数か月で崩れていく認知機能―ミオクローヌスと1秒周期の鋭波が告げるCreutzfeldt-Jakob病
第103回医師国家試験 D問題 第44問
国試問題にチャレンジ
65歳の女性。物忘れを主訴に家族に伴われて来院した。5か月前から歩行時のふらつきを自覚した。4か月前から物忘れがひどくなり,怒りっぽくなった。3週前から拒食傾向となり体重が減少した。意識レベルはJCSⅠ-1。体温36.5℃。脈拍80/分,整。血圧120/80 mmHg。胸腹部に異常を認めない。改訂長谷川式簡易知的機能評価スケールは16点(満点30)である。四肢に軽度の固縮を認め,右上肢に律動的な素早い不随意運動を認める。四肢の腱反射は両側で亢進している。Babinski反射は陰性。歩行は失調性で易転倒性である。血液所見と尿所見とに異常を認めない。頭部CTで軽度の脳萎縮を認める。脳波を別に示す。 考えられるのはどれか。

- a.進行麻痺
- b.前頭側頭型認知症
- c.皮質基底核変性症
- d.特発性正常圧水頭症
- e.Creutzfeldt-Jakob病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
数か月単位で急速に進む認知症に、ミオクローヌス、錐体路・錐体外路・小脳症状が加わり、脳波で約1秒周期の両側同期性鋭波(PSD)を認めれば、孤発性Creutzfeldt-Jakob病を第一に考えます。初期のCTや血液検査では異常が乏しく、MRI拡散強調画像の皮質リボン状・線条体高信号、髄液14-3-3蛋白・総タウ蛋白の上昇、RT-QuIC陽性が診断を支えます。前頭側頭型認知症や皮質基底核変性症は年単位で進み、正常圧水頭症は脳室拡大と三徴、進行麻痺は梅毒反応で見分けます。CJDは5類感染症として届出が必要で、器具の処理にも特別な配慮が求められます。認知症では「進行の速さ」をまず見極めることが、治療可能な疾患や感染対策が必要な疾患を見落とさないための第一歩です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・経過: 5か月前に歩行時のふらつき、4か月前から物忘れと易怒性、3週前から拒食と体重減少。数か月という短い期間で、小脳症状、認知機能障害、精神症状が次々に加わっている。この「亜急性に進行する認知症」が最大の手がかりである。 ・認知機能: 改訂長谷川式簡易知的機能評価スケール(HDS-R)16点。20点以下で認知症が疑われ、明らかな低下である。意識はJCSⅠ-1とほぼ清明で、せん妄による見かけ上の低下ではない。 ・神経所見: 四肢の軽い固縮(錐体外路徴候)、右上肢の律動的で素早い不随意運動(ミオクローヌス)、両側の腱反射亢進(錐体路徴候)、失調性歩行(小脳症状)。錐体路・錐体外路・小脳・大脳皮質と、中枢神経の多くの系統が同時に障害されている。 ・検査: 血液・尿は正常で、代謝性や内分泌性の脳症、感染症を思わせる所見はない。頭部CTは軽度の脳萎縮のみで、脳室の著しい拡大や局所病変はない。 ・脳波: 背景活動が遅くなったうえに、ほぼ全ての誘導に左右同期して、約1秒間隔で規則的に繰り返す鋭波(2~3相性)がみられる。これは周期性同期性放電(periodic synchronous discharge: PSD)である。
診断に至る考え方
数か月単位で急速に進む認知症、ミオクローヌス、錐体路・錐体外路・小脳症状、そして脳波のPSDがそろえば、孤発性Creutzfeldt-Jakob病(CJD)を第一に考える。多くの神経変性疾患による認知症は年単位でゆっくり進むので、経過の速さだけでも候補をかなり絞れる。ミオクローヌスとPSDは、CJDの診断基準にも含まれる中核の所見である。 鑑別では、亜急性に進む認知症(rapidly progressive dementia)の原因として、神経梅毒(進行麻痺)、自己免疫性脳炎、橋本脳症、代謝性脳症、中枢神経系リンパ腫などを除外する必要がある。本例は血液所見が正常で、梅毒血清反応の陽性などの記載もない。臨床像と脳波所見はCJDとしてよく説明できる。
選択肢考察
- ×a. 進行麻痺
進行麻痺は、梅毒トレポネーマが感染してから10~20年ほど後に大脳実質を侵して起こる神経梅毒の一病型である。認知症に加え、人格変化、多幸・誇大妄想などの精神症状、構音障害や手指の振戦などを示す。瞳孔が小さく不整で、対光反射がないのに輻輳反射は保たれる Argyll Robertson瞳孔を伴うことがある。診断には血清や髄液の梅毒反応陽性と、髄液の細胞数・蛋白の増加が重要である。本例では梅毒を示す検査所見がなく、周期的に反復する同期性の鋭波(PSD)も進行麻痺に典型的な所見ではない。
- ×b. 前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症(FTD)は、前頭葉や側頭葉前部が限局的に萎縮する神経変性疾患で、65歳未満の発症が多い。脱抑制、常同行動、共感の欠如、食行動の変化(過食や甘い物を好む)などの行動異常や人格変化が前景に立ち、初期には記憶は比較的保たれる。多くは孤発性だが、一部は MAPT、GRN、C9orf72 などの遺伝子変異による家族性である(17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う型は FTDP-17 と呼ばれる)。経過は年単位でゆっくり進み、数か月でミオクローヌスや小脳失調が加わることはない。脳波は正常か軽い徐波化にとどまり、PSDは出現しない。画像では前頭・側頭葉の限局性萎縮が特徴で、本例の軽度のびまん性萎縮とは合わない。
