夏の高熱と「のどの奥の水疱」―ヘルパンギーナの犯人を口腔内の地図で突き止める
第102回医師国家試験 I問題 第33問
国試問題にチャレンジ
ヘルパンギーナを起こすのはどれか。
- a.EBウイルス
- b.アデノウイルス
- c.コクサッキーウイルス
- d.単純ヘルペスウイルス
- e.水痘・帯状疱疹ウイルス
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
ヘルパンギーナは夏季に乳幼児で流行するウイルス性咽頭炎で、急な高熱と軟口蓋から口蓋垂周囲の小水疱・潰瘍が特徴であり、主な原因はエンテロウイルス属のコクサッキーウイルスA群です。口腔・咽頭に病変をつくるウイルスは、病変の部位と随伴症状で区別でき、単純ヘルペスウイルスは口の前方に多発する歯肉口内炎、EBウイルスは扁桃の白苔とリンパ節腫脹を伴う伝染性単核球症、アデノウイルスは結膜炎を伴う咽頭結膜熱、水痘・帯状疱疹ウイルスは全身の皮疹が主体の水痘を起こします。コクサッキーウイルスは手足口病、無菌性髄膜炎、心筋炎・心膜炎や流行性筋痛症(B群)など多彩な疾患の原因にもなります。治療は対症療法が中心で脱水予防が重要であり、回復後も便中にウイルスが排泄されるため手洗いが欠かせません。ウイルスと代表疾患の対応を口腔内の所見と結びつけて整理しておくことは、小児科外来での的確な診断と家族への説明に直結します。
解答・解説
正解はcです
ヘルパンギーナは、乳幼児に夏季を中心に流行するウイルス性の咽頭炎である。急な高熱(39~40℃前後)とともに、軟口蓋から口蓋垂の周囲、前口蓋弓(口蓋の奥、のどちんこの両脇)にかけて、小さな水疱とそれが破れた浅い潰瘍(アフタ)が数個~十数個みられるのが特徴である。咽頭痛のために飲食を嫌がり、脱水をきたすこともある。 原因はエンテロウイルス属のウイルスで、代表はコクサッキーウイルスA群(A2、A4、A5、A6、A10型など)である。コクサッキーウイルスB群やエコーウイルスが原因となることもある。 本問は「口の中や咽頭に病変をつくるウイルス感染症」の病原体を正しく結び付けられるかを問うている。口腔・咽頭に症状を出すウイルスは多数あるが、病変の部位(口の奥か前か)、発疹の分布、季節性、随伴症状によって区別できる。各ウイルスが引き起こす代表的な疾患を整理しておけば、迷わず正解にたどり着ける。
選択肢考察
- ×a. EBウイルス
EBウイルス(Epstein-Barr virus、ヒトヘルペスウイルス4型)は伝染性単核球症の原因である。発熱、咽頭・扁桃炎(白苔を伴う扁桃腫大)、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫が主症状で、末梢血に異型リンパ球が増える。咽頭所見は扁桃が主体であり、軟口蓋の小水疱を特徴とするヘルパンギーナとは異なる。なお、伝染性単核球症の患者にアンピシリンなどのペニシリン系抗菌薬を投与すると高率に発疹が出ることも知られている。
- ×b. アデノウイルス
アデノウイルスは咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎、滲出性扁桃炎、出血性膀胱炎、胃腸炎などを起こす。咽頭結膜熱は発熱・咽頭炎・結膜炎の3徴を示し、夏季のプールを介した流行が知られる。扁桃に白色の滲出物を伴う咽頭炎が典型で、軟口蓋に水疱・潰瘍を形成するヘルパンギーナの原因ではない。
- ○c. コクサッキーウイルス
コクサッキーウイルスはエンテロウイルス属のRNAウイルスで、ヘルパンギーナの主要な原因である。とくにA群(A2、A4、A5、A6、A10型など)が多い。夏季に乳幼児の間で流行し、突然の高熱と軟口蓋・口蓋垂周囲の小水疱・潰瘍を生じる。コクサッキーウイルスはこのほか、手足口病(A6、A16型など)、無菌性髄膜炎、心筋炎・心膜炎(B群に多い)、流行性筋痛症(B群)など多彩な疾患を起こす。
