StudyMed医師国家試験

ヘアピンが濃い尿をつくる―Henleのループと対向流増幅系のしくみ

第102回医師国家試験 E問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第4問

尿濃縮のための構造はどれか。

  1. a.糸球体
  2. b.近位尿細管
  3. c.傍糸球体装置
  4. d.Henleのループ
  5. e.メサンギウム細胞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ネフロンのどの構造が尿を濃縮するのかを問う問題だ。ここで言う「濃縮」は、尿を血漿より濃い高張尿にすること。各構造が濾過、再吸収、ホルモン分泌のどれを担っているかを整理すれば答えが見えてくるよ。
医学生医学生
水をたくさん再吸収するところが濃縮に関わると考えると、近位尿細管でしょうか。再吸収量が一番多いと習いました。
ドクタードクター
そこがよくある落とし穴だね。近位尿細管はNa+と水の約2/3を再吸収するけれど、水の透過性が高く、溶質と水が同じ割合で戻る等張性再吸収なんだ。だから量はぐっと減っても、管腔液の浸透圧は血漿とほぼ同じまま。濃くはならないんだ。
医学生医学生
なるほど、量が減ることと濃くなることは別なんですね。
ドクタードクター
その区別が大事。尿を濃くするには二つの要素が要る。一つは腎髄質の間質を高浸透圧にしておくこと、もう一つは集合管で水を通すかどうかを調節すること。前者を担うのがHenleのループで、これが正解だ。
医学生医学生
生理学の講義で出てきた「対向流増幅系」ですね。正直、名前だけ覚えていて中身があやふやです。
ドクタードクター
順を追って説明しよう。Henleのループは髄質に深く下りてヘアピン状に折り返す。下行脚は水をよく通すけれど溶質はあまり通さない。逆に上行脚は水を通さず、太い上行脚ではNa+-K+-2Cl-共輸送体、NKCC2がNaClを間質へ能動的に汲み出す。
医学生医学生
上行脚で塩だけ出ていくので、間質は濃くなって、管の中は薄くなるわけですね。
ドクタードクター
そう。そして濃くなった間質に向かって、下行脚から水が引き抜かれる。この往復が積み重なって、皮質の約300 mOsm/kgH2Oから髄質最深部の約1,200 mOsm/kgH2Oまでの浸透圧勾配ができあがる。勾配をつくる原動力は上行脚のNaCl輸送だというのがポイントだ。
医学生医学生
でも最終的に尿が濃くなるのは集合管ですよね。
ドクタードクター
鋭いね。下垂体後葉からのADH、つまりバソプレシンがV2受容体に作用すると、集合管主細胞の管腔側にアクアポリン2が組み込まれる。すると高浸透圧の髄質間質へ水が引かれて、尿が濃縮される。ただ、その勾配がなければ水は動かないから、濃縮のための構造の中心はHenleのループなんだ。さらに内髄質集合管から再吸収される尿素が勾配を強め、直血管が対向流交換系として勾配を洗い流さないよう保っている。
医学生医学生
残りの選択肢も確認させてください。糸球体は濾過する場所なので、濃縮には関わらないですよね。
ドクタードクター
その通り。糸球体は血漿を限外濾過して原尿をつくる構造で、原尿の浸透圧は血漿とほぼ同じだ。傍糸球体装置はどうかな。
医学生医学生
CBTの勉強でレニンを出すところと覚えました。血圧や体液量の調節ですよね。
ドクタードクター
正しいよ。輸入細動脈の傍糸球体細胞、遠位尿細管の緻密斑、糸球体外メサンギウム細胞から成り、腎灌流圧の低下などでレニンを分泌してレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を動かす。緻密斑は尿細管糸球体フィードバックでGFRも調節するけれど、尿濃縮を直接担う構造ではない。メサンギウム細胞は糸球体の毛細血管係蹄を支える細胞で、収縮による濾過の調節や貪食を行う。
医学生医学生
病理実習でIgA腎症の標本を見たとき、メサンギウム領域にIgAが沈着していました。
ドクタードクター
よく覚えているね。腎疾患ではメサンギウムは重要な舞台だけど、尿濃縮とは関係しない。最後に臨床とのつながりを見ておこう。ループ利尿薬のフロセミドはNKCC2を阻害するから、髄質の勾配が失われて尿濃縮力が落ちるんだ。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、多尿の患者さんに尿浸透圧を測っていました。尿崩症の鑑別でしたか。
ドクタードクター
そう。中枢性尿崩症はADHの分泌不足、腎性尿崩症はV2受容体やアクアポリン2の異常のほか、高Ca血症、低K血症、リチウム内服でも起こる。間質性腎炎や慢性腎臓病のように髄質構造が壊れる病態でも濃縮力は低下する。多尿を見たら「勾配があるか」「ADHが効いているか」の二段で考えるといいよ。

