回旋は少し気になる、でも分娩は順調―パルトグラムで「待つ」根拠を読む
第120回医師国家試験 E問題 第38問
国試問題にチャレンジ
28歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠40週3日の午前5時,10分間隔の規則的な有痛性の子宮収縮を自覚し,次第に増強したため午前7時に来院した。これまでの妊娠経過に異常を認めない。腟鏡診で少量の血性粘液を認めた。BTB紙は青変しなかった。入院管理とし経過を観察した。分娩経過に関するパルトグラムを下に示す。胎児心拍数陣痛図で,胎児心拍数基線は150bpm,基線細変動は中等度,一過性頻脈を認め,一過性徐脈を認めなかった。 午後5時の時点で適切な対応はどれか。

- a.吸引分娩
- b.経過観察
- c.人工破膜
- d.緊急帝王切開
- e.子宮収縮薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
パルトグラムの評価では、陣痛の強さ、子宮口開大度、児頭下降度、回旋、胎児の状態を総合して介入の要否を判断します。本例は初産婦で分娩開始から12時間、子宮口9cm、陣痛は周期約2分・持続約50秒と有効で、CTGも基線正常・細変動中等度・一過性頻脈あり・一過性徐脈なしと良好です。児頭の下降に内回旋が伴わず矢状縫合が横向きのままで、低在横定位の傾向がありますが、回旋異常だけでは急速遂娩の適応にならず、体位の工夫で回旋を促しながら分娩監視を続ける経過観察が適切です。吸引分娩は子宮口全開大・既破水・十分な児頭下降が前提であり、子宮収縮薬や人工破膜も必要性がなければリスクが上回ります。胎児機能不全や分娩停止が出現した時点で急速遂娩を考えるという判断の軸は、分娩管理の基本として重要です。
解答・解説
正解はbです
問題文の要旨
28歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠40週3日の午前5時に、10分間隔の規則的で痛みを伴う子宮収縮が始まり、次第に強くなったため午前7時に来院した。これまでの妊娠経過に異常はない。腟鏡診で少量の血性粘液がみられ、BTB紙は青く変色しなかった。入院して経過をみた。パルトグラム(分娩経過を時刻ごとに記録した図)が示され、胎児心拍数陣痛図(CTG)は基線150bpm、基線細変動中等度、一過性頻脈あり、一過性徐脈なしである。午後5時の時点での適切な対応が問われている。
病歴からわかること
・妊娠40週3日:正期産(37週0日~41週6日)である。 ・10分間隔の規則的な有痛性子宮収縮:陣痛の周期が10分以内(または1時間に6回以上)になった時点を分娩開始とするため、午前5時が分娩開始時刻になる。 ・少量の血性粘液:産徴(いわゆる「おしるし」)である。子宮頸部が開き始めて卵膜が子宮壁から少しはがれることで起こる少量の出血と、頸管の粘液栓が出てきたものである。 ・BTB紙が青変しない:BTB(ブロモチモールブルー)試験紙は、アルカリ性の羊水に触れると青く変わる。青変しないことから、破水していない(未破水)と判断する。
パルトグラムの読み取り
・陣痛:周期は来院時の約10分から17時には約2分に短くなり、持続時間も約20秒から約50秒に延びた。陣痛は時間とともに順調に強まっている。 ・子宮口開大度:7時~11時は2cmで、13時3cm、15時4cm、16時6cm、17時9cmと進んだ。15時以降は1時間あたり約2~3cmのペースで開いており、活動期として順調な進み方である。 ・児頭下降度(station):13時までは-3で、15時-2、16時-1、17時+1と、子宮口の開大に合わせて下がってきている。 ・回旋(矢状縫合の向き):7時(station-3)はほぼ縦向き(母体の前後方向)、9時は斜め、11時以降は横向き(母体の左右方向)となり、その後stationが-3から+1まで下降した17時まで横向きのまま変化していない。
