StudyMed医師国家試験

脂肪髄はどこから始まる?―「末梢から中枢へ」で読み解く造血骨髄の加齢変化

第102回医師国家試験 E問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第3問

骨髄の造血能力が加齢に伴い最も早期に低下する部位はどれか。

  1. a.胸骨
  2. b.肋骨
  3. c.胸椎
  4. d.腰椎
  5. e.脛骨

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、年齢とともに骨髄の造血の場がどう変わっていくかを問う問題だ。ポイントは「どの骨から先に造血をやめるか」という順序。体の中心か末端か、という目線で選択肢を眺めてみよう。
医学生医学生
高齢になると骨髄全体が脂肪に置き換わっていくイメージはあるんですが、部位ごとに差があるんですか。
ドクタードクター
あるんだ。出生時にはほぼ全身の骨の骨髄が赤色髄、つまり造血している骨髄なんだけど、成長につれて造血しない脂肪髄、いわゆる黄色髄に置き換わっていく。その置換には決まった順番があって、体の中心から遠い四肢末梢の骨から始まり、長管骨では骨幹部から骨端側へと進むんだ。
医学生医学生
組織学の実習で、成人の長管骨の骨幹は黄色髄だと習いました。末梢ほど早く脂肪髄化するということですね。
ドクタードクター
その通り。四肢末梢の長管骨は幼児期から脂肪髄化が始まって、思春期から20歳前後にはほぼ脂肪髄になる。一方で、頭蓋骨、胸骨、肋骨、椎骨、骨盤といった体幹の骨と、大腿骨・上腕骨の近位端は成人以降も造血を続けるんだ。
医学生医学生
そうすると、選択肢の中で四肢末梢の長管骨は脛骨だけなので、脛骨が最も早く造血能を失う部位ですね。
ドクタードクター
正解。ほかの選択肢も確認しておこう。胸骨はどうかな。
医学生医学生
胸骨は成人の骨髄穿刺部位ですよね。造血が盛んだから選ばれるのだと思います。
ドクタードクター
よく結び付けたね。胸骨は体幹の扁平骨で、高齢になっても赤色髄が保たれる。皮膚のすぐ下にあって皮質も薄いから穿刺に使える。ただ、背側に心臓や大血管があるので骨髄生検には用いないし、現在は腸骨、特に後腸骨稜が第一選択になることが多いんだ。
医学生医学生
肋骨や椎骨も体幹の骨なので造血は保たれる、という理解でいいですか。穿刺には使わないのに不思議な気もします。
ドクタードクター
いい疑問だね。穿刺部位に選ばれるかどうかは、造血が盛んであることに加えて、皮膚から近い、皮質が薄い、周囲に重要臓器が少ない、という条件で決まる。肋骨は細く弯曲していて直下に胸膜や肺があるから気胸の危険が高い。胸椎や腰椎は深部にあって脊髄や大血管が近い。だから穿刺には向かないけれど、造血能そのものは成人後も保たれているんだ。
医学生医学生
病理実習の剖検で、椎骨の骨髄を採取していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれ。椎骨は成人の主要な造血の場だから、病理解剖では造血状態の評価に椎骨の骨髄がよく使われる。MRIでも加齢で脂肪髄化は進むけれど、四肢末梢の長管骨に比べればずっと遅いんだ。
医学生医学生
逆に、脛骨で骨髄穿刺をすることはあるんでしょうか。
ドクタードクター
乳幼児、おおむね1〜2歳未満では脛骨近位部の前内側面で穿刺することがある。まだ造血が残っている時期だからこそ使える部位で、成人では行わない。今回の問題の裏返しの知識として押さえておこう。
医学生医学生
造血の場の移り変わりで考えると、胎児期は肝臓が中心でしたよね。
ドクタードクター
そう。胎生初期は卵黄嚢、中期は肝臓と脾臓、後期から骨髄へと移る。そして出生後は全身の骨髄から体幹へと縮小していく。高齢者ではその体幹の骨髄でも脂肪の割合が増え、細胞密度はおおよそ「100−年齢(%)」が目安とされる。骨髄生検の結果を読むときに、年齢を考慮して低形成かどうかを判断する必要があるんだ。
医学生医学生
脂肪髄になった骨は、もう造血には戻れないんですか。
ドクタードクター
実は可逆的なんだ。溶血性貧血や大量出血で造血需要が高まると、脂肪髄が再び赤色髄に戻ることがある。また骨髄線維症のように骨髄自体が造血できなくなると、肝臓や脾臓で髄外造血が起こり、肝脾腫の原因になる。胎生期の造血の場が再び働き出す、と理解すると覚えやすいよ。

まとめ

出生時にはほぼ全身の骨髄が赤色髄として造血を行いますが、成長とともに四肢末梢の長管骨から、骨幹部から骨端側へという順序で脂肪髄に置き換わります。そのため脛骨のような四肢末梢の長管骨が最も早く造血能を失い、成人の造血は椎骨・胸骨・肋骨・骨盤・頭蓋骨と大腿骨・上腕骨の近位端に限られます。骨髄穿刺部位は造血の盛んさと安全性から選ばれ、成人では腸骨・胸骨、乳幼児では脛骨近位部も用いられます。脂肪髄は造血需要の増大で赤色髄に戻りうること、骨髄線維症などでは肝臓・脾臓で髄外造血が起こることも合わせて押さえておくと、骨髄検査の解釈や貧血の病態理解に役立ちます。

