StudyMed医師国家試験

歩き回る3歳児は元気のしるし―小児の診察は「見る」ことから始まる

第102回医師国家試験 E問題 第57問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第57問

3歳の男児。軽い咳を主訴に来院した。診察室に入ると,じっとせず室内を歩き回っている。  対応として適切なのはどれか。

  1. a.行動を観察する。
  2. b.精神科に受診科を変更させる。
  3. c.母親に強く抱かせて座らせる。
  4. d.本日は診察できないと母親に説明する。
  5. e.子どものしつけについて母親を指導する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、診察室で落ち着かない幼児にどう対応するか、という問題だ。医学的な知識というより、小児診療の基本姿勢が問われている。ポイントは「この年齢の子どもとして普通の行動か」と「その行動から何が読み取れるか」の2つだよ。
医学生医学生
じっとしていられないと聞くと、つい注意欠如・多動症のことが頭をよぎってしまいました。
ドクタードクター
国試の勉強をしていると、そう連想しがちだね。でも3歳児にとって、見知らぬ部屋、初めて会う医師、見慣れない器具は、好奇心も不安もかき立てるものだ。元気な幼児が室内を歩き回ったり、あちこち触ったりするのは年齢相応の自然な行動なんだ。
医学生医学生
言われてみれば、小児科の実習でも診察室のおもちゃに一直線の子が多かったです。
ドクタードクター
そうだろう。しかも、その歩き回る姿そのものが大切な情報になる。活気、表情、歩き方、呼吸の様子、咳の頻度や性状、周囲への関心……触れずに見ているだけで、全身状態がかなりわかるんだ。
医学生医学生
だから正解は「行動を観察する」なんですね。観察も診察の一部ということですか。
ドクタードクター
その通り。小児の診察は入室した瞬間から始まっている。自由に動き回って周りに興味を示す子は、全身状態が良いと考えられる。逆に、抱っこされたままぐったりして周囲に関心を示さない子のほうが、重症を疑うべきなんだ。
医学生医学生
静かでおとなしい子のほうが危ない、というのは意外です。
ドクタードクター
大事な視点だよ。観察しながら保護者から病歴を聞き、子どもが場に慣れてから身体診察に移ればいい。では、ほかの対応を見ていこう。精神科への受診科変更はどうかな。
医学生医学生
この場面だけで精神や発達の問題と決めつけるのは早すぎますし、咳を診てもらいに来たのに咳を診ないのはおかしいですね。
ドクタードクター
そう。注意欠如・多動症などの評価には、複数の場面で症状が続いているか、生活に支障があるかの確認が必要だ。一度の受診の様子だけで他科に回すのは、主訴への対応を怠るうえ、保護者に不要な不安を与えてしまう。
医学生医学生
母親に強く抱かせて座らせるのは、診察しやすくするためにはありそうに思えました。
ドクタードクター
最初から押さえつけると、子どもは怖がって泣き出してしまう。泣くと呼吸音は聴き取りにくくなるし、全身の観察も難しくなる。次の受診で医療者を怖がる原因にもなるね。しっかり固定してもらうのは、咽頭や耳の診察など短時間の固定が必要な手技に限られ、そのときも看護師の介助を得て安全に行う。
医学生医学生
本日は診察できないと説明したり、しつけについて指導したりするのも、子どもの普通の行動を問題扱いしている点で同じですね。
ドクタードクター
よく整理できたね。落ち着かないのは診察を断る理由にならないし、手順を工夫すれば十分診察できる。保護者を責めるような指導は信頼関係を損ない、その後の病歴聴取にも悪影響が出る。ここからは実践的な工夫を紹介しよう。まずは子どもでなく保護者と話し始め、子どもをじっと見つめたり大声で話しかけたりしない。慣れてきたら目線の高さを合わせて穏やかに声をかけるんだ。
医学生医学生
OSCEの医療面接では患者さんの目を見て話すように練習しましたが、小さい子には逆に見つめすぎないほうがいいんですね。
ドクタードクター
面白い違いだよね。診察の順番も大切で、泣く前に済ませたい観察と聴診を先に、腹部の触診を次に、嫌がりやすい咽頭や耳の診察は最後に回す。聴診器を触らせて慣れてもらったり、保護者の膝の上に座らせたりするのも有効だ。
医学生医学生
手を触れずに見て重症度を判断するのは、小児救急の考え方にもつながりますか。
ドクタードクター
その通り。小児評価のトライアングル、つまり外観・呼吸状態・皮膚の循環の3つを、近づく前の観察で評価する方法がある。ぐったりしている、視線が合わない、泣き声が弱い、陥没呼吸や呻吟がある、顔色が悪いといった所見があれば、迅速な対応が必要だ。歩き回る3歳児を見たら、まずは「元気でよかった」と思いながら観察から始めよう。

まとめ

幼児が初めての診察室で落ち着かず歩き回るのは年齢相応の自然な行動であり、それだけで発達や行動の異常、しつけの問題と判断すべきではありません。小児の診察は入室時からの行動観察で始まり、活気、表情、歩き方、呼吸や咳の様子から、子どもを怖がらせずに多くの情報が得られます。活発に動き回る子は全身状態が良好と考えられる一方、ぐったりして周囲に関心を示さない子は重症を疑います。無理に押さえつけず、保護者から病歴を聞きながら子どもが慣れるのを待ち、聴診を先に、咽頭・耳の診察を最後に行うといった工夫が大切です。小児評価のトライアングルにも通じる「まず見る」姿勢は、外来から救急まで小児診療の土台となります。

