StudyMed医師国家試験

血は薄いのに尿は濃い―SIADHの「矛盾」から所見を読み解く

第102回医師国家試験 I問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第21問

ADH不適合分泌症候群〈SIADH〉について正しいのはどれか。

  1. a.浮腫を認める。
  2. b.尿量は減少する。
  3. c.尿浸透圧は血漿浸透圧よりも高い。
  4. d.血清尿素窒素は高値である。
  5. e.血漿アルドステロン濃度は高値である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はSIADHの病態と検査所見の問題だ。暗記で解こうとすると混乱しやすいけれど、「ADHが止まるべきときに止まらない」という一点から考えれば、すべての選択肢が説明できるよ。まずADHの本来の働きを確認しよう。
医学生医学生
集合管のV2受容体に作用して、アクアポリン2を管腔側に移動させて水を再吸収させるホルモンですよね。生理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。本来は血漿浸透圧が上がったり、循環血液量が減ったりしたときに分泌される。逆に血漿浸透圧が下がれば分泌は抑えられ、健常者なら尿浸透圧が100 mOsm/kg未満の最大希釈尿になる。ではSIADHではどうなる?
医学生医学生
血漿浸透圧が低いのにADHが出続けるので、水が再吸収されて、尿は薄まらない…ということですか。
ドクタードクター
そう、それがSIADHの本質だ。自由水を捨てられないから低ナトリウム血症・低浸透圧血症になり、尿は濃縮されたまま。典型例では尿浸透圧が300 mOsm/kgを超え、血漿浸透圧を上回る。だから「尿浸透圧は血漿浸透圧よりも高い」が正解だ。
医学生医学生
診断基準でも尿浸透圧が条件に入っていた気がします。
ドクタードクター
わが国の診断基準で求められるのは「尿浸透圧が100 mOsm/kgを上回る」こと、つまり最大希釈されていないことで、血漿浸透圧を上回るのは必須ではない。ただ、低浸透圧血症なのに尿浸透圧が血漿より高ければ、ADHが不適切に働いている強い証拠になる。
医学生医学生
水が溜まるなら、浮腫も出そうに思えるんですが。
ドクタードクター
そこが多くの人がつまずくところだ。水が貯留して循環血液量はわずかに増えるけれど、腎がちゃんと代償する。GFRが増え、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が抑えられ、ナトリウム利尿ペプチドが増えて、ナトリウムが尿中に出ていく。結果として細胞外液量は臨床的にほぼ正常にとどまり、浮腫も脱水もない低ナトリウム血症になるんだ。
医学生医学生
だから尿中Naは20 mEq/L以上に保たれるんですね。浮腫があったら心不全や肝硬変、ネフローゼを考える、と。
ドクタードクター
その通り。次に尿量。ADHは抗利尿ホルモンだから、尿が減ると思うかな?
医学生医学生
名前からすると減りそうですが…。
ドクタードクター
ADHは尿を「濃く」するホルモンで、尿量そのものは飲水量や溶質の摂取量で決まる。SIADHでは循環血液量がむしろ軽度増えているから、腎前性に尿が減ることもない。明らかな乏尿になるわけではなく、尿量に一定の傾向はないんだ。
医学生医学生
BUNが高いのは脱水のときですよね。
ドクタードクター
そう。脱水ではGFRが下がり、近位尿細管での尿素再吸収が増えてBUNが上がる。SIADHではGFRが保たれるからBUNは正常から低値。同じ理由で尿酸も低くなりやすく、脱水との鑑別に役立つ。アルドステロンも同じ発想で考えられるよ。
医学生医学生
循環血液量が少し増えていてレニンが抑えられるので、アルドステロンは正常から低値ですね。腎臓内科の臨床実習で、低ナトリウム血症はまず体液量で分けるように言われました。
ドクタードクター
まさにそれが鑑別の基本だ。脱水型なら嘔吐・下痢や利尿薬、正常型ならSIADHのほかに副腎皮質機能低下症や甲状腺機能低下症、心因性多飲、浮腫型なら心不全・肝硬変・ネフローゼ。SIADHと診断する前に、副腎不全と甲状腺機能低下症を除外することを忘れないでね。
医学生医学生
原因としては肺小細胞癌の異所性ADH産生が有名ですね。
ドクタードクター
ほかにも髄膜炎やくも膜下出血などの中枢神経疾患、肺炎などの肺疾患、ビンクリスチンやカルバマゼピン、SSRIといった薬剤もある。治療は原因の除去と水分制限が基本で、異所性ADH産生腫瘍ではV2受容体拮抗薬のモザバプタンが使える。臨床で特に注意したいのは補正速度だ。
医学生医学生
急速に補正すると浸透圧性脱髄症候群が起こるんでしたね。
ドクタードクター
そう。意識障害やけいれんがあれば高張食塩水を使うけれど、血清Naの上昇は24時間で10 mEq/L以下、高リスク例では8 mEq/L以下を目安にする。治したい気持ちが強いほど、速く上げすぎないよう気をつけよう。

