アルブミンはどこへ消えた?―「作れない・漏れる・吸収できない」で解く低蛋白血症
第103回医師国家試験 I問題 第18問
国試問題にチャレンジ
低蛋白血症をきたすのはどれか。3つ選べ。
- a.肝硬変
- b.Crohn病
- c.過敏性腸症候群
- d.Ménétrier症候群
- e.Peutz-Jeghers症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
低蛋白血症は主にアルブミンの低下であり、「摂取・吸収の不足」「肝での合成低下」「体外への喪失」「異化の亢進」の4つの機序で整理すると理解しやすくなります。肝硬変は合成低下(γ-グロブリン増加によるA/G比低下を伴う)、Crohn病は潰瘍からの漏出・吸収障害・異化亢進の複合、Ménétrier症候群は巨大皺襞と低酸を伴う蛋白漏出性胃腸症の代表です。一方、過敏性腸症候群は器質的異常のない機能性疾患で、低蛋白血症があれば器質的疾患を疑う警告徴候となり、Peutz-Jeghers症候群は腸重積や悪性腫瘍リスクが問題となる過誤腫性ポリポーシスです。低アルブミン血症に出会ったら、尿・消化管・肝・栄養状態のどこに原因があるかを機序から探る姿勢が、浮腫や腹水の診療に直結します。
解答・解説
正解はa, b, dです
血清総蛋白が基準値(おおむね6.5〜8.0 g/dL)を下回る状態を低蛋白血症という。血清蛋白の約6割を占めるアルブミンの低下が主体となることが多く、進行すると膠質浸透圧が下がって浮腫や胸水・腹水の原因となる。 低蛋白血症の成り立ちは、次の4つの機序に整理すると考えやすい。 ①摂取・吸収の不足: 低栄養、消化吸収障害(吸収不良症候群など) ②合成の低下: アルブミンなどを産生する肝の機能低下(肝硬変、劇症肝炎など) ③体外への喪失: 尿中(ネフローゼ症候群)、消化管内腔(蛋白漏出性胃腸症、炎症性腸疾患、出血)、皮膚(広範な熱傷)、胸水・腹水の貯留や頻回の排液 ④異化の亢進: 手術侵襲、重症感染症、悪性腫瘍、甲状腺機能亢進症など 本問では、各疾患がこれらの機序のいずれかに当てはまるかを考える。肝硬変は②(および③)、Crohn病は①③④、Ménétrier症候群は③の代表である。一方、過敏性腸症候群は器質的異常を伴わない機能性疾患であり、Peutz-Jeghers症候群は過誤腫性ポリポーシスで、いずれも通常は低蛋白血症をきたさない。
選択肢考察
- ○a. 肝硬変
アルブミンは肝細胞でのみ合成されるため、肝細胞が減少し線維化が進んだ肝硬変ではアルブミン合成が低下し、低アルブミン血症をきたす。さらに門脈圧亢進により腹水として血漿成分が貯留すること、うっ血した腸管から蛋白が漏れやすくなることも低蛋白血症を助長する。なお肝硬変では免疫グロブリン(γ-グロブリン)が増加することが多いため、総蛋白よりもアルブミン値の低下が目立ち、A/G比が低下するのが特徴である。アルブミン値はChild-Pugh分類の評価項目の一つでもある。
- ○b. Crohn病
Crohn病は口腔から肛門までの消化管のどこにでも、非連続性(区域性)に縦走潰瘍や敷石像を形成する慢性の炎症性腸疾患である。潰瘍面からの蛋白漏出や出血、小腸病変による吸収障害、腹痛・下痢による摂取量の低下、慢性炎症による異化亢進が重なり、低蛋白血症・低栄養をきたしやすい。栄養状態の改善を兼ねて成分栄養剤による栄養療法が行われるのはこのためである。
