好中球は万能じゃない―病原体ごとに異なる「守りの主役」を見極める
第103回医師国家試験 B問題 第26問
国試問題にチャレンジ
食細胞の機能がその感染に影響を与えないのはどれか。
- a.原虫
- b.真菌
- c.細菌
- d.リケッチア
- e.ウイルス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
食細胞である好中球やマクロファージは、細胞外で増える細菌や真菌の貪食・殺菌の中心であり、原虫やリケッチアなどの細胞内寄生体に対してもIFN-γで活性化されたマクロファージが防御の要となります。一方、ウイルスは宿主細胞内で増殖するため、防御の主役はNK細胞・細胞傷害性T細胞、中和抗体、I型インターフェロンであり、好中球減少症や慢性肉芽腫症ではウイルス感染は特に増えません。厳密には食細胞も抗原提示などでウイルス防御に関与しますが、感染しやすさを大きく左右するのはT細胞の機能です。免疫不全の種類(食細胞・液性・細胞性・補体)とかかりやすい病原体を対応づけて理解しておくと、日和見感染の予測や発熱時の初期対応に直結します。
解答・解説
正解はeです
本問は、病原体の種類ごとに、主にどの免疫機構が防御を担っているかを問う問題である。
食細胞とは
食細胞(phagocyte)は、異物や微生物を細胞内に取り込み(貪食)、消化・殺菌する細胞の総称である。主なものは好中球、単球・マクロファージ、樹状細胞である。好中球とマクロファージは、殺菌の担い手である。貪食した微生物を、活性酸素(NADPHオキシダーゼが産生するスーパーオキシドなど)、ミエロペルオキシダーゼ、リソソーム酵素などで分解する。マクロファージと樹状細胞は、取り込んだ抗原をT細胞に提示し、獲得免疫を始動させる役割ももつ。
病原体の種類と主な防御機構
・細胞外で増える細菌・真菌: 好中球による貪食・殺菌が防御の中心である。抗体や補体は、病原体に結合して貪食されやすくする(オプソニン化)。 ・細胞内に寄生する細菌、原虫、リケッチア: マクロファージの内部や感染細胞の中で増える。ヘルパーT細胞(Th1)が産生するインターフェロンγ(IFN-γ)でマクロファージが活性化され、殺菌能が高まることが防御の要となる。感染細胞や病原体の処理にも食細胞がかかわる。 ・ウイルス: 宿主細胞の中に入り込み、細胞の仕組みを使って増殖する。防御の主役は次のものである。 1) 感染細胞を破壊するNK細胞(ナチュラルキラー細胞)と細胞傷害性T細胞(CTL、CD8陽性T細胞) 2) ウイルス粒子を中和する抗体 3) 細胞内でのウイルス複製を抑えるⅠ型インターフェロン(IFN-α・β)
臨床的な裏付け
好中球減少症(がん化学療法後など)や慢性肉芽腫症(食細胞の殺菌機能の先天的な異常)では、細菌・真菌感染が重症化・反復しやすい。一方、ウイルス感染が特に増えることはない。ウイルス感染が問題になるのは、AIDSや移植後の免疫抑制など、リンパ球(特にT細胞)の機能が低下した状態である。 したがって、選択肢のなかで食細胞の機能が感染にかかわらないと考えられているのはウイルスである。 厳密にいえば、マクロファージや樹状細胞はウイルス抗原をT細胞に提示し、インターフェロンも産生する。そのため、ウイルス感染にまったく無関係というわけではない。本問は、ウイルス感染の防御の主体はリンパ球であり、食細胞の機能異常によって感染しやすさが大きく変わることはない、という趣旨で理解するとよい。
選択肢考察
- ×a. 原虫
トキソプラズマ、リーシュマニア、マラリア原虫などの原虫は、マクロファージの中や宿主細胞の中に寄生するものが多い。これらに対しては、IFN-γで活性化されたマクロファージが病原体を殺すことが防御の中心となる。また、原虫の感染細胞や、感染した赤血球(マラリア)は、脾臓などのマクロファージによって貪食・処理される。このように食細胞の機能は原虫感染の成立と経過に大きく影響する。
