水がたまる胎児、たまらない羊水―Potter症候群だけが仲間外れの理由
第103回医師国家試験 I問題 第2問
国試問題にチャレンジ
胎児水腫の原因とならないのはどれか。
- a.伝染性紅斑
- b.Potter症候群
- c.双胎間輸血症候群
- d.血液型不適合妊娠
- e.胎児頸部リンパ嚢胞
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎児水腫は皮下浮腫・胸水・腹水・心嚢液のうち2か所以上に液体が貯留した状態で、Rh(D)不適合などによる免疫性と、現在大部分を占める非免疫性に分けられます。機序は高度貧血、心不全・容量負荷、リンパ還流障害、低蛋白血症などで、血液型不適合妊娠やパルボウイルスB19感染(伝染性紅斑)は貧血、双胎間輸血症候群は受血児の容量負荷、頸部リンパ嚢胞はリンパ還流障害を介して水腫を起こします。一方、Potter症候群は両側腎無形成で胎児尿がつくられず羊水過少となり、Potter顔貌・四肢変形・肺低形成をきたす病態で、体液を貯留させる機序はなく胎児水腫の原因とはなりません。羊水過多を伴いやすい胎児水腫と羊水過少のPotter症候群を対比し、「水がたまる機序」から考える姿勢は、周産期の多様な疾患を整理する土台になります。
解答・解説
正解はbです
問われていること
胎児水腫を引き起こす疾患と、そうでない疾患を見分ける問題である。「原因とならないもの」を選ぶ否定形の設問である点に注意する。
胎児水腫とは
胎児水腫は、胎児の体内に液体が異常に貯留した状態で、皮下浮腫、胸水、腹水、心嚢液のうち2か所以上に液体貯留を認めるものをいう。胎盤の肥厚や羊水過多を伴うことが多い。原因によって次の2つに大別される。 ・免疫性胎児水腫:母体の抗体が胎盤を通って胎児赤血球を破壊する同種免疫(主にRh(D)血液型不適合)による。 ・非免疫性胎児水腫:同種免疫以外のあらゆる原因によるもので、現在は胎児水腫の大部分(約9割)を占める。
液体が貯留する機序
胎児水腫は、次のような機序が単独または組み合わさって起こる。 1)高度の貧血 → 組織への酸素供給を保とうとして心拍出量が増え、高拍出性心不全となる。さらに髄外造血で肝臓が腫大して肝機能が落ち、低アルブミン血症も加わる(血液型不適合、パルボウイルスB19感染など)。 2)心不全・循環血液量の過負荷 → 静脈圧が上昇し、毛細血管から水分が漏れ出す(双胎間輸血症候群の受血児、胎児不整脈、心奇形など)。 3)リンパ還流の障害 → 間質の液体を血管内へ戻せなくなる(頸部リンパ嚢胞など)。 4)膠質浸透圧の低下(低蛋白血症)や血管透過性の亢進。
解き方
各選択肢が上記の機序のいずれかにつながるかを考える。Potter症候群は両側腎無形成に伴う「羊水過少」の結果として生じる変形の症候群であり、胎児の体液貯留を起こす機序をもたない。胎児水腫ではむしろ羊水過多を伴うことが多いため、羊水の量の面でも正反対の病態である。
選択肢考察
- ×a. 伝染性紅斑
伝染性紅斑(りんご病)の病原体はヒトパルボウイルスB19である。このウイルスは赤芽球系前駆細胞(P抗原を受容体とする)に感染して増殖し、造血を止める。妊娠中の母体感染で胎盤を介して胎児に感染すると、赤血球の寿命が短く造血需要の大きい胎児では高度の貧血となり、高拍出性心不全を経て非免疫性胎児水腫を生じる。感染胎児の貧血は胎児中大脳動脈の最高血流速度の上昇で推定でき、胎児輸血が治療となりうる。したがって胎児水腫の原因となる。
- ○b. Potter症候群
Potter症候群(Potter sequence)は、両側腎無形成などにより胎児尿がつくられず、高度の羊水過少となることで生じる一連の変化である。羊水が少ないため胎児が子宮壁に圧迫され、特有の顔貌(Potter顔貌:眼間開離、鼻の扁平化、耳介の低位・変形、小さな下顎)、四肢の変形(内反足など)、そして肺の発育に必要な羊水が不足することによる肺低形成が起こる。肺低形成のため出生後の呼吸が維持できず予後不良である。胎児の体内に液体が貯留する機序はなく、胎児水腫の原因とはならない。よってこれが正解である。
- ×c. 双胎間輸血症候群
