StudyMed医師国家試験

なぜ血栓は左に多いのか―右総腸骨動脈と腰椎に挟まれた左総腸骨静脈

第103回医師国家試験 I問題 第11問

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第103回 I問題 第11問

総腸骨静脈血栓症が左側に好発する原因となるのはどれか。

  1. a.左外腸骨動脈
  2. b.左総腸骨動脈
  3. c.右総腸骨動脈
  4. d.左閉鎖動脈
  5. e.右閉鎖動脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腸骨静脈の血栓症が左側に多い理由を解剖から考える問題だ。ポイントは、大動脈と下大静脈が体の正中のどちら側にあるか、そして左右の腸骨静脈がどんな道筋で下大静脈に合流するか。まずは骨盤内の血管の配置を思い浮かべてみよう。
医学生医学生
左に多いということは、左側の血管が原因なんでしょうか。左総腸骨動脈が左総腸骨静脈を圧迫しているイメージが浮かびました。
ドクタードクター
直感的にはそう考えたくなるよね。でも実は答えは逆側なんだ。鍵は、下大静脈が大動脈の右側にあること。腹部大動脈は第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分かれ、下大静脈は第5腰椎の高さで左右の総腸骨静脈が合流してできる。下大静脈が右寄りにあるぶん、左総腸骨静脈は正中を越えて右へ長く走らなければならない。
医学生医学生
解剖実習で、左の腎静脈が大動脈の前を横切って長いと教わったのと似た話ですね。
ドクタードクター
いい連想だね。左腎静脈が大動脈と上腸間膜動脈に挟まれるナットクラッカー現象も、下大静脈が右にあることによる左右差という点で共通している。さて、左総腸骨静脈が右へ向かう途中、その前を斜めに横切る動脈があるんだけど、どれだと思う?
医学生医学生
大動脈分岐部から右下へ向かう動脈だから……右総腸骨動脈ですか。
ドクタードクター
正解。左総腸骨静脈は、前からは拍動する右総腸骨動脈に、後ろからは第5腰椎の椎体に挟まれる。静脈は壁が薄く内圧も低いから、動脈と骨の間で押しつぶされやすいんだ。長年の圧迫と拍動の刺激で内膜が肥厚し、spurと呼ばれる索状物ができて内腔が狭くなることもある。
医学生医学生
右総腸骨動脈は右総腸骨静脈の前も通りますよね。右側は圧迫されないんですか。
ドクタードクター
鋭い質問だね。右側では、動脈と静脈が交差する位置の後ろに椎体がなく、挟み込まれる形にならない。だから圧迫が起こりにくいんだ。前に動脈、後ろに骨という「サンドイッチ」が成立するのは左総腸骨静脈だけ、というのが要点だよ。
医学生医学生
では左総腸骨動脈は、左総腸骨静脈と同じ側を並んで走るだけなので、圧迫の原因にはならないということですね。
ドクタードクター
その通り。左外腸骨動脈も骨盤壁に沿って鼠径靱帯へ向かい、外腸骨静脈と並走するだけで、骨に押しつける位置関係にはない。閉鎖動脈は左右とも内腸骨動脈の枝で、小骨盤の側壁を前へ進んで閉鎖孔から大腿内側の内転筋群へ向かうから、総腸骨静脈とはそもそも離れているんだ。
医学生医学生
圧迫されると血栓ができやすいのは、Virchowの3徴で説明できますか。CBTでよく出ました。
ドクタードクター
そう。血流のうっ滞、血管内皮障害、血液凝固能の亢進の3つのうち、圧迫部位より末梢でのうっ滞と内皮障害の2つが満たされやすくなる。この病態を腸骨静脈圧迫症候群、別名May-Thurner症候群やCockett症候群と呼ぶ。
医学生医学生
解剖学的な圧迫があれば、みんな血栓症になるわけではないんですよね。
ドクタードクター
そこは大事な点だね。圧迫自体は無症状の人にも少なからず見られる。そこに妊娠、手術、長期臥床、経口避妊薬などの誘因が重なると、左下肢の深部静脈血栓症として発症しやすくなる。若年から中年の女性に多いとされているよ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、左脚全体がパンパンに腫れた患者さんを見たことがあります。あれもこの病態だったのかもしれません。
ドクタードクター
可能性はあるね。左下肢全体の腫脹や疼痛、色調変化が典型的だ。診断には造影CTや静脈造影、血管内超音波などを使う。治療は抗凝固療法が基本で、症例によってはカテーテルによる血栓除去や、圧迫部位へのステント留置も行われる。そして忘れてはいけないのが、血栓が遊離すると肺血栓塞栓症を起こしうること、慢性化すると静脈瘤や色素沈着、潰瘍などの静脈血栓後症候群に至ることだ。
医学生医学生
左下肢の深部静脈血栓症を見たら、背景に解剖学的な圧迫がないかも考える、ということですね。
ドクタードクター
その通り。特に若い女性で明らかな誘因が乏しいのに左下肢に繰り返す場合は、この病態を思い浮かべてほしい。解剖の知識がそのまま臨床推論につながる好例だよ。

