StudyMed医師国家試験

「アー」が続かない理由―最長発声持続時間で読み解く迷走神経と声門閉鎖

第103回医師国家試験 A問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第103回 A問題 第2問

麻痺によって最長発声持続時間が短縮するのはどれか。

  1. a.三叉神経
  2. b.顔面神経
  3. c.舌咽神経
  4. d.迷走神経
  5. e.副神経

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、最長発声持続時間という発声機能検査が、どの脳神経の麻痺で短くなるかを問う問題だ。カギは「発声」と「構音」を分けて考えること。まず、最長発声持続時間がどんな検査か知っているかな。
医学生医学生
深く息を吸ってから「アー」をできるだけ長く出してもらって、その秒数を測る検査ですよね。耳鼻咽喉科の臨床実習で見学しました。
ドクタードクター
その通り。楽な高さと大きさで母音を出し続けてもらう簡単な検査だけど、声門、つまり左右の声帯のすき間がきちんと閉じるかという効率と、肺から出せる呼気の量を総合的に反映している。健常成人なら男性で約30秒、女性で約20秒が目安で、おおむね10秒を切ると異常と考える。
医学生医学生
声が出せる時間が短くなるなら、口や顔の動きが悪くなる神経の麻痺でも短くなりそうな気がします。
ドクタードクター
そこが今回の落とし穴だね。口唇や舌、顎で音を作り分けるのは「構音」で、声帯を振動させて声そのものを生み出すのが「発声」だ。最長発声持続時間が短くなるのは、発声の段階、とくに声門が閉じきらずに息が漏れてしまうときなんだ。では、声帯を動かす内喉頭筋はどの神経が支配しているだろう。
医学生医学生
反回神経です。解剖学の講義で、左は大動脈弓、右は鎖骨下動脈を回るって習いました。反回神経は迷走神経の枝なので、正解は迷走神経ですね。
ドクタードクター
正解。反回神経は輪状甲状筋以外のすべての内喉頭筋を支配していて、声帯を閉じる筋も、唯一声門を開く後輪状披裂筋もその支配下にある。輪状甲状筋は同じ迷走神経の枝である上喉頭神経の支配だ。つまり内喉頭筋は全部迷走神経の系統というわけ。迷走神経や反回神経が麻痺すると患側の声帯が動かなくなり、発声時に声門にすき間が残る。
医学生医学生
すき間から息が漏れるから、限られた呼気をすぐ使い切ってしまうんですね。
ドクタードクター
そう。だから声は息の混じったかすれ声、いわゆる気息性嗄声になり、最長発声持続時間が短縮する。では、ほかの神経も確認しよう。三叉神経はどうかな。
医学生医学生
咀嚼筋の運動と顔面の感覚なので、顎の動きが悪くなって発音がやや不明瞭になることはあっても、声帯には関係なさそうです。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。顔面神経はどうだろう。
医学生医学生
表情筋の麻痺で口が閉じにくくなるので、パ行やマ行のような唇を使う音が出しにくくなると思います。でもそれは構音障害ですね。
ドクタードクター
その通り。声門閉鎖は保たれるから、「アー」を伸ばす時間は変わらない。舌咽神経は少し迷うかもしれない。
医学生医学生
咽頭反射の求心路だったと思います。咽頭に関係するので、声にも影響しそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
迷うのは自然だね。舌咽神経は舌後1/3の味覚・感覚、咽頭の感覚、茎突咽頭筋の運動などを担うけれど、内喉頭筋は支配しない。実は軟口蓋や咽頭収縮筋の運動も大部分は迷走神経によるもので、声が鼻に抜ける開鼻声も主に迷走神経の障害で起こる。最後に副神経は?
医学生医学生
胸鎖乳突筋と僧帽筋なので、肩が上がらなくなったり首を回す力が落ちたりしますが、声には関係ないですね。
ドクタードクター
完璧だ。整理すると、三叉神経・顔面神経・舌下神経の麻痺は構音障害を起こしうるが、声門閉鎖を担うのは迷走神経だけ、ということになる。
医学生医学生
反回神経麻痺は臨床ではどんなときに見つかるんですか。
ドクタードクター
大事なポイントだね。胸部大動脈瘤、肺癌や食道癌、甲状腺癌、甲状腺や食道・心臓大血管の手術、長期の気管挿管などが原因になる。左は大動脈弓の下をくぐって経路が長いぶん、障害されやすい。嗄声を主訴に来た人の背景に胸部の悪性腫瘍や大動脈瘤が隠れていることがあるから、喉頭ファイバースコピーで声帯の動きを見るだけでなく、胸部の画像検査まで考えることが大切だ。
医学生医学生
片側でもかすれ声になるなら、両側が麻痺したらもっと声が出なくなるんでしょうか。
ドクタードクター
そこが面白いところで、両側反回神経麻痺では声帯が正中付近で固定することがあって、声はある程度出ても声門が開かないために吸気性喘鳴や呼吸困難を起こしうる。気道確保が必要になる場面もあるから、片側と両側では注意すべき点が違うと覚えておこう。

