夜の勃起は嘘をつかない―勃起不全を「器質性」と「心因性」で読み解く
第103回医師国家試験 D問題 第15問
国試問題にチャレンジ
勃起不全で正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.糖尿病に合併する。
- b.腎不全に合併する。
- c.前立腺全摘除術後に合併する。
- d.心因性では夜間勃起回数が減少する。
- e.心因性では血中テストステロンが低下している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
勃起はNOによるcGMP増加で海綿体平滑筋が弛緩し、動脈血の流入と静脈閉鎖によって成立するため、神経・血管・内分泌・心理のいずれの障害でもEDが生じます。糖尿病は神経障害と血管内皮障害を通じて、慢性腎不全は性腺機能低下や神経障害など多因子的に、前立腺全摘除術は神経血管束内の陰茎海綿体神経損傷によって、それぞれ器質性EDの原因となります。心因性EDでは器質的な勃起能力と内分泌環境が保たれるため、夜間陰茎勃起は正常で、血中テストステロンも正常です。夜間勃起検査は心因性と器質性の鑑別に役立ち、治療の第一選択であるPDE5阻害薬は硝酸薬との併用が禁忌です。EDは全身の血管障害の早期サインにもなりうるため、生活習慣病診療の中で意識しておきたい症候です。
解答・解説
正解はa, b, cです
勃起不全とは
勃起不全(erectile dysfunction:ED)とは、満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られない、または維持できない状態が持続または再発することをいう。頻度は加齢とともに上昇し、中高年男性ではまれではない。
勃起のしくみ
性的刺激が加わると、骨盤内臓神経(副交感神経)由来の陰茎海綿体神経の終末や血管内皮から一酸化窒素(NO)が放出される。NOは海綿体平滑筋細胞内でcGMP(環状グアノシン一リン酸)を増やし、平滑筋を弛緩させる。すると陰茎への動脈血流が増えて海綿体洞に血液が充満し、周囲の白膜により静脈が圧迫されて流出が妨げられ(静脈閉鎖機構)、勃起が維持される。したがって勃起には、①神経(中枢から末梢まで)、②血管(動脈流入と静脈閉鎖)、③海綿体平滑筋・内皮、④内分泌(テストステロン)、⑤心理状態、のすべてが正常に働く必要がある。
EDの分類と考え方
・器質性ED:血管性(動脈硬化、高血圧、脂質異常症、喫煙など)、神経性(糖尿病性神経障害、脊髄損傷、骨盤内手術による神経損傷など)、内分泌性(性腺機能低下症、高プロラクチン血症など)、陰茎の異常によるもの。 ・心因性(機能性)ED:不安、ストレス、うつ状態などが原因で、勃起の器質的な能力は保たれている。 ・混合性:実際には器質的要因と心理的要因が混在する例が多い。 ・薬剤性:降圧薬(サイアザイド系利尿薬、β遮断薬など)、抗うつ薬、抗精神病薬、抗アンドロゲン薬などによるもの。
解き方
選択肢a〜cは器質性EDの原因となる病態・治療であり、いずれも正しい。d・eは心因性EDの特徴を問うもので、「心因性では勃起の器質的能力と内分泌環境は正常」という原則から判断する。
選択肢考察
- ○a. 糖尿病に合併する。
糖尿病はEDの最も重要な危険因子の一つであり、糖尿病のない男性に比べて高率に、かつより若い年齢でEDを発症する。機序としては、①自律神経障害(糖尿病性神経障害)により勃起を起こす神経の信号が伝わりにくくなること、②高血糖による血管内皮障害でNOの産生・作用が低下し、海綿体平滑筋が弛緩しにくくなること、③動脈硬化の進行により陰茎への動脈血流が減少すること、などが複合的に関与する。EDは心血管疾患の前触れとなることもあり、糖尿病患者ではEDの有無を確認する意義がある。以上より正しい。
- ○b. 腎不全に合併する。
慢性腎不全(とくに透析患者)ではEDが高率にみられる。原因は多因子性であり、尿毒症に伴う性腺機能低下(テストステロン産生低下)、高プロラクチン血症、自律神経障害を含む尿毒症性神経障害、腎性貧血、動脈硬化などの血管病変に加え、腎不全の原因疾患(糖尿病、高血圧)自体のED誘発作用や、降圧薬など内服薬の影響、抑うつなど心理的要因が重なる。以上より腎不全はEDを合併しやすく、正しい。
