授乳中はなぜ月経が来ない?―プロラクチンが握る産後の排卵スイッチ
第103回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
産褥無月経で正しいのはどれか。
- a.無排卵となる。
- b.授乳によって期間が延長する。
- c.ゴナドトロピン分泌の亢進による。
- d.血中オキシトシン濃度の上昇による。
- e.血中プロラクチン濃度の低下による。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
産褥無月経は分娩後にみられる生理的な無月経で、主な機序は乳児の吸啜刺激による高プロラクチン状態が視床下部のGnRHパルス分泌を抑え、LH・FSHの分泌と排卵を抑制することです。そのため授乳、とくに頻回の母乳授乳によって無月経の期間は延長し、プロラクチンは上昇・ゴナドトロピンは低下しています。オキシトシンは射乳と子宮復古を担うホルモンで、無月経の直接の原因ではありません。また、授乳中でも月経再開より先に排卵が戻ることがあるため「必ず無排卵」とはいえず、避妊指導ではLAMの3条件を正しく理解しておく必要があります。ホルモンの増減を一つずつ整理する姿勢は、Sheehan症候群など産後の内分泌異常を理解する土台にもなります。
解答・解説
正解はbです
産褥無月経とは、分娩後の産褥期から授乳期にかけてみられる生理的な無月経である。病的な状態ではなく、出産後に卵巣機能が回復するまでの過程で生じる。
なぜ月経が止まるのか
妊娠中は、胎盤から大量に分泌されるエストロゲンとプロゲステロンが視床下部・下垂体を強く抑制している。そのため、下垂体から分泌されるゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン: LH〔黄体形成ホルモン〕とFSH〔卵胞刺激ホルモン〕)は低いまま保たれる。分娩で胎盤が娩出されると、この抑制は解除され、ゴナドトロピン分泌は数週間かけて回復していく。 授乳をすると、乳児の乳頭吸啜(きゅうてつ: 乳首を吸う刺激)が神経反射を介して下垂体前葉からのプロラクチン分泌を促す。高プロラクチン状態は視床下部のGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)のパルス状分泌を抑える。その結果、LHのパルス状分泌やLHサージが起こりにくくなり、卵胞発育と排卵が抑えられる。これが授乳性無月経の本態である。
考え方
・原因はゴナドトロピンの「亢進」ではなく「低下」であり、プロラクチンは「低下」ではなく「上昇」している。 ・授乳を続けて頻回に吸啜刺激が加わるほど高プロラクチン状態が続くため、無月経の期間は長くなる。 ・無排卵のことが多いが、例外なく無排卵というわけではない。 これらを押さえれば正解が選べる。
選択肢考察
- ×a. 無排卵となる。
産褥無月経の期間は無排卵であることが多いが、必ずそうなるわけではない。授乳中でも、吸啜の回数が減ったり、夜間の授乳が間遠になったり、人工乳を併用したりすると、月経が再開する前に排卵が再開することがある。産後最初の排卵は月経より先に来ることがあるため、月経が戻っていないことは避妊の根拠として確実ではない。「無排卵となる」と断定したこの記述は誤りである。
- ○b. 授乳によって期間が延長する。
授乳すると、乳頭への吸啜刺激によってプロラクチン分泌が高い状態が続く。高プロラクチン状態はGnRHのパルス状分泌を抑え、その結果LH・FSHの分泌が抑えられるため、卵巣機能の回復が遅れる。非授乳婦では分娩後おおむね6〜8週で月経が再開することが多い。これに対し、授乳婦、特に母乳のみで育てている場合は、無月経が数か月から1年近く続くこともある。無月経の期間は授乳の有無と頻度によって大きく左右される。
- ×c. ゴナドトロピン分泌の亢進による。
妊娠中は、胎盤由来の高濃度のエストロゲン・プロゲステロンによるネガティブフィードバックで、ゴナドトロピン(LH・FSH)の分泌は抑制されている。分娩後はこの抑制が解除され、ゆっくり回復していく。授乳中は、高プロラクチン状態がGnRH分泌を抑えるため、ゴナドトロピンの低い状態がさらに続く。産褥無月経はゴナドトロピン分泌の低下によるものであり、亢進によるものではない。
- ×d. 血中オキシトシン濃度の上昇による。
オキシトシンは下垂体後葉から分泌されるホルモンである。授乳時の吸啜刺激で分泌が増え、乳腺の筋上皮細胞を収縮させて乳汁を押し出す(射乳反射)。同時に子宮筋を収縮させ、子宮復古(分娩後に子宮が妊娠前の大きさへ戻ること)を促進する。月経を止める直接の原因ホルモンではなく、産褥無月経の主な機序は高プロラクチン状態によるゴナドトロピン分泌の抑制である。
- ×e. 血中プロラクチン濃度の低下による。
プロラクチンは妊娠中から上昇している。授乳中は吸啜刺激のたびに分泌が高まり、高い値が維持される。この高プロラクチン状態がGnRH・ゴナドトロピン分泌を抑制して無月経をもたらす。したがって、原因はプロラクチンの低下ではなく上昇である。なお、授乳をしない場合、プロラクチンは分娩後数週で非妊時の値に戻り、それに伴って月経も早期に再開する。
授乳にかかわる2つのホルモン
・プロラクチン(下垂体前葉): 乳汁の産生を促す。視床下部のGnRH分泌を抑制し、排卵を抑える。分泌はドパミンによって抑制的に調節されている。 ・オキシトシン(下垂体後葉): 射乳を起こし、子宮を収縮させる(子宮復古の促進)。授乳中に後陣痛を感じやすいのはこの作用による。 どちらのホルモンも、乳児の吸啜刺激によって分泌が促される。
分娩後の月経・排卵の再開
・非授乳婦: 分娩後6〜8週ごろに月経が再開することが多い。排卵は早ければ分娩後3〜4週ごろに起こりうる。 ・授乳婦: 月経・排卵の再開は遅れる。ただし、最初の排卵が最初の月経より先に来ることがあるため、無月経であっても妊娠の可能性は否定できない。
授乳性無月経法(LAM: lactational amenorrhea method)
次の3条件をすべて満たすときに限り、授乳による避妊効果が高い(妊娠率はおよそ2%以下)とされる。 1) 分娩後6か月未満である 2) 母乳のみ、またはほぼ母乳のみで育てている(昼夜とも頻回に授乳している) 3) 月経が再開していない どれか一つでも満たさなくなった場合は、別の避妊法が必要になる。
関連病態
・Sheehan症候群: 分娩時の大量出血などで下垂体が壊死し、下垂体前葉機能が低下する病態。プロラクチン分泌が低下するため、授乳ができなくなることが初発症状になりやすい。無月経は長く続くが、授乳性の生理的無月経とは機序が異なる。 ・Chiari-Frommel症候群: 分娩後、授乳をやめてからも乳汁漏出と無月経が長く続く高プロラクチン血症の一型である。
POINT
・産褥無月経は生理的なもので、主な機序は授乳(吸啜刺激)による高プロラクチン状態でGnRH・ゴナドトロピン分泌が抑えられることである。 ・授乳によって無月経の期間は延長する。 ・プロラクチンは上昇しており、ゴナドトロピンは低下している。 ・オキシトシンは射乳と子宮復古を担い、無月経の直接の原因ではない。 ・無排卵のことが多いが、必ず無排卵とは限らない。月経より排卵が先に再開しうる。
