StudyMed医師国家試験

「膿は出す」―腹腔内膿瘍の治療原則と、紛らわしい手技の整理術

第102回医師国家試験 G問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第34問

腹腔内膿瘍への対応で適切なのはどれか。

  1. a.動脈塞栓術
  2. b.ドレナージ
  3. c.エタノール注入
  4. d.ラジオ波焼灼
  5. e.硬化療法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腹腔内膿瘍への対応を選ぶ問題だ。選択肢には画像下治療やカテーテル治療の名前が並んでいるけれど、ポイントは「膿瘍とはどんな状態で、何をすれば治るのか」を考えること。そして、それぞれの手技が本来どの病気に使われるのかを整理しておくことだよ。まず、腹腔内膿瘍はどんなときにできるかな。
医学生医学生
虫垂炎の穿孔や憩室炎、手術後の縫合不全のあとにできると習いました。外科の臨床実習で、術後に熱が下がらない患者さんのCTを見せてもらったことがあります。
ドクタードクター
いい経験だね。消化管穿孔や縫合不全、汎発性腹膜炎のあとに、腹腔内の一区画に膿が被包化されて溜まった状態が腹腔内膿瘍だ。横隔膜下、肝下面、Douglas窩、腸管の間などが好発部位で、弛張熱や腹痛、白血球増多やCRP上昇がみられる。診断には超音波や造影CTが役立つ。
医学生医学生
感染症なら、まず抗菌薬をしっかり投与すればいいのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこが大事な誤解ポイントだ。膿瘍は周りを線維性の被膜で囲まれていて、中は血流に乏しく、酸性で細菌の量も多い。だから点滴した抗菌薬が十分に届かず、効きにくいんだ。抗菌薬だけで治そうとすると、なかなか熱が下がらないことが多い。
医学生医学生
微生物学の講義で、膿瘍は抗菌薬が移行しにくいと聞いた気がします。だから物理的に膿を出す必要があるんですね。
ドクタードクター
その通り。治療の原則は「膿は出す」。つまりドレナージが正解だ。膿を体外に出せば細菌の量が減り、内圧も下がって、治癒に直結する。抗菌薬は併用するけれど、あくまで補助的な位置づけだよ。
医学生医学生
ドレナージというと、開腹してドレーンを入れるイメージがあります。
ドクタードクター
まず考えるのは、超音波ガイド下やCTガイド下の経皮的ドレナージなんだ。皮膚から針を刺してカテーテルを留置するだけなので低侵襲だね。腸管が邪魔をして安全な穿刺経路がない場合、多房性で排膿が不十分な場合、穿孔部の修復など原因病変への処置が必要な場合には、開腹や腹腔鏡での外科的ドレナージを選ぶ。
医学生医学生
ほかの選択肢は、どれも肝細胞癌の治療で聞いたものばかりに見えます。
ドクタードクター
鋭いね。一つずつ整理しよう。動脈塞栓術はカテーテルで標的の動脈に塞栓物質を詰めて血流を遮断する治療で、肝細胞癌の肝動脈化学塞栓療法、外傷や消化管出血の止血、動脈瘤などに使う。膿瘍で血流を止めても膿は出ないし、周囲の組織を虚血にしてしまうだけだ。
医学生医学生
エタノール注入とラジオ波焼灼は、消化器内科を回ったときに肝細胞癌の患者さんで見ました。
ドクタードクター
そう、どちらも組織を壊死させる局所治療だ。エタノール注入は無水エタノールで腫瘍細胞を凝固壊死させるもので、小型の肝細胞癌や嚢胞性病変に用いられてきた。ラジオ波焼灼は電極針から高周波電流を流して熱で腫瘍を焼く治療で、今は小型の肝細胞癌の局所療法の主流だね。どちらも膿を取り除く治療ではないから、膿瘍には使わない。
医学生医学生
硬化療法は静脈瘤の治療ですよね。内視鏡で食道静脈瘤に硬化剤を打つ方法を習いました。
ドクタードクター
その通り。硬化剤を血管内やその周囲に注入して血管を閉塞・線維化させる治療で、食道・胃静脈瘤、下肢静脈瘤、痔核などに使う。膿瘍とは無関係だ。こうして並べると、どの手技も「何を目的にしているか」で整理できるだろう。
医学生医学生
血流を止める、腫瘍を壊す、血管を潰す、そして液体を出す。膿瘍に必要なのは最後の「出す」だけ、ということですね。
ドクタードクター
見事なまとめだ。最後に臨床での注意点を。起炎菌は大腸菌などのグラム陰性桿菌とBacteroidesなどの嫌気性菌の混合感染が多いから、抗菌薬は両方をカバーするものを選び、排液の培養と感受性で調整する。それから症状にも特徴があって、Douglas窩膿瘍では下痢やしぶり腹、頻尿のような直腸・膀胱の刺激症状が出たり、横隔膜下膿瘍では胸水や肩への放散痛が出たりすることがある。術後の発熱が続くときは、創部感染だけでなく腹腔内膿瘍を必ず疑って画像で探しに行くことが大切だよ。
医学生医学生
「抗菌薬が効かない発熱には、膿の溜まりがないか探す」と覚えておきます。
ドクタードクター
それで十分だ。膿瘍は腹腔内に限らず、肝膿瘍でも膿胸でも、治療の基本は同じ「排膿」だということも一緒に覚えておこう。

