StudyMed医師国家試験

「3つのP」で見抜くMEN1―難治性潰瘍の陰に潜むガストリノーマ

第102回医師国家試験 I問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第26問

多発性内分泌腫瘍〈MEN〉1型にみられるのはどれか。

  1. a.常染色体劣性遺伝
  2. b.褐色細胞腫
  3. c.甲状腺髄様癌
  4. d.副甲状腺機能低下症
  5. e.Zollinger-Ellison症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は多発性内分泌腫瘍、いわゆるMENの1型と2型をきちんと区別できるかを問う問題だ。ポイントは「どの臓器に腫瘍が出るか」と「原因遺伝子は何か」をセットで整理すること。まずはMENという病気のイメージから確認しよう。
医学生医学生
複数の内分泌臓器に腫瘍ができる遺伝性の病気、と内分泌の講義で習いました。1型と2型で侵される臓器が違うんですよね。
ドクタードクター
そう。同時に、あるいは時期をずらして複数の内分泌臓器に腫瘍や過形成が生じる。1型の構成病変は「3つのP」で覚えるといい。副甲状腺のParathyroid、膵・十二指腸の神経内分泌腫瘍のPancreas、下垂体のPituitaryだ。
医学生医学生
2型は甲状腺髄様癌と褐色細胞腫でしたっけ。CBTの勉強のとき、どっちがどっちか何度も混乱しました。
ドクタードクター
その通り、甲状腺髄様癌と褐色細胞腫が2型の中心だ。だから今回の選択肢のうち、この2つは2型の病変で、1型の答えにはならない。では正解はどれだと思う?
医学生医学生
1型の膵病変ということなら、Zollinger-Ellison症候群でしょうか。
ドクタードクター
正解。Zollinger-Ellison症候群はガストリン産生腫瘍、つまりガストリノーマからのガストリン過剰で胃酸分泌が亢進し、難治性で多発する消化性潰瘍や下痢を起こす病態だ。1型の膵・十二指腸神経内分泌腫瘍のうち、機能性腫瘍として最も多いのがガストリノーマなんだ。
医学生医学生
膵臓の腫瘍というイメージでしたが、十二指腸にもできるんですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。1型のガストリノーマは十二指腸の粘膜下に小さく多発することが多く、画像で見つけにくいことがある。潰瘍も十二指腸下行脚より先のような、普通はできにくい場所に出ることがあるから、そういう潰瘍を見たら疑うきっかけになる。
医学生医学生
副甲状腺の選択肢は「機能低下症」になっていますが、1型で副甲状腺が侵されるのは確かですよね。迷いそうです。
ドクタードクター
そこがひっかけだ。1型で最も多い病変は原発性副甲状腺機能亢進症で、ほぼ全例にみられ、最初に見つかる病変になることも多い。過形成や腫瘍でホルモンが過剰になるのだから「亢進」であって「低下」ではない。しかも複数の腺がまとめて過形成になるのが特徴で、単発の腺腫が多い散発例とは違う。
医学生医学生
高カルシウム血症になると、ガストリンの分泌も増えると聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。カルシウムはガストリン分泌を促すので、副甲状腺機能亢進症の合併はZollinger-Ellison症候群の症状を悪化させうる。1型の中で病変同士が影響し合ういい例だ。最後に遺伝形式はどうかな。
医学生医学生
MEN1遺伝子はがん抑制遺伝子ですよね。がん抑制遺伝子なら両方のアレルが壊れないといけないから、劣性遺伝ではないんですか。
ドクタードクター
多くの人が引っかかる点だね。細胞レベルでは確かに2つのアレルが失われて腫瘍化する。Knudsonの2ヒット仮説の通りだ。でも生まれつき片方の変異を持っていれば、もう片方は体細胞で後天的に失われやすく、高い確率で発症する。だから家系図上は常染色体優性遺伝の形をとり、子に伝わる確率は50%になる。MENは1型も2型も優性遺伝だ。
医学生医学生
細胞レベルの機序と家系での遺伝形式は分けて考える、ということですね。網膜芽細胞腫と同じ理屈だと思いました。
ドクタードクター
その通り。原因遺伝子も整理しておこう。1型は11番染色体のMEN1遺伝子で、産物はmeninというがん抑制タンパク。2型はRETというがん原遺伝子の機能獲得型変異だ。2型は2Aと2Bに分かれ、2Aでは副甲状腺機能亢進症、2Bでは口唇や舌の粘膜神経腫やMarfan様体型を伴う。
医学生医学生
1型の下垂体腺腫では、どのタイプが多いんですか。
ドクタードクター
プロラクチノーマが最も多く、次いで非機能性腺腫やGH産生腺腫だ。膵病変ではガストリノーマのほかにインスリノーマも重要だね。臨床での注意点も1つ。2型では褐色細胞腫の有無を必ず確認し、あれば甲状腺の手術より先に褐色細胞腫を治療する。麻酔や手術の刺激で高血圧クリーゼを起こす危険があるからだ。
医学生医学生
遺伝性なので家族への対応も必要になりますね。臨床実習で遺伝外来を見学したとき、検査の前にじっくりカウンセリングしていたのが印象的でした。
ドクタードクター
大事な視点だ。血縁者の遺伝子診断は、遺伝カウンセリングを十分に行ったうえで進める。難治性の潰瘍や高カルシウム血症を見たら、その背景にMEN1がないか、家族歴も含めて考える習慣をつけておこう。

