StudyMed医師国家試験

「クレアチン」と「クレアチニン」の一字違い―GFR推算を支える筋肉由来の物差し

第103回医師国家試験 F問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第103回 F問題 第6問

糸球体濾過量〈GFR〉を推算するのに用いられる血漿中の物質はどれか。

  1. a.カリウム
  2. b.カルシウム
  3. c.クレアチン
  4. d.ナトリウム
  5. e.クレアチニン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腎機能の評価、とくに糸球体濾過量、つまりGFRをどうやって見積もるかという基本問題だ。ポイントは「どんな性質の物質なら濾過量の目印になるのか」を理屈で押さえること。まずGFRそのものを測る考え方から確認しよう。
医学生医学生
生理学の講義でクリアランスの式を習いました。尿中濃度に尿量をかけて、血漿濃度で割るんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。ある物質が糸球体で自由に濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされず、体内で代謝もされなければ、濾過された量がそのまま尿に出てくる。だからその物質のクリアランスはGFRに等しくなるんだ。
医学生医学生
その条件を満たす代表がイヌリンでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。イヌリンクリアランスはGFR測定のゴールドスタンダードだ。ただイヌリンは体内にない物質だから点滴で入れる必要があり、採血・採尿も繰り返すので手間がかかる。日常診療で毎回やるのは現実的じゃない。
医学生医学生
だから体の中で自然に作られている物質を使う、ということですね。それがクレアチンですか。
ドクタードクター
惜しい、そこが今回いちばんの引っかけだ。使うのはクレアチニンのほう。クレアチンは肝臓などでアミノ酸から作られて骨格筋に取り込まれ、リン酸化されてクレアチンリン酸としてATPを素早く再生するエネルギーの貯蔵庫になる。そのクレアチンやクレアチンリン酸が非酵素的に脱水・環化してできる最終代謝産物がクレアチニンなんだ。
医学生医学生
生化学で筋収縮のエネルギー代謝を習ったときに出てきました。名前が似ていて混同しやすいです。
ドクタードクター
クレアチニンは筋肉量に比例してほぼ一定の速度で作られ、分子量が小さく、蛋白と結合しないので糸球体で自由に濾過される。尿細管での再吸収もほとんどない。だからそのクリアランスはGFRの近似値になるし、血清クレアチニン値と年齢・性別から推算GFR、いわゆるeGFRを計算できる。
医学生医学生
電解質はどうして使えないんでしょう。ナトリウムなんて自由に濾過されるはずですよね。
ドクタードクター
濾過はされるけれど、99%以上が尿細管で再吸収されるんだ。しかも尿中排泄量はレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系などで体液量に合わせて大きく変わる。カリウムも大部分が再吸収されたうえで、遠位尿細管から集合管にかけてアルドステロンなどの影響で分泌される。濾過量と排泄量が一致しないから物差しにならない。
医学生医学生
カルシウムは一部がアルブミンと結合しているので、そもそも全部は濾過されないですね。
ドクタードクター
そう、蛋白結合に加えて近位尿細管やヘンレ係蹄で大量に再吸収され、遠位では副甲状腺ホルモンの調節も受ける。どれも「濾過されたらそのまま出る」という条件から外れているわけだ。
医学生医学生
ただ、クレアチニンも完璧ではないと聞いたことがあります。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。クレアチニンは一部が近位尿細管から分泌されるので、蓄尿で測る内因性クレアチニンクリアランスは真のGFRより2〜3割ほど高めに出る。もう一つの弱点は筋肉量の影響を受けることだ。
医学生医学生
臨床実習で腎臓内科を回ったとき、寝たきりの高齢の方は血清クレアチニンが低くて、腎機能が良さそうに見えて要注意だと教わりました。
ドクタードクター
まさにその落とし穴だ。そういう人ではシスタチンCを使ったeGFRが役立つ。シスタチンCは全身の有核細胞から一定速度で作られる低分子蛋白で、筋肉量の影響を受けにくい。それから、GFRと血清クレアチニンは反比例に近い関係で、GFRが半分くらいに落ちるまで血清クレアチニンはあまり上がらない。数値だけ見て安心せず、eGFRで評価することが大事なんだ。
医学生医学生
薬の投与量を決めるときに使うCockcroft-Gault式も、クレアチニンと体重から計算するんでしたね。
ドクタードクター
そう。腎排泄型の薬の用量調整では欠かせない。最後に区別しておきたいのが、濾過に加えて尿細管でほぼ完全に分泌されるパラアミノ馬尿酸のクリアランスで、こちらはGFRではなく腎血漿流量の指標になる。何を測る物質なのか、性質とセットで整理しておこう。