まとめ

腹腔内膿瘍は、消化管穿孔や術後縫合不全などを契機に腹腔内の一区画へ膿が被包化されて貯留した状態で、弛張熱や腹痛、炎症反応の上昇を示し、超音波や造影CTで診断します。膿瘍内は被膜に囲まれ血流に乏しいため抗菌薬が届きにくく、治療の中心は膿を体外へ出すドレナージで、まず超音波・CTガイド下の経皮的ドレナージを検討し、困難な場合は外科的ドレナージを行います。抗菌薬はグラム陰性桿菌と嫌気性菌をカバーするものを補助的に併用し、培養結果で調整します。動脈塞栓術は出血や肝細胞癌、エタノール注入やラジオ波焼灼は肝細胞癌などの腫瘍、硬化療法は静脈瘤の治療であり、いずれも膿瘍の適応ではありません。「膿は出す」という原則と、各手技の目的を対応づけて整理することは、外科・消化器領域の臨床判断の基本となります。

解答・解説

正解はbです

腹腔内膿瘍は、腹腔内のある区画に膿(細菌・好中球・壊死組織などからなる液体)が被包化されて貯留した状態である。消化管穿孔(虫垂炎穿孔、憩室炎穿孔など)、腹部手術後の縫合不全、汎発性腹膜炎の後などに生じやすく、好発部位は横隔膜下、肝下面、Douglas窩(直腸子宮窩・直腸膀胱窩)、腸管の間などである。弛張熱、腹痛、白血球増多・CRP上昇がみられ、診断には超音波や造影CTが有用である。 治療の原則は「膿は出す」ことである。膿瘍は周囲を線維性の被膜で囲まれ、内部は血流に乏しく、酸性で細菌量が多いため、抗菌薬が十分に届かず効きにくい。したがって抗菌薬投与だけでは治りにくく、膿を体外へ排出するドレナージが治療の中心となる。まずは超音波ガイド下またはCTガイド下の経皮的ドレナージを考え、到達経路がない場合や多房性で排膿が不十分な場合、原因となる消化管穿孔の修復が必要な場合などには外科的(開腹・腹腔鏡下)ドレナージを行う。抗菌薬は起炎菌を想定して併用するが、あくまで補助的な位置づけである。 その他の選択肢は、肝細胞癌の局所治療、出血や腫瘍に対する血管内治療、静脈瘤の治療など、いずれも膿瘍とは目的の異なる手技である。各手技がどの疾患に対して用いられるかを整理しておくことが本問の要点である。

選択肢考察

  1. ×a.  動脈塞栓術

    動脈塞栓術は、カテーテルで標的の動脈に塞栓物質(ゼラチンスポンジ、コイルなど)を注入して血流を遮断する治療である。肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓療法(TACE)、外傷や消化管出血・喀血などのコントロール困難な出血に対する止血、動脈瘤の治療などに用いられる。腹腔内膿瘍は膿の貯留が問題であり、血流を遮断しても排膿は得られず、かえって周囲組織の虚血を招くため適応はない。

