StudyMed医師国家試験

長生きだけがゴールじゃない―「健康寿命」で読み解く健康づくり施策

第103回医師国家試験 C問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第103回 C問題 第1問

組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.生活習慣病予防 ―― 行動変容
  2. b.食事摂取基準 ―― 栄養所要量
  3. c.健康日本21 ―― 寿命の延伸
  4. d.健康増進法 ―― 受動喫煙の防止
  5. e.オタワ憲章 ―― ヘルスプロモーション

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、生活習慣病の予防と健康づくりに関わる施策や理念を、キーワードとの組合せで問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、一つずつ対応関係を確かめていこう。特に、施策が掲げる目標を正確に覚えているかがカギになる。
医学生医学生
公衆衛生の講義で出てきた用語ばかりですが、どれも何となく正しそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのが、この手の問題の難しさだね。まずは歴史の流れで整理すると覚えやすい。出発点は1986年にWHOの会議で採択されたオタワ憲章だ。これが掲げた理念は何だったかな。
医学生医学生
ヘルスプロモーションですよね。CBTの勉強で、アルマ・アタ宣言のプライマリヘルスケアと混同しないよう注意した記憶があります。
ドクタードクター
よく区別できているね。アルマ・アタ宣言は1978年で、地域で誰もが受けられる基本的な保健医療を重視した。一方オタワ憲章は、ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義し、個人の努力だけでなく、健康を支える環境や政策づくりまで含めた。だからオタワ憲章とヘルスプロモーションの組合せは正しい。
医学生医学生
その理念を受けて日本で始まったのが健康日本21ですか。目標は寿命を延ばすこと……で合っていそうですが。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。健康日本21の目標は単なる寿命、つまり平均寿命の延伸ではなく「健康寿命」の延伸だ。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく暮らせる期間のことをいう。
医学生医学生
寿命が延びても、寝たきりの期間が長くなっては意味がない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。平均寿命と健康寿命の差が「日常生活に制限のある期間」で、ここを縮めて生活の質を高めることが重視されている。2013年度からの第二次では「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が最上位の目標とされ、2024年度からの第三次でもこの2つが全体目標として引き継がれている。だから健康日本21と寿命の延伸の組合せが誤りで、これが正解だ。
医学生医学生
では健康増進法と受動喫煙の防止はどうでしょう。病院実習で敷地内禁煙の掲示をよく見かけました。
ドクタードクター
正しい組合せだ。健康増進法は2002年に制定され、健康日本21の法的な裏付けになった法律で、当初から多数の人が利用する施設の管理者に受動喫煙防止の努力義務を課していた。2018年の改正で原則屋内禁煙となり、罰則付きの義務へ強化されている。国民健康・栄養調査の実施もこの法律に基づくよ。
医学生医学生
食事摂取基準と栄養所要量は、別物のような気がして迷いました。
ドクタードクター
実は同じ流れの上にあるんだ。以前は「日本人の栄養所要量」と呼ばれていたものが、2005年版から「日本人の食事摂取基準」に改められた。欠乏を防ぐだけでなく、過剰摂取による健康障害や生活習慣病の予防まで考えるようになったのが大きな違いだ。後継の関係だから、この組合せも正しい。
医学生医学生
生活習慣病予防と行動変容は、食事や運動の習慣を変えることが予防の中心だから正しい、という理解でいいですか。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。生活習慣病は日々の生活習慣が発症に深く関わるから、本人が行動を望ましい方向へ変えることが要になる。特定保健指導では、無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期という行動変容ステージに合わせて支援の仕方を変えるんだ。
医学生医学生
無関心期の人にいきなり運動メニューを渡しても響かない、ということですね。総合診療科の外来で、先生がまず患者さんの考えを聞いていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい観察だね。臨床では、正しい知識を伝えるだけでは行動は変わらない。相手が今どのステージにいるかを見極め、関心を引き出すところから始めることが大切だ。施策の理念も、目の前の患者さんへの関わり方も、根っこは「健康に自立して暮らせる期間をどう延ばすか」でつながっているんだよ。

まとめ

健康日本21の目標は平均寿命ではなく「健康寿命」の延伸であり、第二次以降は健康格差の縮小とともに全体目標に掲げられているため、「健康日本21―寿命の延伸」の組合せが誤りです。オタワ憲章(1986年)はヘルスプロモーションの理念を示し、これを受けて健康日本21が始まり、その法的根拠として健康増進法が制定され、受動喫煙の防止も定められました。食事摂取基準は旧栄養所要量を2005年版から改めたもので、生活習慣病予防の要は行動変容ステージに応じた支援です。施策を年代と理念の流れで整理しておくと、公衆衛生の用語問題に強くなるだけでなく、患者さんの生活習慣への介入を考える際の土台にもなります。

解答・解説

正解はcです

問われているテーマ

生活習慣病の予防と健康づくりに関する、日本の施策・法律と国際的な理念の基本用語を組み合わせで問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、各組合せが正しく対応しているかを一つずつ確認し、対応していないものを選ぶ。

