StudyMed医師国家試験

「自殺企図時に救命を拒否する権利」は存在しない―リスボン宣言で読み解く患者の権利と医師の責務

第103回医師国家試験 C問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第103回 C問題 第2問

リスボン宣言に記されている患者の権利でないのはどれか。

  1. a.健康教育を受ける権利
  2. b.良質の医療を受ける権利
  3. c.宗教的支援を受ける権利
  4. d.別の医師の意見を求める権利
  5. e.自殺企図時に救命を拒否する権利

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医の倫理の問題だね。テーマは世界医師会のリスボン宣言で、選択肢の中から宣言に「含まれない」権利を探す。カギは、宣言が掲げる原則の全体像と、患者の自己決定権にどこまでの範囲が含まれるかという点だよ。
医学生医学生
医療倫理の講義で習いました。たしか患者の権利についての宣言ですよね。ジュネーブ宣言やヘルシンキ宣言と、いつもごちゃごちゃになってしまいます。
ドクタードクター
そこは整理しておこう。ジュネーブ宣言はヒポクラテスの誓いを現代化した「医師の誓い」、ヘルシンキ宣言は「人を対象とする医学研究の倫理原則」、そしてリスボン宣言が「患者の権利」。1981年にリスボンで採択され、1995年に大きく改訂されたものだ。
医学生医学生
誓い、研究、患者、と対象で分けるとわかりやすいですね。中身はどんな権利が並んでいるんですか。
ドクタードクター
11の原則がある。良質の医療を受ける権利、選択の自由、自己決定、意識のない患者、法的無能力の患者、患者の意思に反する処置、情報を得る権利、守秘義務に対する権利、健康教育を受ける権利、尊厳を得る権利、宗教的支援を受ける権利だ。
医学生医学生
自己決定の権利があるなら、救命を拒否する権利も含まれそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。確かに判断能力のある成人は、検査や治療に同意も拒否もできる。でも宣言の「意識のない患者」の原則では、自殺企図で意識を失った患者に対して、医師は常にその生命を救うよう努めるべきだと明記されている。だから自殺企図時に救命を拒否する権利というのは宣言には書かれていない。これが正解だ。
医学生医学生
なぜ自殺企図だけは特別扱いなんでしょう。
ドクタードクター
自殺企図の背景には、うつ病などの精神疾患や一時的な危機状態があることが多いんだ。そのときの意思表示は、本来の判断能力が保たれた状態での自己決定とは言いにくい。救命されて治療や支援を受ければ回復しうるからこそ、医師は救命に努めるという立場をとっている。
医学生医学生
救急科の実習で、過量服薬の患者さんが搬送されてきたとき、救命後に精神科へすぐコンサルトしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその流れが大事なんだ。では残りの選択肢も確認しよう。良質の医療を受ける権利は宣言の最初に掲げられた原則で、差別なく適切な医療を受けられること、医療の継続性、限られた資源の公平な配分なども含まれている。
医学生医学生
別の医師の意見を求める権利は、セカンドオピニオンのことですよね。
ドクタードクター
その通り。「選択の自由の権利」の中に、医師や医療機関を自由に選び変更できること、治療のどの段階でも他の医師の意見を求められることが書かれている。健康教育を受ける権利も独立した原則で、自分の健康について責任ある選択ができるよう情報を得る権利だ。医師には健康教育に積極的に関わる義務があるとされている。
医学生医学生
宗教的支援を受ける権利は少し意外でした。日本の医療ではあまり意識しない気がします。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。ポイントは、聖職者の助けを含めた精神的・道徳的な慰めを「受けるか受けないか」を患者が選べるという点だ。断る自由も含めて尊重されている。緩和ケアの現場ではスピリチュアルケアとして大切にされている考え方だよ。
医学生医学生
自己決定権は強く尊重されるけれど、自殺企図の救命は例外というわけですね。
ドクタードクター
そう。ほかにも臨床で知っておきたい点がある。意識がなく代理人もいない緊急時には、事前の明確な拒否の意思がない限り同意があるものと推定して処置を行う。また、本人が望めば情報を知らされない権利もあるし、守秘義務は患者の死後も続く。
医学生医学生
知らされない権利まであるとは知りませんでした。がんの告知のときなどに関係しそうですね。
ドクタードクター
そうだね。何をどこまで伝えるかは本人の意向を確認しながら進めることが大切だ。逆に、判断能力のある患者が十分な説明を受けたうえで治療を拒否した場合は、その意思を尊重するのが原則になる。自殺企図時の救命との違いを、背景にある判断能力という観点で理解しておくと、臨床でも迷いにくいよ。

