泣きやまない赤ちゃんのお腹をどう診るか―「抱っこ」が最良の診察器具になる理由
第102回医師国家試験 H問題 第24問
国試問題にチャレンジ
11か月の乳児。嘔吐と不機嫌とを主訴に午前の外来を受診した。昨日から哺乳量が減少し,腹部を痛がるような動作が認められた。今朝から不機嫌で,ミルクを1回嘔吐した。ベッド上で腹部を診察しようとすると号泣し,手足を激しく動かすため診察が困難である。 対応として正しいのはどれか。
- a.四肢を拘束する。
- b.ミルクを飲ませる。
- c.催眠薬を投与する。
- d.午後の外来への受診を指示する。
- e.母親に抱いてあやすよう指示する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
言葉で症状を訴えられない乳児では、不機嫌・啼泣・哺乳不良・腹部を痛がる動作が腹痛のサインとなり、11か月児の嘔吐と腹痛様症状ではまず腸重積症を念頭に置きます。泣いている乳児は腹壁が緊張して腫瘤や圧痛を正しく評価できないため、拘束や鎮静ではなく、母親に抱いてあやしてもらい、泣きやんだところで温めた手でやさしく触診するのが原則です。急性腹症が否定できない段階では経口摂取を控え、診察が難しいからといって受診を先送りしてはいけません。腸重積症では超音波のtarget signや血便の確認が診断の手がかりとなり、時間経過とともに整復が難しくなります。子どもの不安を和らげて正確な所見を得る工夫は、小児診療のあらゆる場面で役立つ基本技術です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・11か月の乳児。前日から哺乳量が減り、お腹を痛がるようなしぐさがみられる。 ・当日朝から不機嫌で、ミルクを1回嘔吐した。発熱の記載はない。 ・腹部を診察しようとすると激しく泣き、手足をばたつかせて診察ができない。
考えられる病態
言葉で症状を訴えられない乳児では、腹痛は「不機嫌」「啼泣」「哺乳不良」「足を縮める・体をよじる動作」として表現される。発熱を伴わない嘔吐と腹痛様の症状を示す乳児の鑑別には、便秘、腸重積症、腸回転異常症に伴う中腸軸捻転、鼠径ヘルニア嵌頓、精巣捻転などがある。このうち月齢(生後3か月〜2歳、特に1歳前後に多い)と症状から、まず腸重積症を念頭に置くべき状況である。腸重積症は時間の経過とともに腸管の血流障害が進み、整復が難しくなったり腸管壊死に至ったりするため、診断を先延ばしにしてはならない緊急性の高い疾患である。
設問の考え方
本問で問われているのは、泣いて暴れる乳児から「信頼できる腹部所見」をどう得るかという小児診察の基本である。啼泣中の乳児は腹壁に力が入って硬くなる(筋性防御と区別できない)ため、腫瘤や圧痛を正しく評価できない。無理に押さえつけたり薬で眠らせたりするのではなく、まず子どもを安心させて泣きやませ、腹壁がゆるんだ状態でそっと触診するのが原則である。乳児にとって最も安心できるのは保護者の腕の中であり、母親に抱いてあやしてもらい、落ち着いたところで(必要なら抱かれたままの姿勢で)手を温めてからやさしく触診するのが適切な対応である。
選択肢考察
- ×a. 四肢を拘束する。
手足を押さえつけると乳児はさらに恐怖を感じて激しく泣き、腹壁の緊張が強まるため、腫瘤や圧痛の有無をかえって評価できなくなる。診察目的の身体拘束は患児・家族にとって大きな苦痛であり、倫理的にも不適切である。
- ×b. ミルクを飲ませる。
