切るか、止めるか、広げるか―内視鏡手技の目的で解く早期食道癌治療
第103回医師国家試験 G問題 第18問
国試問題にチャレンジ
早期食道癌の内視鏡治療はどれか。
- a.凝固
- b.粘膜切除
- c.硬化療法
- d.ステント留置
- e.クリッピング
対話形式の解説
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ドクターまとめ
早期食道癌のうち、癌が粘膜上皮や粘膜固有層にとどまる病変はリンパ節転移がほとんどなく、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)によって食道を温存したまま根治が期待できます。粘膜筋板や粘膜下層浅層に及ぶ病変は臨床的に転移がなければ相対適応となり、切除標本の病理で深達度や脈管侵襲を確認して追加治療の要否を判断します。一方、凝固やクリッピングは主に止血、硬化療法は食道・胃静脈瘤、ステント留置は切除不能な進行癌による狭窄の緩和に用いる手技であり、早期癌の根治治療ではありません。周在性の広い病変では切除後の狭窄予防が必要になる点も重要です。内視鏡手技を「切る・止める・潰す・広げる」という目的で整理しておくと、消化器領域の治療選択を体系的に理解できます。
解答・解説
正解はbです
消化管の内視鏡治療手技と、それぞれが何を目的とした治療かの対応を問う一般問題である。 早期食道癌(癌の深さが粘膜下層までにとどまるもの。表在癌のうちリンパ節転移の有無を問わない定義もあるが、ここでは内視鏡治療の対象となる浅い癌を考えればよい)のうち、癌が粘膜層にとどまる病変はリンパ節転移の頻度が極めて低い。そのため、病変を含む粘膜を内視鏡で局所的に切り取れば根治が期待でき、食道を温存できる。これが内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)である。 一方、他の選択肢はいずれも消化管の治療手技ではあるが、止血(凝固・クリッピング)、静脈瘤の治療(硬化療法)、進行癌による狭窄の緩和(ステント留置)が主な目的であり、早期癌を根治するための治療ではない。「各手技の本来の目的」を思い浮かべられれば正解に至る。
選択肢考察
- ×a. 凝固
誤り。高周波電流や熱によって組織を焼灼・凝固する方法(アルゴンプラズマ凝固法〈APC〉、ヒータープローブ、電気凝固など)は、主に潰瘍や血管性病変からの出血に対する止血に用いられる。腫瘍を焼灼する目的で使われることもあるが、組織が回収できないため病理学的に深さや断端を評価できず、根治性を確認できない。早期食道癌に対しては、切除できない場合などに限られる補助的な手段であり、標準的な内視鏡治療とはいえない。
- ○b. 粘膜切除
正しい。内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、病変の下の粘膜下層に生理食塩液などを注入して病変を持ち上げ、スネア(金属の輪)で締め付けて高周波電流で切り取る方法である。より大きな病変を一括で切除できる内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)も広く行われている。癌が粘膜上皮(EP)または粘膜固有層(LPM)にとどまる病変はリンパ節転移がほとんどなく、内視鏡的切除の絶対適応とされる。粘膜筋板(MM)に達する病変や粘膜下層にわずかに浸潤する病変(SM1)はリンパ節転移の可能性が出てくるため、臨床的にリンパ節転移がなければ相対適応として扱う。また、切除範囲が食道の全周に近くなるほど術後に瘢痕性の狭窄を起こしやすいため、周在性が広い(おおむね3/4周を超える)病変では、ステロイドの局所注射や内服などの狭窄予防策を併用する。
- ×c. 硬化療法
誤り。内視鏡的硬化療法(EIS:endoscopic injection sclerotherapy)は、食道・胃静脈瘤に対する治療である。静脈瘤の内部や周囲に硬化剤(エタノールアミンオレイン酸塩など)を注入して血栓化・線維化させ、破裂出血を止めたり予防したりする。同じく静脈瘤に用いる内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL:ゴムバンドで静脈瘤を縛る方法)とともに押さえておく。癌の治療ではない。
- ×d. ステント留置
誤り。食道ステント(自己拡張型金属ステント)は、切除できない進行食道癌による狭窄を広げて経口摂取を可能にするための姑息的(症状緩和目的の)治療である。癌が気管・気管支へ穿通してできた食道気道瘻を塞ぐ目的でも用いられる。癌そのものを取り除く治療ではなく、早期癌は適応とならない。
- ×e. クリッピング
誤り。内視鏡的クリッピングは、小さな金属クリップで出血している血管や組織を挟んで止血する方法である。消化性潰瘍の露出血管からの出血、Mallory-Weiss症候群、内視鏡治療後の出血などに用いられ、小さな穿孔や切除後の潰瘍面を閉じるのにも使われる。癌の治療手技ではない。
食道癌の壁深達度とリンパ節転移
食道の壁は内側から粘膜(粘膜上皮〈EP〉・粘膜固有層〈LPM〉・粘膜筋板〈MM〉)、粘膜下層(SM)、固有筋層、外膜からなる。食道の粘膜下層にはリンパ管が豊富で、癌が深く入るほどリンパ節転移の頻度が急激に上がる。 ・EP・LPM:リンパ節転移はほとんどない → 内視鏡的切除の絶対適応 ・MM・SM1(粘膜筋板から200μm以内の浸潤):転移の可能性がある → 臨床的に転移がなければ相対適応 ・SM2以深:転移率が高い → 外科切除や化学放射線療法が中心 内視鏡切除後の病理診断で深達度が予想より深かったり、脈管侵襲があったりした場合は、追加の外科手術や化学放射線療法を検討する。
ESDとEMR
EMRはスネアで一括して切り取る方法で簡便だが、大きな病変は分割切除になりやすい。ESDは電気メスで粘膜下層を剥離していく方法で、大きな病変も一括で切除でき、病理学的な評価が正確になる。
内視鏡手技と主な目的の整理
・粘膜切除(EMR/ESD):早期癌・腺腫の切除 ・凝固(APCなど)・クリッピング・薬剤の局所注射:消化管出血の止血 ・硬化療法(EIS)・結紮術(EVL):食道・胃静脈瘤 ・ステント留置:切除できない悪性狭窄、瘻孔の閉鎖 ・拡張術(バルーン):良性狭窄、アカラシアなど
POINT
・早期食道癌の内視鏡治療は粘膜切除(EMR/ESD)である。 ・深達度EP・LPMは内視鏡的切除の絶対適応、MM・SM1は相対適応。 ・周在性が広い病変では、切除後の狭窄に注意して予防策を講じる。 ・凝固・クリッピングは止血、硬化療法は静脈瘤、ステントは切除不能な進行癌の狭窄に対して用いる。