正解を導く考え方

健康づくり施策の流れは次のように整理できる。 ・1986年、WHO(世界保健機関)の第1回ヘルスプロモーション国際会議でオタワ憲章が採択され、「ヘルスプロモーション」の理念が示された。 ・日本ではこれを踏まえ、2000年に「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」が始まった。一次予防(病気にならないようにすること)を重視し、目標は健康寿命の延伸と生活の質の向上である。 ・2002年に健康日本21を法的に裏付ける健康増進法が制定された(2003年施行)。受動喫煙の防止もこの法律に盛り込まれている。 この流れの中で最も誤りやすいのが、健康日本21の目標である。単に長生きすること(平均寿命の延伸)ではなく、介護を必要とせず自立して健康に暮らせる期間である「健康寿命」を延ばすことが目標とされている点を押さえていれば、正解にたどり着ける。

選択肢考察

  1. ×a.  生活習慣病予防 ―― 行動変容

    正しい組合せである。生活習慣病(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満など)は、食事、運動、喫煙、飲酒、休養といった日々の生活習慣が発症と進行に深く関わる。したがって予防の中心は、本人が生活習慣という「行動」を望ましい方向へ変えること(行動変容)である。特定保健指導でも、対象者が自ら行動を変えられるよう、行動変容ステージ(無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期)に合わせた支援が行われる。

  2. ×b.  食事摂取基準 ―― 栄養所要量

    正しい組合せである。国民が健康を保つために摂取すべきエネルギーや栄養素の量を示す基準は、第6次改定まで「日本人の栄養所要量」と呼ばれていた。2005年版から、欠乏の予防だけでなく過剰摂取による健康障害や生活習慣病の予防も考慮した「日本人の食事摂取基準」に名称と考え方が改められた。つまり食事摂取基準は栄養所要量の後継であり、両者は対応している。現在は推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量、目標量などの指標で示され、5年ごとに改定される。

  3. ○c.  健康日本21 ―― 寿命の延伸

    誤った組合せであり、これが正解である。健康日本21が掲げる目標は、単なる寿命(平均寿命)の延伸ではなく「健康寿命の延伸」である。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間をいい、平均寿命との差が「日常生活に制限のある期間」となる。この差を縮め、生活の質(QOL)を高めることが重視されている。健康日本21(第二次、2013年度〜)では「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が最上位の目標とされ、2024年度からの健康日本21(第三次)でもこの2つが全体目標として引き継がれている。

  4. ×d.  健康増進法 ―― 受動喫煙の防止

    正しい組合せである。健康増進法は2002年に制定され、制定当初から、学校、病院、飲食店など多数の者が利用する施設の管理者に受動喫煙を防止する措置を講じる努力義務を定めていた。その後2018年の改正(2020年4月全面施行)で、望まない受動喫煙を防ぐために多数の者が利用する施設を原則屋内禁煙とし、違反者への罰則も設けるなど、努力義務から義務へと強化された。このほか同法は、国民健康・栄養調査の実施や健康日本21の法的根拠なども定めている。

  5. ×e.  オタワ憲章 ―― ヘルスプロモーション

    正しい組合せである。オタワ憲章は、1986年にカナダのオタワで開かれたWHO主催の第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択された。ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義し、個人の努力だけでなく、健康を支える環境づくりや政策づくりを重視した。現在の健康づくり施策の理念的な基盤となっている。

オタワ憲章(1986年)の5つの活動領域

(1) 健康的な公共政策づくり、(2) 健康を支援する環境づくり、(3) 地域活動の強化、(4) 個人技術の開発、(5) ヘルスサービスの方向転換。 これに先立つ1978年のアルマ・アタ宣言は、プライマリヘルスケア(地域で誰もが受けられる基本的な保健医療)の理念を示したものであり、区別して覚える。

日本の健康づくり施策の流れ

・第1次国民健康づくり対策(1978年〜)、第2次(アクティブ80ヘルスプラン、1988年〜)。 ・第3次:健康日本21(2000年〜)。一次予防の重視、健康寿命の延伸、生活の質の向上を掲げ、栄養・食生活、身体活動・運動、休養・こころの健康づくり、たばこ、アルコール、歯の健康、糖尿病、循環器病、がんの9分野で具体的な数値目標を設定した。 ・健康日本21(第二次、2013年度〜):健康寿命の延伸と健康格差の縮小を最上位目標とした。 ・健康日本21(第三次、2024年度〜):「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」をビジョンとし、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を引き続き全体目標とする。

健康増進法(2002年制定)の主な内容

健康日本21の法的根拠(基本方針の策定、都道府県・市町村の健康増進計画)、国民健康・栄養調査の実施、保健指導、特定給食施設の栄養管理、受動喫煙の防止、特別用途食品の表示など。

行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル)

無関心期(6か月以内に行動を変える気がない)→関心期(6か月以内に変えるつもりがある)→準備期(1か月以内に変えるつもりがある)→実行期(行動を変えて6か月未満)→維持期(6か月以上継続)。ステージに応じて働きかけの内容を変えることが効果的とされる。

POINT

・健康日本21の目標は「平均寿命」ではなく「健康寿命」の延伸(第二次以降は健康格差の縮小も)。 ・食事摂取基準は旧「栄養所要量」(2005年版から改称、過剰摂取にも配慮)。 ・健康増進法(2002年):健康日本21の法的根拠、国民健康・栄養調査、受動喫煙の防止(2018年改正で義務化・罰則付き)。 ・オタワ憲章(1986年)=ヘルスプロモーション、アルマ・アタ宣言(1978年)=プライマリヘルスケア。 ・生活習慣病予防の要は行動変容。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。