双胎間輸血症候群(TTTS:twin-twin transfusion syndrome)は、一絨毛膜双胎で胎盤表面の血管吻合を介して一方の児(供血児)から他方の児(受血児)へ血液が偏って流れることで起こる。受血児は循環血液量過多となり、多尿による羊水過多、心負荷の増大から心不全をきたして胎児水腫に至る。供血児は循環血液量が減って乏尿・羊水過少・発育不全となる(重症では供血児にも水腫を生じうる)。治療として胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術が行われる。胎児水腫の原因となる。
- ×d. 血液型不適合妊娠
代表はRh(D)陰性の母がRh(D)陽性の児を妊娠する場合である。前回の分娩などで胎児赤血球が母体に入ると母体が抗D抗体(IgG)を産生し、次回以降の妊娠でこの抗体が胎盤を通過して胎児赤血球を溶血させる(胎児・新生児溶血性疾患)。高度の溶血性貧血により、心不全、髄外造血による肝腫大と低アルブミン血症が起こり、免疫性胎児水腫となる。予防として、感作前のRh(D)陰性妊婦に抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。胎児水腫の原因となる。
- ×e. 胎児頸部リンパ嚢胞
胎児頸部リンパ嚢胞(嚢胞性ヒグローマ)は、発生期のリンパ嚢(頸部のリンパ系の原基)が静脈系とうまく交通せず、後頸部にリンパ液がたまって嚢胞状になったものである。リンパ還流の障害が全身に及ぶと、全身の浮腫や胸水・腹水を伴う胎児水腫に進展する。Turner症候群(45,X)や21トリソミーなどの染色体異常を合併することが多く、診断された場合は染色体検査が検討される。胎児水腫の原因となる。
非免疫性胎児水腫の主な原因
・心血管系:胎児不整脈(上室頻拍などの頻脈性不整脈、完全房室ブロックなど)、先天性心疾患、心筋症 ・染色体異常:Turner症候群、21トリソミー、18トリソミーなど ・血液:α-サラセミア(Hb Bart's)、胎児母体間輸血症候群による高度貧血 ・感染症:パルボウイルスB19、サイトメガロウイルス、梅毒、トキソプラズマなど ・胸郭内病変:先天性嚢胞性腺腫様奇形(CCAM、現在は先天性肺気道奇形CPAMとも呼ばれる)、横隔膜ヘルニア、乳び胸など(縦隔を圧迫して静脈還流を妨げる) ・リンパ系異常:頸部リンパ嚢胞など ・双胎の異常:双胎間輸血症候群 ・胎盤・臍帯:絨毛膜血管腫(胎盤の血管性腫瘍による動静脈短絡)など ・原因不明のものも少なくない
胎児水腫と羊水量
胎児水腫では羊水過多を伴うことが多い。一方、羊水過少の原因としては、胎児尿の産生低下(両側腎無形成・多嚢胞性異形成腎、尿路閉塞、胎盤機能不全に伴う胎児発育不全)や前期破水が代表的である。Potter症候群は後者の典型であり、羊水の増減と疾患を結びつけて整理するとよい。
Potter sequenceの考え方
「sequence(連鎖)」とは、一つの原因から二次的な異常が連鎖的に起こることを指す。腎無形成 → 胎児尿なし → 羊水過少 → 子宮による圧迫(顔貌・四肢の変形)と肺低形成、という流れで理解する。狭義のPotter症候群は両側腎無形成によるものをいうが、羊水過少の原因を問わず同様の表現型を示すものを広くPotter sequenceと呼ぶ。
母体の鏡症候群(Mirror syndrome)
胎児水腫に伴って、母体にも浮腫、高血圧、蛋白尿など妊娠高血圧腎症に似た症状が現れることがあり、鏡症候群(Ballantyne症候群)と呼ばれる。
POINT
・胎児水腫=皮下浮腫・胸水・腹水・心嚢液のうち2か所以上の液体貯留。 ・免疫性(Rh(D)不適合など)と非免疫性(現在は大部分)に分ける。 ・機序は高度貧血、心不全・容量負荷、リンパ還流障害、低蛋白血症。 ・パルボウイルスB19は胎児貧血から非免疫性胎児水腫を起こす。 ・双胎間輸血症候群は受血児に心不全・羊水過多・水腫を起こす。 ・頸部リンパ嚢胞はTurner症候群と関連し、水腫へ進展しうる。 ・Potter症候群は両側腎無形成による羊水過少と肺低形成で、胎児水腫は起こさない。