まとめ

腸骨静脈レベルの深部静脈血栓症が左側に多いのは、下大静脈が大動脈の右側にあるため、左総腸骨静脈が正中を越えて右へ走る途中で、前方の右総腸骨動脈と後方の第5腰椎椎体に挟まれて圧迫されるからです。この腸骨静脈圧迫症候群(May-Thurner症候群、Cockett症候群)では、うっ滞と内皮障害というVirchowの3徴の要素が加わり、妊娠や手術、長期臥床などの誘因で左下肢の血栓症が起こりやすくなります。左総腸骨動脈や外腸骨動脈は静脈と同側を並走するだけで、閉鎖動脈は骨盤深部を走るため、いずれも圧迫の原因にはなりません。治療は抗凝固療法が基本で、肺血栓塞栓症や静脈血栓後症候群への注意も欠かせません。血管の左右非対称な配置を理解しておくことは、ナットクラッカー現象なども含めた病態の理解と臨床推論の土台になります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

下肢の深部静脈血栓症(DVT: deep vein thrombosis)、特に腸骨静脈レベルの血栓は左側に多い。本問はその解剖学的な理由を問うている。

骨盤内の血管の位置関係

腹部大動脈は第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分かれ、下大静脈は第5腰椎の高さで左右の総腸骨静脈が合流してできる。下大静脈は大動脈の右側にあるため、左総腸骨静脈は正中線を越えて右へ向かい、下大静脈に合流しなければならない。その途中で、左総腸骨静脈は大動脈分岐部から右下方へ向かう右総腸骨動脈の後ろをくぐり抜ける。 このとき左総腸骨静脈は、前方からは拍動する右総腸骨動脈に、後方からは第5腰椎椎体(腰仙部の岬角付近)に挟まれる。静脈は壁が薄く内圧も低いため、動脈と骨の間で押しつぶされやすい。長期間の圧迫と拍動の刺激で静脈内膜が肥厚し、索状物(spur)ができて内腔が狭くなることもある。

血栓ができやすくなる理由

圧迫部位より末梢で静脈血がうっ滞し、内皮障害も加わるため、Virchowの3徴(血流のうっ滞・血管内皮障害・血液凝固能の亢進)のうち2つが満たされやすくなる。これにより左総腸骨静脈から左下肢の静脈に血栓が生じやすい。この病態を腸骨静脈圧迫症候群(May-Thurner症候群、Cockett症候群)という。 したがって、左側好発の原因となる構造物は右総腸骨動脈(と後方の腰椎)である。

選択肢考察

  1. ×a.  左外腸骨動脈

    左外腸骨動脈は左総腸骨動脈から分かれ、左の骨盤壁(大腰筋の内側縁)に沿って鼠径靱帯の下へ向かう。左外腸骨静脈と並走するが、静脈を骨などの硬い組織に押しつけるように交差する位置関係にはなく、左側好発の原因とはならない。