まとめ

GFRは、糸球体で自由に濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされない物質のクリアランスとして求められ、その基準法はイヌリンクリアランスです。日常診療では、筋肉で一定速度で産生される内因性物質クレアチニンが用いられ、血清クレアチニン値と年齢・性別からeGFRを推算します。名前の似たクレアチンは筋のエネルギー貯蔵物質であり、その代謝産物がクレアチニンである点を混同しないよう注意が必要です。クレアチニンは一部が尿細管から分泌されGFRをやや過大評価し、筋肉量の影響も受けるため、筋肉量が極端な人ではシスタチンCによるeGFRが有用です。ナトリウム・カリウム・カルシウムは再吸収や分泌、蛋白結合の影響を受けるため指標になりません。クリアランスの理屈から物質の適否を説明できることは、CKDの評価や薬物投与量の調整など臨床判断の土台になります。

解答・解説

正解はeです

GFR とクリアランスの考え方

糸球体濾過量(GFR:glomerular filtration rate)は、両側の腎臓の糸球体で1分間に濾過される血漿の量であり、腎機能を表す最も基本的な指標である(健常成人でおよそ100 mL/分/1.73 m² 前後)。GFR を直接測ることはできないため、「クリアランス」という概念を使って求める。ある物質のクリアランスは、その物質が1分間に尿中へ排泄された量を、血漿中の濃度で割ったもので、 クリアランス=(尿中濃度 U × 1分間の尿量 V)÷ 血漿中濃度 P と表される。もしある物質が、①血漿蛋白と結合せず糸球体で自由に濾過され、②尿細管で再吸収も分泌もされず、③体内で代謝もされないなら、濾過された量がそのまま尿に出てくるので、そのクリアランスは GFR に等しくなる。

どの物質を使うか

この条件を最もよく満たすのは多糖類のイヌリンで、イヌリンクリアランスは GFR 測定の基準(ゴールドスタンダード)とされる。ただしイヌリンは体内にない物質なので点滴で投与する必要があり、採尿・採血も繰り返すため手間がかかる。そこで日常診療では、体内(筋肉)で絶えず一定量つくられている内因性物質であるクレアチニンが用いられる。蓄尿して内因性クレアチニンクリアランス(Ccr)を測る方法のほか、血清クレアチニン値に年齢・性別を組み合わせて計算する推算 GFR(eGFR)が広く使われている。したがって、GFR の推算に用いる血漿中の物質はクレアチニンである。

注意点

クレアチニンは一部が近位尿細管から分泌されるため、Ccr は真の GFR よりやや高め(おおむね2〜3割)に出る。また血清クレアチニン値は筋肉量の影響を受ける。これらを補うため、筋肉量の影響を受けにくいシスタチン C を用いた eGFR も利用されている。

選択肢考察

  1. ×a.  カリウム

    カリウム(K)は糸球体で濾過された後、大部分が近位尿細管とヘンレ係蹄の太い上行脚で再吸収される。そのうえで、遠位尿細管から集合管にかけて、アルドステロンや尿細管内の流量・ナトリウム到達量の影響を受けながら分泌され、最終的な排泄量が調節されている。再吸収と分泌の両方を受けるため、濾過された量と尿中排泄量が一致せず、GFR の推算には使えない。

  2. ×b.  カルシウム

    カルシウム(Ca)は血中で一部がアルブミンなどの蛋白と結合しており、蛋白と結合していない分だけが糸球体で濾過される。濾過された Ca は近位尿細管で約6〜7割、ヘンレ係蹄の太い上行脚で約2割が再吸収され、遠位尿細管では副甲状腺ホルモン(PTH)などの作用を受けて能動的に再吸収される。蛋白結合と大量の再吸収があるため、GFR の推算には使えない。