解答・解説

正解はaです

状況の整理

・3歳の男児、主訴は軽い咳のみ。 ・診察室に入るとじっとせず、室内を歩き回っている。

考え方

3歳児にとって、見知らぬ診察室、初めて会う医師や看護師、見慣れない器具に囲まれた環境は、好奇心と不安の両方をかき立てる。元気な幼児が室内を歩き回ったり、あちこち触ったりするのはこの年齢として自然な行動であり、それだけで発達や行動の異常と判断する根拠にはならない。 むしろ小児診療では、診察室に入ってきた時点からの様子(表情、活気、歩き方、呼吸の仕方、咳の性状、周囲への関心の示し方)を観察すること自体が重要な診察の一部である。自由に動き回り周囲に興味を示す子どもは全身状態が良好であることを示す所見であり、逆に抱かれたままぐったりして周囲に関心を示さない場合は重症を疑う。 したがって、まずは無理に押さえつけたり叱ったりせず、行動を観察しながら保護者から病歴を聴取し、子どもが場に慣れてから身体診察を行うのが適切である。聴診など静かにしてほしい診察は子どもが落ち着いた機会に行い、咽頭や耳の診察など嫌がる手技は最後に回す。

選択肢考察

  1. ○a.  行動を観察する。

    入室時からの行動観察は小児の診察で最初に行うべき評価である。歩き回る様子から、活気や意識状態、歩行・運動発達、呼吸の様子(多呼吸や陥没呼吸の有無)、咳の頻度や性状などの情報が、子どもを怖がらせずに得られる。活発に動き回ることは全身状態が良い根拠にもなる。観察しつつ保護者に病歴を聞き、子どもが環境に慣れてから身体診察に移る。

  2. ×b.  精神科に受診科を変更させる。

    3歳児が初めての場所で落ち着かずに動き回るのは年齢相応の行動であり、この場面だけで精神・発達の問題を疑う根拠はない。注意欠如・多動症(ADHD)などの診断には、複数の場面で持続する症状と生活上の支障の評価が必要である。軽い咳を主訴に受診した子どもを診察せずに他科へ回すのは、主訴への対応を怠るだけでなく、保護者に不要な不安を与える不適切な対応である。

  3. ×c.  母親に強く抱かせて座らせる。

    最初から強く押さえつけると子どもは恐怖を感じて泣き出し、呼吸音の聴取や全身の観察がかえって難しくなる。以後の受診で医療者を怖がる原因にもなる。基本は声をかけて安心させ、保護者の膝に座らせるなど自然な姿勢で診察することである。しっかり抱いて固定してもらうのは、咽頭や耳の診察など短時間の固定が必要な手技に限られ、その際も看護師の介助を得て安全に行う。

  4. ×d.  本日は診察できないと母親に説明する。

    幼児が診察室で落ち着かないのはごく普通のことであり、診察を断る理由にはならない。子どもの様子に合わせて手順を工夫すれば診察は十分に可能である。受診目的である咳の評価を行わずに帰すことは、医師としての責務を果たさない対応である。

  5. ×e.  子どものしつけについて母親を指導する。

    この年齢の子どもが新しい環境で歩き回るのは発達上自然な行動であり、しつけの問題とはいえない。保護者を責めるような指導は信頼関係を損ない、今後の受診や病歴聴取にも悪影響を及ぼす。本例で求められているのは咳の評価であり、しつけの指導は必要ない。

幼児の診察の工夫

・環境づくり:診察室におもちゃや絵を置くなど、子どもが安心できる雰囲気を作る。白衣を避ける医師もいる。 ・接し方:はじめは保護者と話し、子どもをじっと見つめたり大声で話しかけたりしない。子どもには自由に遊ばせて緊張をほぐし、目線の高さを合わせて穏やかに声をかける。 ・診察の順序:泣く前に済ませたい観察・聴診(呼吸音・心音)を先に行い、腹部の触診、最後に咽頭・耳など嫌がる診察を行う。聴診器を触らせるなど、器具に慣れさせるのも有効である。 ・姿勢:保護者の膝の上に座らせる、抱いてもらうなど、子どもが安心できる姿勢で診察する。

視診から得られる重症度の手がかり

・元気に動き回る、周囲に興味を示す、笑う、あやすと反応する:全身状態は比較的良好と考えられる。 ・ぐったりしている、視線が合わない、あやしても反応が乏しい、泣き声が弱い、呼吸が速い・苦しそう(陥没呼吸、鼻翼呼吸、呻吟)、顔色不良:重症の可能性があり、迅速な対応が必要である。 小児救急で用いられる小児評価のトライアングル(PAT:外観、呼吸状態、皮膚の循環)も、手を触れずに観察だけで初期評価を行う考え方に基づいている。

POINT

・幼児が診察室で落ち着かず動き回るのは年齢相応の正常な行動である。 ・小児の診察は入室時からの行動観察で始まる。活気があり動き回るのは全身状態が良好なサイン。 ・無理に押さえつけず、安心させてから診察する。嫌がる手技(咽頭・耳)は最後に。 ・静かでぐったりしている子どもこそ重症を疑う。 ・受診科の変更、診察拒否、保護者を責める指導は不適切。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。