解答・解説

正解はeです

加齢に伴って造血骨髄(赤色髄)がどのように分布を変えるかを問う問題である。 出生時には、ほぼ全身の骨の骨髄が造血を行う赤色髄である。成長とともに造血を行わない脂肪髄(黄色髄)への置換が進むが、この置換には一定の順序がある。すなわち、体の中心から遠い部位(末梢の骨)から始まり、長管骨では骨幹部から骨端側へと進む。四肢末梢の長管骨(脛骨・腓骨、前腕骨など)の骨髄は幼児期以降に脂肪髄化が始まり、思春期〜20歳前後までにはほぼ脂肪髄となる。一方、体幹の扁平骨・短骨(頭蓋骨、胸骨、肋骨、椎骨、骨盤)と、大腿骨・上腕骨の近位端は成人以降も赤色髄として造血を続ける。 選択肢のうち、四肢末梢の長管骨は脛骨だけであり、これが最も早期に造血能を失う部位である。臨床的な骨髄穿刺部位(成人では胸骨・腸骨、乳幼児では脛骨も可)と結び付けて覚えるとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  胸骨

    胸骨は体幹の扁平骨であり、高齢になっても赤色髄が保たれる。皮膚直下にあって皮質が薄く造血が盛んなため、成人の骨髄穿刺部位として用いられる(胸骨柄〜胸骨体上部、第2肋間の高さ付近)。ただし背側に大血管や心臓があり貫通の危険があるため、生検(骨髄生検)には用いず、現在は腸骨(後腸骨稜)が第一選択とされることが多い。造血能の低下は遅い部位である。

  2. ×b.  肋骨

    肋骨も体幹骨であり、成人・高齢者でも造血能を保持する。細く弯曲しているうえ直下に胸膜・肺があり、穿刺針による気胸の危険が高いため骨髄穿刺部位には用いられないが、造血能そのものは保たれている。早期に低下する部位ではない。

  3. ×c.  胸椎

    椎骨(胸椎・腰椎)は体幹の中軸骨格であり、成人後も主要な造血部位である。深部にあり周囲に脊髄や大血管があるため骨髄穿刺には使われないが、造血能は高齢まで比較的保たれる。

  4. ×d.  腰椎

    腰椎も胸椎と同様に中軸骨格の一部で、成人の造血の重要な場である。そのため病理解剖では造血状態の評価に椎骨の骨髄が採取されることが多い。MRIでも加齢による脂肪髄化の進行はみられるが、四肢末梢の長管骨に比べればずっと遅い。

  5. ○e.  脛骨

    脛骨は体の中心から遠い四肢末梢の長管骨であり、赤色髄から脂肪髄への置換が最も早く起こる部位の一つである。脂肪髄化は幼児期から骨幹部で始まり、成人ではほぼ完全に脂肪髄となる。このため、脛骨近位部の骨髄穿刺は造血が残っている乳幼児(おおむね1〜2歳未満)でのみ行われ、成人では行わない。選択肢の中で最も早期に造血能が低下するのは脛骨である。

造血の場の変遷

・胎生期:卵黄嚢(胎生初期)→ 肝臓・脾臓(胎生中期の主役は肝臓)→ 骨髄(胎生後期〜出生後) ・出生後:ほぼすべての骨髄が赤色髄として造血する。 ・小児期〜思春期:四肢末梢の長管骨から、骨幹部→骨端の順に脂肪髄(黄色髄)へ置換される。 ・成人:造血は中軸骨格(頭蓋骨、椎骨、胸骨、肋骨、骨盤)と、大腿骨・上腕骨の近位端に限局する。 ・高齢者:これらの部位でも脂肪の割合が増え、骨髄の細胞密度(cellularity)は低下する。おおよその目安として「100−年齢(%)」が造血細胞の占める割合とされる。

脂肪髄の可逆性

溶血性貧血や大量出血などで造血需要が高まると、脂肪髄は再び赤色髄に戻り造血を再開しうる。骨髄が線維化した場合などには、肝臓・脾臓で髄外造血が起こる。

骨髄穿刺・生検の部位

・成人:腸骨(後腸骨稜が第一選択、前腸骨稜も可)、胸骨(穿刺のみで生検は不可) ・乳幼児:腸骨のほか脛骨近位部(前内側面) 選ばれる理由は、造血が盛んで、皮膚から近く、皮質が薄く、周囲に重要臓器が少ないことである。

POINT

・造血骨髄は加齢とともに末梢から中枢へ、長管骨では骨幹から骨端へと脂肪髄に置き換わる。 ・最も早く造血能を失うのは脛骨などの四肢末梢の長管骨。 ・成人の造血は椎骨・胸骨・肋骨・骨盤・頭蓋骨と大腿骨・上腕骨近位端で行われる。 ・骨髄穿刺部位:成人は腸骨・胸骨、乳幼児では脛骨も用いられる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。