「血液から取り除けるか」で決まる―エンドトキシン血症とPMX-DHPに学ぶ血液浄化の適応
第103回医師国家試験 E問題 第7問
国試問題にチャレンジ
血液浄化が適応となるのはどれか。
- a.エンドトキシン血症
- b.有機リン中毒
- c.閉塞性黄疸
- d.Basedow病
- e.粘液水腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血液浄化法は、血液中に存在する有害物質や過剰な溶質を体外の装置で除去する治療で、血液透析・血液濾過・血漿交換・血液吸着などがあり、方法ごとに除去しやすい物質が異なります。エンドトキシン血症では、リピドAに結合するポリミキシンBを固定したカラムによる直接血液灌流(PMX-DHP)でエンドトキシンを吸着除去し、感染源制御や抗菌薬・循環管理に加える補助療法として用いられます。有機リンは脂溶性で分布容積が大きいため血液浄化の効果は乏しく、アトロピンとプラリドキシムが治療の柱です。閉塞性黄疸は胆道ドレナージと原因除去、Basedow病は抗甲状腺薬・放射性ヨウ素・手術、粘液水腫は甲状腺ホルモン補充が基本で、血液浄化の適応ではありません。「除去すべき物質が血中にあり、装置で除去できるか」という視点は、中毒診療や集中治療で血液浄化を判断する際の基本となります。
解答・解説
正解はaです
血液浄化法とは、血液を体外に取り出し、装置に通して有害物質や過剰な水分・溶質を取り除いてから体内に戻す治療の総称である。主な方法には、血液透析(HD:拡散で小分子を除去)、血液濾過(HF)・持続的血液濾過透析(CHDF)、血漿交換(PE:患者の血漿を捨てて置換液に入れ替える)、血液吸着(直接血液灌流、DHP:吸着材に血液を通して特定物質を吸着)などがある。 血液浄化が有効となるのは、原則として「除去したい物質が血液中に存在し、装置で効率よく取り除ける場合」である。具体的には、分子量が小さく蛋白結合率が低い物質は透析で、蛋白結合率が高い物質や特定の毒素は吸着や血漿交換で除去できる。一方、脂溶性が高く組織(脂肪など)に広く分布する物質(分布容積が大きい物質)は、血液中にごく一部しか存在しないため、血液浄化の効果は乏しい。また、原因が物質の蓄積ではなく臓器の器質的・機能的異常にある病態では、原因に対する治療が優先され、血液浄化の出番はない。 この観点で選択肢をみると、エンドトキシン(グラム陰性桿菌の外膜成分であるリポ多糖)が血中に存在するエンドトキシン血症は、ポリミキシンB固定化線維カラムによる直接血液灌流(PMX-DHP)でエンドトキシンを吸着除去する治療が行われる。その他の選択肢は、拮抗薬・原因の除去・ホルモン補充など別の治療が基本となる。
選択肢考察
- ○a. エンドトキシン血症
適応となる。エンドトキシンはグラム陰性桿菌の細胞壁外膜を構成するリポ多糖(LPS)で、血中に入るとマクロファージなどを刺激して炎症性サイトカインを大量に放出させ、血管拡張や血管透過性亢進による敗血症性ショック、多臓器不全を引き起こす。ポリミキシンBという抗菌薬はエンドトキシンの活性中心(リピドA)に強く結合する性質をもつため、これを線維に固定したカラムに血液を通すと、血中エンドトキシンを吸着除去できる(PMX-DHP、日本で開発され保険適用がある)。循環動態の改善(血圧上昇、昇圧薬の減量)が期待できる。ただし、感染源のコントロールと抗菌薬投与、輸液・昇圧薬などの全身管理が治療の中心であり、血液浄化はそれに加える補助療法として位置づけられる。
- ×b. 有機リン中毒
適応とならない。有機リンは脂溶性が高く、吸収後すぐに脂肪組織などへ広く移行するため、血液中に存在する量は体内量のごく一部にすぎない(分布容積が大きい)。したがって血液透析や血液吸着で血液から除去しても、体内の有機リン全体はほとんど減らず、有効性は乏しいとされる。治療の基本は、除染(汚染衣服の除去・皮膚の洗浄、適応があれば胃洗浄・活性炭)、呼吸管理、ムスカリン様作用を抑えるアトロピンの大量投与、コリンエステラーゼを再賦活させるプラリドキシム(PAM)の投与である。
- ×c. 閉塞性黄疸
