カテーテルで「治せる病気」と「触れてはいけない病変」―IVRの適応を見極める
第103回医師国家試験 B問題 第22問
国試問題にチャレンジ
インターベンショナルラジオロジー〈IVR〉による心血管系治療の適応でないのはどれか。
- a.狭心症
- b.WPW症候群
- c.急性心筋梗塞
- d.左心房内血栓
- e.腹部大動脈瘤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
IVRは画像誘導下にカテーテルや針を用いて行う低侵襲治療で、心血管系では狭心症や急性心筋梗塞に対するPCI、WPW症候群に対するカテーテルアブレーション、腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(EVAR)が代表的な適応です。一方、左心房内血栓はカテーテル操作で血栓が遊離し脳梗塞などの全身性塞栓症を起こす危険が高く、治療の基本は抗凝固療法であるため、IVRの適応にはなりません。心房細動アブレーションや左心耳閉鎖術、経皮的僧帽弁交連切開術の前には経食道心エコーで左房内血栓の有無を確認し、血栓があれば手技を延期します。IVRの適応を学ぶ際は「カテーテルで治せる病態」と「カテーテル操作が危険になる病態」を対にして理解することが、安全な治療選択につながります。
解答・解説
正解はdです
インターベンショナルラジオロジー(IVR:interventional radiology)とは、X線透視・CT・超音波などの画像で体内を観察しながら、カテーテルや針を血管内・体内に進めて行う低侵襲治療の総称である。開胸・開腹を避けられるため、入院期間の短縮や高齢者・合併症の多い患者への適用拡大という利点がある。 心血管系の代表的なIVRには次のようなものがある。 ・冠動脈の狭窄・閉塞に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI:percutaneous coronary intervention):バルーン拡張、ステント留置など ・不整脈に対するカテーテルアブレーション:異常な電気の通り道や興奮の起源を高周波通電などで焼灼する ・大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(腹部ではEVAR、胸部ではTEVAR) ・そのほか、末梢動脈疾患に対する血管形成術、弁膜症に対する経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)など 本問は「適応でないもの」を選ぶ否定形の設問である。狭心症・急性心筋梗塞(PCI)、WPW症候群(アブレーション)、腹部大動脈瘤(ステントグラフト)はいずれも確立したIVRの対象である。一方、左心房内血栓はカテーテル操作で血栓を飛ばして脳塞栓などを起こす危険があるため、治療の基本は抗凝固療法であり、IVRの適応にはならない。むしろ左房内血栓はカテーテル手技を避けるべき状況の代表である。
選択肢考察
- ×a. 狭心症
IVRの適応である。狭心症の原因となる冠動脈の有意狭窄に対し、手首(橈骨動脈)や鼠径部(大腿動脈)からカテーテルを挿入し、バルーンで狭窄部を広げたうえで、多くは薬剤溶出性ステントを留置する(PCI)。薬物療法で症状が抑えられない例や、負荷試験で虚血が証明された例などが対象となる。なお、左主幹部病変や多枝病変では冠動脈バイパス術(CABG)が選択されることもある。
- ×b. WPW症候群
IVRの適応である。WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群は、心房と心室をつなぐ副伝導路(Kent束)が存在し、房室回帰性頻拍や、心房細動時の偽性心室頻拍(副伝導路を介した極めて速い心室応答で、心室細動に移行しうる)を起こす。カテーテルアブレーションで副伝導路を焼灼すると高い確率で根治できるため、症候性のWPW症候群では第一選択の治療となっている。薬物療法としてはIa群・Ic群の抗不整脈薬が用いられる。
- ×c. 急性心筋梗塞
IVRの適応である。急性心筋梗塞では、閉塞した冠動脈をできるだけ早く再開通させること(再灌流療法)が救命と心機能の温存に直結する。現在はカテーテルによる緊急PCI(primary PCI)が再灌流療法の中心で、ST上昇型心筋梗塞では病院到着からバルーン拡張・再灌流までを90分以内とすることが目標とされる。血栓吸引カテーテルが併用されることもある。
- ○d. 左心房内血栓
IVRの適応ではないため、本問の正解である。左房内血栓は心房細動や僧帽弁狭窄症で左房、とくに左心耳の血流がよどむことで生じる。カテーテルで触れると血栓がはがれて脳梗塞などの全身性塞栓症を起こす危険が高く、カテーテルで血栓を取り除く確立した治療法はない。治療の基本はワルファリンなどの抗凝固薬による血栓の溶解・増大防止であり、巨大な可動性血栓や僧帽弁手術を要する例では開心術による摘除が考慮される。心房細動に対するアブレーションや左心耳閉鎖術の前には経食道心エコーで左房内血栓がないことを確認し、血栓があれば手技を延期する。
- ×e. 腹部大動脈瘤
IVRの適応である。腹部大動脈瘤に対しては、従来の開腹による人工血管置換術に加え、鼠径部の動脈から折りたたんだステントグラフト(金属骨格付きの人工血管)を挿入して瘤の内側に留置し、瘤に血圧がかからないようにする腹部ステントグラフト内挿術(EVAR:endovascular aneurysm repair)が広く行われている。開腹手術より低侵襲で、入院期間も短い。瘤の首(中枢側の正常部)の長さなど解剖学的条件を満たすことが必要である。
IVRの分類
・血管系IVR:PCI、末梢血管形成術、ステントグラフト内挿術、動脈塞栓術(肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓療法、出血に対する塞栓止血など)、下大静脈フィルター留置、血栓溶解療法など ・非血管系IVR:経皮的ドレナージ(膿瘍、胆道など)、経皮的生検、経皮的ラジオ波焼灼療法など
心臓カテーテル治療の概要
・冠動脈:PCI(バルーン、ステント、ロータブレーターなど) ・不整脈:カテーテルアブレーション(WPW症候群、発作性上室頻拍、心房粗動、心房細動、一部の心室頻拍など) ・弁膜症:TAVI(大動脈弁狭窄症)、経皮的僧帽弁交連切開術(PTMC、僧帽弁狭窄症)、経皮的僧帽弁接合不全修復術(僧帽弁閉鎖不全症) ・先天性心疾患:心房中隔欠損のカテーテル閉鎖、動脈管開存のコイル閉鎖など
左房内血栓とカテーテル手技
左房内血栓は経胸壁心エコーでは見逃されやすく、左心耳の評価には経食道心エコーが有用である。左房内血栓の存在は、PTMCや心房細動アブレーション、左心耳閉鎖術などの禁忌または延期の理由となる。PTMCは左房内血栓があると塞栓の危険から原則として行わず、抗凝固療法で血栓が消えてから行うか、外科手術を選ぶ。
POINT
・IVRは画像誘導下のカテーテル・針による低侵襲治療である。 ・心血管系IVRの代表:狭心症・急性心筋梗塞→PCI、WPW症候群→カテーテルアブレーション、腹部大動脈瘤→ステントグラフト内挿術(EVAR)。 ・左房内血栓は塞栓症の危険からカテーテル操作を避ける状況であり、治療は抗凝固療法が基本である。