  2. ○b.  ドレナージ

    膿瘍治療の基本であり第一選択である。膿瘍内には抗菌薬が移行しにくいため、膿そのものを体外へ排出して細菌量を減らし、内圧を下げることが治癒に直結する。低侵襲な超音波ガイド下・CTガイド下の経皮的ドレナージがまず検討され、穿刺経路が確保できない場合、膿瘍が多房性で排膿が不十分な場合、原因病変(消化管穿孔など)の処置が必要な場合には、開腹あるいは腹腔鏡下での外科的ドレナージを行う。排液の培養結果に基づいて抗菌薬を選択し、併用する。

  3. ×c.  エタノール注入

    経皮的エタノール注入療法(percutaneous ethanol injection therapy:PEIT)は、超音波ガイド下に腫瘍内へ無水エタノールを注入し、脱水・蛋白変性によって腫瘍細胞を凝固壊死させる治療で、主に小型の肝細胞癌に用いられてきた(現在はラジオ波焼灼療法が主流)。そのほか、甲状腺や肝の嚢胞性病変の縮小目的に用いられることもある。組織を壊死させる治療であり、感染した膿の除去にはならないため、腹腔内膿瘍の治療ではない。

  4. ×d.  ラジオ波焼灼

    ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)は、腫瘍内に電極針を刺入してラジオ波(高周波)電流を流し、発生する熱で腫瘍を凝固壊死させる治療である。主に径3cm以下・3個以下程度の肝細胞癌に対する局所療法として用いられるほか、転移性肝腫瘍や一部の腎癌・肺癌などにも応用される。膿瘍の治療には用いない。

  5. ×e.  硬化療法

    硬化療法は、硬化剤(エタノールアミンオレイト、ポリドカノールなど)を血管内や周囲に注入し、血管を閉塞・線維化させる治療である。内視鏡的食道・胃静脈瘤硬化療法(EIS)、下肢静脈瘤、痔核などに用いられる。膿瘍の排膿とは無関係であり、適応はない。

腹腔内膿瘍の要点

・原因:消化管穿孔(虫垂炎、憩室炎、消化性潰瘍)、術後縫合不全、腹膜炎後、膵炎後の感染、Crohn病など。 ・好発部位:横隔膜下、肝下面(Morison窩)、Douglas窩、傍結腸溝、腸管の間。 ・症状:弛張熱、局所の腹痛・圧痛。Douglas窩膿瘍では下痢・しぶり腹・頻尿など直腸膀胱刺激症状、横隔膜下膿瘍では胸水や肩への放散痛がみられることがある。 ・診断:超音波、造影CT(辺縁が造影される被包化された液体貯留、内部のガス像)。 ・起炎菌:大腸菌などのグラム陰性桿菌と、Bacteroides属などの嫌気性菌の混合感染が多い。

治療

1)ドレナージ:第一選択。経皮的(超音波・CTガイド下)を優先し、困難な場合は外科的に行う。 2)抗菌薬:グラム陰性桿菌と嫌気性菌をカバーするものを併用し、排液の培養・感受性結果で調整する。 3)原因疾患への対応:穿孔部の閉鎖や病変腸管の切除など。

選択肢の手技と主な対象の整理

・動脈塞栓術:肝細胞癌(TACE)、出血のコントロール、動脈瘤 ・エタノール注入(PEIT):小型肝細胞癌、嚢胞性病変 ・ラジオ波焼灼(RFA):小型肝細胞癌などの腫瘍 ・硬化療法:食道・胃静脈瘤、下肢静脈瘤、痔核 ・ドレナージ:膿瘍、胸水・腹水、胆汁うっ滞(胆道ドレナージ)など

POINT

・膿瘍治療の原則は排膿(ドレナージ)であり、抗菌薬は補助的。 ・膿瘍内は抗菌薬が移行しにくく、抗菌薬単独では治りにくい。 ・まず経皮的ドレナージ(超音波・CTガイド下)、困難なら外科的ドレナージ。 ・PEIT・RFA・TACEは肝細胞癌、硬化療法は静脈瘤の治療として整理しておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。