「膿は出す」―腹腔内膿瘍の治療原則と、紛らわしい手技の整理術
第102回医師国家試験 G問題 第34問
国試問題にチャレンジ
腹腔内膿瘍への対応で適切なのはどれか。
- a.動脈塞栓術
- b.ドレナージ
- c.エタノール注入
- d.ラジオ波焼灼
- e.硬化療法
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腹腔内膿瘍は、消化管穿孔や術後縫合不全などを契機に腹腔内の一区画へ膿が被包化されて貯留した状態で、弛張熱や腹痛、炎症反応の上昇を示し、超音波や造影CTで診断します。膿瘍内は被膜に囲まれ血流に乏しいため抗菌薬が届きにくく、治療の中心は膿を体外へ出すドレナージで、まず超音波・CTガイド下の経皮的ドレナージを検討し、困難な場合は外科的ドレナージを行います。抗菌薬はグラム陰性桿菌と嫌気性菌をカバーするものを補助的に併用し、培養結果で調整します。動脈塞栓術は出血や肝細胞癌、エタノール注入やラジオ波焼灼は肝細胞癌などの腫瘍、硬化療法は静脈瘤の治療であり、いずれも膿瘍の適応ではありません。「膿は出す」という原則と、各手技の目的を対応づけて整理することは、外科・消化器領域の臨床判断の基本となります。
解答・解説
正解はbです
腹腔内膿瘍は、腹腔内のある区画に膿(細菌・好中球・壊死組織などからなる液体)が被包化されて貯留した状態である。消化管穿孔(虫垂炎穿孔、憩室炎穿孔など)、腹部手術後の縫合不全、汎発性腹膜炎の後などに生じやすく、好発部位は横隔膜下、肝下面、Douglas窩(直腸子宮窩・直腸膀胱窩)、腸管の間などである。弛張熱、腹痛、白血球増多・CRP上昇がみられ、診断には超音波や造影CTが有用である。 治療の原則は「膿は出す」ことである。膿瘍は周囲を線維性の被膜で囲まれ、内部は血流に乏しく、酸性で細菌量が多いため、抗菌薬が十分に届かず効きにくい。したがって抗菌薬投与だけでは治りにくく、膿を体外へ排出するドレナージが治療の中心となる。まずは超音波ガイド下またはCTガイド下の経皮的ドレナージを考え、到達経路がない場合や多房性で排膿が不十分な場合、原因となる消化管穿孔の修復が必要な場合などには外科的(開腹・腹腔鏡下)ドレナージを行う。抗菌薬は起炎菌を想定して併用するが、あくまで補助的な位置づけである。 その他の選択肢は、肝細胞癌の局所治療、出血や腫瘍に対する血管内治療、静脈瘤の治療など、いずれも膿瘍とは目的の異なる手技である。各手技がどの疾患に対して用いられるかを整理しておくことが本問の要点である。
選択肢考察
- ×a. 動脈塞栓術
動脈塞栓術は、カテーテルで標的の動脈に塞栓物質(ゼラチンスポンジ、コイルなど)を注入して血流を遮断する治療である。肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓療法(TACE)、外傷や消化管出血・喀血などのコントロール困難な出血に対する止血、動脈瘤の治療などに用いられる。腹腔内膿瘍は膿の貯留が問題であり、血流を遮断しても排膿は得られず、かえって周囲組織の虚血を招くため適応はない。
- ○b. ドレナージ
膿瘍治療の基本であり第一選択である。膿瘍内には抗菌薬が移行しにくいため、膿そのものを体外へ排出して細菌量を減らし、内圧を下げることが治癒に直結する。低侵襲な超音波ガイド下・CTガイド下の経皮的ドレナージがまず検討され、穿刺経路が確保できない場合、膿瘍が多房性で排膿が不十分な場合、原因病変(消化管穿孔など)の処置が必要な場合には、開腹あるいは腹腔鏡下での外科的ドレナージを行う。排液の培養結果に基づいて抗菌薬を選択し、併用する。
- ×c. エタノール注入
経皮的エタノール注入療法(percutaneous ethanol injection therapy:PEIT)は、超音波ガイド下に腫瘍内へ無水エタノールを注入し、脱水・蛋白変性によって腫瘍細胞を凝固壊死させる治療で、主に小型の肝細胞癌に用いられてきた(現在はラジオ波焼灼療法が主流)。そのほか、甲状腺や肝の嚢胞性病変の縮小目的に用いられることもある。組織を壊死させる治療であり、感染した膿の除去にはならないため、腹腔内膿瘍の治療ではない。
- ×d. ラジオ波焼灼
ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)は、腫瘍内に電極針を刺入してラジオ波(高周波)電流を流し、発生する熱で腫瘍を凝固壊死させる治療である。主に径3cm以下・3個以下程度の肝細胞癌に対する局所療法として用いられるほか、転移性肝腫瘍や一部の腎癌・肺癌などにも応用される。膿瘍の治療には用いない。
- ×e. 硬化療法
硬化療法は、硬化剤(エタノールアミンオレイト、ポリドカノールなど)を血管内や周囲に注入し、血管を閉塞・線維化させる治療である。内視鏡的食道・胃静脈瘤硬化療法(EIS)、下肢静脈瘤、痔核などに用いられる。膿瘍の排膿とは無関係であり、適応はない。
腹腔内膿瘍の要点
・原因:消化管穿孔(虫垂炎、憩室炎、消化性潰瘍)、術後縫合不全、腹膜炎後、膵炎後の感染、Crohn病など。 ・好発部位:横隔膜下、肝下面(Morison窩)、Douglas窩、傍結腸溝、腸管の間。 ・症状:弛張熱、局所の腹痛・圧痛。Douglas窩膿瘍では下痢・しぶり腹・頻尿など直腸膀胱刺激症状、横隔膜下膿瘍では胸水や肩への放散痛がみられることがある。 ・診断:超音波、造影CT(辺縁が造影される被包化された液体貯留、内部のガス像)。 ・起炎菌:大腸菌などのグラム陰性桿菌と、Bacteroides属などの嫌気性菌の混合感染が多い。
治療
1)ドレナージ:第一選択。経皮的(超音波・CTガイド下)を優先し、困難な場合は外科的に行う。 2)抗菌薬:グラム陰性桿菌と嫌気性菌をカバーするものを併用し、排液の培養・感受性結果で調整する。 3)原因疾患への対応:穿孔部の閉鎖や病変腸管の切除など。
選択肢の手技と主な対象の整理
・動脈塞栓術:肝細胞癌(TACE)、出血のコントロール、動脈瘤 ・エタノール注入(PEIT):小型肝細胞癌、嚢胞性病変 ・ラジオ波焼灼(RFA):小型肝細胞癌などの腫瘍 ・硬化療法:食道・胃静脈瘤、下肢静脈瘤、痔核 ・ドレナージ:膿瘍、胸水・腹水、胆汁うっ滞(胆道ドレナージ)など
POINT
・膿瘍治療の原則は排膿(ドレナージ)であり、抗菌薬は補助的。 ・膿瘍内は抗菌薬が移行しにくく、抗菌薬単独では治りにくい。 ・まず経皮的ドレナージ(超音波・CTガイド下)、困難なら外科的ドレナージ。 ・PEIT・RFA・TACEは肝細胞癌、硬化療法は静脈瘤の治療として整理しておく。
