StudyMed医師国家試験

傷が治るのに必要な「材料・酸素・免疫」―創傷治癒を邪魔しないのはどれか

第103回医師国家試験 C問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第103回 C問題 第6問

創傷治癒を阻害しないのはどれか。

  1. a.低蛋白血症
  2. b.脂質異常症
  3. c.肝硬変
  4. d.糖尿病
  5. e.貧血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、創傷治癒を妨げる全身的な因子を整理する問題だ。「阻害しないもの」を選ぶ形式なので、まずは傷が治るために何が必要かを押さえておくと、選択肢を一つずつ判断しやすくなるよ。創傷治癒の流れは覚えているかな。
医学生医学生
病理の講義で、炎症期、増殖期、成熟期の3段階と習いました。
ドクタードクター
その通り。炎症期では血小板による止血と、好中球やマクロファージによる壊死組織・細菌の除去が起こる。増殖期では血管新生と線維芽細胞のコラーゲン産生で肉芽組織ができ、創縁から上皮化が進む。成熟期ではⅢ型コラーゲンがⅠ型に置き換わり、架橋されて瘢痕の強度が増していく。この過程を支えるのに必要なものを3つにまとめると、「材料」「酸素」「正常な免疫・炎症反応」なんだ。
医学生医学生
材料というのは、コラーゲンを作るための蛋白質ということですか。
ドクタードクター
そう。蛋白質(アミノ酸)に加えて、ビタミンCや亜鉛も重要だ。酸素は、線維芽細胞がコラーゲンを合成するときや、好中球が細菌を殺すときに欠かせない。そして免疫が正常でないと感染が起きて、増殖期へうまく進めない。この3つの視点で選択肢を見ていこう。まず低蛋白血症はどうかな。
医学生医学生
材料不足そのものなので、阻害しますよね。
ドクタードクター
正解。組織修復の材料が足りずにコラーゲン合成や肉芽形成が遅れる。さらにアルブミンが下がると膠質浸透圧が低下して創周囲に浮腫が生じ、局所の血流や酸素の拡散も悪くなる。周術期には血清アルブミン3.0 g/dL未満がひとつの目安で、縫合不全や創離開が増えるとされている。
医学生医学生
外科の実習で、術前カンファレンスのたびにアルブミン値を確認していた理由がわかりました。肝硬変も同じ理屈でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。肝の蛋白合成能が落ちてアルブミンが下がり、食欲低下も重なって低栄養になりやすい。加えて凝固因子の合成低下や、脾機能亢進による血小板減少で止血が不十分になり、創部に血腫ができやすい。腹水による創の緊張や免疫能低下も加わって、創離開や腹水の漏出が問題になるんだ。
医学生医学生
糖尿病は、足潰瘍のイメージが強いです。
ドクタードクター
まさに代表例だ。糖尿病では、血管障害による血流低下と低酸素、高血糖による好中球の遊走・貪食・殺菌能の低下、終末糖化産物の蓄積による線維芽細胞やコラーゲンの障害、さらに神経障害で傷に気づきにくいこと、と複数の機序が重なる。3つの視点すべてに関わる、いわば阻害因子の代表格だね。
医学生医学生
貧血は酸素が届かないからですね。でも軽い貧血でも傷の治りは悪くなるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。軽度から中等度の貧血なら、心拍出量の増加などの代償が働くので、循環血液量が保たれていれば影響は小さいと考えられている。問題になるのは高度の貧血や、出血で循環血液量も減っている場合だ。コラーゲン合成ではプロリンやリシンの水酸化に酸素が必要だから、酸素運搬能が大きく落ちると治癒が遅れるんだ。
医学生医学生
そうすると残る脂質異常症が正解ですね。ただ、動脈硬化が進むと血流が悪くなるので、少し迷いました。
ドクタードクター
鋭いね。脂質異常症そのものは、炎症反応や肉芽形成、コラーゲン合成、上皮化を直接妨げるわけではない。ただし長期に続いて動脈硬化から末梢動脈疾患を起こし、下肢が虚血になれば、その部位の傷は治りにくくなる。これはあくまで血流障害の影響で、脂質異常症という病態の直接作用ではない、と区別して考えるのがポイントだ。
医学生医学生
「直接の機序があるかどうか」で判断するということですね。材料、酸素、免疫のどれにも直接関わらないのが脂質異常症だと理解しました。
ドクタードクター
その整理で完璧だよ。最後に臨床で大事な周辺知識をまとめておこう。全身的因子としては、ほかにビタミンC欠乏、亜鉛欠乏、腎不全、高齢、肥満、悪性腫瘍、喫煙、放射線照射後、そして薬剤として副腎皮質ステロイド、抗癌薬、免疫抑制薬がある。局所的因子では感染、異物、壊死組織、虚血、血腫、浮腫、創部の過度の緊張などが重要だ。
医学生医学生
ステロイドを飲んでいる患者さんの手術は傷の治りが心配だ、と病棟で聞いたことがあります。
ドクタードクター
ステロイドは炎症期を抑え、線維芽細胞の増殖やコラーゲン合成も妨げるからね。ビタミンAの投与がその抑制を一部打ち消すことが知られている。喫煙も血管収縮と一酸化炭素による酸素運搬能の低下で治癒を妨げるから、術前の禁煙指導は大切なんだ。傷が治らないときは「材料・酸素・免疫」のどこが足りないのかを考える癖をつけよう。