まとめ

リスボン宣言は世界医師会が採択した「患者の権利」に関する宣言で、良質の医療、選択の自由(セカンドオピニオンを含む)、自己決定、情報、守秘、健康教育、尊厳、宗教的支援などの11原則から成ります。判断能力のある成人には治療を拒否する権利も認められていますが、自殺企図で意識を失った患者に対しては、医師は常に救命に努めるべきと明記されており、「自殺企図時に救命を拒否する権利」は宣言に含まれません。自殺企図の背景には精神疾患や一時的な危機状態が多く、救命後の治療・支援で回復しうることがその根拠です。ジュネーブ宣言(医師の誓い)やヘルシンキ宣言(研究倫理)との区別も頻出のため、対象で整理して覚えておきましょう。自己決定の尊重と生命保護のバランスを理解することは、救急や終末期医療の現場で判断する際の土台になります。

解答・解説

正解はeです

問われているテーマ

リスボン宣言(患者の権利に関するWMAリスボン宣言)は、世界医師会(WMA:World Medical Association)が、医師が認めて守るべき患者の権利をまとめたものである。1981年にポルトガルのリスボンで開かれた第34回WMA総会で採択され、1995年のバリ総会で大幅に改訂された(その後も修正・再確認を経ている)。本問は、選択肢のうち宣言に含まれない権利を選ばせる問題である。

正解を導く考え方

宣言には次の11の原則が掲げられている。 (1) 良質の医療を受ける権利、(2) 選択の自由の権利、(3) 自己決定の権利、(4) 意識のない患者、(5) 法的無能力の患者、(6) 患者の意思に反する処置、(7) 情報を得る権利、(8) 守秘義務に対する権利、(9) 健康教育を受ける権利、(10) 尊厳を得る権利、(11) 宗教的支援を受ける権利。 この一覧を覚えていれば直接解ける。覚えていなくても、患者の自己決定権は尊重されるものの、医療の根本である救命を否定するような内容、特に自殺という本人の生命を損なう行為の結果を放置することまでを医師が擁護すべき権利として認めることはない、と考えれば判断できる。実際、宣言では、自殺企図により意識を失った患者に対して、医師は常に救命に努めるべきであると明記されている。

選択肢考察

  1. ×a.  健康教育を受ける権利

    宣言に含まれる権利である(原則9)。すべての人は、健康的な生活や病気の予防・早期発見について、自ら責任ある選択ができるよう、健康教育を受ける権利をもつ。あわせて、各人が自分の健康に責任をもつこと、医師が健康教育に積極的に関わる義務を負うことも記されている。十分な知識をもつことは、インフォームド・コンセント(説明を受けたうえでの同意)の前提ともなる。

  2. ×b.  良質の医療を受ける権利

    宣言の最初に掲げられた権利である(原則1)。すべての人は差別なく適切な医療を受ける権利をもち、医師は外部から干渉されずに臨床的・倫理的判断を行えるべきであるとされる。また、医療の質は一般に認められた医学的基準に沿うものであること、限られた医療資源の配分は公平な手続きで医学的基準に基づいて行うこと、医療の継続性が保たれることなども含まれる。

  3. ×c.  宗教的支援を受ける権利

    宣言に含まれる権利である(原則11)。患者は、自ら選んだ宗教の聖職者の助けを含め、精神的・道徳的な慰めを受けるか受けないかを決める権利をもつ。受けることだけでなく、断ることも患者の選択として尊重される点がポイントである。

