「赤い血栓」には抗凝固薬―心房細動がもたらす脳梗塞の再発をどう防ぐか
第103回医師国家試験 A問題 第7問
国試問題にチャレンジ
心房細動を有する脳梗塞患者の再発予防薬はどれか。
- a.止血薬
- b.抗凝固薬
- c.血栓溶解薬
- d.抗血小板薬
- e.カルシウム拮抗薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心房細動では左心房、とくに左心耳で血液がよどみ、凝固系が主体のフィブリン血栓(赤色血栓)が形成されるため、心原性脳塞栓症の再発予防には抗凝固薬を用います。一方、血小板主体の血栓で起こるアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞には抗血小板薬が選ばれ、心房細動の塞栓予防に抗血小板薬は現在勧められていません。抗凝固薬は非弁膜症性心房細動ではDOACが第一選択で、機械弁や中等度以上の僧帽弁狭窄症を伴う場合はPT-INRで調節するワルファリンを用います。血栓溶解薬は発症4.5時間以内の急性期治療薬、止血薬は再発予防と逆の作用、カルシウム拮抗薬は心拍数や血圧の管理薬であり、いずれも塞栓予防の代わりにはなりません。脳梗塞の病型と血栓の成り立ちを結びつけて薬を選ぶ考え方は、日常診療で最も頻繁に問われる判断の一つです。
解答・解説
正解はbです
問われていること
心房細動(AF: atrial fibrillation)を背景にもつ脳梗塞、すなわち心原性脳塞栓症の再発をどの薬で防ぐかが問われている。
考え方
心房細動では心房が細かく震えるだけで有効に収縮しないため、左心房、とくに左心耳で血液がよどむ。血流の遅い部位では凝固系(凝固因子が連鎖的に活性化してフィブリンを作る反応)が主体となり、赤血球を多く含むフィブリン血栓(赤色血栓)ができる。これが剥がれて脳動脈に流れ込むのが心原性脳塞栓症である。 一方、動脈硬化で狭くなった動脈(アテローム血栓性脳梗塞)や細い穿通枝(ラクナ梗塞)では、速い血流の中で血小板が主役の血栓(白色血栓)ができる。 このように血栓のでき方が違うため、再発予防薬も使い分ける。 ・心原性脳塞栓症(凝固系が主体)→ 抗凝固薬 ・非心原性脳梗塞(血小板が主体)→ 抗血小板薬 したがって心房細動を有する脳梗塞患者の再発予防には抗凝固薬を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 止血薬
止血薬(トラネキサム酸などの抗線溶薬、ビタミンKなど)は、血液を固まりやすくしたり、できた血栓を溶けにくくしたりして出血を止める薬である。血栓ができやすい状態にある心房細動患者に使えば、かえって血栓形成を後押しし、脳梗塞の再発リスクを高めうる。再発予防の目的とは正反対の作用をもつため誤りである。
- ○b. 抗凝固薬
心房細動で左心房にできる血栓は凝固系が主体のフィブリン血栓であり、凝固系を抑える抗凝固薬が再発予防の中心となる。 使われる薬は、ビタミンK依存性凝固因子(II・VII・IX・X因子)の産生を抑えるワルファリンと、直接経口抗凝固薬(DOAC: direct oral anticoagulant。トロンビン阻害薬のダビガトラン、Xa因子阻害薬のリバーロキサバン・アピキサバン・エドキサバン)である。本問の出題当時はワルファリンが中心であったが、現在は非弁膜症性心房細動にはDOACが第一選択として勧められている。DOACはワルファリンと比べて頭蓋内出血が少なく、食事制限や頻回の血液検査が不要である。ただし機械弁置換後や中等度以上の僧帽弁狭窄症を伴う心房細動では、DOACは使えずワルファリンを用いる。 ワルファリンを使う場合は、PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)で効き具合を確かめながら量を調節する。
- ×c. 血栓溶解薬