- ×b. 真菌
カンジダやアスペルギルスなどの真菌に対しては、好中球とマクロファージによる貪食・殺菌が防御の中心である。がん化学療法や造血幹細胞移植後に好中球が減った時期には、侵襲性アスペルギルス症やカンジダ血症が起こりやすい。発熱性好中球減少症では抗真菌薬による対応が考慮される。慢性肉芽腫症でもアスペルギルス感染が問題となる。このように食細胞の機能は真菌感染に強く影響する。
- ×c. 細菌
細菌、特に細胞外で増える化膿菌(黄色ブドウ球菌、緑膿菌など)に対しては、好中球による貪食・殺菌が最も重要な防御機構である。好中球が減った状態や、慢性肉芽腫症(NADPHオキシダーゼの異常でカタラーゼ陽性菌を殺菌できない)では、重症の細菌感染を繰り返す。結核菌などの細胞内寄生菌に対しても、活性化マクロファージが防御の中心となる。このように食細胞の機能は細菌感染に大きく影響する。
- ×d. リケッチア
リケッチア(つつが虫病の原因となるオリエンチア・ツツガムシ、日本紅斑熱リケッチアなど)は、偏性細胞内寄生性の細菌である。主に血管内皮細胞やマクロファージの中で増殖する。防御には、IFN-γなどで活性化されたマクロファージによる殺菌と、感染細胞の処理が重要である。したがって、食細胞の機能はリケッチア感染にも影響する。
- ○e. ウイルス
ウイルスは細胞の中でしか増殖できない。防御の中心は次の3つである。 1) 感染細胞を破壊するNK細胞と細胞傷害性T細胞(細胞性免疫) 2) ウイルスを中和する抗体(液性免疫) 3) ウイルスの複製を抑えるⅠ型インターフェロン 好中球減少症や慢性肉芽腫症などの食細胞機能異常では、ウイルス感染症は特に増えない。ウイルス感染が問題となるのは、AIDSや臓器移植後など、T細胞の機能が低下した状態である(サイトメガロウイルス、帯状疱疹ウイルスの再活性化など)。したがって、選択肢のなかで食細胞の機能が感染に影響しないとされるのはウイルスである。
免疫不全の種類と感染しやすい病原体
・好中球減少・食細胞機能異常(化学療法後、慢性肉芽腫症など): 細菌(ブドウ球菌、緑膿菌などのグラム陰性桿菌)、真菌(カンジダ、アスペルギルス)。 ・液性免疫不全(低γグロブリン血症、脾摘後など): 莢膜をもつ細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌)。 ・細胞性免疫不全(AIDS、ステロイド・免疫抑制薬の使用、移植後など): ウイルス(サイトメガロウイルス、ヘルペス属)、細胞内寄生菌(結核菌、非結核性抗酸菌、リステリア)、真菌(ニューモシスチス、クリプトコックス)、原虫(トキソプラズマ)。 ・補体欠損: 後期成分(C5〜C9)の欠損ではナイセリア属(髄膜炎菌)に感染しやすい。
慢性肉芽腫症(CGD)
NADPHオキシダーゼの遺伝子異常により、食細胞が活性酸素を作れない。そのため、貪食した菌を殺菌できない。多くはX連鎖劣性遺伝(gp91phox遺伝子の異常)である。カタラーゼを産生する菌(黄色ブドウ球菌、セラチア、アスペルギルスなど)の感染を反復する。診断にはNBT還元試験やDHR(ジヒドロローダミン)試験が用いられる。
自然免疫と獲得免疫
・自然免疫: 食細胞(好中球・マクロファージ・樹状細胞)、NK細胞、補体、インターフェロンなど。病原体に共通する構造を認識し、すぐに反応する。 ・獲得免疫: T細胞・B細胞による抗原特異的な反応で、記憶が成立する。マクロファージ・樹状細胞による抗原提示が、獲得免疫の起点となる。
POINT
・食細胞(好中球、マクロファージ)は細菌・真菌の防御の中心であり、原虫・リケッチアなど細胞内寄生体の処理にもかかわる。 ・ウイルスの防御の主役は、NK細胞・細胞傷害性T細胞、中和抗体、インターフェロンである。 ・好中球減少症と慢性肉芽腫症では細菌・真菌感染が増える。ウイルス感染が増えるのは細胞性免疫不全(AIDSなど)である。