適応とならない。閉塞性黄疸は胆石や胆管癌・膵頭部癌などによって胆汁の流れが妨げられ、抱合型ビリルビンが血中に逆流して生じる。治療の原則は胆汁の通り道を確保することであり、内視鏡的胆道ドレナージ(ERBD、ENBD)や経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)による減黄と、原因疾患(結石除去、腫瘍切除など)の治療を行う。血液からビリルビンを除いても胆道の閉塞は解消されず、原因を放置したことになる。なお、ビリルビン吸着や血漿交換は劇症肝炎などの急性肝不全で肝機能の代替・補助として用いられることがあるが、それは閉塞性黄疸の治療とは別の話である。また、かつては高度黄疸に合併する急性腎障害を肝腎症候群と呼んだことがあったが、現在の肝腎症候群は、非代償性肝硬変や急性肝不全など重篤な肝疾患で腎血管が強く収縮して生じる機能的腎不全を指し、閉塞性黄疸とは別の概念である。
- ×d. Basedow病
適応とならない。Basedow病はTSH受容体を刺激する自己抗体(TRAb)により甲状腺ホルモンが過剰に産生される自己免疫疾患である。治療は、抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)、頻脈や振戦などの症状を抑えるβ遮断薬、放射性ヨウ素(131I)内用療法、甲状腺切除術のいずれか(または組合せ)であり、血液浄化は通常の治療選択肢に含まれない。なお、生命を脅かす甲状腺クリーゼで、抗甲状腺薬・無機ヨウ素・副腎皮質ステロイド・β遮断薬などの標準治療を行っても改善しない例では、血中の甲状腺ホルモンを除去する目的で血漿交換が考慮されることがあるが、これは例外的な救命措置であり、Basedow病そのものに対する適応ではない。
- ×e. 粘液水腫
適応とならない。粘液水腫は、甲状腺機能低下症によりヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン(ムコ多糖)が皮下などの組織間隙に沈着して生じる、圧痕を残さない浮腫である。原因は甲状腺ホルモンの不足であり、治療は甲状腺ホルモン(レボチロキシン)の補充である。体内から取り除くべき物質があるわけではないため、血液浄化の適応はない。意識障害や低体温、呼吸抑制をきたす粘液水腫性昏睡でも、甲状腺ホルモンの投与(副腎不全の合併を考えて副腎皮質ステロイドを先行・併用)と全身管理が治療の中心となる。
血液浄化法の種類と原理
・血液透析(HD):半透膜を介した拡散により、尿素・クレアチニン・カリウムなどの小分子を除去する。 ・血液濾過(HF)/持続的血液濾過透析(CHDF):濾過(限外濾過)を利用し、中分子量物質も除去しやすい。CHDFは循環動態が不安定な重症患者にも行いやすい。 ・血漿交換(PE):血漿を分離して廃棄し、新鮮凍結血漿やアルブミン液で置換する。自己抗体・免疫複合体、蛋白結合性の物質などを除去する。 ・血液吸着(直接血液灌流、DHP):活性炭やポリミキシンBなどの吸着材に血液を通して特定物質を吸着する。
血液浄化で除去しやすい物質の条件
・分布容積が小さい(主に血液中にとどまる)。 ・透析では、分子量が小さく蛋白結合率が低い、水溶性の物質が除去されやすい。 ・蛋白結合率が高い物質や脂溶性物質の一部は、血液吸着(活性炭)のほうが有効なことがある。
中毒で血液浄化が考慮される代表的な物質
・血液透析:メタノール、エチレングリコール、リチウム、サリチル酸、バルプロ酸、メトホルミン(乳酸アシドーシス)など。重症のテオフィリン中毒にも用いる。 ・血液吸着:テオフィリン、フェノバルビタール、カルバマゼピンなど。パラコート中毒でも試みられるが予後改善効果は限られる。 ・効果が乏しい:有機リン、三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系など分布容積が大きい、あるいは組織に広く移行する物質。
中毒以外の主な血液浄化の適応
・急性腎障害・末期腎不全(高カリウム血症、尿毒症、体液過剰、代謝性アシドーシスなど) ・エンドトキシン血症・敗血症性ショック(PMX-DHP) ・急性肝不全(血漿交換+血液濾過透析による人工肝補助) ・Guillain-Barré症候群、重症筋無力症、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)など、自己抗体や病的因子の除去を目的とする疾患(血漿交換) ・家族性高コレステロール血症ホモ接合体(LDLアフェレシス)
POINT
・エンドトキシン血症(グラム陰性桿菌による敗血症性ショック)には、ポリミキシンB固定化線維カラムによる直接血液灌流(PMX-DHP)が行われる。 ・血液浄化が有効なのは、除去すべき物質が血中に多く存在し(分布容積が小さい)、装置で除去できる場合である。 ・有機リンは脂溶性で分布容積が大きく血液浄化は無効。治療はアトロピンとPAM。 ・閉塞性黄疸は胆道ドレナージと原因除去、Basedow病は抗甲状腺薬・131I・手術、粘液水腫は甲状腺ホルモン補充が基本。
