StudyMed医師国家試験

アルブミンはどこへ消えた?―「作れない・漏れる・吸収できない」で解く低蛋白血症

第103回医師国家試験 I問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第18問

低蛋白血症をきたすのはどれか。3つ選べ。

  1. a.肝硬変
  2. b.Crohn病
  3. c.過敏性腸症候群
  4. d.Ménétrier症候群
  5. e.Peutz-Jeghers症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、低蛋白血症をきたす疾患を選ぶ問題だ。疾患名を丸暗記するより、「血清蛋白がなぜ減るのか」という機序から考えると迷わなくなる。まずは低蛋白血症で主に減っている蛋白が何か、確認しておこう。
医学生医学生
血清蛋白の半分以上はアルブミンなので、主にアルブミンが減るんですよね。生理学の講義で、膠質浸透圧を保つ主役だと習いました。
ドクタードクター
その通り。アルブミンが減ると膠質浸透圧が下がって、血管内の水分が間質に漏れ出し、浮腫や胸水・腹水の原因になる。では、アルブミンが減る理由にはどんなものがあると思う?
医学生医学生
作られない、か、出ていってしまう、でしょうか。
ドクタードクター
いいね。もう少し細かく、4つに整理しよう。1つ目は摂取・吸収の不足、つまり低栄養や吸収不良。2つ目は肝での合成低下。3つ目は体外への喪失で、尿へ漏れるネフローゼ症候群、消化管へ漏れる蛋白漏出性胃腸症、広範な熱傷などがある。4つ目は手術や重症感染症などによる異化の亢進だ。この枠組みで選択肢を見ていこう。まず肝硬変は?
医学生医学生
アルブミンは肝臓でしか作られないので、合成低下で低アルブミン血症になります。消化器内科の実習で、腹水のある患者さんのアルブミンが2点台だったのを覚えています。
ドクタードクター
よく見ているね。肝硬変では合成低下に加えて、門脈圧亢進で血漿成分が腹水として貯まることも低蛋白血症を助長する。ちなみに肝硬変ではγ-グロブリンが増えることが多いから、総蛋白よりもアルブミンの低下が目立ってA/G比が下がるのが特徴だ。アルブミン値はChild-Pugh分類の項目にも入っているね。
医学生医学生
次のCrohn病は炎症性腸疾患なので、腸から漏れるイメージでしょうか。
ドクタードクター
そう、ただCrohn病は機序がいくつも重なるのがポイントだ。潰瘍面からの蛋白漏出や出血、小腸病変による吸収障害、腹痛や下痢による摂取量の低下、そして慢性炎症による異化亢進。4つの機序のうち3つにまたがっていると言える。だから成分栄養剤による栄養療法が治療の柱の一つになっているんだ。
医学生医学生
過敏性腸症候群も下痢が続くので、栄養状態が悪くなりそうな気がしますが…。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。過敏性腸症候群は、腹痛と便通異常が慢性的に続くけれど、内視鏡や血液検査で器質的な異常を認めない機能性疾患だ。粘膜に潰瘍はないから、蛋白が漏れることも吸収障害が起こることもない。逆に、体重減少や血便、発熱、低蛋白血症があれば、それは過敏性腸症候群らしくない警告徴候で、器質的疾患を探しにいく必要がある。
医学生医学生
なるほど、低蛋白血症があったら「機能性」とは言えなくなるわけですね。Ménétrier症候群は名前は知っていますが、中身があやふやです。
ドクタードクター
Ménétrier症候群は、胃体部の大弯を中心に脳回のような巨大皺襞ができる肥厚性胃症だ。組織では粘液を作る腺窩上皮が著明に過形成になる一方、壁細胞や主細胞は減るから胃酸分泌は低下する。そして肥厚した粘膜から血漿蛋白が胃内腔へ漏れ出す、つまり蛋白漏出性胃腸症の代表例なんだ。低蛋白血症と浮腫で見つかることもある。
医学生医学生
巨大皺襞、低酸、蛋白漏出の3点セットで覚えます。最後のPeutz-Jeghers症候群は、ポリープがたくさんできるので、そこから漏れたりしないんですか。
ドクタードクター
発想としては分かるけれど、通常は低蛋白血症の原因としては扱われない。Peutz-Jeghers症候群はSTK11遺伝子変異による常染色体顕性遺伝の疾患で、口唇や手指の色素斑と、主に小腸の過誤腫性ポリープが特徴だ。問題になるのは、ポリープが先進部になる腸重積や出血、それから消化管・膵・乳腺・卵巣などの悪性腫瘍リスクの高さだね。
医学生医学生
CBTの勉強では色素斑と腸重積ばかり覚えていました。悪性腫瘍のサーベイランスも大事なんですね。
ドクタードクター
そう、臨床的にはむしろそちらが重要だ。では、答えを整理するとどうなる?
医学生医学生
低蛋白血症をきたすのは肝硬変、Crohn病、Ménétrier症候群の3つ。過敏性腸症候群は器質的異常がなく、Peutz-Jeghers症候群は蛋白漏出の病態ではないので外れます。
ドクタードクター
正解。最後に発展知識を押さえよう。蛋白漏出性胃腸症の原因には、Ménétrier症候群や炎症性腸疾患のような粘膜障害のほか、腸リンパ管拡張症や収縮性心膜炎、Fontan術後のようなリンパ流の障害もある。診断には、消化されにくい血漿蛋白であるα1-アンチトリプシンの便中クリアランスや、標識アルブミンを使ったシンチグラフィで漏出部位を調べる方法がある。
医学生医学生
低アルブミン血症の患者さんを見たら、まず尿蛋白を確認してネフローゼを除外して、それでも説明できなければ消化管からの漏出も考える、という流れでしょうか。
ドクタードクター
まさにその考え方が実践的だ。もう一つ、アルブミンは炎症時に肝での合成が抑えられる負の急性期蛋白でもある。重症感染症や術後の患者でアルブミンが下がるのは、栄養だけの問題ではないことも覚えておこう。

