ヘアピンが濃い尿をつくる―Henleのループと対向流増幅系のしくみ
第102回医師国家試験 E問題 第4問
国試問題にチャレンジ
尿濃縮のための構造はどれか。
- a.糸球体
- b.近位尿細管
- c.傍糸球体装置
- d.Henleのループ
- e.メサンギウム細胞
対話形式の解説
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ドクターまとめ
尿の濃縮は、Henleのループが対向流増幅系として腎髄質に浸透圧勾配をつくり、ADHの作用で集合管の水透過性が高まることで成り立ちます。下行脚は水を通し、上行脚は水を通さずにNKCC2でNaClを汲み出すため、髄質間質は最深部で約1,200 mOsm/kgH2Oまで高張になり、尿素の再循環と直血管の対向流交換がこれを支えます。近位尿細管は大量の再吸収を行うものの等張性であり、糸球体は濾過、傍糸球体装置はレニン分泌、メサンギウム細胞は糸球体の支持と調節を担うため、濃縮の主役ではありません。ループ利尿薬による濃縮力低下や、中枢性・腎性尿崩症による多尿など、臨床で出会う病態はこの「勾配の形成」と「ADHによる水再吸収」のどちらが障害されているかで整理できます。
解答・解説
正解はdです
ネフロンの各部位の機能のうち、尿を血漿より濃くする(高張尿をつくる)しくみを担う構造を問う問題である。 尿の濃縮には2つの要素が必要である。 ①腎髄質の間質を高浸透圧にしておくこと:Henleのループが対向流増幅系(countercurrent multiplier)として働き、皮質の約300 mOsm/kgH2Oから髄質最深部(乳頭部)の約1,200 mOsm/kgH2Oまでの浸透圧勾配をつくる。ここに集合管から再吸収された尿素が加わり、勾配が強化される(尿素再循環)。直血管は対向流交換系として、この勾配を血流で洗い流さないように保つ。 ②集合管の水透過性を調節すること:下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)がV2受容体に作用すると、集合管主細胞の管腔側にアクアポリン2が組み込まれ、高浸透圧の髄質間質へ水が再吸収されて尿が濃縮される。 このうち、浸透圧勾配を形成する構造、すなわち尿濃縮のための構造として中心的なのがHenleのループである。他の選択肢は、濾過(糸球体)、等張性の大量再吸収(近位尿細管)、レニン分泌による血圧・体液量調節(傍糸球体装置)、糸球体の支持と調節(メサンギウム細胞)を担う構造である。
選択肢考察
- ×a. 糸球体
糸球体は毛細血管の係蹄で、血漿を限外濾過して原尿(1日約150〜180 L)をつくる。原尿は血漿とほぼ同じ浸透圧(約290 mOsm/kgH2O)で、蛋白質をほとんど含まない。濾過を担う構造であり、尿を濃縮する機能はもたない。
- ×b. 近位尿細管
近位尿細管は濾過されたNa+と水の約2/3、ブドウ糖・アミノ酸のほぼ全量、重炭酸イオン(HCO3-)の大部分、リン酸などを再吸収する。水の透過性が高く、Na+などの溶質と水が同じ割合で再吸収される(等張性再吸収)ため、管腔液の浸透圧は血漿とほぼ等しいまま保たれる。量は大きく減るが、濃縮(高張化)はここでは起こらない。
- ×c. 傍糸球体装置
傍糸球体装置は、輸入細動脈壁の傍糸球体細胞(顆粒細胞)、遠位尿細管の緻密斑(macula densa)、糸球体外メサンギウム細胞から構成される。腎灌流圧の低下、緻密斑に到達するNaCl量の減少、交感神経刺激などによって傍糸球体細胞からレニンが分泌され、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を介して血圧と体液量を調節する。また緻密斑は尿細管糸球体フィードバックにより糸球体濾過量を調節する。尿の濃縮を直接担う構造ではない。
- ○d. Henleのループ
Henleのループは髄質へ深く下行してヘアピン状に折り返し、再び皮質へ戻る構造で、対向流増幅系として髄質の浸透圧勾配をつくる。下行脚は水をよく通すが溶質をあまり通さないため、高浸透圧の間質へ水が移動して管腔液は下るにつれて濃くなる。一方、上行脚は水を通さず、太い上行脚ではNa+-K+-2Cl-共輸送体(NKCC2)によってNaClを能動的に間質へ汲み出す。このため上行脚の管腔液は薄まり(遠位尿細管の入口では低張)、間質は高張に保たれる。こうしてできた髄質の高浸透圧を利用し、ADHの作用下で集合管から水が再吸収されて濃縮尿がつくられる。ループ利尿薬(フロセミド)がNKCC2を阻害すると、この勾配が失われて尿濃縮力が低下する。
- ×e. メサンギウム細胞
メサンギウム細胞は糸球体毛細血管の間に位置し、毛細血管係蹄を支持する。収縮能をもち糸球体の濾過面積や血流を調節するほか、メサンギウム基質の産生、貪食による高分子物質の除去、サイトカイン産生などを行う。IgA腎症ではこの領域にIgAが沈着し、メサンギウム細胞増殖と基質増加が起こる。尿の濃縮には関与しない。
ネフロン各部位の主な機能
・糸球体:血漿の限外濾過(原尿の生成) ・近位尿細管:Na+・水の約2/3、ブドウ糖・アミノ酸のほぼ全量、HCO3-の大部分を等張性に再吸収 ・Henleのループ:対向流増幅系による髄質浸透圧勾配の形成。下行脚は水透過性が高く、上行脚は水不透過でNaClを再吸収(太い上行脚のNKCC2) ・遠位尿細管:Na+-Cl-共輸送体(NCC、サイアザイド系利尿薬の標的)によるNaCl再吸収。水の透過性が低いため管腔液はさらに希釈される(希釈セグメント) ・集合管:アルドステロンによるNa+再吸収とK+分泌、ADHによる水再吸収(アクアポリン2)、間在細胞による酸塩基調節
尿の濃縮と希釈
・尿浸透圧の範囲:おおよそ50〜1,200 mOsm/kgH2O ・ADHが多い(脱水時):集合管で水が再吸収され、濃縮尿(尿量減少) ・ADHが少ない(飲水過剰時):集合管の水透過性が低く、希釈尿(尿量増加) ・直血管:髄質を流れる血管が同じくヘアピン状に走行し、対向流交換系として浸透圧勾配の散逸を防ぐ ・尿素:内髄質集合管から再吸収されて髄質間質の浸透圧の約半分を担う
尿濃縮障害を来す病態
・中枢性尿崩症(ADH分泌不足)、腎性尿崩症(V2受容体・アクアポリン2の異常、高Ca血症、低K血症、リチウム内服など) ・ループ利尿薬の使用、髄質を障害する疾患(間質性腎炎、鎌状赤血球症など)、慢性腎臓病による髄質構造の破綻
POINT
・尿濃縮の要は、Henleのループ(対向流増幅系)が作る髄質の浸透圧勾配と、ADHによる集合管での水の再吸収。 ・Henleのループ下行脚は水を通し、上行脚は水を通さずNaClを汲み出す(NKCC2、ループ利尿薬の標的)。 ・近位尿細管の再吸収は等張性であり、尿は濃縮されない。 ・傍糸球体装置はレニン分泌、メサンギウム細胞は糸球体の支持・調節を担う。