- ×d. 単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス1型の初感染は、乳幼児ではヘルペス性歯肉口内炎として現れることが多い。発熱とともに歯肉の発赤・腫脹・出血、舌・頬粘膜・口唇など口腔の前方に多数の水疱・潰瘍が生じる点で、口腔の奥(軟口蓋)に病変が限局するヘルパンギーナとは区別される。再発例では口唇ヘルペスとなる。また、アトピー性皮膚炎の皮膚に感染するとKaposi水痘様発疹症を起こす。
- ×e. 水痘・帯状疱疹ウイルス
水痘・帯状疱疹ウイルスは、初感染で水痘を、神経節に潜伏したウイルスの再活性化で帯状疱疹を起こす。水痘では紅斑・丘疹・水疱・痂皮が全身に混在して出現し、口腔粘膜にも水疱ができることがあるが、全身の皮疹が主体であり、軟口蓋に限局した病変を示すヘルパンギーナとは異なる。
エンテロウイルス属と主な疾患
エンテロウイルス属には、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスA群・B群、エコーウイルス、エンテロウイルス(71型など、番号で呼ばれるもの)が含まれる。いずれも小型のRNAウイルスで、糞口感染・飛沫感染で広がり、夏から秋にかけて流行する。 ・ヘルパンギーナ:コクサッキーA群が主体 ・手足口病:コクサッキーA16、A6、エンテロウイルス71など。口腔内の水疱・潰瘍に加え、手掌・足底・殿部などに水疱性発疹が出る。エンテロウイルス71では脳炎など中枢神経合併症が比較的多い ・無菌性髄膜炎:エコーウイルス、コクサッキーウイルスが代表的な原因 ・心筋炎・心膜炎:コクサッキーB群が多い ・流行性筋痛症(Bornholm病):コクサッキーB群による胸部・上腹部の発作性の筋肉痛 ・急性出血性結膜炎:エンテロウイルス70、コクサッキーA24変異株 ・急性弛緩性麻痺:ポリオウイルス、エンテロウイルスD68など
口腔・咽頭に病変を生じる主な感染症の鑑別
・ヘルパンギーナ:軟口蓋・口蓋垂周囲の小水疱・潰瘍。皮疹なし ・手足口病:口腔内(頬粘膜、舌など)の水疱に加え、手足の発疹 ・ヘルペス性歯肉口内炎:歯肉炎を伴い、口腔の前方に多数の潰瘍。高熱が数日続く ・アフタ性口内炎:多くは発熱を伴わない、単発~少数のアフタ ・伝染性単核球症:扁桃の白苔、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫 ・咽頭結膜熱:咽頭炎と結膜炎、発熱
ヘルパンギーナの経過と対応
潜伏期は2~4日程度で、発熱は通常2~4日で下がり、口腔病変も1週間ほどで治る。特異的な治療薬はなく、解熱鎮痛薬の使用と、痛みで飲めないことによる脱水の予防(刺激の少ない冷たい飲食物をとる)が中心である。まれに無菌性髄膜炎や心筋炎を合併する。熱性けいれんを起こすこともある。回復後も便中には数週間ウイルスが排泄されるため、手洗いが感染対策として重要である。感染症法では5類感染症(小児科定点把握疾患)に位置づけられている。
POINT
・ヘルパンギーナの主な原因はコクサッキーウイルスA群(エンテロウイルス属) ・夏季に乳幼児で流行し、突然の高熱と軟口蓋~口蓋垂周囲の小水疱・潰瘍が特徴 ・ウイルスと代表疾患の対応:EBウイルス→伝染性単核球症、アデノウイルス→咽頭結膜熱・流行性角結膜炎、単純ヘルペスウイルス→ヘルペス性歯肉口内炎・Kaposi水痘様発疹症、水痘・帯状疱疹ウイルス→水痘・帯状疱疹 ・コクサッキーウイルスは手足口病、無菌性髄膜炎、心筋炎(B群)、流行性筋痛症(B群)も起こす
