「手術はいやだ」にどう向き合う?―精神科コンサルテーションでやるべきこと、やってはいけないこと
第103回医師国家試験 F問題 第20問
国試問題にチャレンジ
48歳の男性。下血を主訴に来院した。精査にて大腸癌が発見され,手術目的で外科病棟に入院した。20歳で統合失調症を発症し,作業所に通所中であった。患者が手術を嫌がり同意が得られないため精神科医師がコンサルテーションを受けた。 精神科医師の対応で誤っているのはどれか。
- a.医療保護入院の手続きをとる。
- b.手術の説明と同意の取得に協力する。
- c.外科スタッフに精神医学的説明を行う。
- d.社会福祉士と協力して家族との連携を図る。
- e.外科スタッフとともに周術期の精神科薬物療法を計画する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
精神疾患をもつ患者が身体疾患の治療を拒否したとき、精神科医はコンサルテーション・リエゾン精神医学の立場から、拒否の理由が不安や恐怖なのか精神症状の悪化なのかを見極め、意思決定能力を評価します。そのうえで説明と同意の取得への協力、外科スタッフへの精神医学的助言、社会福祉士と協力した家族・支援者との連携、絶食期間や術後せん妄を見据えた周術期の薬物療法の計画を行います。医療保護入院は精神障害の医療と保護のための制度であり、身体疾患の手術を本人の同意なく行う根拠にはならないため、この場面での手続きは誤りです。精神疾患の診断名だけで意思決定能力を否定せず、能力のある患者の拒否は十分な説明のうえで尊重されることも重要です。入院形態の要件とあわせて理解することで、多職種で患者の自己決定を支える臨床の姿勢が身につきます。
解答・解説
正解はaです
状況の整理
48歳男性。下血を契機に大腸癌が見つかり、手術目的で外科病棟に入院した。20歳発症の統合失調症があり、作業所に通所できる程度に社会生活を維持している。手術を嫌がって同意しないため、外科から精神科にコンサルテーション(診療上の相談)が依頼された。これは、一般病棟の患者の精神医学的問題に対して精神科医が他科と協働して対応する、コンサルテーション・リエゾン精神医学の典型的な場面である。
考え方
精神科医に求められるのは、手術拒否の背景を評価し、患者が納得して治療を受けられるよう多職種で支援することである。 ・拒否の理由の評価:手術そのものへの不安や恐怖など誰にでも生じうる理由なのか、被害妄想などの精神症状の悪化によるものなのかを見極める。あわせて、病状と治療の説明を理解し、自分の状況に当てはめ、選択を表明できるか(意思決定能力)を評価する。統合失調症があるというだけで意思決定能力がないとはいえない。 ・説明と同意への協力:本人の理解度に合わせたわかりやすい説明を外科と一緒に工夫する。 ・外科スタッフへの助言:病状や接し方を説明し、スタッフの不安や誤解を減らす。 ・家族・社会資源との連携:社会福祉士(医療ソーシャルワーカー)とともに家族や作業所などの支援者と連絡を取り、意思決定と術後生活を支える。 ・周術期の薬物療法:抗精神病薬の継続・調整、絶食期間中の投与経路、せん妄予防などを計画する。 一方、精神保健福祉法に基づく医療保護入院は、精神障害の医療と保護のために入院が必要で、本人の同意による任意入院ができない場合に、精神科病院への入院を家族等の同意で行う制度である。精神障害の治療のための制度であり、身体疾患の手術を本人の同意なく行う根拠にはならない。本例は精神症状が安定し社会生活を送っており、精神科的な入院の必要性も示されていない。したがって「医療保護入院の手続きをとる」は誤った対応である。
選択肢考察
- ○a. 医療保護入院の手続きをとる。
誤った対応であり、本問の正解である。医療保護入院は、精神保健指定医の診察により精神障害者であって医療と保護のために入院が必要と判断され、かつ任意入院が行われる状態にない場合に、家族等の同意によって精神科病院へ入院させる制度である。対象は精神障害の治療であり、大腸癌の手術のような身体疾患の治療を本人の意思に反して行うための手段にはならない。本例は作業所に通所できる程度に病状が安定しており、精神科入院の必要性も示されていない。
- ×b. 手術の説明と同意の取得に協力する。
適切な対応である。精神科医は拒否の背景(不安・恐怖か、妄想など精神症状によるものか)と意思決定能力を評価し、本人の理解度に合わせた説明方法を外科医とともに工夫して、本人が納得したうえでの同意(インフォームド・コンセント)を得られるよう支援する。
- ×c. 外科スタッフに精神医学的説明を行う。
適切な対応である。外科病棟のスタッフは統合失調症患者への対応に慣れていないことがある。病状の評価、症状の意味、接し方や注意点(刺激を避ける、説明を簡潔にするなど)を伝えることで、スタッフの不安や偏見を減らし、治療の円滑な進行につながる。
- ×d. 社会福祉士と協力して家族との連携を図る。
適切な対応である。家族は患者の意思決定を支える重要な存在であり、社会福祉士(医療ソーシャルワーカー)と協力して家族や作業所などの支援者と連絡を取り、治療への理解、入院中の支援、退院後の生活環境の調整を図ることは多職種連携の基本である。
- ×e. 外科スタッフとともに周術期の精神科薬物療法を計画する。
適切な対応である。手術前後は絶食で内服が困難になる時期があり、抗精神病薬の中断は精神症状の再燃を招きうる。投与経路の変更や用量調整、麻酔薬との相互作用、術後せん妄への対策などを外科・麻酔科と協議して計画することは精神科医の重要な役割である。
精神保健福祉法による入院形態
・任意入院:本人の同意による入院。 ・医療保護入院:精神保健指定医1名の診察で、医療と保護のために入院が必要だが任意入院が行われる状態にないと判断された場合に、家族等の同意で行う。2014年の法改正で保護者制度が廃止され、同意者は「家族等」(配偶者、親権者、扶養義務者、後見人・保佐人)となった。家族等がいない場合や意思表示をしない場合は市町村長の同意による。 ・措置入院:自傷他害のおそれがある場合に、精神保健指定医2名の診察結果が一致したとき都道府県知事(政令指定都市市長)の命令で行う。 ・緊急措置入院:急を要する場合に指定医1名の診察で72時間に限り行う。 ・応急入院:急を要し家族等の同意が得られない場合に、指定医の診察で72時間に限り応急入院指定病院で行う。 これらはいずれも精神障害の医療と保護のための制度であり、身体疾患の治療を強制する根拠にはならない。
コンサルテーション・リエゾン精神医学
一般病棟の患者に生じる精神医学的問題(せん妄、抑うつ、不安、治療拒否、精神疾患をもつ患者の身体治療など)に対し、精神科医が主治医や病棟スタッフと協働して診療を支援する領域である。患者の評価と治療だけでなく、スタッフへの助言や教育、家族・多職種との調整も役割に含まれる。
意思決定能力の評価
治療に関する意思決定能力は、①情報の理解、②自分の状況への当てはめ(認識)、③論理的な比較検討、④選択の表明、の観点から評価する。精神疾患の診断名だけで能力を否定してはならず、能力がある患者の治療拒否は、十分な説明を尽くしたうえで尊重される。
POINT
・医療保護入院は精神障害の治療のための制度であり、身体疾患(手術)を同意なく行う手段にはならない。 ・精神疾患があっても、それだけで意思決定能力がないとはいえない。拒否の理由と意思決定能力を評価する。 ・精神科医の役割:同意取得の支援、外科スタッフへの助言、社会福祉士と協力した家族連携、周術期の薬物療法の計画(コンサルテーション・リエゾン)。