- ○c. 前立腺全摘除術後に合併する。
前立腺癌に対する前立腺全摘除術では、勃起をつかさどる陰茎海綿体神経が前立腺の後側方を走行する神経血管束の中を通るため、手術操作による損傷や癌の根治のための合併切除が起こりうる。その結果、術後EDは尿失禁と並ぶ代表的な合併症である。癌の進展が限局している症例では神経血管束を温存する術式(神経温存前立腺全摘除術)が選択されることがあり、ロボット支援手術の普及で機能温存の精度も向上しているが、それでも術後EDを完全に避けることはできない。なお前立腺肥大症に対する経尿道的切除術ではEDより逆行性射精が問題となりやすく、両者を区別して覚える。以上より正しい。
- ×d. 心因性では夜間勃起回数が減少する。
健常男性では睡眠中、主にレム睡眠期に一致して一晩に数回の勃起が自然に起こる(夜間陰茎勃起現象:NPT)。これは意識や心理的要因の影響をほとんど受けない反射的な現象である。心因性EDでは勃起の器質的能力は保たれているため、夜間勃起は正常に認められ、回数も減少しない。一方、血管性や神経性などの器質性EDでは夜間勃起が減少・消失する。この差を利用して、リジスキャン(陰茎周囲長と硬さを連続記録する装置)やスタンプテスト(切手状の紙テープを陰茎に巻き、就寝中に切れるかを見る簡易検査)などの夜間勃起検査が心因性と器質性の鑑別に用いられる。よって誤り。
- ×e. 心因性では血中テストステロンが低下している。
心因性EDは不安やストレスなどの心理的要因によって勃起が妨げられるものであり、内分泌系には異常がない。したがって血中テストステロン値は通常正常である。血中テストステロンの低下を伴うEDは、原発性・続発性の性腺機能低下症や加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)などの内分泌性(器質性)EDを考える根拠となる。よって誤り。
EDの主な危険因子
加齢、喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満・メタボリックシンドローム、心血管疾患、慢性腎臓病、うつ病、下部尿路症状・前立腺肥大症、骨盤内手術・放射線治療、脊髄損傷、薬剤など。動脈硬化の危険因子と大きく重なり、EDは全身の血管障害の早期のサインとも考えられている。
心因性EDと器質性EDの鑑別
・心因性:発症が急で、特定の状況(相手・場面)でのみ起こる。夜間勃起・早朝勃起は保たれる。ホルモン検査は正常。 ・器質性:発症が緩徐で、状況にかかわらず持続的に起こる。夜間勃起・早朝勃起が減少・消失する。基礎疾患や危険因子をもつことが多い。
治療
第一選択はホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬(シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル)である。cGMPの分解を抑えてNOによる海綿体平滑筋弛緩を増強する。性的刺激がなければ勃起は起こらない。硝酸薬(ニトログリセリンなど)やNO供与作用をもつ薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬との併用は重篤な低血圧をきたすため禁忌である。そのほか、心因性にはカウンセリング、性腺機能低下症にはテストステロン補充、薬物療法無効例には陰茎海綿体注射、陰圧式勃起補助具、陰茎プロステーシス挿入術などがある。
POINT
・勃起はNO→cGMP増加→海綿体平滑筋弛緩→動脈血流入・静脈閉鎖によって起こる。 ・器質性EDの原因:糖尿病(神経障害・血管内皮障害)、慢性腎不全(性腺機能低下など多因子)、動脈硬化、前立腺全摘除術(陰茎海綿体神経損傷)、脊髄損傷、薬剤など。 ・心因性EDでは夜間勃起(NPT)は保たれ、血中テストステロンは正常である。 ・夜間勃起検査(リジスキャン、スタンプテスト)は心因性と器質性の鑑別に有用である。 ・治療の第一選択はPDE5阻害薬で、硝酸薬との併用は禁忌である。