回旋の評価
正常な頭位分娩では、児頭は矢状縫合を横向き(骨盤入口の横径に一致)にして骨盤に進入し、骨盤内を下降するにつれて第2回旋(内回旋)を行い、矢状縫合は斜め→縦向き(前後径)へと変わっていく。つまり、児頭の下降と内回旋は並行して進むのが本来の姿である。本例では児頭が-3から+1まで下降したにもかかわらず、矢状縫合は横向きのままで、内回旋が始まっている所見がない。下降に回旋が伴っていないこのパターンは回旋異常であり、このまま骨盤底まで下降しても横向きであれば低在横定位となる。現時点で低在横定位(あるいはその疑い)として扱うのが妥当な読み方である。
胎児の状態
CTGは、基線150bpm(正常範囲110~160bpm)、基線細変動中等度(6~25bpm)、一過性頻脈あり、一過性徐脈なしで、胎児の状態は良好(reassuring fetal status)と判断できる。
総合判断と設問の考え方
午後5時は分娩開始から12時間後で、子宮口9cm開大の分娩第1期の終わり近くにある。回旋異常(低在横定位の疑い)はあるものの、陣痛は十分に強く、子宮口の開大と児頭の下降は順調で、胎児の状態も良好である。回旋異常そのものは直ちに急速遂娩(吸引分娩・鉗子分娩・帝王切開)の適応にはならず、急速遂娩が必要になるのは胎児機能不全が出現した場合や、分娩が停止・遷延した場合である。したがって、まずは母体の体位を工夫して(児の後頭側を下にした側臥位など)自然な内回旋を促しながら、CTGによる分娩監視を続けて経過を観察するのが適切である。陣痛促進や人工破膜を行う理由もない。
選択肢考察
- ×a. 吸引分娩
誤り。吸引分娩は、分娩第2期の遷延・停止や胎児機能不全などで急いで児を娩出させる必要があるときの急速遂娩法である。原則として、子宮口全開大、破水している、児頭が十分に下降している(station+2以下が目安)、児頭骨盤不均衡(CPD)がない、といった条件を満たす必要がある。本例は子宮口9cmで全開大に至っておらず、未破水で、児頭は+1にとどまる。回旋異常(低在横定位の疑い)はあるが、胎児機能不全も分娩停止もないため、適応も条件も満たさない。
- ○b. 経過観察
正しい。パルトグラムでは、矢状縫合が11時以降横向きのまま、児頭がstation-3から+1まで下降しており、内回旋が進んでいない回旋異常(低在横定位の疑い)がみられる。しかし、分娩開始から12時間で子宮口は9cmまで開大し、15時以降の開大速度も十分で、陣痛は周期約2分・持続約50秒と有効である。CTGも胎児の状態が良好であることを示している。胎児機能不全も分娩停止もない以上、急速遂娩を行う根拠はない。児の後頭側を下にした側臥位をとらせるなど体位の工夫で自然な内回旋を促しつつ、CTGと母体のバイタルサインで分娩監視を続けて経過を観察するのが適切である。
- ×c. 人工破膜
誤り。人工破膜は、陣痛を強めて分娩を進める目的などで行われることがあるが、分娩が順調に進んでいる場合に日常的に行っても分娩第1期を明らかに短くする効果は乏しいとされる。逆に、臍帯脱出・感染・胎児心拍数異常などのリスクがある。本例は陣痛が十分で分娩も順調に進んでいるため、現時点で行う必要はない。未破水のまま子宮口が全開大した場合には、その時点で人工破膜を検討する。
- ×d. 緊急帝王切開
誤り。緊急帝王切開の主な適応は、胎児機能不全(CTGで高度の一過性徐脈や基線細変動の消失など)、分娩停止、CPD、常位胎盤早期剝離や臍帯脱出などである。本例はCTG所見が良好で、分娩も止まっておらず順調に進んでいる。回旋異常があるというだけでは帝王切開の適応にならない。また、日本の定義では初産婦で分娩開始から30時間(経産婦では15時間)を過ぎても児が娩出されない場合を遷延分娩とするが、本例は分娩開始から12時間であり、これにも当たらない。
