StudyMed医師国家試験

問診票のどこを見る?―若い女性の下腹部痛で「性交歴」が鍵になる理由

第103回医師国家試験 C問題 第30問(連問)

国試問題にチャレンジ

第103回 C問題 第30問

連問の共通文

次の文を読み,30と31の問いに答えよ。 21歳の女性。下腹部痛を主訴に来院した。 現病歴:5日前に発熱を認めた。3日前から下腹部痛と帯下の増加とが出現した。 既往歴:16歳時に膀胱炎。 家族歴:母親と兄が尿管結石。 生活歴:6歳から10歳まで海外で過ごした。 月経歴:初経13歳。18歳までは周期27日型,持続5日間,中等量,月経痛は認めない。 服薬歴:避妊を目的に18歳から低用量ピルを服用している。 性交歴:16歳から不特定多数の男性と性交渉がある。 現症:身長155cm,体重48kg。体温36.8℃。呼吸数22/分。脈拍108/分,整。血圧120/70mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。下腹部正中に圧痛を認める。

 診断に最も有用なのはどれか。

  1. a.家族歴
  2. b.生活歴
  3. c.月経歴
  4. d.服薬歴
  5. e.性交歴

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い女性の下腹部痛について、病歴のどの項目が診断に最も役立つかを考える問題だ。病歴がたくさん並んでいるけれど、全部が同じ重みを持つわけではない。まずは症状の流れから、どんな病態が浮かぶかを考えてみよう。
医学生医学生
発熱が先にあって、そのあと下腹部痛と帯下の増加ですよね。帯下が増えているので、婦人科の感染症でしょうか。
ドクタードクター
いい着眼点だ。帯下の増加は子宮頸管の炎症を示唆する所見で、そこから炎症が子宮内膜、卵管、骨盤腹膜へと上っていくのが骨盤内炎症性疾患、いわゆるPIDだ。若い女性で発熱・下腹部痛・帯下増加がそろえば、まずPIDを考えたい。
医学生医学生
でも下腹部痛の鑑別って広いですよね。CBTの勉強のときも、虫垂炎、異所性妊娠、卵巣茎捻転、尿路結石……と並べて覚えました。
ドクタードクター
そう、鑑別は広い。だからこそ「どの情報が特定の疾患の可能性を大きく引き上げるか」を考えるのが大事なんだ。PIDの主な原因はクラミジア・トラコマティスと淋菌という性感染症の病原体。その最大の危険因子は何だと思う?
医学生医学生
複数の性交渉相手がいることですか。だとすると、不特定多数との性交渉がある、という性交歴が一番効いてきますね。
ドクタードクター
その通り。性交歴が、症状の流れを性感染症を背景としたPIDへと結びつける決め手になる。では、ほかの項目がなぜ「最も」ではないのかも確認しよう。まず家族歴の尿管結石はどうかな。
医学生医学生
結石は家族内で起こりやすいので、尿管結石も鑑別に入れたくなりました。
ドクタードクター
頭に置く意味はあるよ。ただ尿管結石の痛みは片側の側腹部から鼠径部に放散する疝痛が典型で、帯下の増加は説明できないし、正中の圧痛とも合わない。幼少期の海外生活についてはどうだろう。
医学生医学生
10年以上前のことなので、今回の急な経過とは関係なさそうです。
ドクタードクター
そうだね。輸入感染症を考えるときに大事なのは、発症前の比較的最近の渡航歴だ。月経歴と服薬歴は少し考えどころがある。
医学生医学生
月経痛がないなら子宮内膜症は考えにくいし、ピルを飲んでいれば妊娠も否定できる、ということでしょうか。
ドクタードクター
前半は「可能性をやや下げる」という意味で正しい。ただ後半は言い過ぎだね。ピルは飲み忘れもあるから、妊娠可能年齢の女性の下腹部痛では、病歴にかかわらず妊娠反応で異所性妊娠を除外するのが原則だ。それに、ピルで避妊しているとコンドームを使わない性交につながりやすく、性感染症のリスクを高める背景にもなる。
医学生医学生
なるほど。服薬歴は性交歴と組み合わさって初めて意味を持つ、間接的な情報なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。実際の問診では、性交歴をきっかけに、パートナーの数、最終性交日、コンドームの使用、パートナーの症状、過去の性感染症歴まで掘り下げていく。プライバシーに配慮して、ほかの人がいない場で聞くことも大切だ。
医学生医学生
OSCEの医療面接の練習で、性交歴を聞くときは「皆さんにお聞きしていることですが」と前置きするように教わりました。
ドクタードクター
それはとても実践的だね。最後に発展知識。クラミジアは日本で最も多い性感染症で、女性では半数以上が無症状とされ、気づかないうちに上行感染を起こす。上腹部に波及すると右上腹部痛を呈する肝周囲炎、Fitz-Hugh–Curtis症候群になることもある。
医学生医学生
治った後にも問題が残るんですか。
ドクタードクター
卵管の狭窄や閉塞、骨盤内の癒着が残ると、卵管性不妊、異所性妊娠、慢性骨盤痛の原因になる。妊婦なら産道感染で新生児の結膜炎や肺炎も起こしうる。だから早く見つけて治療することが、その人の将来の妊娠にも関わってくるんだ。