嘔吐と腹痛がみられ、腸重積症や腸閉塞などの急性腹症が否定されていない段階で経口摂取させると、嘔吐を誘発し誤嚥の危険がある。また、緊急の処置や鎮静・麻酔が必要になる可能性も考えると、診断がつくまでは経口摂取を控えるべきである。泣きやませる手段として不適切である。
- ×c. 催眠薬を投与する。
催眠薬(鎮静薬)で眠らせると、意識状態の評価ができなくなるうえ、痛みに対する反応(圧痛、啼泣の変化)が隠され、腹部所見を正しく判断できなくなる。呼吸抑制や嘔吐物誤嚥のリスクもあり、腹部診察のために安易に投与すべきではない。
- ×d. 午後の外来への受診を指示する。
腸重積症などの急性腹症が疑われる乳児では、時間の経過とともに腸管の血流障害が進行し、非観血的整復が困難になったり腸管壊死・穿孔に至ったりする。診察が困難だからといって受診を先送りするのは危険であり、その場で評価を進めなければならない。
- ○e. 母親に抱いてあやすよう指示する。
乳児は保護者に抱かれると安心して泣きやみやすく、腹壁の緊張がとれて触診が可能になる。泣きやんだところで、温めた手でそっとやさしく腹部を触診すれば、腸重積症であれば右上腹部などにソーセージ様の腫瘤を触れることがあり、圧痛の有無も判断しやすくなる。抱かれたまま、あるいは保護者の膝の上で診察するのも有効である。子どもの恐怖心を減らし、正確な所見を得るための最も適切な対応である。
小児の診察のコツ
・乳幼児は見知らぬ人や診察台を怖がるため、保護者の膝の上や抱っこの状態で診察するとよい。 ・泣かせる可能性の高い診察(口腔・咽頭の観察、耳鏡など)は最後に回し、泣く前に得たい所見(呼吸数・呼吸音の聴診、心音、腹部触診)を先に行う。 ・聴診器や手は温めてから触れる。おもちゃなどで気をそらすのも有効である。 ・啼泣中は腹壁が硬くなり、真の筋性防御と区別できない。泣き声を上げて息を吸う瞬間に腹壁がゆるむのを利用して触診する方法もある。
腸重積症の要点
・口側の腸管が肛門側の腸管に嵌入する疾患で、回腸が結腸に入り込む回結腸型が大部分を占める。 ・生後3か月〜2歳ごろに多く、特に1歳前後に好発する。 ・古典的三徴は、間欠的な腹痛(間欠的啼泣・不機嫌)、嘔吐、血便(イチゴゼリー状粘血便)である。三徴がそろうのは一部で、初期には血便を欠くことが多いため、浣腸で血便の有無を確認することがある。 ・腹部触診では右上腹部などにソーセージ様腫瘤を触れることがあり、右下腹部が空虚に触れる(ダンス徴候)こともある。 ・診断には腹部超音波検査が第一選択で、横断像でtarget sign(同心円状構造)、縦断像でpseudokidney signを認める。 ・発症から時間が経っておらず全身状態が保たれていれば、X線透視下または超音波ガイド下の高圧浣腸(造影剤・生理食塩水・空気による)で整復する。腹膜炎・穿孔・ショックを伴う例や非観血的整復が不成功の例では手術を行う。
乳児の急性腹症の鑑別
・腸重積症:血便、腹部腫瘤、超音波でtarget sign。 ・鼠径ヘルニア嵌頓・精巣捻転:鼠径部・陰嚢の視診と触診を必ず行う。 ・腸回転異常症に伴う中腸軸捻転:胆汁性嘔吐が特徴で、超音波や上部消化管造影で評価する。 ・便秘:小児の腹痛の原因として最も多い。
POINT
・言葉で訴えられない乳児では、不機嫌・啼泣・哺乳不良が腹痛のサインとなる。 ・泣いている乳児では腹部所見を正確にとれない。拘束や鎮静ではなく、保護者に抱いてあやしてもらい、泣きやんだところでやさしく触診する。 ・急性腹症が疑われる乳児では、経口摂取や受診の先送りは避ける。 ・11か月児の嘔吐・不機嫌・腹痛様動作では腸重積症を念頭に置き、腫瘤触知、血便の確認、腹部超音波検査(target sign)を行う。
