膀胱)や下部尿路閉塞も否定的である。 このように他疾患が除外され、尿意切迫感を必須とし、頻尿・夜間頻尿・切迫性尿失禁を伴う症状症候群であることから、過活動膀胱(overactive bladder:OAB)と診断できる。
設問への考え方
過活動膀胱では、膀胱排尿筋が蓄尿期に不随意に収縮しやすくなっている。排尿筋の収縮は副交感神経(骨盤神経)からのアセチルコリンがムスカリン受容体(主にM3)を刺激することで起こるため、抗コリン薬(抗ムスカリン薬)で収縮を抑えるのが薬物療法の基本となる。行動療法(膀胱訓練、骨盤底筋訓練、生活指導)と組み合わせて行う。
選択肢考察
- ×a. 水分制限
水分の過剰摂取は多尿、ひいては頻尿や夜間多尿の原因となり、とくに高齢者の夜間頻尿では夕方以降の飲水過多がしばしば関与する。この場合、1日尿量が2,000~3,000mLに達することもあり、飲水指導が有効である。しかし本例の1日尿量は1,000~1,300mLと正常で、多尿はない。頻尿の原因は1回排尿量の減少(蓄尿障害)であり、水分を制限しても根本的な改善にはならず、高齢者では脱水や脳梗塞などのリスクを高めうる。
- ×b. 抗菌薬投与
膀胱炎などの尿路感染症でも頻尿・尿意切迫感が起こるが、その場合は膿尿(沈渣で白血球増加)や細菌尿、排尿時痛を伴うことが多い。本例は沈渣の白血球が1~3/1視野と正常で、感染を示す所見はない。抗菌薬を投与する根拠はない。
- ×c. 睡眠薬投与
不眠のために夜間覚醒し、そのついでに排尿することで夜間頻尿となる場合はあるが、本例は日中にも頻尿と尿意切迫感・切迫性尿失禁があり、膀胱自体の蓄尿障害が問題である。睡眠薬ではこれらの症状は改善しない。さらに高齢者では、睡眠薬によるふらつきのため夜間トイレに行く際の転倒・骨折の危険が増す。
- ×d. α1遮断薬投与
α1遮断薬は前立腺や膀胱頸部の平滑筋を弛緩させて尿道抵抗を下げる薬であり、主に男性の前立腺肥大症に伴う排尿困難(排出障害)の治療に用いられる。本例は女性で、残尿も10~20mLと少なく排出障害はない。尿道抵抗を下げると、蓄尿障害のある本例ではむしろ尿失禁を悪化させるおそれがある。
- ○e. 抗コリン薬投与
過活動膀胱では蓄尿期に膀胱排尿筋が不随意に収縮し、尿意切迫感や切迫性尿失禁が生じる。抗コリン薬(抗ムスカリン薬:オキシブチニン、プロピベリン、トルテロジン、ソリフェナシン、イミダフェナシン、フェソテロジンなど)は、排尿筋のムスカリン受容体を遮断して不随意収縮を抑え、膀胱容量を増やすことで症状を改善する。過活動膀胱の薬物療法の中心である。副作用として口渇、便秘、残尿増加・尿閉、高齢者での認知機能低下などがあり、閉塞隅角緑内障や尿閉のある患者には禁忌である。なお、現在はβ3アドレナリン受容体作動薬(ミラベグロン、ビベグロン)も抗コリン薬と並ぶ第一選択薬として用いられる。
過活動膀胱(OAB)の定義
尿意切迫感(急に起こる、我慢することが難しい強い尿意)を必須症状とし、通常は頻尿や夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁は伴う場合も伴わない場合もある症状症候群である。診断には、尿路感染症、膀胱癌、膀胱結石、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞、多量の残尿などの除外が必要である。簡便な評価法として過活動膀胱症状スコア(OABSS)がある。
原因
・神経因性:脳血管障害、パーキンソン病、脊髄障害など上位中枢の障害で排尿反射の抑制が外れるもの。 ・非神経因性:加齢、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞、骨盤底筋の脆弱化、原因不明(特発性)など。
排尿の神経支配
・副交感神経(骨盤神経、S2~S4):アセチルコリン→M3受容体→排尿筋収縮(排尿)。 ・交感神経(下腹神経、T11~L2):ノルアドレナリン→β3受容体→排尿筋弛緩(蓄尿)、α1受容体→膀胱頸部・尿道平滑筋収縮(蓄尿)。 ・体性神経(陰部神経、S2~S4):外尿道括約筋収縮(蓄尿)。 この仕組みから、OABには抗コリン薬やβ3作動薬(蓄尿方向に働く)、前立腺肥大症による排出障害にはα1遮断薬(排出方向に働く)が用いられる。
頻尿の評価
・排尿日誌(排尿時刻と1回排尿量の記録)で、1日尿量・1回排尿量・昼夜の尿量比を確認する。 ・多尿:1日尿量が体重×40mL以上(成人で3,000mL程度以上)が目安。 ・夜間多尿:高齢者では夜間尿量が1日尿量の33%を超えるもの。 ・残尿:腹部超音波で測定できる。
OABの治療
1. 行動療法:生活指導(適切な飲水量、カフェイン・アルコールの制限、肥満の改善)、膀胱訓練(尿意を少しずつ我慢して排尿間隔を延ばす)、骨盤底筋訓練。 2. 薬物療法:抗コリン薬、β3作動薬(ミラベグロン、ビベグロン)。男性で前立腺肥大症を合併する場合は、まずα1遮断薬などで排出障害を治療する。 3. 難治例:膀胱壁内へのA型ボツリヌス毒素注入、仙骨神経刺激療法など。
POINT
・頻尿は「1日尿量(多尿か)」と「1回排尿量(蓄尿障害か)」で分けて考える。 ・尿意切迫感を中心に、頻尿・夜間頻尿・切迫性尿失禁があり、感染(膿尿)・血尿・多量の残尿がなければ過活動膀胱と診断する。 ・過活動膀胱の薬物療法は抗コリン薬とβ3作動薬。抗コリン薬は閉塞隅角緑内障・尿閉で禁忌、口渇・便秘・認知機能低下に注意する。 ・α1遮断薬は前立腺肥大症の排出障害の治療薬であり、蓄尿障害には使わない。 ・多尿がなければ水分制限は不要である。