  4. ×d.  別の医師の意見を求める権利

    宣言に含まれる権利である(原則2「選択の自由の権利」)。患者は、医師や病院・保健サービス機関を自由に選び、変更する権利をもち、治療のどの段階においても他の医師の意見(セカンドオピニオン)を求める権利をもつと明記されている。

  5. ○e.  自殺企図時に救命を拒否する権利

    宣言に記されていない権利であり、これが正解である。宣言は自己決定の権利(原則3)として、判断能力のある成人患者が検査や治療に同意する、あるいは拒否する権利を認めている。しかし、自殺企図時に救命を拒否する権利は記載されていない。むしろ原則4(意識のない患者)では、原則として法律上の代理人の同意を得るべきとしたうえで、「自殺企図により意識を失っている患者に対しては、医師は常にその生命を救うよう努めるべきである」と明記している。自殺企図の背景にはうつ病などの精神疾患や一時的な危機状態が多く、救命後に治療・支援を受けて回復しうることも、この立場の根拠となる。

リスボン宣言の要点(各原則の概要)

1. 良質の医療を受ける権利:差別のない適切な医療、医療の継続性、公平な資源配分。 2. 選択の自由の権利:医師・医療機関の選択と変更、セカンドオピニオン。 3. 自己決定の権利:判断能力のある成人は検査・治療への同意と拒否ができる。決定に必要な情報を得る権利がある。医学研究・教育への参加を拒否する権利。 4. 意識のない患者:法律上の代理人から同意を得る。代理人がおらず緊急を要する場合は、本人の事前の明確な拒否意思がない限り同意があるものと推定する。自殺企図で意識を失った患者は常に救命に努める。 5. 法的無能力の患者:代理人の同意が必要だが、患者本人も能力に応じて意思決定に関与させる。代理人の決定が患者の最善の利益に反する場合、医師は法的手段などで異議を唱えるべきとされる。 6. 患者の意思に反する処置:法律で特に認められ、医の倫理原則に合致する例外的な場合に限る。 7. 情報を得る権利:自分の医療記録や健康状態の情報を得る権利。本人の生命・健康に重大な危険をもたらすと信じるべき十分な理由がある場合などは例外となりうる。また、本人が望めば情報を知らされない権利もある。 8. 守秘義務に対する権利:患者の死後も含め、個人を特定できる情報の秘密が守られる。 9. 健康教育を受ける権利。 10. 尊厳を得る権利:尊厳とプライバシーの尊重、苦痛緩和、尊厳を保った安楽な死を迎えるためのあらゆる援助(人道的な終末期ケア)を受ける権利。 11. 宗教的支援を受ける権利:受けるか受けないかを選ぶ権利。

関連する医の倫理に関する宣言

・ジュネーブ宣言(1948年):ヒポクラテスの誓いを現代化した医師の誓い。 ・ヘルシンキ宣言(1964年):人を対象とする医学研究の倫理原則(インフォームド・コンセント、倫理審査委員会など)。 ・リスボン宣言(1981年):患者の権利。 ・ニュルンベルク綱領(1947年):ナチスの人体実験を受けて定められた研究倫理の原点。 ・アルマ・アタ宣言(1978年):プライマリヘルスケア(WHOとユニセフによる)。

POINT

・リスボン宣言=世界医師会による「患者の権利」の宣言(1981年採択、1995年大改訂)。 ・11原則:良質の医療、選択の自由(セカンドオピニオンを含む)、自己決定、意識のない患者、法的無能力の患者、意思に反する処置、情報、守秘、健康教育、尊厳、宗教的支援。 ・自己決定権は認められるが、自殺企図で意識を失った患者には医師は常に救命に努める。 ・宗教的支援は「受ける/受けない」を選ぶ権利。 ・ジュネーブ宣言(医師の誓い)、ヘルシンキ宣言(臨床研究倫理)との区別が頻出。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。