  3. ×c.  クレアチン

    クレアチンは主に肝臓などでアミノ酸(アルギニン、グリシン、メチオニン)から合成され、大部分が骨格筋に取り込まれる。筋肉内ではリン酸化されてクレアチンリン酸となり、筋収縮時に ADP へリン酸を渡して ATP を素早く再生するエネルギーの貯蔵庫として働く。クレアチンやクレアチンリン酸の一部が非酵素的に脱水・環化して生じる最終代謝産物がクレアチニンである。GFR の推算に用いるのはクレアチンではなくその代謝産物のクレアチニンであり、名前が似ている点に注意する。

  4. ×d.  ナトリウム

    ナトリウム(Na)は糸球体で自由に濾過されるが、濾過された量の99%以上が尿細管で再吸収される(近位尿細管で約2/3、ヘンレ係蹄で約20〜25%、遠位尿細管で5〜10%、集合管で数%)。尿中排泄量は体液量の調節(レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系など)によって大きく変わるため、GFR の推算には使えない。

  5. ○e.  クレアチニン

    クレアチニンは筋肉のクレアチン・クレアチンリン酸から、筋肉量に比例したほぼ一定の速度で生成される。分子量が小さく(113)、血漿蛋白と結合しないため糸球体で自由に濾過され、尿細管での再吸収はほとんどない。そのため、そのクリアランスは GFR の近似値となる。体内で作られる物質なので外から投与する必要がなく、採血と(必要に応じて)蓄尿だけで評価できる。血清クレアチニン値と年齢・性別から eGFR を計算するのが日常診療の標準であり、GFR の推算に用いる物質として正しい。ただし一部は近位尿細管から分泌されるため、Ccr は真の GFR をやや過大評価する。

GFR 評価に用いる物質・方法

・イヌリンクリアランス:GFR 測定の基準法。イヌリンは外因性物質で、持続点滴と頻回の採血・採尿を要する。 ・内因性クレアチニンクリアランス(Ccr):通常24時間蓄尿を行い、Ccr=Ucr×V÷Scr で求める。尿細管分泌の分だけ GFR より高値になる。 ・eGFR(推算 GFR):日本人向けの式として、eGFRcreat(mL/分/1.73 m²)=194 × 血清Cr^−1.094 × 年齢^−0.287(女性は × 0.739)が用いられる。 ・シスタチン C:全身の有核細胞から一定速度で産生される低分子蛋白で、筋肉量の影響を受けにくい。筋肉量が極端に少ない人(高齢者、長期臥床者、四肢切断者など)や多い人で有用である。 ・Cockcroft-Gault 式:推算 Ccr=(140−年齢)× 体重(kg)÷(72 × 血清Cr)(女性は × 0.85)。薬物投与量の調整などに用いられる。

血清クレアチニンの特徴

・基準値はおおむね男性0.6〜1.1 mg/dL、女性0.4〜0.8 mg/dL 程度で、筋肉量の多い男性の方が高い。 ・GFR と血清クレアチニン値は反比例に近い関係にあり、GFR が正常の半分程度に低下するまで血清クレアチニン値はあまり上昇しない。そのため軽度の腎機能低下は血清クレアチニン値だけでは見逃されやすく、eGFR で評価することが重要である。 ・慢性腎臓病(CKD)の重症度分類は、GFR 区分(G1〜G5)と蛋白尿(アルブミン尿)区分の組み合わせで行う。

腎血漿流量(RPF)との区別

糸球体で濾過されるだけでなく尿細管からもほぼ完全に分泌される物質(パラアミノ馬尿酸:PAH)のクリアランスは、腎血漿流量の指標となる。GFR とは測定の対象が異なる点に注意する。

POINT

・GFR の推算には血清クレアチニンを用いる(eGFR、内因性クレアチニンクリアランス)。 ・GFR 測定の基準はイヌリンクリアランス(濾過のみで再吸収・分泌なし)。 ・クレアチニンは一部尿細管から分泌されるため、Ccr は GFR をやや過大評価する。 ・筋肉量の影響を避けたいときはシスタチン C による eGFR を用いる。 ・クレアチン(筋のエネルギー貯蔵物質)とクレアチニン(その代謝産物)を混同しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。