まとめ

創傷治癒は炎症期・増殖期・成熟期を経て進み、その過程には材料(蛋白質、ビタミンC、亜鉛)、酸素(組織血流と酸素運搬能)、正常な免疫・炎症反応が欠かせません。低蛋白血症や肝硬変は材料不足や凝固障害を、高度の貧血は酸素運搬能の低下を、糖尿病は血流障害・易感染性・コラーゲン合成障害を通じて創傷治癒を阻害します。一方、脂質異常症そのものは治癒過程を直接妨げず、影響するとしても動脈硬化による虚血を介した間接的なものです。ほかにもステロイド、抗癌薬、喫煙、感染、異物、虚血などが重要な阻害因子であり、周術期管理や褥瘡・足潰瘍の診療では、こうした因子を一つずつ評価して是正することが治癒への近道になります。

解答・解説

正解はbです

創傷治癒を妨げる因子(全身的因子)を問う問題で、「阻害しないもの」を選ぶ。 創傷治癒は、①炎症期(止血と炎症細胞の遊走による創の清浄化)、②増殖期(血管新生、線維芽細胞の増殖、コラーゲン合成による肉芽組織形成、上皮化)、③成熟期(リモデリング期:コラーゲンの再構築と架橋による瘢痕の強度増加)という連続した過程で進む。この過程には次のものが欠かせない。 ・材料:コラーゲンなどの組織を作るための蛋白質(アミノ酸)、ビタミンC、亜鉛など ・酸素とエネルギー:線維芽細胞のコラーゲン合成や白血球による殺菌には十分な酸素供給(組織血流と酸素運搬能)が必要 ・正常な免疫・炎症反応:感染を防ぎ、増殖期へ移行させる したがって、材料が不足する病態(低栄養、低蛋白血症、肝硬変)、酸素供給が不足する病態(末梢循環障害、高度の貧血)、免疫・炎症反応が障害される病態(糖尿病、ステロイド投与など)は創傷治癒を阻害する。一方、脂質異常症は血中の脂質(LDLコレステロール、中性脂肪など)の異常であり、それ自体が創傷治癒の過程に直接影響を与えることはない。

選択肢考察

  1. ×a.  低蛋白血症

    阻害する。低蛋白血症は低栄養状態の指標であり、組織修復の材料となる蛋白質(アミノ酸)が不足するため、線維芽細胞によるコラーゲン合成や肉芽形成が遅れ、創の強度が得られにくい。また血清アルブミンの低下で膠質浸透圧が下がり、創周囲に浮腫が生じて局所の血流や酸素の拡散が悪くなる。免疫能も低下して創感染を起こしやすい。術前の血清アルブミン値が低い(目安として3.0 g/dL未満)患者では、縫合不全や創離開などの術後合併症が増えることが知られている。

  2. ○b.  脂質異常症

    阻害しない(正解)。脂質異常症(かつての名称は高脂血症)は、LDLコレステロールや中性脂肪の高値、HDLコレステロールの低値を示す状態であり、それ自体が炎症反応、肉芽形成、コラーゲン合成、上皮化といった創傷治癒の過程を直接妨げることはない。脂質異常症の患者はむしろ栄養状態が保たれていることも多い。ただし、長期間の脂質異常症は動脈硬化を進め、末梢動脈疾患による下肢の虚血を来すと、その部位の創傷治癒は遅れる。これは動脈硬化による血流障害の影響であり、脂質異常症という病態そのものの直接作用ではない点を区別する。

