腫れるのは耳下腺だけじゃない―ムンプスウイルスが好む「腺」と「神経」
第103回医師国家試験 D問題 第4問
国試問題にチャレンジ
流行性耳下腺炎に合併するのはどれか。
- a.涙嚢炎
- b.心筋炎
- c.急性肝炎
- d.糸球体腎炎
- e.精巣炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
流行性耳下腺炎はムンプスウイルスによる感染症で、ウイルス血症を介して全身に広がり、唾液腺以外の腺組織と中枢神経系に合併症を起こしやすいのが特徴です。腺組織の合併症としては、思春期以降の男性に比較的多い精巣炎のほか、卵巣炎や膵炎があり、膵炎の評価では耳下腺由来のアミラーゼ上昇と区別するため膵型アミラーゼやリパーゼを用います。中枢神経系では無菌性髄膜炎が最も多く、後遺症として回復しにくい片側性の高度感音難聴が重要です。心筋炎はコクサッキーB群、急性糸球体腎炎は溶連菌感染後というように、各病態の代表的な原因を対にして整理すると鑑別がしやすくなります。ワクチンが任意接種である日本では今も流行がみられるため、合併症と出席停止基準を含めて理解しておくことが臨床と公衆衛生の両面で役立ちます。
解答・解説
正解はeです
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)は、パラミクソウイルス科に属するムンプスウイルスの感染症である。ウイルスは唾液や気道分泌物に含まれ、飛沫感染や接触感染で広がる。潜伏期は約2〜3週間(おおむね16〜18日)で、発熱とともに耳下腺が片側または両側に腫れ、痛む。顎下腺・舌下腺が腫れることもある。 ムンプスウイルスは唾液腺だけに感染するわけではない。ウイルス血症を通じて全身に広がり、中枢神経系や、精巣・卵巣・膵臓といった腺組織にも炎症を起こしやすい。このため合併症は「中枢神経系(無菌性髄膜炎、脳炎、難聴)」と「唾液腺以外の腺組織(精巣炎、卵巣炎、膵炎)」の二つに分けて覚えるとよい。 選択肢のうち、この「腺組織への親和性」に当てはまるのは精巣炎である。思春期以降の男性が感染したときに起こりやすく、代表的な合併症として国家試験でも繰り返し問われている。そのほかの選択肢は、別の病原体で起こる病態として整理しておくとよい。
選択肢考察
- ×a. 涙嚢炎
涙嚢炎は、鼻涙管が閉塞して涙嚢に涙がたまり、そこに細菌(黄色ブドウ球菌、肺炎球菌など)が感染して起こる。新生児では先天性鼻涙管閉塞、成人では中高年女性の後天性鼻涙管閉塞が背景になることが多い。ムンプスの合併症ではない。なお、ムンプスで涙腺が腫れる(涙腺炎)ことはまれに報告されるが、涙嚢炎とは別の病態である。
- ×b. 心筋炎
ムンプスでも心電図でST変化や房室伝導障害がみられ、心筋炎が起こることはある。しかし頻度はきわめて低く、代表的な合併症とはいえない。ウイルス性心筋炎の原因としてはコクサッキーウイルスB群などのエンテロウイルスが典型的であり、本問で最も適切な選択肢ではない。
- ×c. 急性肝炎
急性肝炎の主な原因はA型・B型・E型などの肝炎ウイルスであり、ほかにEBウイルス(伝染性単核球症)やサイトメガロウイルスでも肝機能障害が起こる。ムンプスの典型的な合併症には含まれない。ムンプスで合併しやすい消化器系の臓器は、肝臓ではなく膵臓(膵炎)である。
- ×d. 糸球体腎炎
感染症に続いて起こる糸球体腎炎の代表は、A群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎や皮膚感染の後に起こる溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)である。感染から1〜3週間後に、血尿・浮腫・高血圧で発症する。ムンプスの典型的な合併症ではない。
- ○e. 精巣炎
ムンプスウイルスは腺組織に感染しやすく、思春期以降の男性では精巣炎(精巣上体炎を伴うこともある)がおよそ20〜30%と比較的高い頻度で合併する。思春期より前の小児ではまれである。多くは耳下腺が腫れてから1週間前後に、発熱、陰嚢の痛み・腫れで発症し、片側性が多い。精巣が萎縮することはあるが、両側性でなければ不妊に至ることは少ない。ムンプスの代表的な合併症として正しい。
ムンプスの主な合併症
・無菌性髄膜炎: 最も頻度の高い合併症である。症状が出る例は約1〜10%だが、髄液の細胞数増加だけならさらに多くの例でみられる。予後はおおむね良好である。 ・脳炎: まれだが、後遺症を残すことがある。 ・ムンプス難聴: 多くは片側性の高度感音難聴で、回復しにくい。小児では気づかれにくいため注意が必要である。 ・精巣炎(精巣上体炎): 思春期以降の男性に多い。 ・卵巣炎: 思春期以降の女性で約5%にみられ、下腹部痛を起こす。 ・膵炎: 腹痛・嘔吐を起こす。血清アミラーゼは耳下腺炎だけでも上昇するため、膵型アミラーゼやリパーゼで区別する。 ・そのほか、まれに心筋炎、関節炎、甲状腺炎、腎炎などが報告されている。
診断と予防
診断はおもに臨床症状で行い、必要に応じてIgM抗体の測定やウイルス遺伝子の検出(RT-PCR法)で確かめる。治療は対症療法が中心である。予防には弱毒生ワクチンがあるが、日本では任意接種である。学校保健安全法では第二種感染症に指定されており、「耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで」出席停止とされている。
POINT
・流行性耳下腺炎の合併症は「中枢神経系(無菌性髄膜炎・脳炎・難聴)」と「腺組織(精巣炎・卵巣炎・膵炎)」の二つに分けて覚える。 ・精巣炎は思春期以降の男性に多く、思春期前ではまれである。 ・最も頻度が高い合併症は無菌性髄膜炎、後遺症として重要なのは片側性の高度感音難聴である。 ・心筋炎といえばコクサッキーB群、急性糸球体腎炎といえば溶連菌感染後を想起する。
