すくむ足と震える右手―四徴から読み解くParkinson病の神経所見
第102回医師国家試験 I問題 第49問
国試問題にチャレンジ
70歳の男性。歩行時の転倒を主訴に来院した。4年前から歩行が遅くなり,安静時に右手の震えが出現した。家人から表情の乏しさを指摘された。最近,歩行開始時に足がすくんで転倒するようになった。 みられるのはどれか。2つ選べ。
- a.固縮
- b.運動麻痺
- c.感覚鈍麻
- d.姿勢反射障害
- e.小脳性運動失調
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者に緩徐進行性の動作緩慢と片側から始まる静止時振戦、仮面様顔貌、すくみ足がそろえばParkinson病を考え、四徴(静止時振戦・固縮・無動・姿勢反射障害)のうち病歴にない固縮と姿勢反射障害が診察で見られると推論できます。固縮は他動運動で一様な抵抗を感じ、Parkinson病では歯車様となる点で、錐体路障害の痙縮(折りたたみナイフ現象)と区別されます。姿勢反射障害はプルテストで確認し、出現するとHoehn-Yahr III度以上の目安となり、転倒の大きな原因になります。Parkinson病は錐体外路系の疾患なので運動麻痺・感覚鈍麻・小脳性運動失調は原則として見られず、小脳症状があれば多系統萎縮症、早期の転倒や垂直性眼球運動障害があれば進行性核上性麻痺などを考えます。病歴の症状を四徴に当てはめ、足りない所見を予測するという考え方は、神経診察の組み立て方そのものの練習になります。
解答・解説
正解はa, dです
所見の整理
・70歳の男性、4年の経過でゆっくり進行 ・歩行が遅くなった → 動作緩慢(無動・寡動) ・安静時に右手の震え → 静止時(安静時)振戦。片側から始まっており、左右差がある ・表情の乏しさ → 仮面様顔貌(顔面の無動) ・歩行開始時に足がすくむ → すくみ足 ・転倒 → 姿勢を立て直せない姿勢反射障害(姿勢保持障害)の存在を示唆する
診断へのプロセス
高齢者に緩徐進行性の動作緩慢と静止時振戦がそろい、症状に左右差(右手から発症)がある点は、錐体外路系の変性疾患であるParkinson病に典型的である。Parkinson病は中脳黒質緻密部のドパミン神経細胞が変性・脱落し、線条体のドパミンが不足することで起こる。 鑑別として、多系統萎縮症や進行性核上性麻痺などのParkinson症候群(パーキンソニズムを呈する他疾患)が挙がる。これらでは発症早期から転倒が目立つ、小脳症状や垂直性眼球運動障害、高度の自律神経障害を伴う、振戦が目立たない、症状の左右差が乏しいといった特徴がみられやすい。本例は振戦で発症し、4年かけて歩行障害・転倒に至った経過であり、Parkinson病として矛盾しない。
設問の考え方
Parkinson病の運動症状の四徴は、①静止時振戦、②固縮(筋強剛)、③無動・寡動、④姿勢反射障害である。本例では振戦と無動が問題文に明記されており、診察で残りの固縮と姿勢反射障害が確認されると考えられる。一方、Parkinson病は錐体路・感覚系・小脳系を主に侵す疾患ではないため、運動麻痺、感覚鈍麻、小脳性運動失調は原則みられない。
選択肢考察
- ○a. 固縮
固縮(筋強剛)は四徴の一つで、関節を他動的に動かしたときに屈筋・伸筋の両方に一様な抵抗を感じる状態である。Parkinson病では抵抗がカクカクと断続的に変化する歯車様固縮が特徴的で、振戦と同様に左右差を伴いやすい。本例でも診察で認められると考えられる。なお、錐体路障害による痙縮(動かし始めに強い抵抗があり途中で急に抜ける「折りたたみナイフ現象」)とは区別される。
- ×b. 運動麻痺