まとめ

発熱に続いて下腹部痛と帯下増加が出現した若年女性では、子宮頸管炎から上行性に広がった骨盤内炎症性疾患(PID)をまず考えます。PIDの主な原因はクラミジアや淋菌などの性感染症で、最大の危険因子は複数の性交渉相手であるため、性交歴が診断に最も有用な病歴となります。家族歴の尿管結石や遠い過去の海外生活は今回の経過を説明できず、月経歴や低用量ピルの服薬歴は補助的・間接的な情報にとどまり、妊娠の可能性は妊娠反応で確認するのが原則です。クラミジアは女性で無症状のことが多く、肝周囲炎(Fitz-Hugh–Curtis症候群)や卵管性不妊・異所性妊娠につながるため、プライバシーに配慮した丁寧な性交歴の聴取が早期診断と後遺症予防の第一歩になります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

患者は21歳の女性で、主訴は下腹部痛である。経過は、5日前に発熱があり、3日前から下腹部痛と帯下(おりもの)の増加が加わったというものである。来院時の体温は36.8℃と解熱しているが、脈拍108/分と頻脈、呼吸数22/分とやや頻呼吸であり、身体所見では下腹部正中に圧痛を認める。心音・呼吸音に異常はない。 背景情報として、膀胱炎の既往(16歳)、母と兄の尿管結石、幼少期(6~10歳)の海外生活、18歳まで月経痛のない規則的な月経、18歳からの避妊目的の低用量経口避妊薬(ピル)内服、そして16歳から不特定多数の男性との性交渉が記載されている。

鑑別診断へのプロセス

若年女性の急性下腹部痛では、婦人科疾患(骨盤内炎症性疾患、異所性妊娠、卵巣腫瘍茎捻転、卵巣出血、子宮内膜症など)、消化器疾患(虫垂炎、腸炎、便秘など)、泌尿器疾患(膀胱炎、腎盂腎炎、尿路結石など)と鑑別の幅は広い。 その中で本例を特徴づけるのは、「発熱が先行し、下腹部痛と帯下増加が続いた」という経過である。帯下の増加は子宮頸管炎を示唆し、そこから上行性に子宮内膜、卵管、骨盤腹膜へと炎症が広がった骨盤内炎症性疾患(PID:pelvic inflammatory disease)を強く疑わせる。PIDの主な原因は性感染症(STI:sexually transmitted infection)の病原体、特にクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)と淋菌であり、最大の危険因子は複数の性交渉相手を持つこと、若年であること、コンドームを使用しないことである。 したがって、症例文の中で診断に直結するのは「16歳から不特定多数の男性と性交渉がある」という性交歴である。性交歴を手がかりにSTIを背景としたPIDを想定し、さらにパートナーの数や最終性交日、コンドーム使用の有無、パートナーの症状、過去の性感染症歴などを詳しく聴取していくことになる。

設問の考え方

「診断に最も有用な」情報とは、想定される疾患の可能性を大きく引き上げる情報のことである。他の病歴項目は、ある疾患の可能性を多少下げたり、補助的に役立ったりはするが、本例の病態(STIによる骨盤内感染)に直接結びつくのは性交歴だけである。

選択肢考察

  1. ×a.  家族歴

    母親と兄に尿管結石がある。尿路結石は体質や食習慣を共有することで家族内に集積しやすく、下腹部痛の鑑別として尿管結石を頭に置く意味はある。しかし尿管結石の痛みは典型的には片側の側腹部から下腹部・鼠径部に放散する疝痛で、帯下の増加は説明できず、下腹部正中の圧痛とも合わない。本例の診断に最も寄与する情報とはいえない。

