StudyMed医師国家試験

外に出た子宮が語るもの―乾いた腟と620mLの尿閉が示す全子宮脱

第102回医師国家試験 E問題 第49問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第49問

69歳の女性。外陰部の不快感と尿閉とを主訴に来院した。子宮が脱出し,膀胱瘤を伴う。腟は乾燥し,潰瘍形成が認められる。導尿で620mLの尿貯留が確認された。  診断はどれか。

  1. a.尿道脱
  2. b.子宮下垂
  3. c.全子宮脱
  4. d.不全子宮脱
  5. e.子宮頸部延長症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢女性の骨盤臓器脱について、子宮がどこまで下がっているかを判定する問題だ。注目してほしいのは、腟粘膜の状態と排尿の状態。この2つが、脱出の程度を推し量る手がかりになるんだ。まず、子宮脱の重症度はどう分類するか覚えているかな。
医学生医学生
産婦人科の講義で、子宮下垂、不全子宮脱、全子宮脱の3段階と習いました。
ドクタードクター
その通り。子宮腟部が腟の中にとどまっているのが子宮下垂、子宮の一部、主に子宮腟部が腟口から出ているのが不全子宮脱、子宮全体が腟口の外に出ているのが全子宮脱だ。では今回、どれにあたると思う?
医学生医学生
「子宮が脱出」とあるので、少なくとも子宮下垂ではないですよね。でも、一部だけ出ている不全子宮脱との区別がつきません。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だね。ヒントは腟粘膜の乾燥と潰瘍だ。腟粘膜は本来、体内で湿った環境にある。それが乾いて潰瘍までできているということは、何を意味すると思う?
医学生医学生
腟の壁が体の外に出て、空気や下着に触れ続けている、ということでしょうか。
ドクタードクター
そういうこと。子宮全体が脱出すると、腟壁は裏返しになって体外に露出する。粘膜は乾燥・角化し、下着との摩擦で褥瘡性の潰瘍ができる。閉経後のエストロゲン低下で粘膜が萎縮していることも、傷つきやすさに拍車をかけているんだ。
医学生医学生
もう一つの尿閉は、膀胱瘤と関係しているんですね。
ドクタードクター
その通り。膀胱瘤は腟前壁とともに膀胱が下がってくる状態だ。脱出が高度になると膀胱と尿道が大きく引き下ろされ、尿道が折れ曲がって尿が出にくくなる。導尿で600mLを超える尿がたまっていたというのは、それだけ脱出が強いことを物語っているよ。
医学生医学生
泌尿器科の臨床実習で、残尿測定のエコーを当てさせてもらったことがあります。600mL超はかなりの量ですね。
ドクタードクター
そうだね。だから、腟壁の広範な露出による乾燥・潰瘍と高度の尿閉という組み合わせから、子宮全体が出ている全子宮脱と判断するのが妥当なんだ。不全子宮脱でも子宮の一部は外に出るけれど、ここまでの所見は、子宮全体が脱出した高度の段階でみられることが多い。
医学生医学生
子宮頸部延長症も、子宮が出ているように見える病気でしたよね。
ドクタードクター
よく知っているね。子宮頸部延長症は頸部が異常に長く伸びて、子宮体部の位置はあまり下がっていないのに子宮腟部が腟口付近に達する状態だ。内診で子宮体部の位置を確かめたり、ゾンデ診で子宮腔長が延びていることを確認したりして鑑別する。今回は膀胱瘤も伴って子宮全体が脱出しているから、頸部の延長だけでは説明がつかない。
医学生医学生
尿道脱は、名前だけだと尿閉と結びつきそうに思えました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。尿道脱は外尿道口から尿道粘膜が全周性にめくれ出た状態で、赤いドーナツ状の腫瘤として見える。思春期前の女児や閉経後女性にみられ、出血や排尿時痛を訴えることがある。でも子宮そのものの脱出や膀胱瘤は説明できない。
医学生医学生
子宮の位置、腟粘膜、排尿の3点をセットで見れば、程度が判断できるということですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。発展として、骨盤臓器脱全体も押さえておこう。骨盤底筋群や基靱帯・仙骨子宮靱帯などの支持組織が弱って起こり、子宮脱のほか膀胱瘤、直腸瘤、小腸瘤、子宮摘出後の腟断端脱がある。危険因子は経腟分娩、特に多産や難産、加齢、閉経、それに肥満や慢性の咳、便秘など腹圧がかかる状態だ。現在は処女膜輪を基準に下降の程度を数値化するPOP-Qでステージ分類するのが国際的な標準だよ。
医学生医学生
治療はやっぱり手術になるんでしょうか。
ドクタードクター
保存療法として骨盤底筋訓練や、腟内にリング状の器具を入れるペッサリー療法がある。手術では腟式子宮全摘術と前後腟壁形成術、性交を望まない高齢者では負担の少ない腟閉鎖術、メッシュ手術や腹腔鏡下仙骨腟固定術などから選ぶ。今回のように潰瘍がある場合は、エストロゲン腟剤や清潔保持で粘膜を整えてから手術することが多い。
医学生医学生
尿閉がある人は、まず導尿で膀胱を減圧するんですね。
ドクタードクター
そう。そしてもう一つ大事なのが、高度の脱出では尿管が圧迫されて水腎症や腎機能障害をきたすことがある点だ。婦人科の病気だからと骨盤だけを見ずに、腎臓まで評価しておくことを忘れないでほしい。

