StudyMed医師国家試験

高齢者の呼吸数は増える?減る?―老化は「安静時」ではなく「予備能」に現れる

第103回医師国家試験 B問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第103回 B問題 第6問

20~40歳健常者と比較した65歳以上健常者の呼吸数で正しいのはどれか。

  1. a.約40%多い。
  2. b.約20%多い。
  3. c.ほぼ同じ。
  4. d.約20%少ない。
  5. e.約40%少ない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、加齢で安静時の呼吸数がどう変わるかを問う問題だ。考えるうえでの鍵は、生理的老化が「安静時の値」に現れるのか、それとも「負荷がかかったときの余力」に現れるのか、という視点だよ。直感ではどう思う?
医学生医学生
加齢で肺活量が落ちると習ったので、その分を補うために呼吸数が増えるのではと思いました。
ドクタードクター
多くの人がそう考える、よくある落とし穴だね。結論から言うと、健常な高齢者の安静時呼吸数は20〜40歳の健常者とほぼ同じなんだ。成人の安静時呼吸数はおおむね12〜20回/分で、健常なら65歳以上でもこの範囲に収まる。
医学生医学生
でも、肺や呼吸筋の機能が落ちているのは確かですよね。それでも安静時は変わらないんですか。
ドクタードクター
そこが生理的老化のポイントだ。肺の弾性収縮力の低下、胸郭の硬化、呼吸筋力の低下は確かに起こる。けれど安静時の換気は代償されて保たれていて、差が出てくるのは運動、発熱、感染などの負荷がかかったとき。息切れしやすい、低酸素になりやすいといった「予備能の低下」という形で表面化するんだ。
医学生医学生
なるほど、普段は同じでも、いざというときの余力が少ないということですね。生理学の講義で腎機能も似た話を聞いた気がします。
ドクタードクター
よく結びつけたね。加齢による機能低下は多くの臓器で見られ、特に肺と腎臓で目立つとされる。どちらも安静時は保たれやすく、ストレスがかかると臓器不全に陥りやすい。では、20%や40%多いという選択肢は、数字で考えるとどうなるかな。
医学生医学生
若い人を16回/分とすると、40%増なら約22回/分で、正常範囲を超えてしまいます。
ドクタードクター
その通り。それはもう頻呼吸に相当する。20%増にしても、加齢だけで安静時の呼吸数をそこまで押し上げる変化は起こらない。高齢者で安静時の呼吸数が明らかに多ければ、老化と片付けずに肺炎、心不全、代謝性アシドーシスなどの病的な原因を疑うべきなんだ。
医学生医学生
逆に少ないという選択肢も、40%減だと約10回/分で徐呼吸になりますね。
ドクタードクター
そう。加齢で安静時呼吸数が減ることはない。高齢者で呼吸数が少ないときは、鎮静薬やオピオイドの影響、意識障害、CO2ナルコーシスなど呼吸中枢が抑制される病態を考える必要がある。
医学生医学生
増えても減っても「異常のサイン」として扱う、ということですね。
ドクタードクター
まさに。ここで加齢に伴う呼吸機能の変化を整理しておこう。残気量と機能的残気量は増え、肺活量、1秒量、1秒率は下がる。全肺気量はほぼ変わらない。末梢気道が閉じ始める肺気量、つまりクロージングボリュームが増えて換気血流比が不均等になるため、PaO2は年齢とともに下がるけれど、PaCO2はほぼ一定だ。
医学生医学生
PaO2は下がるのにPaCO2が変わらないのは、ガス交換の障害が酸素のほうに出やすいからでしょうか。
ドクタードクター
いい理解だね。CO2は拡散しやすく、換気で調整されやすいから保たれやすいんだ。さらに高齢者では、低酸素や高CO2に対する換気応答が鈍くなり、咳反射や嚥下反射、線毛運動も落ちるため誤嚥性肺炎を起こしやすい。
医学生医学生
総合診療科の実習で、高齢の肺炎の患者さんが熱もあまり出ず、呼吸数の増加だけがヒントだったと教わりました。
ドクタードクター
それはとても大事な臨床の感覚だよ。高齢者は症状が乏しいことが多いから、呼吸数は早期に異常を拾える貴重なバイタルサインなんだ。ちなみに安静時の心拍数も加齢で大きくは変わらないけれど、最大心拍数は下がり、収縮期血圧は動脈硬化で上がりやすい。安静時と負荷時、どちらの値の話かを意識して覚えておこう。

まとめ

健常な高齢者の安静時呼吸数は若年成人とほぼ同じで、成人の正常範囲であるおおむね12〜20回/分に収まります。生理的老化は安静時の値ではなく、運動や感染などの負荷時に現れる予備能の低下として表面化するのが特徴です。加齢により残気量は増え、肺活量・1秒量・PaO2は低下しますが、全肺気量とPaCO2はほぼ不変で、換気応答や咳・嚥下反射の低下から誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。高齢者で安静時の頻呼吸や徐呼吸がみられたら老化と片付けず、肺炎・心不全・代謝性アシドーシスや呼吸中枢の抑制を疑うことが、症状の乏しい高齢者を診るうえで欠かせない視点です。