まとめ

低蛋白血症は主にアルブミンの低下であり、「摂取・吸収の不足」「肝での合成低下」「体外への喪失」「異化の亢進」の4つの機序で整理すると理解しやすくなります。肝硬変は合成低下(γ-グロブリン増加によるA/G比低下を伴う)、Crohn病は潰瘍からの漏出・吸収障害・異化亢進の複合、Ménétrier症候群は巨大皺襞と低酸を伴う蛋白漏出性胃腸症の代表です。一方、過敏性腸症候群は器質的異常のない機能性疾患で、低蛋白血症があれば器質的疾患を疑う警告徴候となり、Peutz-Jeghers症候群は腸重積や悪性腫瘍リスクが問題となる過誤腫性ポリポーシスです。低アルブミン血症に出会ったら、尿・消化管・肝・栄養状態のどこに原因があるかを機序から探る姿勢が、浮腫や腹水の診療に直結します。

解答・解説

正解はa, b, dです

血清総蛋白が基準値(おおむね6.5〜8.0 g/dL)を下回る状態を低蛋白血症という。血清蛋白の約6割を占めるアルブミンの低下が主体となることが多く、進行すると膠質浸透圧が下がって浮腫や胸水・腹水の原因となる。 低蛋白血症の成り立ちは、次の4つの機序に整理すると考えやすい。 ①摂取・吸収の不足: 低栄養、消化吸収障害(吸収不良症候群など) ②合成の低下: アルブミンなどを産生する肝の機能低下(肝硬変、劇症肝炎など) ③体外への喪失: 尿中(ネフローゼ症候群)、消化管内腔(蛋白漏出性胃腸症、炎症性腸疾患、出血)、皮膚(広範な熱傷)、胸水・腹水の貯留や頻回の排液 ④異化の亢進: 手術侵襲、重症感染症、悪性腫瘍、甲状腺機能亢進症など 本問では、各疾患がこれらの機序のいずれかに当てはまるかを考える。肝硬変は②(および③)、Crohn病は①③④、Ménétrier症候群は③の代表である。一方、過敏性腸症候群は器質的異常を伴わない機能性疾患であり、Peutz-Jeghers症候群は過誤腫性ポリポーシスで、いずれも通常は低蛋白血症をきたさない。

選択肢考察

  1. ○a.  肝硬変

    アルブミンは肝細胞でのみ合成されるため、肝細胞が減少し線維化が進んだ肝硬変ではアルブミン合成が低下し、低アルブミン血症をきたす。さらに門脈圧亢進により腹水として血漿成分が貯留すること、うっ血した腸管から蛋白が漏れやすくなることも低蛋白血症を助長する。なお肝硬変では免疫グロブリン(γ-グロブリン)が増加することが多いため、総蛋白よりもアルブミン値の低下が目立ち、A/G比が低下するのが特徴である。アルブミン値はChild-Pugh分類の評価項目の一つでもある。