まとめ

子宮脱は下降の程度により、子宮腟部が腟内にとどまる子宮下垂、子宮の一部が腟口から出る不全子宮脱、子宮全体が腟外に出る全子宮脱に分類されます。全子宮脱では腟壁が裏返って体外に露出するため、粘膜の乾燥・角化や摩擦による潰瘍が生じ、膀胱瘤を伴って尿道が屈曲すると排尿困難や尿閉をきたします。子宮頸部延長症は頸部が伸びて子宮脱に似るものの子宮体部の位置は保たれ、尿道脱は尿道粘膜の脱出にすぎない点で区別できます。骨盤臓器脱は経腟分娩、加齢、閉経、腹圧上昇を背景に増えており、骨盤底筋訓練やペッサリーから腟式手術、腟閉鎖術、メッシュ手術まで患者背景に応じて治療を選びます。高度の脱出では水腎症や腎機能障害も起こりうるため、局所所見と排尿・腎機能をあわせて評価する視点が臨床で重要です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・69歳女性(閉経後の高齢女性) ・外陰部の不快感(脱出物が外陰部に触れる・こすれる) ・子宮が脱出し、膀胱瘤(膀胱が腟前壁ごと下降・突出した状態)を伴う ・腟粘膜の乾燥と潰瘍形成 ・尿閉:導尿で620 mLの尿が貯留

診断へのプロセス

骨盤臓器脱の一つである子宮脱は、子宮がどこまで下降しているかで分類される。子宮腟部が腟内にとどまる「子宮下垂」、子宮の一部(主に子宮腟部)が腟口から出る「不全子宮脱」、子宮全体が腟口の外に出る「全子宮脱」の順に重症となる。 本例では、以下の所見が子宮全体が腟外に脱出していることを示している。 ①腟の乾燥と潰瘍形成:腟壁が裏返って体外に出ると、粘膜が常に外気にさらされて乾燥・角化し、下着などとの摩擦で潰瘍(褥瘡性潰瘍)ができる。閉経後のエストロゲン低下による萎縮も粘膜の脆弱化に拍車をかける。 ②尿閉:膀胱瘤を伴って膀胱・尿道が大きく下降すると、尿道が屈曲(キンク)して排尿が妨げられ、残尿や尿閉をきたす。620 mLという大量の尿貯留は、脱出が高度であることを物語る。 したがって診断は全子宮脱である。

選択肢考察

  1. ×a.  尿道脱

    尿道脱は尿道粘膜が外尿道口から全周性にめくれ出た状態で、外尿道口に赤いドーナツ状の腫瘤としてみえる。思春期前の女児や閉経後女性にみられ、出血や排尿時痛を訴えることがある。本例では子宮そのものが脱出し膀胱瘤を伴っており、尿道粘膜の脱出だけでは説明できない。

  2. ×b.  子宮下垂

    子宮下垂は子宮が正常位置より下がっているものの、子宮腟部が腟内にとどまり腟口から外へは出ていない状態で、子宮脱の最も軽い段階である。本例では子宮が脱出しており、さらに腟粘膜の乾燥・潰瘍や尿閉といった高度の脱出を示す所見があるため当てはまらない。