  3. ×c.  肝硬変

    阻害する。肝硬変では肝の蛋白合成能が落ちるためアルブミンが低下し、さらに食欲低下や吸収障害を伴って低栄養状態となりやすい。凝固因子の合成低下や血小板減少(脾機能亢進による)で止血が不十分となり、創部に血腫ができやすい。また腹水や浮腫による創部の緊張、免疫能低下による感染しやすさも加わり、創傷治癒は遅れる。肝硬変患者の手術では、創離開や縫合不全、腹水の創部からの漏出などが問題となる。

  4. ×d.  糖尿病

    阻害する。糖尿病では、①細小血管障害や大血管障害(動脈硬化)による創部の血流低下と低酸素、②高血糖による好中球の遊走能・貪食能・殺菌能の低下と易感染性、③終末糖化産物(AGEs)の蓄積によるコラーゲン合成や線維芽細胞機能の障害、④神経障害による知覚低下で創に気づかず悪化させやすいこと、などの機序が重なり、創傷治癒が著しく遅れる。糖尿病性足潰瘍・足壊疽はその代表であり、周術期には血糖コントロールが創感染の予防に重要である。

  5. ×e.  貧血

    阻害する。貧血では血液の酸素運搬能が低下するため、組織への酸素供給が減る。酸素はコラーゲン合成(プロリン・リシンの水酸化に酸素が必要)や、好中球による殺菌作用に欠かせないので、高度の貧血では創傷治癒が遅れる。ただし、軽度〜中等度の貧血では心拍出量の増加などの代償が働くため、循環血液量が保たれていれば影響は小さいとされ、臨床的に問題となるのは高度の貧血や、出血などで循環血液量も減少している場合である。また貧血の背景にある低栄養(鉄欠乏やビタミン不足)も創傷治癒に不利に働く。

創傷治癒の過程

1)炎症期(受傷直後〜数日):血小板による止血と凝固、好中球・マクロファージの遊走による壊死組織や細菌の除去。マクロファージは成長因子を分泌して次の段階を促す。 2)増殖期(数日〜数週):血管新生、線維芽細胞の増殖とコラーゲン産生により肉芽組織が形成され、創縁から上皮化が進む。筋線維芽細胞による創収縮も起こる。 3)成熟期(リモデリング期、数週〜1年以上):Ⅲ型コラーゲンがⅠ型コラーゲンに置き換わり、架橋されて瘢痕の強度が増す。最終的な強度は正常皮膚の約80%程度にとどまる。

創傷治癒を阻害する主な因子

・全身的因子:低栄養(低蛋白血症)、ビタミンC欠乏(コラーゲン合成障害)、亜鉛欠乏、糖尿病、肝硬変、腎不全(尿毒症)、高度の貧血、高齢、肥満、悪性腫瘍、喫煙(血管収縮と一酸化炭素による酸素運搬能低下)、薬剤(副腎皮質ステロイド、抗癌薬、免疫抑制薬)、放射線照射後 ・局所的因子:感染、異物、壊死組織、血流障害(虚血)、血腫、浮腫、創部の過度の緊張や安静不良、乾燥

副腎皮質ステロイドと創傷治癒

ステロイドは炎症期を抑制し、線維芽細胞の増殖やコラーゲン合成を妨げるため創傷治癒を遅らせる。ビタミンAの投与がこの抑制を一部打ち消すことが知られている。

POINT

・創傷治癒には、材料(蛋白質、ビタミンC、亜鉛)、酸素(組織血流と酸素運搬能)、正常な免疫・炎症反応が必要である。 ・低蛋白血症、肝硬変(低アルブミン、低栄養、凝固障害)、糖尿病(血流障害、易感染性)、高度の貧血(酸素運搬能低下)は創傷治癒を阻害する。 ・脂質異常症そのものは創傷治癒を直接阻害しない。 ・ほかにステロイド、抗癌薬、喫煙、感染、異物、虚血も重要な阻害因子である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。