まとめ

尿の濃縮は、Henleのループが対向流増幅系として腎髄質に浸透圧勾配をつくり、ADHの作用で集合管の水透過性が高まることで成り立ちます。下行脚は水を通し、上行脚は水を通さずにNKCC2でNaClを汲み出すため、髄質間質は最深部で約1,200 mOsm/kgH2Oまで高張になり、尿素の再循環と直血管の対向流交換がこれを支えます。近位尿細管は大量の再吸収を行うものの等張性であり、糸球体は濾過、傍糸球体装置はレニン分泌、メサンギウム細胞は糸球体の支持と調節を担うため、濃縮の主役ではありません。ループ利尿薬による濃縮力低下や、中枢性・腎性尿崩症による多尿など、臨床で出会う病態はこの「勾配の形成」と「ADHによる水再吸収」のどちらが障害されているかで整理できます。

解答・解説

正解はdです

ネフロンの各部位の機能のうち、尿を血漿より濃くする(高張尿をつくる)しくみを担う構造を問う問題である。 尿の濃縮には2つの要素が必要である。 ①腎髄質の間質を高浸透圧にしておくこと:Henleのループが対向流増幅系(countercurrent multiplier)として働き、皮質の約300 mOsm/kgH2Oから髄質最深部(乳頭部)の約1,200 mOsm/kgH2Oまでの浸透圧勾配をつくる。ここに集合管から再吸収された尿素が加わり、勾配が強化される(尿素再循環)。直血管は対向流交換系として、この勾配を血流で洗い流さないように保つ。 ②集合管の水透過性を調節すること:下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)がV2受容体に作用すると、集合管主細胞の管腔側にアクアポリン2が組み込まれ、高浸透圧の髄質間質へ水が再吸収されて尿が濃縮される。 このうち、浸透圧勾配を形成する構造、すなわち尿濃縮のための構造として中心的なのがHenleのループである。他の選択肢は、濾過(糸球体)、等張性の大量再吸収(近位尿細管)、レニン分泌による血圧・体液量調節(傍糸球体装置)、糸球体の支持と調節(メサンギウム細胞)を担う構造である。

選択肢考察

  1. ×a.  糸球体

    糸球体は毛細血管の係蹄で、血漿を限外濾過して原尿(1日約150〜180 L)をつくる。原尿は血漿とほぼ同じ浸透圧(約290 mOsm/kgH2O)で、蛋白質をほとんど含まない。濾過を担う構造であり、尿を濃縮する機能はもたない。

  2. ×b.  近位尿細管

    近位尿細管は濾過されたNa+と水の約2/3、ブドウ糖・アミノ酸のほぼ全量、重炭酸イオン(HCO3-)の大部分、リン酸などを再吸収する。水の透過性が高く、Na+などの溶質と水が同じ割合で再吸収される(等張性再吸収)ため、管腔液の浸透圧は血漿とほぼ等しいまま保たれる。量は大きく減るが、濃縮(高張化)はここでは起こらない。