  2. ○b.  Crohn病

    Crohn病は口腔から肛門までの消化管のどこにでも、非連続性(区域性)に縦走潰瘍や敷石像を形成する慢性の炎症性腸疾患である。潰瘍面からの蛋白漏出や出血、小腸病変による吸収障害、腹痛・下痢による摂取量の低下、慢性炎症による異化亢進が重なり、低蛋白血症・低栄養をきたしやすい。栄養状態の改善を兼ねて成分栄養剤による栄養療法が行われるのはこのためである。

  3. ×c.  過敏性腸症候群

    過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛と便通異常(下痢・便秘・混合型)が慢性的に続くが、血液検査・内視鏡などで器質的な異常を認めない機能性消化管疾患である(診断にはRome基準が用いられる)。消化管粘膜に潰瘍などの病変はなく、蛋白の漏出や吸収障害は起こらないため、低蛋白血症はきたさない。むしろ体重減少、血便、発熱、低蛋白血症などの警告徴候があれば、器質的疾患を疑って精査する必要がある。

  4. ○d.  Ménétrier症候群

    Ménétrier(メネトリエ)症候群は、胃体部の大弯側を中心に脳回状の巨大皺襞がみられる肥厚性胃症である。組織学的には粘液を産生する表層(被蓋)上皮・腺窩上皮が著明に過形成を示し、代わりに壁細胞・主細胞は減少する。そのため胃酸分泌は低下し、肥厚した粘膜から血漿蛋白が胃内腔へ漏れ出て、蛋白漏出性胃腸症として低蛋白血症と浮腫をきたす。原因は不明な点が多いが、TGF-α(上皮成長因子受容体を刺激する因子)の過剰が関与するとされ、小児例ではサイトメガロウイルス感染との関連も知られる。

  5. ×e.  Peutz-Jeghers症候群

    Peutz-Jeghers(ポイツ・ジェガース)症候群は、STK11(LKB1)遺伝子変異による常染色体顕性(優性)遺伝の疾患で、口唇・口腔粘膜・手指の色素斑と、食道を除く消化管(とくに小腸)に多発する過誤腫性ポリープを特徴とする。ポリープが先進部となる腸重積や、ポリープからの出血を起こすことはあるが、蛋白漏出性の病態ではなく、低蛋白血症をきたす疾患としては扱われない。消化管や膵、乳腺、卵巣などの悪性腫瘍の発生リスクが高い点が重要である。

蛋白漏出性胃腸症

血漿蛋白(主にアルブミン)が消化管粘膜から内腔へ異常に漏れ出て低蛋白血症をきたす病態の総称である。原因には、①粘膜の障害(Ménétrier症候群、炎症性腸疾患、アミロイドーシス、膠原病に伴う腸炎など)、②リンパ流の障害(腸リンパ管拡張症、収縮性心膜炎・右心不全、Fontan術後など)、③毛細血管透過性の亢進(アレルギー性胃腸症など)がある。診断には、α1-アンチトリプシン(消化されにくい血漿蛋白)の便中クリアランスの増加や、99mTc標識ヒト血清アルブミンシンチグラフィによる漏出部位の同定が用いられる。

その他の低蛋白血症の代表例

・ネフローゼ症候群: 高度蛋白尿(3.5 g/日以上)と低アルブミン血症(3.0 g/dL以下)を満たす。 ・広範な熱傷: 創面からの滲出液による喪失。 ・術後・重症感染症: ストレスによる異化亢進と、炎症時に肝でのアルブミン合成が抑えられること(アルブミンは負の急性期蛋白)。 ・播種性血管内凝固(DIC): 凝固因子などの消費による。

肝硬変と蛋白分画

肝硬変では、アルブミン低下に加え、腸管から門脈経由で流入する抗原の刺激によりγ-グロブリンが多クローン性に増加し、血清蛋白電気泳動でβ-γ bridgingを呈することがある。

POINT

・低蛋白血症の機序は「摂取・吸収不足」「肝での合成低下」「体外への喪失」「異化亢進」の4つで整理する。 ・肝硬変: アルブミン合成低下(γ-グロブリンは増加しA/G比低下)。 ・Crohn病: 潰瘍からの漏出、吸収障害、炎症による異化亢進。 ・Ménétrier症候群: 胃の巨大皺襞、低酸、蛋白漏出性胃腸症。 ・過敏性腸症候群は器質的異常のない機能性疾患で、低蛋白血症はきたさない。 ・Peutz-Jeghers症候群は色素斑と過誤腫性ポリポーシスで、腸重積・出血・悪性腫瘍リスクが問題となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。