待合室で倒れた狭心症患者―「あえぐ呼吸」は心停止のサイン、まずAEDを
第102回医師国家試験 F問題 第21問
国試問題にチャレンジ
53歳の男性。狭心症の精査目的で通院中である。外来の待合室で様子がおかしくなった。意識はなく,あえぐような不規則な呼吸をしている。 直ちに持参するよう依頼するのはどれか。
- a.自動体外式除細動器〈AED〉
- b.心エコー装置
- c.人工呼吸器
- d.心臓ペースメーカー
- e.胸腔ドレナージチューブ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
反応がなく、あえぐような不規則な呼吸(死戦期呼吸)を認める場合は「普段どおりの呼吸なし」として心停止と判断し、ただちに胸骨圧迫を開始します。冠動脈疾患を背景とする成人の突然の心停止では心室細動や無脈性心室頻拍が多く、救命の鍵は一刻も早い除細動であるため、人を呼ぶと同時にAEDを手配します。AEDは心電図を自動解析しショック適応の波形でのみ通電を指示するので、原因が未確定の段階でも安心して使えます。心エコーや人工呼吸器は二次救命処置や心拍再開後の段階で用いるもので、ペースメーカーや胸腔ドレーンも心停止の初期対応で優先するものではありません。死戦期呼吸を見逃さず、「助けを呼ぶ・AED・胸骨圧迫」を即座に実行できることは、すべての医師に求められる基本的な救命能力です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・53歳の男性で、狭心症(冠動脈疾患)を疑われ精査中である。心臓が原因で心停止を起こしやすい背景がある。 ・外来の待合室で急に様子がおかしくなった。 ・意識がない。 ・あえぐような不規則な呼吸をしている。
状況の判断
「あえぐような不規則な呼吸」は、死戦期呼吸(gasping、下顎呼吸ともいう)とよばれる。心停止の直後にみられる反射的な呼吸運動で、有効な換気にはならない。一次救命処置(BLS)では、「反応がなく、普段どおりの呼吸がない(死戦期呼吸を含む)」ときは心停止と判断する。脈に触れて確かめるのに時間をかけず、ただちに胸骨圧迫を始める。一般の人は死戦期呼吸を「呼吸がある」と見誤りやすく、これが救命処置の遅れの大きな原因になっている。 冠動脈疾患のある成人の突然の心停止では、心室細動(VF)や無脈性心室頻拍(pulseless VT)が原因であることが多い。これらの致死的不整脈を止める唯一の確実な治療は、電気ショック(除細動)である。VFでは、除細動が1分遅れるごとに救命率が約7〜10%ずつ下がるとされる。胸骨圧迫だけで心拍を再開させることは難しい。
設問の考え方
したがって、この場面で行うべきことは次のとおりである。 ①周囲に大声で助けを求める(院内なら救急コールを要請する) ②AEDを持ってくるよう頼む ③ただちに胸骨圧迫を始める AEDが届いたらすぐに電源を入れ、電極パッドを貼る。AEDは心電図を自動で解析し、ショックが必要な波形(VF・無脈性VT)のときだけ電気ショックを指示する。そのため、心停止の原因がわからない段階で持ってきてもらっても問題はない。ほかの選択肢は、いずれも心停止の初期対応に使うものではない。
選択肢考察
- ○a. 自動体外式除細動器〈AED〉
狭心症の患者が、意識がなく死戦期呼吸をしている。これは心停止であり、原因はVFなどの致死的不整脈である可能性が高い。VFや無脈性VTの治療で最も重要なのは、できるだけ早い除細動である。AEDは、貼った電極パッドから心電図を自動で解析し、音声で操作を案内するので、誰でもすぐに使える。ショックが必要でない波形(心静止や無脈性電気活動〈PEA〉、正常な調律)では、電気ショックを指示しない。そのため、原因が確定していない段階で持ってきてもらって不利益はない。人を呼び、胸骨圧迫を始めながら、真っ先に持ってきてもらうべき機器である。