- ×e. 子宮収縮薬投与
誤り。オキシトシンなどの子宮収縮薬は、微弱陣痛で分娩が進まないときに陣痛を強める目的で使う。本例の17時の陣痛は周期約2分・持続約50秒である。子宮口9cm以降での微弱陣痛の目安(周期4分以上、持続30秒以内)に当たらず、分娩も順調に進んでいるため投与の必要はない。必要のない子宮収縮薬投与は、過強陣痛・胎児機能不全・子宮破裂などの危険を高める。
分娩の時期区分
・分娩第1期(開口期):分娩開始(陣痛周期10分以内または1時間に6回以上)から子宮口全開大(10cm)まで。開大が緩やかな潜伏期と、急速に開大する活動期に分かれる。 ・分娩第2期(娩出期):子宮口全開大から児娩出まで。 ・分娩第3期(後産期):児娩出から胎盤娩出まで。 ・遷延分娩:分娩開始後、初産婦で30時間、経産婦で15時間を過ぎても児娩出に至らないもの(日本産科婦人科学会の定義)。
パルトグラムの見方
時刻ごとに、陣痛(周期・持続時間)、子宮口開大度、児頭下降度(坐骨棘を結ぶ線を0とし、その上を-、下を+とするcm単位のstation)、矢状縫合と泉門の向きを記録する。子宮口開大度と児頭下降度は交差しながら進むのが典型的な経過である。回旋の欄では、児頭の下降に伴って矢状縫合が横向き→斜め→縦向きへと変わっていくかを確認する。下降しているのに向きが変わらない場合は回旋異常を考える。
正常な胎児の回旋(後頭位の頭位分娩)
・第1回旋(屈曲):児頭が顎を胸につけるように屈曲し、小泉門が先進する。矢状縫合は骨盤入口の横径に一致する(横向き)。 ・第2回旋(内回旋):骨盤内を下降しながら、後頭部が母体の前方(恥骨側)に向くよう回旋し、骨盤出口では矢状縫合が前後径に一致する(縦向き)。 ・第3回旋(伸展):児頭が恥骨結合下を支点にして反屈し、娩出される。 ・第4回旋(外回旋):娩出後、児頭が母体の側方を向き、肩甲が骨盤出口の前後径に一致する。
回旋異常の例
・低在横定位:児頭が骨盤底近くまで下降したのに、矢状縫合が横向きのまま内回旋しないもの。分娩停止の原因となりうる。 ・高在縦定位:骨盤入口の段階で矢状縫合が縦向き(前後方向)になっているもの。 ・後方後頭位:内回旋で後頭部が母体の後方を向いたもの。
回旋異常への対応の考え方
・胎児機能不全がなく分娩が進行していれば、まず体位変換(児の後頭側を下にした側臥位など)で自然な回旋を促し、経過を観察する。 ・子宮口全開大後に分娩が停止・遷延した場合や胎児機能不全が出現した場合には、条件を満たせば吸引分娩・鉗子分娩、満たさなければ帝王切開を選択する。
CTGで胎児の状態が良好と判断できる所見
・心拍数基線が正常範囲(110~160bpm) ・基線細変動が中等度(6~25bpm) ・一過性頻脈がある ・一過性徐脈がない
急速遂娩(吸引分娩・鉗子分娩)の主な条件
子宮口全開大、既破水、児頭の十分な下降(station+2以下が目安)、CPDがないこと、妊娠週数がおおむね34週以上(吸引分娩)など。
POINT
・児頭は骨盤内を下降しながら内回旋し、矢状縫合は横向きから縦向きへ変わる。横向きのまま低位まで下降していれば回旋異常(低在横定位)を疑う。 ・回旋異常があっても、胎児機能不全がなく分娩が進行していれば急速遂娩は不要であり、体位の工夫(児の後頭側を下にした側臥位など)で回旋を促しつつ経過観察する。 ・分娩開始は陣痛周期10分以内(または1時間に6回)になった時点である。 ・BTB紙が青変しなければ未破水、少量の血性粘液は産徴である。 ・CTGで基線110~160bpm・細変動中等度・一過性頻脈あり・一過性徐脈なしなら、胎児の状態は良好(reassuring)である。 ・吸引分娩には子宮口全開大・既破水・十分な児頭下降が必要である。 ・遷延分娩は初産婦30時間、経産婦15時間が目安である。