  2. ×b.  生活歴

    6~10歳の海外生活は10年以上前のことであり、今回の5日前から始まった急性の経過とは関連づけにくい。輸入感染症(寄生虫症など)を考える場合には渡航歴が重要になるが、問題となるのは通常、発症前の比較的最近の渡航である。本例の診断には役立たない。

  3. ×c.  月経歴

    月経痛のない規則的な月経であったことは、月経困難症や子宮内膜症といった月経関連疾患の可能性をやや下げる情報として意味がある。また、女性の下腹部痛では最終月経を確認して妊娠の可能性を評価することが基本である。ただし記載は18歳まで(ピル内服開始前)の情報であり、今回の発熱・帯下増加を伴う急性の下腹部痛を積極的に説明する情報ではない。

  4. ×d.  服薬歴

    低用量ピルを正しく内服していれば妊娠の可能性は低く、異所性妊娠などの可能性をある程度下げられる(ただし飲み忘れ等もあるため、実臨床では妊娠反応検査で必ず確認する)。一方でピルによる避妊はコンドームを使わない性交につながりやすく、STIの危険を高める背景にはなる。とはいえ、それはあくまで性交歴と組み合わさって初めて意味を持つ間接的な情報であり、診断に最も有用な項目ではない。

  5. ○e.  性交歴

    不特定多数の男性との性交渉は、クラミジアや淋菌などのSTIに罹患する最大の危険因子である。発熱に続く下腹部痛と帯下増加という経過は、子宮頸管炎から上行性に広がったPIDとして矛盾なく説明でき、性交歴がこの診断を強く支持する。したがって本例の診断に最も有用な病歴である。

骨盤内炎症性疾患(PID)

子宮頸管より上部の女性生殖器(子宮内膜、卵管、卵巣)とその周囲の骨盤腹膜に生じる感染症の総称である。子宮内膜炎、卵管炎、卵管卵巣膿瘍、骨盤腹膜炎などを含む。多くは腟・頸管からの上行感染で、原因としてクラミジア・トラコマティス、淋菌のほか、腟内の嫌気性菌や腸内細菌などが関与する複数菌感染も多い。 危険因子:若年、複数の性交渉相手、新しいパートナー、コンドーム不使用、性感染症の既往、子宮内操作(子宮内避妊具挿入、人工妊娠中絶など)。 症状・所見:下腹部痛、帯下増加、発熱、不正出血、性交痛。内診では子宮頸部の移動痛(子宮頸部を動かすと痛む)、子宮体部の圧痛、付属器の圧痛が重要である。検査では白血球増多、CRP上昇、赤沈亢進がみられ、頸管分泌物の核酸増幅検査(PCR法など)でクラミジアや淋菌を検出する。

クラミジア感染症の特徴

日本で最も多い性感染症で、特に10~20歳代の女性に多い。女性では感染しても半数以上が無症状とされ、気づかれないまま進行しやすい。上行してPIDを起こしたり、さらに上腹部に波及して肝周囲炎(Fitz-Hugh–Curtis症候群:右上腹部痛を呈する)を起こしたりすることがある。治癒後も卵管の狭窄・閉塞や骨盤内癒着を残し、卵管性不妊症、異所性妊娠、慢性骨盤痛の原因となる。妊婦では産道感染により新生児の結膜炎や肺炎を起こす。

女性の下腹部痛の問診

最終月経と妊娠の可能性、性交歴(相手の数、最終性交日、コンドーム使用)、帯下や不正出血の有無、排尿症状、排便状況、痛みの発症様式(突然か緩徐か)と部位を確認する。妊娠可能年齢の女性では、病歴にかかわらず妊娠反応検査で異所性妊娠を除外することが原則である。

POINT

・発熱+下腹部痛+帯下増加の若年女性では、STIを背景とした骨盤内炎症性疾患(PID)をまず考える。 ・PIDの最大の危険因子は複数の性交渉相手であり、性交歴の聴取が診断の鍵となる。 ・主な原因菌はクラミジア・トラコマティスと淋菌。クラミジアは女性で無症状のことが多い。 ・PIDの後遺症として卵管性不妊、異所性妊娠、慢性骨盤痛、合併症として肝周囲炎(Fitz-Hugh–Curtis症候群)が重要である。 ・ピル内服中でも妊娠の可能性は妊娠反応で確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。