血栓溶解薬(アルテプラーゼ〈rt-PA: 遺伝子組換え組織型プラスミノゲン活性化因子〉など)は、すでにできた血栓を溶かす薬である。脳梗塞の超急性期(発症から4.5時間以内)に、適応を満たす一部の患者に静脈内投与して閉塞した血管の再開通を図るものであり、長期の再発予防に使う薬ではない。出血の危険が大きいため、継続して投与することもない。
- ×d. 抗血小板薬
抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールなど)は血小板の働きを抑える薬であり、血小板が主体の血栓でおこるアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞などの非心原性脳梗塞の再発予防に用いる。 心房細動に伴う血栓はフィブリン主体であるため、抗血小板薬では予防効果が不十分である。アスピリンとワルファリンを比べた研究では、アスピリンの塞栓予防効果はワルファリンに明らかに劣り、しかも大出血の頻度はあまり変わらないことが示されている。そのため現在のガイドラインでは、心房細動の塞栓予防に抗血小板薬を用いることは勧められていない。かつては低リスクの心房細動や抗凝固薬が使えない場合にアスピリンを代わりに用いる考え方もあったが、現在は採られていない。
- ×e. カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬には、主に血管を広げて血圧を下げるジヒドロピリジン系(アムロジピンなど)と、房室結節での伝導を遅らせて心拍数を下げる非ジヒドロピリジン系(ベラパミル、ジルチアゼム)がある。後者は心房細動の心拍数調節(レートコントロール)や発作性上室頻拍の治療に使われ、前者は脳卒中再発予防のための血圧管理に役立つ。しかし、いずれも血栓の形成そのものを防ぐ薬ではないため、心房細動による脳塞栓の予防効果はなく、抗凝固薬の代わりにはならない。
脳梗塞の病型と再発予防薬
・アテローム血栓性脳梗塞: 太い動脈の動脈硬化が原因。血小板主体の血栓 → 抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール) ・ラクナ梗塞: 細い穿通枝の病変が原因 → 抗血小板薬(出血リスクを考え、シロスタゾールが選ばれることも多い)+厳格な血圧管理 ・心原性脳塞栓症: 心房細動などで心臓内にできた血栓が原因。フィブリン主体の血栓 → 抗凝固薬(DOACまたはワルファリン)
心房細動における脳梗塞リスクの評価
非弁膜症性心房細動の脳梗塞リスクはCHADS2スコアで評価する。心不全(C)、高血圧(H)、75歳以上(A)、糖尿病(D)が各1点、脳卒中・一過性脳虚血発作(TIA)の既往(S2)が2点である。点数が高いほど脳梗塞をおこしやすい。脳梗塞をすでにおこした患者はそれだけで2点となり、抗凝固療法を行うべき高リスク群に入る。
ワルファリンとDOACの比較
・ワルファリン: PT-INRによる用量調節が必要。ビタミンKを多く含む食品(納豆、クロレラなど)で効果が弱まる。他の薬との相互作用が多い。中和薬はビタミンK、プロトロンビン複合体製剤。機械弁や中等度以上の僧帽弁狭窄症を伴う心房細動ではこちらを用いる。 ・DOAC: 用量調節のための定期的な血液検査が不要で、効果の発現・消失が速い。頭蓋内出血がワルファリンより少ない。腎機能に応じて用量を調節し、重い腎機能障害では使えないものがある。ダビガトランにはイダルシズマブ、Xa阻害薬にはアンデキサネット アルファという中和薬がある。
抗凝固療法の開始時期
心原性脳塞栓症の急性期は梗塞巣への出血(出血性梗塞)をおこしやすいため、梗塞の大きさや重症度を考慮して抗凝固薬の開始時期を決める。
POINT
・心房細動による脳梗塞(心原性脳塞栓症)の再発予防は抗凝固薬(DOACまたはワルファリン)。 ・非心原性脳梗塞(アテローム血栓性、ラクナ)の再発予防は抗血小板薬。 ・非弁膜症性心房細動ではDOACが第一選択。機械弁・中等度以上の僧帽弁狭窄症ではワルファリン。 ・心房細動の塞栓予防にアスピリンなどの抗血小板薬は勧められない。 ・血栓溶解薬(rt-PA)は発症4.5時間以内の急性期治療薬であり、再発予防薬ではない。