- ×b. 心エコー装置
心エコーは、蘇生中に心嚢液の貯留(心タンポナーデ)や心臓の動きの有無を評価し、心停止の原因を探すのに役立つことがある。しかし、それは二次救命処置(ALS)の段階で、胸骨圧迫をなるべく中断せずに補助的に行うものである。心停止を確認した直後に最優先で取り寄せる機器ではない。心エコーを待って除細動が遅れてはならない。
- ×c. 人工呼吸器
心停止の初期対応での換気は、バッグバルブマスクなどを用いた人工呼吸で行う(胸骨圧迫30回に人工呼吸2回)。機械式の人工呼吸器は、気管挿管などで気道を確保し、自己心拍が再開した後の集中治療で使うものである。待合室で最初に持ってきてもらう機器ではない。
- ×d. 心臓ペースメーカー
ペーシングは、症状のある高度な徐脈(完全房室ブロックなど)に対して、心拍数を補うための治療である。VFや無脈性VTには効果がない。心静止に対しても、ルーチンのペーシングは推奨されていない。心停止に最初にとるべき対応は、胸骨圧迫と除細動である。
- ×e. 胸腔ドレナージチューブ
胸腔ドレナージは、気胸や血胸、胸水に対して行う処置である。緊張性気胸は心停止の原因になりうる。しかし本例は冠動脈疾患を背景に起こった心停止で、胸部外傷や呼吸困難の先行など、緊張性気胸を疑わせる情報はない。なお、緊張性気胸が疑われる場合も、まず太い針で胸腔を穿刺して脱気(緊急脱気)し、その後に胸腔ドレーンを入れるのが一般的である。本例で直ちに持ってきてもらう器材ではない。
一次救命処置(BLS)の流れ(JRC蘇生ガイドライン2020に準拠)
①安全を確認し、肩をたたいて呼びかけ、反応を確認する。 ②反応がなければ、大声で助けを呼ぶ。119番通報(院内では救急コール)とAEDの手配を頼む。 ③呼吸を確認する(10秒以内)。普段どおりの呼吸がない、または死戦期呼吸であれば、心停止と判断する。判断に迷う場合も心停止として扱う。 ④ただちに胸骨圧迫を始める。圧迫の条件は次のとおりである。 ・部位:胸骨の下半分 ・深さ:約5cm(6cmを超えない) ・テンポ:100〜120回/分 ・毎回、胸を元の高さまで戻す ・中断は最小限にする ⑤人工呼吸の訓練を受けていて、意思がある場合は、胸骨圧迫30回:人工呼吸2回で行う。 ⑥AEDが届いたら電源を入れ、電極パッドを貼る。心電図解析中は患者から離れる。ショックが必要なら、誰も触れていないことを確認して通電する。その後はただちに胸骨圧迫を再開する。 ⑦AEDは2分ごとに解析する。救急隊や蘇生チームに引き継ぐまで、または患者が動き出すまで続ける。
心停止の4つの心電図波形
・電気ショックの適応がある波形:心室細動(VF)、無脈性心室頻拍(pulseless VT) ・電気ショックの適応がない波形:無脈性電気活動(PEA)、心静止(asystole)。これらでは胸骨圧迫とアドレナリン投与を行い、原因を探して治療する(いわゆる4H4T:低酸素、循環血液量減少、低/高カリウム血症、低体温、緊張性気胸、心タンポナーデ、毒物、血栓症〈冠動脈・肺動脈〉)。
死戦期呼吸
心停止の直後、しばらくの間みられる、しゃくりあげるようなあえぎ呼吸である。換気の役には立たない。これを「呼吸がある」と誤って判断すると、胸骨圧迫が遅れる。そのため、BLSでは死戦期呼吸を「普段どおりの呼吸なし」として扱う。
POINT
・反応がなく、死戦期呼吸(あえぐような呼吸)のときは、心停止と判断してただちに胸骨圧迫を始める。 ・冠動脈疾患を持つ成人の突然の心停止では、VFや無脈性VTが多い。最も重要なのは早期の除細動である。 ・人を呼び、AEDを持ってきてもらい、すぐ胸骨圧迫を始める。AEDは届いたらすぐ使う。 ・AEDは自動で心電図を解析し、ショックが必要な波形のときだけ電気ショックを指示する。 ・心エコー、人工呼吸器、ペースメーカー、胸腔ドレーンは、心停止の初期対応で最優先するものではない。