まとめ

最長発声持続時間は、深吸気後に母音を出し続けられる時間を測る検査で、声門閉鎖の効率と呼気量を反映し、健常成人では男性約30秒・女性約20秒、10秒未満で異常とされます。内喉頭筋はすべて迷走神経の枝である反回神経と上喉頭神経が支配しており、迷走神経(反回神経)麻痺では声門が閉じきらずに呼気が漏れるため、気息性嗄声とともに最長発声持続時間が短縮します。三叉神経・顔面神経・舌下神経の障害は構音障害を起こしえますが声門閉鎖には影響せず、舌咽神経や副神経も声帯運動には関与しません。反回神経麻痺は経路の長い左側に多く、胸部大動脈瘤や肺癌・食道癌・甲状腺癌、術後合併症が原因となるため、嗄声の背景に重大な疾患が隠れていないかを考える姿勢が重要です。「発声」と「構音」を区別して神経支配と結びつける考え方は、嗄声や構音障害の診療の基本となります。

解答・解説

正解はdです

テーマ

最長発声持続時間(maximum phonation time:MPT)は、深く息を吸った後に「アー」という母音を楽な高さ・大きさでできるだけ長く出し続けさせ、その持続時間を測る検査である。声門(左右の声帯の間)の閉鎖の効率と、肺からの呼気の量を総合的に反映する簡便な発声機能の指標で、健常成人では男性で約30秒、女性で約20秒程度であり、おおむね10秒未満であれば異常と判断される。

正解を導く考え方

声帯を動かす内喉頭筋は、迷走神経の枝である反回神経(下喉頭神経)と上喉頭神経に支配される。とくに反回神経は、声帯を閉じる筋(外側輪状披裂筋、甲状披裂筋など)と、唯一声門を開く後輪状披裂筋を含む、輪状甲状筋以外のすべての内喉頭筋を支配する。迷走神経(または反回神経)が麻痺すると、患側の声帯が動かなくなり発声時に声門が十分に閉じない。すると発声中に呼気が声門のすき間から漏れ出るため、息の混じったかすれ声(気息性嗄声)となり、限られた呼気をすぐに使い切ってしまうのでMPTが短縮する。 ほかの選択肢の脳神経は、構音(口唇・舌・顎などによる音の作り分け)や嚥下、頸部の運動に関わるが、声門閉鎖そのものには関与しないため、麻痺してもMPTは短縮しない。「発声(声を出すこと、喉頭の機能)」と「構音(ことばの音を作ること)」を区別して考えることがポイントである。

選択肢考察

  1. ×a.  三叉神経

    三叉神経(第V脳神経)は、顔面の感覚と、咀嚼筋(咬筋、側頭筋、内側・外側翼突筋)の運動を担う。障害されると顔面の感覚低下や咀嚼力の低下、下顎の偏位が生じ、顎の動きが悪いことで構音がやや不明瞭になることはあるが、声帯の運動には関与しないためMPTは短縮しない。

  2. ×b.  顔面神経

    顔面神経(第VII脳神経)は、表情筋の運動、アブミ骨筋の運動、涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌、舌前2/3の味覚などを担う。麻痺すると口唇を閉じにくくなり、パ行・マ行・バ行などの口唇音が発音しにくくなる(構音障害)が、声門閉鎖は保たれるためMPTは短縮しない。

  3. ×c.  舌咽神経

    舌咽神経(第IX脳神経)は、舌後1/3の味覚・一般感覚、咽頭の感覚(咽頭反射の求心路)、茎突咽頭筋の運動、耳下腺の分泌を担う。障害されると咽頭の感覚低下や咽頭反射の減弱が生じるが、内喉頭筋を支配しないので声帯麻痺は起こさず、MPTは短縮しない。なお、軟口蓋や咽頭収縮筋の運動の大部分は迷走神経(咽頭神経叢)によるもので、開鼻声(声が鼻に抜ける状態)は主に迷走神経の障害で生じる。