- ×c. 皮質基底核変性症
皮質基底核変性症(CBD)は、4リピートタウが蓄積する神経変性疾患である。大脳皮質の症状(肢節運動失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候など)と、基底核の症状(固縮、ジストニア)が左右非対称に現れるのが特徴である。ミオクローヌスを伴うこともあるが、進行は年単位で緩やかであり、数か月で認知症、小脳失調、拒食まで急速に進む本例の経過とは異なる。脳波でPSDは出現せず、画像では症状と同じ側に偏った大脳の萎縮(前頭・頭頂葉優位)がみられることが多い。
- ×d. 特発性正常圧水頭症
特発性正常圧水頭症(iNPH)は、歩行障害(小刻みで足を広げたすり足歩行)、認知機能障害、尿失禁の三徴を示し、主に高齢者にみられる。画像では、脳室の拡大、高位円蓋部の脳溝やくも膜下腔の狭小化、シルビウス裂の拡大が特徴である(DESH: disproportionately enlarged subarachnoid-space hydrocephalus)。本例のCTは軽度の脳萎縮のみで、脳室拡大の記載がない。また、iNPHではミオクローヌスやPSDはみられない。歩行障害も小脳性の失調ではなく、すり足で方向転換が難しいといった型をとる。なお、iNPHは髄液シャント術で改善しうる「治療可能な認知症」として重要である。
- ○e. Creutzfeldt-Jakob病
孤発性CJDは、異常プリオン蛋白が蓄積して起こる致死的な神経変性疾患で、主に60歳代以降に発症する。性格変化、行動異常、認知機能低下、小脳失調、視覚異常などで始まり、数か月の間に急速に進む。進むにつれてミオクローヌス、錐体路徴候、錐体外路徴候が加わり、やがて無動性無言となって、多くは1~2年以内に死亡する。脳波では、ミオクローヌスが目立つ時期に、約1秒周期で繰り返す両側同期性の鋭波(PSD)がほぼ全ての誘導に現れる。本例の亜急性の経過、ミオクローヌス、錐体路・錐体外路・小脳症状、PSDは、いずれもこの病像とよく一致する。一般的な血液生化学検査に異常がなく、発病初期のCTでは萎縮が目立たないことも矛盾しない。
プリオン病の分類
・孤発性CJD: プリオン病の約8割を占める。原因は不明で、年間の発症は人口100万人あたり約1人とされる。 ・遺伝性プリオン病: プリオン蛋白遺伝子(PRNP)の変異による。家族性CJD、Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)がある。 ・獲得性プリオン病: ヒト乾燥硬膜の移植による医原性CJD(日本で多い)、牛海綿状脳症(BSE)と関連する変異型CJD(vCJD)、クールーなど。
孤発性CJDの検査所見
・脳波: 周期性同期性放電(PSD)。発病初期には出ず、末期には消えることがある。 ・頭部MRI: 拡散強調画像(DWI)で大脳皮質に沿ったリボン状の高信号(cortical ribboning)や、線条体(尾状核・被殻)の高信号がみられる。初期から陽性になり、早期診断に最も役立つ。CTでは初期に異常が乏しく、後に脳萎縮が急速に進む。 ・髄液: 細胞数と蛋白は通常正常。14-3-3蛋白や総タウ蛋白の上昇、RT-QuIC法(real-time quaking-induced conversion)による異常プリオン蛋白の検出が診断に役立つ。RT-QuICは特異度が非常に高い。 ・確定診断: 脳組織の病理所見(海綿状変化、神経細胞の脱落、グリオーシス)と異常プリオン蛋白の証明による。
PSDがみられる他の疾患
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)では、数秒~十数秒おきに繰り返す長い周期の高振幅徐波群がみられ、CJDの約1秒周期とは区別される。SSPEは麻疹ウイルスの持続感染による小児・若年者の疾患である。そのほか、低酸素脳症や代謝性脳症、ヘルペス脳炎(周期性一側性てんかん型放電 PLEDs)などでも周期性の放電がみられることがある。
感染対策と行政対応
異常プリオンは通常のオートクレーブや消毒薬では不活化されにくく、脳・脊髄・眼などを扱った器具には特別な処理が必要である。CJDは感染症法の5類感染症(全数把握)で、診断したら7日以内に届け出る。有効な治療法はなく、対症療法が中心である。
POINT
・数か月で急速に進む認知症、ミオクローヌス、脳波のPSD(約1秒周期の同期性鋭波)の組み合わせは、孤発性CJDを示す。 ・MRI拡散強調画像での大脳皮質リボン状高信号や線条体高信号、髄液の14-3-3蛋白・総タウ蛋白の上昇、RT-QuIC陽性が診断を支える。 ・SSPEのPSDは数秒以上の長い周期で、CJDの約1秒周期とは異なる。 ・前頭側頭型認知症、皮質基底核変性症は年単位で進み、PSDはみられない。iNPHは脳室拡大と三徴、進行麻痺は梅毒反応陽性で見分ける。 ・CJDは5類感染症(全数把握)で、器具の滅菌に特別な配慮が必要である。