  3. ×c.  傍糸球体装置

    傍糸球体装置は、輸入細動脈壁の傍糸球体細胞(顆粒細胞)、遠位尿細管の緻密斑(macula densa)、糸球体外メサンギウム細胞から構成される。腎灌流圧の低下、緻密斑に到達するNaCl量の減少、交感神経刺激などによって傍糸球体細胞からレニンが分泌され、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を介して血圧と体液量を調節する。また緻密斑は尿細管糸球体フィードバックにより糸球体濾過量を調節する。尿の濃縮を直接担う構造ではない。

  4. ○d.  Henleのループ

    Henleのループは髄質へ深く下行してヘアピン状に折り返し、再び皮質へ戻る構造で、対向流増幅系として髄質の浸透圧勾配をつくる。下行脚は水をよく通すが溶質をあまり通さないため、高浸透圧の間質へ水が移動して管腔液は下るにつれて濃くなる。一方、上行脚は水を通さず、太い上行脚ではNa+-K+-2Cl-共輸送体(NKCC2)によってNaClを能動的に間質へ汲み出す。このため上行脚の管腔液は薄まり(遠位尿細管の入口では低張)、間質は高張に保たれる。こうしてできた髄質の高浸透圧を利用し、ADHの作用下で集合管から水が再吸収されて濃縮尿がつくられる。ループ利尿薬(フロセミド)がNKCC2を阻害すると、この勾配が失われて尿濃縮力が低下する。

  5. ×e.  メサンギウム細胞

    メサンギウム細胞は糸球体毛細血管の間に位置し、毛細血管係蹄を支持する。収縮能をもち糸球体の濾過面積や血流を調節するほか、メサンギウム基質の産生、貪食による高分子物質の除去、サイトカイン産生などを行う。IgA腎症ではこの領域にIgAが沈着し、メサンギウム細胞増殖と基質増加が起こる。尿の濃縮には関与しない。

ネフロン各部位の主な機能

・糸球体:血漿の限外濾過(原尿の生成) ・近位尿細管:Na+・水の約2/3、ブドウ糖・アミノ酸のほぼ全量、HCO3-の大部分を等張性に再吸収 ・Henleのループ:対向流増幅系による髄質浸透圧勾配の形成。下行脚は水透過性が高く、上行脚は水不透過でNaClを再吸収(太い上行脚のNKCC2) ・遠位尿細管:Na+-Cl-共輸送体(NCC、サイアザイド系利尿薬の標的)によるNaCl再吸収。水の透過性が低いため管腔液はさらに希釈される(希釈セグメント) ・集合管:アルドステロンによるNa+再吸収とK+分泌、ADHによる水再吸収(アクアポリン2)、間在細胞による酸塩基調節

尿の濃縮と希釈

・尿浸透圧の範囲:おおよそ50〜1,200 mOsm/kgH2O ・ADHが多い(脱水時):集合管で水が再吸収され、濃縮尿(尿量減少) ・ADHが少ない(飲水過剰時):集合管の水透過性が低く、希釈尿(尿量増加) ・直血管:髄質を流れる血管が同じくヘアピン状に走行し、対向流交換系として浸透圧勾配の散逸を防ぐ ・尿素:内髄質集合管から再吸収されて髄質間質の浸透圧の約半分を担う

尿濃縮障害を来す病態

・中枢性尿崩症(ADH分泌不足)、腎性尿崩症(V2受容体・アクアポリン2の異常、高Ca血症、低K血症、リチウム内服など) ・ループ利尿薬の使用、髄質を障害する疾患(間質性腎炎、鎌状赤血球症など)、慢性腎臓病による髄質構造の破綻

POINT

・尿濃縮の要は、Henleのループ(対向流増幅系)が作る髄質の浸透圧勾配と、ADHによる集合管での水の再吸収。 ・Henleのループ下行脚は水を通し、上行脚は水を通さずNaClを汲み出す(NKCC2、ループ利尿薬の標的)。 ・近位尿細管の再吸収は等張性であり、尿は濃縮されない。 ・傍糸球体装置はレニン分泌、メサンギウム細胞は糸球体の支持・調節を担う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。