  3. ○c.  全子宮脱

    全子宮脱は子宮全体が腟口の外へ脱出した状態で、腟壁は裏返しになって体外に露出する。露出した腟粘膜は乾燥・角化し、摩擦により潰瘍を形成しやすい。また膀胱や尿道も腟前壁とともに引き下ろされる(膀胱瘤)ため、尿道の屈曲による排尿困難・尿閉や、尿管の圧迫による水腎症をきたすことがある。脱出した子宮、膀胱瘤、腟粘膜の乾燥・潰瘍、620 mLの尿閉という本例の所見はすべて全子宮脱で説明できる。

  4. ×d.  不全子宮脱

    不全子宮脱は子宮の一部(主に子宮腟部)が腟口から出ているが、子宮体部は腟内にとどまっている状態である。子宮が「脱出」している点は合うが、腟壁が広範に体外へ露出して乾燥・潰瘍をきたし、膀胱・尿道が大きく引き下ろされて大量の尿閉を生じるのは、子宮全体が脱出した高度の段階でみられることが多い。本例の所見からは全子宮脱と考えるのが妥当である。

  5. ×e.  子宮頸部延長症

    子宮頸部延長症は子宮頸部(特に腟上部)が異常に長く伸びた状態で、子宮体部の位置はそれほど下がっていないのに子宮腟部が腟口付近や腟外に達し、子宮脱のようにみえることがある。内診で子宮体部の位置や頸部の長さ(ゾンデ診での子宮腔長の延長)を確認して鑑別する。本例は子宮全体が脱出し膀胱瘤も伴っており、頸部の延長だけでは説明できない。

骨盤臓器脱(POP)とは

骨盤底を支える組織(肛門挙筋などの骨盤底筋群、基靱帯・仙骨子宮靱帯などの靱帯、筋膜)が弱くなり、子宮・膀胱・直腸・腟断端などが腟を通って下降・脱出する病態の総称である。 ・子宮脱:子宮の下降 ・膀胱瘤:腟前壁とともに膀胱が下降 ・直腸瘤:腟後壁とともに直腸が突出 ・小腸瘤:ダグラス窩から小腸が腟後壁上部を押し下げる ・腟断端脱:子宮摘出後に腟の最深部が下降 これらはしばしば合併する。

危険因子

経腟分娩(特に多産、巨大児、難産)、加齢、閉経によるエストロゲン低下、肥満、慢性の咳嗽、便秘、重いものを持つ仕事など腹圧が繰り返しかかる状態。経産婦の閉経後に多く、高齢化に伴い患者が増えている。

症状

外陰部の違和感・下垂感、「何か出てくる」という自覚、脱出部の出血・帯下(潰瘍による)、排尿障害(排尿困難、残尿、尿閉、頻尿、腹圧性尿失禁)、排便障害など。症状は立位や夕方に増悪し、臥位で軽快しやすい。高度の脱出では尿管の閉塞による水腎症・腎機能障害をきたすことがある。

重症度分類

古典的には子宮下垂・不全子宮脱・全子宮脱に分ける。現在は処女膜輪を基準に下降の程度を数値化するPOP-Q(Pelvic Organ Prolapse Quantification)システムが国際的に用いられ、ステージ0〜IVに分類される。ステージIVは完全な脱出に相当する。

治療

・保存療法:骨盤底筋訓練、腟内にリング状の器具を挿入するペッサリー療法。潰瘍がある場合はエストロゲン腟剤の局所投与や清潔保持で粘膜を改善してから手術を行うことが多い。 ・手術療法:腟式子宮全摘術と前後腟壁形成術、腟閉鎖術(性交を望まない高齢者で負担が少ない)、メッシュを用いた修復術、腹腔鏡下仙骨腟固定術など。尿閉がある場合は導尿で膀胱を減圧し、腎機能・水腎症の有無も評価する。

POINT

・子宮脱は下降の程度で子宮下垂(腟内)→不全子宮脱(一部が腟外)→全子宮脱(子宮全体が腟外)と分類する。 ・全子宮脱では露出した腟粘膜の乾燥・角化・潰瘍、膀胱瘤による尿閉・排尿困難、水腎症がみられる。 ・危険因子は経腟分娩(多産)、加齢、閉経、腹圧上昇。 ・治療は骨盤底筋訓練・ペッサリーなどの保存療法と、腟式子宮全摘術+腟壁形成術、腟閉鎖術、メッシュ手術などの手術療法。 ・子宮頸部延長症は頸部が伸びて子宮脱に似るが、子宮体部の位置は保たれる点で鑑別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。