まとめ

SIADHは血漿浸透圧が低いにもかかわらずADHの分泌や作用が続く病態で、「低浸透圧血症なのに尿が濃い」ことが本質であり、典型例では尿浸透圧が血漿浸透圧を上回ります。水貯留は腎の代償によるナトリウム排泄で打ち消されるため、細胞外液量はほぼ正常で浮腫も脱水もなく、尿中Naは20 mEq/L以上に保たれ、尿量にも一定の傾向はありません。GFRが保たれレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が抑制されるため、BUN・尿酸は正常〜低値、アルドステロンは正常〜低値となり、脱水による低ナトリウム血症との鑑別点になります。原因は肺小細胞癌、中枢神経疾患、肺疾患、薬剤など多彩で、治療は原因除去と水分制限が基本、重症例の補正では浸透圧性脱髄症候群を避けるため補正速度に注意が必要です。低ナトリウム血症を体液量で分類する考え方は、日常診療で頻繁に出会う電解質異常に対応するための基本となります。

解答・解説

正解はcです

【テーマ】ADH不適合分泌症候群(SIADH: syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone)の病態と検査所見を問う問題である。 【病態の骨格】ADH(抗利尿ホルモン、バソプレシン)は本来、血漿浸透圧の上昇や循環血液量の減少を感知して分泌され、腎集合管のV2受容体を介してアクアポリン2を管腔側膜に移動させ、自由水の再吸収を促す。SIADHでは、血漿浸透圧が低下していて本来ならADH分泌が抑えられるべき状況にもかかわらず、ADHの分泌(または作用)が持続する。その結果、 1) 自由水が過剰に再吸収され、体液が薄まって低ナトリウム血症・低浸透圧血症になる。 2) 尿は十分に希釈されず、濃縮された状態が続く(尿浸透圧が不適切に高い)。 3) 水が貯留して循環血液量はわずかに増えるが、その増加は腎での代償によって打ち消される。すなわち、糸球体濾過量(GFR)の増加、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)の抑制、ナトリウム利尿ペプチドの分泌増加によってナトリウムが尿中に排泄され(尿中Na濃度は通常20 mEq/L以上)、新たな平衡状態に落ち着く。 【臨床像】このため、体内総水分量はやや増えているものの、細胞外液量は臨床的にはほぼ正常にとどまる。浮腫も脱水所見もない「細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症(euvolemic hyponatremia)」となるのが典型である。尿量はそのときの水分摂取量に応じて変動し、一定の傾向はない。 【解き方】「低浸透圧血症なのに尿は濃い」という本質的な矛盾をまず押さえる。そのうえで、脱水(循環血液量減少)による低ナトリウム血症との違い(BUN上昇やRAA系亢進がない)と、心不全・肝硬変・ネフローゼ症候群のような浮腫性疾患との違い(浮腫がない)を整理すれば、各選択肢を判定できる。

選択肢考察

  1. ×a.  浮腫を認める。

    誤り。SIADHでは水が貯留するが、GFRの増加、RAA系の抑制、ナトリウム利尿ペプチドの増加によりナトリウムが尿中へ排泄されるため、細胞外液(特に間質液)の著明な増加は起こらない。浮腫を認めないことはSIADHの特徴の一つであり、浮腫があれば心不全・肝硬変・ネフローゼ症候群など、有効循環血液量の低下を伴う浮腫性疾患による低ナトリウム血症をまず考える。

  2. ×b.  尿量は減少する。

    誤り。ADHは尿を「濃く」するホルモンであり、SIADHの本質は尿が十分に希釈されないこと(自由水を捨てられないこと)である。尿量そのものは飲水量や溶質の摂取量によって決まり、明らかな乏尿になるわけではない。循環血液量はむしろ軽度増加しているため、腎前性の尿量減少も起こらない。

