歯痛の痛み止めが招いた大発作―鼻茸と喘息が教えるアスピリン喘息と「次の一手」
第102回医師国家試験 F問題 第22問
国試問題にチャレンジ
33歳の女性。急性の呼吸困難のため搬入された。3年前に喘息を発症し,近医で治療を受けていた。最近鼻閉がみられるので耳鼻咽喉科を受診したところ鼻ポリープを指摘された。本日歯痛が出現したので,家にある痛み止めを服用したところ重篤な呼吸困難が出現した。入院後直ちに酸素吸入とβ刺激薬投与とを行った。 次に投与するのはどれか。
- a.抗菌薬
- b.抗コリン薬
- c.喀痰溶解薬
- d.抗ヒスタミン薬
- e.副腎皮質ステロイド薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
成人発症の喘息に鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎があり、NSAIDsの使用直後に重い発作が起きた場合は、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)を考えます。これはIgEを介するアレルギーではなく、COX-1阻害によってアラキドン酸代謝がリポキシゲナーゼ系に偏り、システイニルロイコトリエンが過剰産生されることで起こる過敏症です。発作時は酸素投与と短時間作用性β2刺激薬吸入を行い、中発作以上では全身性ステロイドを早期に追加しますが、本症ではコハク酸エステル型の急速静注を避け、リン酸エステル型を点滴でゆっくり投与します。抗コリン薬は補助的な気管支拡張薬にとどまり、抗菌薬・去痰薬・抗ヒスタミン薬は急性期の治療薬ではありません。鼻茸のある喘息患者ではNSAIDsの使用歴を確認し、貼付薬や坐薬を含めた薬剤指導を行うことが、致死的発作の予防につながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・33歳女性、3年前に発症した成人発症の気管支喘息で治療中である。 ・最近になって鼻閉が出現し、鼻ポリープ(鼻茸)を指摘されている。 ・歯痛に対して自宅の鎮痛薬(市販・常備の鎮痛薬の多くは非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉である)を内服した直後に、重篤な呼吸困難が生じた。 ・搬入後、すでに酸素投与と短時間作用性β2刺激薬の吸入が行われている。
診断のプロセス
薬剤内服直後の急激な呼吸困難として、まずアナフィラキシーとNSAIDs過敏喘息(いわゆるアスピリン喘息)を考える。アナフィラキシーであれば、蕁麻疹や皮膚紅潮などの皮膚症状、血圧低下などの循環器症状、消化器症状を伴うことが多いが、本症例ではその記載がない。一方、成人発症の喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(鼻閉)、NSAIDs使用直後の発作という三つがそろっており、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息、AERD:aspirin-exacerbated respiratory disease、N-ERD:NSAIDs-exacerbated respiratory disease とも呼ばれる)の典型像である。「重篤な呼吸困難」とあることから、中発作〜大発作以上の喘息発作と判断する。
設問の考え方
喘息発作の初期治療は、酸素投与によって低酸素血症を是正し、短時間作用性β2刺激薬の吸入で速やかに気管支を拡張させることである。これで十分に改善しない中等度以上の発作では、気道の炎症そのものを抑えるために全身性ステロイド薬(主に静注)を早期に追加するのが原則である。ステロイドは効果発現まで数時間を要するため、重い発作では「β2刺激薬の効果を見てから」ではなく、早めに開始することが重要である。したがって、酸素とβ2刺激薬の次に投与すべきは副腎皮質ステロイド薬である。 なお、アスピリン喘息の患者では、コハク酸エステル型ステロイド(ヒドロコルチゾンコハク酸エステル、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルなど)の急速静注で発作が誘発・増悪することがあるため、リン酸エステル型(デキサメタゾンリン酸エステル、ベタメタゾンリン酸エステルなど)を選び、1〜2時間かけて点滴静注するのが望ましい。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
抗菌薬は細菌感染症に対して用いる薬剤である。本症例の発作はNSAIDs内服によって誘発されたもので、発熱や膿性痰など細菌感染を示す所見はない。気管支平滑筋の収縮と気道炎症という発作の病態に対して抗菌薬は効果がなく、緊急で投与する理由はない。