  4. ○d.  迷走神経

    迷走神経(第X脳神経)は、反回神経と上喉頭神経を分枝して内喉頭筋をすべて支配する。迷走神経(反回神経)が麻痺すると患側の声帯が固定し、発声時に声門が閉じきらずに呼気が漏れるため、気息性嗄声を生じ、MPTが短縮する。さらに軟口蓋の挙上不全による開鼻声や鼻咽腔への逆流、嚥下障害・誤嚥を伴うこともある。反回神経は左側では大動脈弓、右側では鎖骨下動脈を回って走行が長く、胸部大動脈瘤、肺癌・食道癌・甲状腺癌、甲状腺や心臓・胸部の手術などで障害されやすい(特に経路の長い左側に多い)。

  5. ×e.  副神経

    副神経(第XI脳神経)は胸鎖乳突筋と僧帽筋を支配する運動神経である。麻痺すると顔を反対側に向ける力の低下や、肩の挙上困難・肩の下垂が生じるが、声帯の運動には関与しないため、発声は保たれMPTは短縮しない。

喉頭の神経支配

・反回神経(迷走神経の枝):輪状甲状筋以外のすべての内喉頭筋の運動(声門の開閉)、声門下の感覚。 ・上喉頭神経(迷走神経の枝):外枝が輪状甲状筋(声帯を緊張させ、声の高さを上げる)を支配し、内枝が声門上の感覚を担う。 ・声門を開く筋は後輪状披裂筋のみであり、両側反回神経麻痺では声帯が正中付近で固定して呼吸困難(吸気性喘鳴)をきたすことがある。

反回神経麻痺の原因

胸部大動脈瘤、肺癌・縦隔腫瘍、食道癌、甲状腺癌、甲状腺・食道・心臓大血管の手術、長期の気管挿管、原因不明(特発性)など。左反回神経は大動脈弓の下をくぐるため経路が長く、障害されやすい。

主な発声機能検査

・最長発声持続時間(MPT):声門閉鎖の効率と呼気量を反映する。健常成人で男性約30秒、女性約20秒、10秒未満で異常とされる。声門閉鎖不全(反回神経麻痺、声帯萎縮など)や呼吸機能低下で短縮する。 ・喉頭内視鏡検査(喉頭ファイバースコピー):声帯の運動や固定位置を直接観察する。 ・喉頭ストロボスコピー:声帯振動の観察。

脳神経と構音・発声障害の対応

・三叉神経:咀嚼筋 → 下顎運動の障害。 ・顔面神経:口輪筋など → 口唇音(パ行・マ行・バ行)の障害。 ・迷走神経:軟口蓋・咽頭・喉頭 → 開鼻声、嗄声、嚥下障害、MPTの短縮。 ・舌下神経:舌筋 → 舌を使う音(タ行・ラ行・サ行など)の障害、舌の偏位・萎縮。 ・副神経:胸鎖乳突筋・僧帽筋 → 発声・構音には関与しない。

球麻痺と偽性(仮性)球麻痺

延髄の運動神経核や、そこから出る下位脳神経(IX・X・XII)の障害による構音・嚥下障害を球麻痺という(舌の萎縮・線維束性収縮を伴う)。一方、延髄の神経核を支配する上位運動ニューロン(皮質延髄路)が両側性に障害されて生じるものを偽性球麻痺といい、舌萎縮はなく、下顎反射の亢進や強制泣き・強制笑いを伴うことがある。

POINT

・MPTは声門閉鎖の効率と呼気量を反映し、健常成人で男性約30秒、女性約20秒、10秒未満で異常。 ・内喉頭筋は迷走神経(反回神経・上喉頭神経)が支配する。 ・迷走神経(反回神経)麻痺 → 声門閉鎖不全 → 気息性嗄声・MPT短縮。 ・三叉・顔面・舌下神経の麻痺は構音障害を起こしうるが、声門閉鎖には影響しない。 ・反回神経麻痺は左側に多く、胸部大動脈瘤や肺癌・食道癌・甲状腺癌、術後合併症が重要な原因。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。