  3. ○c.  尿浸透圧は血漿浸透圧よりも高い。

    正しい。健常者では低浸透圧血症になるとADH分泌が抑制され、尿浸透圧は100 mOsm/kg未満まで下がる最大希釈尿となる。SIADHではADHが不適切に作用し続けるため、血漿浸透圧が低い(280 mOsm/kg未満)にもかかわらず尿は濃縮されたままになる。典型例では尿浸透圧が300 mOsm/kgを超え、血漿浸透圧を上回る。なお、わが国の診断基準で求められるのは「尿浸透圧が100 mOsm/kgを上回る」(最大希釈されていない)ことであり、血漿浸透圧を上回ることは必須ではない。ただし、低浸透圧血症で尿浸透圧が血漿浸透圧を超えていれば、ADH作用が不適切に続いていることを強く示す所見である。

  4. ×d.  血清尿素窒素は高値である。

    誤り。脱水による循環血液量減少では、GFRの低下と近位尿細管での尿素再吸収の亢進により血清尿素窒素(BUN)が上昇する。SIADHでは循環血液量が軽度増加しGFRも保たれる(むしろ増加する)ため、BUNは正常〜低値となる。同じ理由で血清尿酸値も低値(4 mg/dL未満程度)になりやすく、脱水との鑑別に有用である。

  5. ×e.  血漿アルドステロン濃度は高値である。

    誤り。循環血液量の軽度増加により腎血流が保たれ(増加し)、傍糸球体装置からのレニン分泌が抑えられるため、血漿レニン活性・アルドステロン濃度は正常〜低値となる。脱水や浮腫性疾患(有効循環血液量低下)ではRAA系が亢進してアルドステロンが上昇し、尿中Na濃度が低くなる点と対照的である。

SIADHの診断基準(わが国の手引きの要点)

・低ナトリウム血症:血清Na濃度が135 mEq/L未満 ・血漿浸透圧が280 mOsm/kg未満 ・低ナトリウム血症・低浸透圧血症の存在下で、血漿バソプレシン濃度が測定感度以上(抑制されていない) ・尿浸透圧が100 mOsm/kgを上回る ・尿中Na濃度が20 mEq/L以上 ・腎機能正常、副腎皮質機能正常(副腎不全や甲状腺機能低下症を除外する) ・脱水の所見を認めない 参考所見として、血清尿酸値の低下(5 mg/dL以下)、血漿レニン活性の低下(5 ng/mL/時以下)、水負荷試験で水利尿不良などがある。

主な原因

・中枢神経疾患:髄膜炎、脳炎、くも膜下出血、頭部外傷、脳腫瘍など ・肺疾患:肺炎、肺結核、気管支喘息など ・異所性ADH産生腫瘍:肺小細胞癌が代表的 ・薬剤:ビンクリスチン、シクロホスファミド、カルバマゼピン、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、三環系抗うつ薬など

治療

・原因疾患の治療・原因薬剤の中止 ・水分制限(1日15〜20 mL/kg程度) ・食塩の経口投与 ・異所性ADH産生腫瘍によるSIADHではバソプレシンV2受容体拮抗薬(モザバプタン)が使用可能 ・重症(意識障害・痙攣など)では高張食塩水で補正する。急速な補正は浸透圧性脱髄症候群(橋中心髄鞘崩壊など)を起こすため、補正速度は24時間で10 mEq/L以下(高リスク例では8 mEq/L以下)を目安とする。

低ナトリウム血症の体液量による鑑別

・細胞外液量減少(脱水):嘔吐・下痢、利尿薬、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群など。BUN上昇、RAA系亢進。 ・細胞外液量ほぼ正常:SIADH、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能低下症、心因性多飲など。 ・細胞外液量増加(浮腫):心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、腎不全など。

POINT

・SIADHは「低浸透圧血症なのに尿が濃い(尿浸透圧>100 mOsm/kg、典型的には血漿浸透圧より高い)」病態である。 ・細胞外液量はほぼ正常で、浮腫も脱水もない(euvolemic hyponatremia)。 ・尿中Na排泄は保たれる(20 mEq/L以上)。 ・BUN・尿酸は低値、レニン・アルドステロンは抑制される点で脱水と区別する。 ・尿量は一定の傾向を示さない(乏尿にはならない)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。