- ×c. 過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛と便通異常(下痢・便秘・混合型)が慢性的に続くが、血液検査・内視鏡などで器質的な異常を認めない機能性消化管疾患である(診断にはRome基準が用いられる)。消化管粘膜に潰瘍などの病変はなく、蛋白の漏出や吸収障害は起こらないため、低蛋白血症はきたさない。むしろ体重減少、血便、発熱、低蛋白血症などの警告徴候があれば、器質的疾患を疑って精査する必要がある。
- ○d. Ménétrier症候群
Ménétrier(メネトリエ)症候群は、胃体部の大弯側を中心に脳回状の巨大皺襞がみられる肥厚性胃症である。組織学的には粘液を産生する表層(被蓋)上皮・腺窩上皮が著明に過形成を示し、代わりに壁細胞・主細胞は減少する。そのため胃酸分泌は低下し、肥厚した粘膜から血漿蛋白が胃内腔へ漏れ出て、蛋白漏出性胃腸症として低蛋白血症と浮腫をきたす。原因は不明な点が多いが、TGF-α(上皮成長因子受容体を刺激する因子)の過剰が関与するとされ、小児例ではサイトメガロウイルス感染との関連も知られる。
- ×e. Peutz-Jeghers症候群
Peutz-Jeghers(ポイツ・ジェガース)症候群は、STK11(LKB1)遺伝子変異による常染色体顕性(優性)遺伝の疾患で、口唇・口腔粘膜・手指の色素斑と、食道を除く消化管(とくに小腸)に多発する過誤腫性ポリープを特徴とする。ポリープが先進部となる腸重積や、ポリープからの出血を起こすことはあるが、蛋白漏出性の病態ではなく、低蛋白血症をきたす疾患としては扱われない。消化管や膵、乳腺、卵巣などの悪性腫瘍の発生リスクが高い点が重要である。
蛋白漏出性胃腸症
血漿蛋白(主にアルブミン)が消化管粘膜から内腔へ異常に漏れ出て低蛋白血症をきたす病態の総称である。原因には、①粘膜の障害(Ménétrier症候群、炎症性腸疾患、アミロイドーシス、膠原病に伴う腸炎など)、②リンパ流の障害(腸リンパ管拡張症、収縮性心膜炎・右心不全、Fontan術後など)、③毛細血管透過性の亢進(アレルギー性胃腸症など)がある。診断には、α1-アンチトリプシン(消化されにくい血漿蛋白)の便中クリアランスの増加や、99mTc標識ヒト血清アルブミンシンチグラフィによる漏出部位の同定が用いられる。
その他の低蛋白血症の代表例
・ネフローゼ症候群: 高度蛋白尿(3.5 g/日以上)と低アルブミン血症(3.0 g/dL以下)を満たす。 ・広範な熱傷: 創面からの滲出液による喪失。 ・術後・重症感染症: ストレスによる異化亢進と、炎症時に肝でのアルブミン合成が抑えられること(アルブミンは負の急性期蛋白)。 ・播種性血管内凝固(DIC): 凝固因子などの消費による。
肝硬変と蛋白分画
肝硬変では、アルブミン低下に加え、腸管から門脈経由で流入する抗原の刺激によりγ-グロブリンが多クローン性に増加し、血清蛋白電気泳動でβ-γ bridgingを呈することがある。
POINT
・低蛋白血症の機序は「摂取・吸収不足」「肝での合成低下」「体外への喪失」「異化亢進」の4つで整理する。 ・肝硬変: アルブミン合成低下(γ-グロブリンは増加しA/G比低下)。 ・Crohn病: 潰瘍からの漏出、吸収障害、炎症による異化亢進。 ・Ménétrier症候群: 胃の巨大皺襞、低酸、蛋白漏出性胃腸症。 ・過敏性腸症候群は器質的異常のない機能性疾患で、低蛋白血症はきたさない。 ・Peutz-Jeghers症候群は色素斑と過誤腫性ポリポーシスで、腸重積・出血・悪性腫瘍リスクが問題となる。