まとめ

多発性内分泌腫瘍1型(MEN1)は副甲状腺・膵十二指腸神経内分泌腫瘍・下垂体の「3つのP」を構成病変とし、原因はがん抑制遺伝子MEN1(産物menin)の変異です。膵・十二指腸の機能性腫瘍で最多のガストリノーマは、胃酸過剰による難治性・多発性潰瘍を呈するZollinger-Ellison症候群の原因となります。副甲状腺病変は多腺性過形成による機能亢進症であり、褐色細胞腫や甲状腺髄様癌はRET遺伝子変異によるMEN2の病変です。MENはいずれも常染色体優性遺伝で、がん抑制遺伝子の2ヒットという細胞レベルの機序と家系での遺伝形式を区別して理解することが重要です。構成病変と原因遺伝子を対で整理しておくと、難治性潰瘍や高カルシウム血症の背景にある遺伝性疾患に気づく臨床力にもつながります。

解答・解説

正解はeです

多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)は、複数の内分泌臓器に腫瘍や過形成が同時性・異時性に生じる遺伝性疾患であり、1型(MEN1)と2型(MEN2)に大別される。本問はMEN1に含まれる病変を選ぶ問題である。 両者を区別するには、構成病変と原因遺伝子を対にして覚えるのが確実である。 ・MEN1:「3つのP」=副甲状腺(Parathyroid)、膵・十二指腸の神経内分泌腫瘍(Pancreas)、下垂体(Pituitary)。原因遺伝子はがん抑制遺伝子MEN1(産物はmenin)。 ・MEN2:甲状腺髄様癌、褐色細胞腫を中心とし、2Aでは副甲状腺機能亢進症、2Bでは粘膜神経腫・Marfan様体型を伴う。原因遺伝子はがん原遺伝子RET。 ・いずれも常染色体優性(顕性)遺伝である。 Zollinger-Ellison症候群はガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)による病態で、膵・十二指腸神経内分泌腫瘍の代表としてMEN1の構成病変に含まれる。一方、褐色細胞腫と甲状腺髄様癌はMEN2の病変であり、副甲状腺は「機能亢進」であって「低下」ではない点に注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  常染色体劣性遺伝

    誤り。MEN1・MEN2のいずれも常染色体優性(顕性)遺伝である。MEN1はがん抑制遺伝子であるMEN1遺伝子(第11染色体長腕11q13)の生殖細胞系列変異を一方のアレルにもち、腫瘍組織でもう一方のアレルが失われる(二段階説:Knudsonの2ヒット仮説)ことで腫瘍が生じる。遺伝形式としては片親から変異を受け継ぐだけで発症リスクを負うため優性遺伝となり、子への遺伝確率は50%である。