解答・解説

正解はcです

問われていること

加齢に伴う呼吸機能の変化のうち、安静時の呼吸数がどう変わるかを問う問題である。

考え方

成人の安静時呼吸数はおおむね12〜20回/分であり、健常であれば20〜40歳でも65歳以上でもこの範囲に収まり、明らかな差はない。加齢によって肺や呼吸筋の機能は確かに低下するが、その変化は安静時の値にはほとんど現れず、「予備能(余力)の低下」という形をとるのが生理的老化の特徴である。つまり、運動・発熱・感染などの負荷が加わったときに初めて、若年者より呼吸数が大きく増える、息切れしやすい、低酸素血症に陥りやすいといった差が表面化する。 したがって、安静時の呼吸数は若年健常者とほぼ同じと考える。高齢者の安静時呼吸数が明らかに増えていれば、加齢による変化とみなさず、肺炎、心不全、代謝性アシドーシスなどの病的な原因を疑うべきである。

選択肢考察

  1. ×a.  約40%多い。

    健常高齢者の安静時呼吸数は若年成人とほぼ変わらず、40%も多くなることはない。若年者の呼吸数を16回/分とすると40%増は約22回/分となり、成人の正常範囲(12〜20回/分)を超える頻呼吸に相当する。高齢者でこのような値がみられる場合は、老化ではなく肺炎や心不全などの病態を考える。

  2. ×b.  約20%多い。

    加齢による呼吸機能の変化は予備能の低下として現れ、安静時の呼吸数を20%押し上げるような変化は生じない。高齢者で呼吸数が若年者より明らかに多くなるのは、主に運動などの負荷時である。

  3. ○c.  ほぼ同じ。

    健常であれば、65歳以上でも安静時呼吸数は成人の正常範囲(おおむね12〜20回/分)にあり、20〜40歳の健常者とほぼ同じである。加齢に伴い肺の弾性収縮力の低下、胸郭の硬化、呼吸筋力の低下などが起こるが、安静時の換気は代償されて保たれ、差が表面化するのは負荷時の予備能の低下としてである。

  4. ×d.  約20%少ない。

    加齢によって安静時呼吸数が減少することはない。健常高齢者の呼吸数は若年成人と同程度である。高齢者で呼吸数が少ない場合は、鎮静薬・オピオイドの影響、意識障害、CO2ナルコーシスなど、呼吸中枢の抑制をきたす病態を考慮する必要がある。

  5. ×e.  約40%少ない。

    40%少ないとすると、若年者を16回/分とした場合に約10回/分となり、成人の正常範囲を下回る徐呼吸に相当する。健常な高齢者にこのような生理的変化はみられない。

生理的老化の考え方

加齢による生理機能の低下は多くの臓器にみられ、特に肺と腎臓で顕著とされる。健常高齢者では安静時の値は若年者と大差ないことが多く、負荷がかかったときの予備能の低下として明らかになる。このため高齢者は、感染・脱水・手術などのストレスで容易に臓器不全に陥りやすい。

加齢に伴う呼吸機能の主な変化

・肺の弾性収縮力の低下(肺胞の拡大、老人肺) ・胸郭のコンプライアンス低下(肋軟骨の石灰化、脊柱の後弯)と呼吸筋力の低下 ・残気量・機能的残気量は増加し、肺活量・1秒量・1秒率は低下する。全肺気量はほぼ不変である。 ・クロージングボリューム(末梢気道が閉塞し始める肺気量)の増加により換気血流比の不均等が生じ、動脈血酸素分圧(PaO2)は加齢とともに低下する。一方、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)はほぼ不変である。 ・低酸素や高二酸化炭素に対する換気応答が鈍くなる。 ・咳嗽反射や嚥下反射の低下、線毛運動の低下により、誤嚥性肺炎を起こしやすい。

安静時のバイタルサインと加齢

呼吸数・心拍数は安静時には加齢による大きな変化がない。一方、最大心拍数は加齢とともに低下し(目安として220-年齢)、収縮期血圧は動脈硬化により上昇傾向を示す。

POINT

・健常高齢者の安静時呼吸数は若年成人とほぼ同じ(成人の正常はおおむね12〜20回/分)。 ・生理的老化は安静時の変化としてではなく、負荷時の予備能の低下として現れる。 ・加齢で残気量は増加し、肺活量・1秒量・PaO2は低下するが、全肺気量とPaCO2はほぼ不変である。 ・高齢者の頻呼吸は老化で片付けず、肺炎や心不全などの病態を疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。