  2. ×b.  左総腸骨動脈

    左総腸骨動脈は大動脈分岐部から左下外側へ向かい、左総腸骨静脈とは同側を並走する。左総腸骨静脈の前をまたいで椎体との間に挟み込む走行はとらないため、静脈圧迫の原因とはならない。

  3. ○c.  右総腸骨動脈

    右総腸骨動脈は大動脈分岐部(第4腰椎の高さ)から右下方へ向かう際、下大静脈へ合流しようと右へ走る左総腸骨静脈の前面を横切る。左総腸骨静脈は前方の右総腸骨動脈と後方の第5腰椎椎体の間に挟まれて圧迫され、静脈うっ滞と内膜肥厚をきたす。これが左側の腸骨静脈血栓症が多い理由である(腸骨静脈圧迫症候群、May-Thurner症候群)。なお、右総腸骨動脈は右総腸骨静脈の前も通るが、その部位では後方に椎体がなく挟み込まれる形にならないため、右側では圧迫が起こりにくい。

  4. ×d.  左閉鎖動脈

    閉鎖動脈は通常、内腸骨動脈の前枝から分かれ、小骨盤の側壁を前方へ進んで閉鎖孔(閉鎖管)を通り、大腿内側の内転筋群へ分布する。骨盤の深部を走り総腸骨静脈から離れているため、総腸骨静脈を圧迫することはない。

  5. ×e.  右閉鎖動脈

    右閉鎖動脈も右内腸骨動脈から分かれて右の閉鎖孔へ向かう血管であり、右骨盤内にとどまる。正中を越えて走る左総腸骨静脈とは位置が大きく離れており、左側血栓症の原因とはならない。

腸骨静脈圧迫症候群(May-Thurner症候群、Cockett症候群)

右総腸骨動脈と第5腰椎椎体の間で左総腸骨静脈が圧迫される病態である。解剖学的な圧迫自体は無症状の人にも少なからずみられるが、妊娠、手術、長期臥床、経口避妊薬の使用などの誘因が加わると左下肢DVTを発症しやすい。若年〜中年女性に多いとされる。症状は左下肢全体の腫脹・疼痛・色調変化で、慢性化すると静脈瘤、色素沈着、潰瘍などの静脈血栓後症候群をきたす。診断には造影CT、静脈造影、血管内超音波などが用いられる。治療は抗凝固療法が基本で、症例によりカテーテルによる血栓除去や、圧迫部位へのステント留置が行われる。

深部静脈血栓症の基本

・Virchowの3徴: 血流のうっ滞、血管内皮障害、血液凝固能の亢進 ・危険因子: 長期臥床、手術(特に整形外科・骨盤内手術)、悪性腫瘍、妊娠・産褥、経口避妊薬、肥満、長時間の座位(旅行者血栓症)、先天性血栓性素因(アンチトロンビン欠乏症、プロテインC・S欠乏症など)、抗リン脂質抗体症候群 ・合併症: 血栓が遊離すると肺血栓塞栓症をきたす。 ・検査: Dダイマー(陰性であれば除外に有用)、下肢静脈超音波

骨盤内血管の分岐の整理

腹部大動脈 → 左右総腸骨動脈(第4腰椎の高さ) → 外腸骨動脈(下肢へ、鼠径靱帯を越えて大腿動脈) / 内腸骨動脈(骨盤内臓器・殿部、閉鎖動脈などを分枝)。静脈は動脈とほぼ並走するが、下大静脈が大動脈の右にあるため、左総腸骨静脈が長く正中を横切る点が左右差の原因となる。

POINT

・腸骨静脈レベルのDVTは左側に多い。 ・原因: 左総腸骨静脈が前方の右総腸骨動脈と後方の第5腰椎椎体に挟まれて圧迫される(腸骨静脈圧迫症候群、May-Thurner症候群)。 ・下大静脈は大動脈の右側にあるため、左総腸骨静脈は右総腸骨動脈の後ろをくぐって正中を越える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。