うっ血は「上流」にたまる―肺水腫だけが仲間はずれな理由
第103回医師国家試験 B問題 第21問
国試問題にチャレンジ
右心不全の徴候でないのはどれか。
- a.肺水腫
- b.肝腫大
- c.胸水貯留
- d.下腿浮腫
- e.頸静脈怒張
対話形式の解説
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ドクターまとめ
心不全の徴候は、ポンプ機能が低下した心室の「上流」にうっ血が生じると考えると整理できます。左心不全では左房から肺静脈・肺毛細血管の圧が上がり、肺うっ血・肺水腫による呼吸困難、起座呼吸、湿性ラ音が出現します。右心不全では体静脈圧(中心静脈圧)が上がり、頸静脈怒張、肝腫大と肝頸静脈逆流、下腿浮腫、腹水、胸水、体重増加などが現れるため、肺水腫は右心不全の徴候には当たりません。胸水は左右どちらの心不全でも生じうるものの体静脈うっ血の所見として扱われ、右心不全の最多原因は左心不全の進行である点も押さえておきましょう。所見を「どこの圧が上がった結果か」と結びつける考え方は、心不全患者の診察や経過観察の基本になります。
解答・解説
正解はaです
心不全の症状・徴候を、どちらの心室のポンプ機能が低下したかで整理できるかを問う問題である。 心不全の徴候は大きく「うっ血(血液が心臓の手前に滞る)」と「低心拍出(心臓の先に十分な血液が届かない)」に分けられる。うっ血がどこに生じるかは、機能が落ちた心室の「上流」がどこかで決まる。 ・左心不全:左室の上流は左房→肺静脈→肺毛細血管であり、ここに圧が逆行性に伝わって肺うっ血・肺水腫が起こる。症状は労作時呼吸困難、起座呼吸、発作性夜間呼吸困難、湿性ラ音(水泡音)、泡沫状の血性痰などである。 ・右心不全:右室の上流は右房→上下大静脈→全身の静脈系であり、体静脈圧(中心静脈圧)が上昇する。その結果、頸静脈怒張、肝腫大(うっ血肝)、下腿浮腫、腹水、胸水、消化管のうっ血による食欲不振などが現れる。 本問は「右心不全の徴候でないもの」を選ぶ否定形の設問であり、肺循環のうっ血によって生じる肺水腫が、左心不全の徴候として該当する。
選択肢考察
- ○a. 肺水腫
肺水腫は左心不全の代表的な徴候であり、右心不全の徴候ではないため本問の正解である。左室の収縮能や拡張能が低下すると、Frank-Starling(フランク・スターリング)の機序により左室拡張末期圧を上げて拍出を保とうとするが、これが過度になると左房圧・肺静脈圧・肺毛細血管圧が上昇する。肺毛細血管圧(肺動脈楔入圧で推定)がおよそ18 mmHgを超えると肺間質に、さらに高くなると肺胞内に水分が漏れ出し、肺うっ血から肺水腫へと進む。右心不全単独ではむしろ肺への血流が減るため、肺水腫は生じにくい。
- ×b. 肝腫大
右心不全の徴候である。右房圧が上がると下大静脈を介して肝静脈圧も上がり、肝臓に血液がうっ滞して腫大する(うっ血肝)。肝腫大に加えて右季肋部の圧痛がみられ、肝臓を圧迫すると頸静脈の怒張が増強する肝頸静脈逆流(hepatojugular reflux)が陽性となる。慢性化すると心臓性肝硬変に至ることもある。
- ×c. 胸水貯留
右心不全の徴候に含まれる。体静脈圧が上昇すると、胸膜(壁側胸膜は体循環系に属する)からの体液の漏出が増え、またリンパ液の還流先である体静脈の圧が高いため胸腔内の水分が吸収されにくくなり、漏出性胸水がたまる。なお、臓側胸膜の一部は肺静脈系に灌流されるため、左心不全でも胸水は出現し、実際には両心不全で多くみられる。腹水と並び、体静脈圧上昇によって体腔に水がたまる所見として右心不全の徴候に数えられる。
- ×d. 下腿浮腫
右心不全の代表的な徴候である。体静脈圧の上昇により毛細血管の静水圧が上がり、間質へ水分が移動して浮腫となる。重力の影響を受けるため、歩行者では下腿や足背、臥床者では背部や仙骨部など低い部位に出やすい。指で押すと凹みが残る圧痕性浮腫(pitting edema)となる。
- ×e. 頸静脈怒張
右心不全の徴候である。内頸静脈は右房と弁を介さずにつながっているため、頸静脈の拍動の高さは右房圧(中心静脈圧)を反映する。健常者でも仰臥位では頸静脈が見えることがあるが、上半身を45°程度起こした状態や座位で頸静脈が怒張していれば、中心静脈圧の上昇を示し右心不全を疑う。
左心不全と右心不全の徴候の整理
・左心不全(肺うっ血+低心拍出):労作時呼吸困難、起座呼吸、発作性夜間呼吸困難、湿性ラ音、心臓喘息、泡沫状痰、III音・IV音、交互脈、四肢冷感、乏尿、易疲労感。 ・右心不全(体静脈うっ血):頸静脈怒張、肝腫大、肝頸静脈逆流、下腿浮腫、腹水、胸水、体重増加、食欲不振・腹部膨満感(消化管うっ血)。
右心不全の主な原因
最も多いのは左心不全の進行による二次的な右心不全(肺静脈圧上昇→肺高血圧→右室負荷)である。そのほか、肺性心(COPDや間質性肺炎などによる肺高血圧)、肺血栓塞栓症、肺動脈性肺高血圧症、右室梗塞、三尖弁逆流、収縮性心膜炎や心タンポナーデ(右心系の拡張障害)などがある。
胸水と心不全
心不全による胸水は漏出性で、右側または両側に多い。臓側胸膜の静脈は肺静脈系に、壁側胸膜の静脈は体静脈系に注ぐため、左右どちらの心不全でも胸水は起こりうるが、両者がそろう両心不全で最も生じやすい。
POINT
・左心不全=肺うっ血(呼吸困難、起座呼吸、湿性ラ音、肺水腫)。 ・右心不全=体静脈うっ血(頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫、腹水、胸水)。 ・「どちらの心室の上流にうっ血が起こるか」で考えれば迷わない。 ・右心不全の原因として最も多いのは左心不全である。