  2. ×b.  褐色細胞腫

    誤り。褐色細胞腫はMEN2(2A・2Bとも)の構成病変であり、約半数にみられ、両側性・多発性のことが多い。MEN1では通常みられない(副腎病変としては非機能性の副腎皮質腺腫・過形成が生じうるが、褐色細胞腫は構成病変ではない)。

  3. ×c.  甲状腺髄様癌

    誤り。甲状腺髄様癌は傍濾胞細胞(C細胞)由来でカルシトニンやCEAを産生する腫瘍であり、MEN2ではほぼ全例に発生する中心的病変である。MEN1の構成病変ではない。RET遺伝子変異保因者では、発癌前あるいは早期の段階での予防的甲状腺全摘術が検討される。

  4. ×d.  副甲状腺機能低下症

    誤り。MEN1で最も頻度が高い病変は原発性副甲状腺機能亢進症であり、ほぼ全例(90%以上)にみられ、初発病変となることが多い。複数腺の過形成(多腺病変)が特徴で、単発の腺腫が多い散発性の副甲状腺機能亢進症とは異なる。高カルシウム血症、尿路結石、骨粗鬆症などを呈する。「機能低下症」ではない。

  5. ○e.  Zollinger-Ellison症候群

    正しい。Zollinger-Ellison症候群はガストリノーマからの過剰なガストリン分泌によって胃酸分泌が亢進し、難治性・多発性の消化性潰瘍(十二指腸下行脚以遠など非典型部位にも生じる)や下痢をきたす病態である。MEN1の膵・十二指腸神経内分泌腫瘍のうち機能性腫瘍として最も多いのがガストリノーマであり、MEN1のガストリノーマは十二指腸粘膜下に多発する小腫瘍であることが多い。さらに、副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症はガストリン分泌を促進するため、症状を増悪させうる。

MEN1(Wermer症候群)

・原因:MEN1遺伝子(11q13、がん抑制遺伝子、産物menin)の変異。常染色体優性遺伝。 ・構成病変と頻度の目安:  原発性副甲状腺機能亢進症(90%以上、多腺性過形成)  膵・消化管神経内分泌腫瘍(約30〜70%):非機能性腫瘍、ガストリノーマ(機能性で最多)、インスリノーマ、まれにグルカゴノーマ・VIPoma など  下垂体腺腫(約30〜40%):プロラクチノーマが最多、次いで非機能性腺腫、GH産生腺腫など ・その他:副腎皮質腫瘍、胸腺・気管支のカルチノイド、皮膚病変(顔面血管線維腫、コラゲノーマ、脂肪腫)など。

MEN2

・原因:RETがん原遺伝子の活性化変異(機能獲得型)。常染色体優性遺伝。 ・MEN2A:甲状腺髄様癌(ほぼ100%)、褐色細胞腫(約50%)、原発性副甲状腺機能亢進症(約20〜30%)。 ・MEN2B:甲状腺髄様癌(若年発症で悪性度が高い)、褐色細胞腫、口唇・舌などの粘膜神経腫、腸管神経節腫症、Marfan様体型。副甲状腺機能亢進症はまれ。

臨床上の要点

・MEN2では褐色細胞腫の有無を必ず確認し、存在すれば甲状腺手術より先に褐色細胞腫の手術を行う(麻酔・手術時の高血圧クリーゼを防ぐため)。 ・遺伝性疾患であり、血縁者への遺伝子診断については遺伝カウンセリングを十分に行ったうえで実施する。

POINT

・MEN1=3P:副甲状腺(機能亢進症、ほぼ必発)、膵・十二指腸神経内分泌腫瘍(ガストリノーマ→Zollinger-Ellison症候群、インスリノーマ)、下垂体腺腫(プロラクチノーマ最多)。原因遺伝子はMEN1(menin)。 ・MEN2:甲状腺髄様癌+褐色細胞腫。2Aは副甲状腺機能亢進症、2Bは粘膜神経腫・Marfan様体型。原因遺伝子はRET。 ・MENはいずれも常染色体優性遺伝。 ・副甲状腺は「機能亢進」であり「機能低下」ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。