運動麻痺は大脳皮質運動野から脊髄前角・末梢神経・筋に至る運動の経路(錐体路や下位運動ニューロン)の障害で生じる筋力低下である。Parkinson病は錐体外路系(黒質線条体系)の疾患であり、動作の開始や速度は障害されるが筋力そのものは保たれる。動作が遅く力が入りにくそうに見えても、それは無動であって麻痺ではない。
- ×c. 感覚鈍麻
Parkinson病では体性感覚の伝導路は障害されないため、触覚・痛覚・振動覚などの客観的な感覚鈍麻は生じない。痛みやしびれといった自覚的な感覚症状や、非運動症状としての嗅覚低下はみられることがあるが、神経診察で検出される感覚障害は典型的な所見ではない。
- ○d. 姿勢反射障害
姿勢反射障害(姿勢保持障害)は、身体のバランスが崩れたときに反射的に姿勢を立て直すことができない状態で、四徴の一つである。立位で検者が患者の肩を後方へ引くプルテストで、踏みとどまれずに後方へ倒れそうになることで確認する。一般に発症からある程度経過した段階で出現し、Hoehn-Yahr重症度分類ではIII度以上の指標となる。本例で最近になって転倒を繰り返すようになったのは、すくみ足に加えてこの障害が加わったためと考えられる。
- ×e. 小脳性運動失調
Parkinson病は小脳系を障害しないため、測定障害、企図振戦、体幹失調、酩酊様の歩行などの小脳症状はみられない。パーキンソニズムに小脳性運動失調が加わる場合は、多系統萎縮症(小脳症状が目立つ病型はMSA-C)などのParkinson症候群を考える必要がある。
Parkinson病の概要
・中脳黒質緻密部のドパミン神経細胞の変性・脱落により、線条体のドパミンが欠乏する神経変性疾患である。残存神経細胞内にはα-シヌクレインを主成分とするLewy小体がみられる。 ・50〜60歳代以降の発症が多く、高齢になるほど有病率が高い。 ・片側の上肢の静止時振戦で発症することが多く、症状は非対称性にN字型(片側上肢→同側下肢→対側へ)に広がることが多い。
運動症状
・静止時振戦:安静時に出現し、動作時に軽減する4〜6Hz程度の振戦。母指と示指をすり合わせるような丸薬丸め運動が典型的。 ・固縮:歯車様固縮。 ・無動・寡動:動作緩慢、仮面様顔貌、小字症、小声、瞬目の減少など。 ・姿勢反射障害:転倒の原因となり、進行期に目立つ。 ・歩行障害:前傾前屈姿勢、小刻み歩行、すくみ足、突進現象。すくみ足は床の線をまたぐ、号令をかけるなどの外的な手がかりで改善することがある(矛盾性運動)。
非運動症状
便秘、起立性低血圧、排尿障害などの自律神経症状、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症、うつ、認知機能障害など。嗅覚低下や便秘、レム睡眠行動異常症は運動症状に先行することがある。
Hoehn-Yahr重症度分類
I度:片側のみの症状 II度:両側性だが姿勢反射障害はない III度:姿勢反射障害がみられるが、日常生活は自立 IV度:日常生活に部分的な介助が必要 V度:車椅子または寝たきりで全面的な介助が必要
検査・治療
頭部MRIは通常異常を示さない(他疾患の除外に用いる)。MIBG心筋シンチグラフィでの心臓への集積低下、ドパミントランスポーターSPECTでの線条体の集積低下が診断の補助となる。治療はレボドパ(多くはドパ脱炭酸酵素阻害薬との合剤)やドパミンアゴニストなどの薬物療法が中心で、レボドパが明らかに有効であることは診断を支持する所見である。
POINT
・Parkinson病の四徴:静止時振戦、固縮(歯車様)、無動・寡動、姿勢反射障害 ・症状の左右差、振戦での発症、レボドパへの良好な反応はParkinson病らしさを示す ・錐体外路疾患なので、運動麻痺・感覚障害・小脳性運動失調は原則みられない ・小脳症状を伴えば多系統萎縮症、垂直性眼球運動障害や早期の転倒があれば進行性核上性麻痺などを考える ・姿勢反射障害の出現はHoehn-Yahr III度の目安