- ×b. 抗コリン薬
短時間作用性抗コリン薬(SAMA、例:イプラトロピウム)の吸入は、迷走神経を介した気管支収縮を抑える気管支拡張薬である。喘息発作ではβ2刺激薬と比べて効果の立ち上がりが遅く、気管支拡張作用も弱いため、単独で主役となる薬ではなく、β2刺激薬で反応が不十分なときの補助として併用される位置づけである。気道炎症を抑える作用はないので、酸素とβ2刺激薬の次に優先すべき薬ではない。
- ×c. 喀痰溶解薬
喀痰溶解薬(去痰薬)は痰の粘稠度を下げて排出を助ける薬であり、気管支平滑筋の収縮や気道炎症を改善する作用はない。本症例の呼吸困難の主体は気道の狭窄であり、急性発作の治療薬として用いる意義はない。吸入型の去痰薬はかえって気道を刺激し、発作を悪化させるおそれもある。
- ×d. 抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬はH1受容体を遮断してヒスタミンの作用を抑える薬である。アスピリン喘息の発作は、シクロオキシゲナーゼ(COX-1)阻害によってアラキドン酸代謝がリポキシゲナーゼ系へ偏り、システイニルロイコトリエンが過剰産生されることが主な機序であり、ヒスタミンが主役ではない。喘息発作に対する即効性の気管支拡張作用もないため、急性発作の治療には用いない。
- ○e. 副腎皮質ステロイド薬
全身性ステロイド薬は、炎症性サイトカインや炎症細胞の働きを抑えて気道の炎症と浮腫を改善し、β2受容体の反応性を回復させる。中発作以上の喘息発作では、酸素投与とβ2刺激薬吸入に続いて早期に点滴静注で開始するのが標準である。アスピリン喘息ではコハク酸エステル型ステロイドの急速静注で発作が悪化しうるため、デキサメタゾンやベタメタゾンなどのリン酸エステル型を点滴でゆっくり投与する。
アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)とは
アスピリンなどCOX-1阻害作用をもつNSAIDsの使用により、強い喘息発作や鼻症状(鼻汁・鼻閉)が誘発される病態である。内服薬だけでなく、注射薬、坐薬、湿布などの貼付薬、塗布薬でも起こりうる。通常、使用後1時間以内に症状が出現し、重積発作や致死的発作に至ることもある。IgEを介するアレルギーではなく、COX-1阻害という薬理作用によって起こる過敏症であるため、構造の異なるNSAIDsでも交差して発作が起こる。
疫学と特徴
・成人喘息の約5〜10%を占め、小児ではまれである。 ・20〜40歳代で発症することが多く、女性にやや多い。 ・好酸球性副鼻腔炎(鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎)や嗅覚障害を高率に合併し、しばしば喘息より先行する。鼻茸と成人発症喘息をみたら本症を疑い、NSAIDsの使用歴を必ず確認する。
機序
COX-1が阻害されると、気道保護的に働くプロスタグランジンE2(PGE2)が減少し、アラキドン酸代謝がリポキシゲナーゼ系に偏る。その結果、強力な気管支収縮物質であるシステイニルロイコトリエンが過剰に産生され、発作が起こる。このため長期管理ではロイコトリエン受容体拮抗薬が有効である。
発作時治療の要点
・酸素投与(SpO2 95%前後を目標)と短時間作用性β2刺激薬の反復吸入が基本である。 ・中発作以上では全身性ステロイドを早期に併用する。アスピリン喘息ではリン酸エステル型ステロイドを点滴で投与し、コハク酸エステル型の急速静注は避ける(添加物や製剤成分に過敏に反応することがある)。 ・重篤な発作では、アドレナリン0.1〜0.3 mgの筋注(または皮下注)が有効であり、本症の発作では特に効果が高いとされる。 ・その他、抗コリン薬吸入やアミノフィリン点滴を補助的に用いることがある。 ・意識障害や呼吸停止が迫る状態では、気管挿管・人工呼吸管理を行う。
使用できる鎮痛解熱薬
アセトアミノフェン(1回300 mg程度以下の少量)や、COX-2選択性の高い薬剤(セレコキシブなど)は比較的安全とされるが、完全に安全とはいえないため慎重に使用する。
POINT
・成人発症喘息+鼻茸(慢性副鼻腔炎・嗅覚障害)+NSAIDs使用直後の発作 → アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息) ・喘息発作の初期治療:酸素投与+短時間作用性β2刺激薬吸入 → 中発作以上では全身性ステロイド点滴を早期に追加 ・アスピリン喘息では、リン酸エステル型ステロイドを点滴でゆっくり投与し、コハク酸エステル型の急速静注は避ける ・重篤な発作にはアドレナリン筋注も有効 ・抗菌薬、去痰薬、抗ヒスタミン薬は喘息発作の急性期治療薬ではない
