脂肪髄はどこから始まる?―「末梢から中枢へ」で読み解く造血骨髄の加齢変化
第102回医師国家試験 E問題 第3問
国試問題にチャレンジ
骨髄の造血能力が加齢に伴い最も早期に低下する部位はどれか。
- a.胸骨
- b.肋骨
- c.胸椎
- d.腰椎
- e.脛骨
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
出生時にはほぼ全身の骨髄が赤色髄として造血を行いますが、成長とともに四肢末梢の長管骨から、骨幹部から骨端側へという順序で脂肪髄に置き換わります。そのため脛骨のような四肢末梢の長管骨が最も早く造血能を失い、成人の造血は椎骨・胸骨・肋骨・骨盤・頭蓋骨と大腿骨・上腕骨の近位端に限られます。骨髄穿刺部位は造血の盛んさと安全性から選ばれ、成人では腸骨・胸骨、乳幼児では脛骨近位部も用いられます。脂肪髄は造血需要の増大で赤色髄に戻りうること、骨髄線維症などでは肝臓・脾臓で髄外造血が起こることも合わせて押さえておくと、骨髄検査の解釈や貧血の病態理解に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
加齢に伴って造血骨髄(赤色髄)がどのように分布を変えるかを問う問題である。 出生時には、ほぼ全身の骨の骨髄が造血を行う赤色髄である。成長とともに造血を行わない脂肪髄(黄色髄)への置換が進むが、この置換には一定の順序がある。すなわち、体の中心から遠い部位(末梢の骨)から始まり、長管骨では骨幹部から骨端側へと進む。四肢末梢の長管骨(脛骨・腓骨、前腕骨など)の骨髄は幼児期以降に脂肪髄化が始まり、思春期〜20歳前後までにはほぼ脂肪髄となる。一方、体幹の扁平骨・短骨(頭蓋骨、胸骨、肋骨、椎骨、骨盤)と、大腿骨・上腕骨の近位端は成人以降も赤色髄として造血を続ける。 選択肢のうち、四肢末梢の長管骨は脛骨だけであり、これが最も早期に造血能を失う部位である。臨床的な骨髄穿刺部位(成人では胸骨・腸骨、乳幼児では脛骨も可)と結び付けて覚えるとよい。
選択肢考察
- ×a. 胸骨
胸骨は体幹の扁平骨であり、高齢になっても赤色髄が保たれる。皮膚直下にあって皮質が薄く造血が盛んなため、成人の骨髄穿刺部位として用いられる(胸骨柄〜胸骨体上部、第2肋間の高さ付近)。ただし背側に大血管や心臓があり貫通の危険があるため、生検(骨髄生検)には用いず、現在は腸骨(後腸骨稜)が第一選択とされることが多い。造血能の低下は遅い部位である。
- ×b. 肋骨
肋骨も体幹骨であり、成人・高齢者でも造血能を保持する。細く弯曲しているうえ直下に胸膜・肺があり、穿刺針による気胸の危険が高いため骨髄穿刺部位には用いられないが、造血能そのものは保たれている。早期に低下する部位ではない。
- ×c. 胸椎
椎骨(胸椎・腰椎)は体幹の中軸骨格であり、成人後も主要な造血部位である。深部にあり周囲に脊髄や大血管があるため骨髄穿刺には使われないが、造血能は高齢まで比較的保たれる。
- ×d. 腰椎
腰椎も胸椎と同様に中軸骨格の一部で、成人の造血の重要な場である。そのため病理解剖では造血状態の評価に椎骨の骨髄が採取されることが多い。MRIでも加齢による脂肪髄化の進行はみられるが、四肢末梢の長管骨に比べればずっと遅い。
- ○e. 脛骨
脛骨は体の中心から遠い四肢末梢の長管骨であり、赤色髄から脂肪髄への置換が最も早く起こる部位の一つである。脂肪髄化は幼児期から骨幹部で始まり、成人ではほぼ完全に脂肪髄となる。このため、脛骨近位部の骨髄穿刺は造血が残っている乳幼児(おおむね1〜2歳未満)でのみ行われ、成人では行わない。選択肢の中で最も早期に造血能が低下するのは脛骨である。
造血の場の変遷
・胎生期:卵黄嚢(胎生初期)→ 肝臓・脾臓(胎生中期の主役は肝臓)→ 骨髄(胎生後期〜出生後) ・出生後:ほぼすべての骨髄が赤色髄として造血する。 ・小児期〜思春期:四肢末梢の長管骨から、骨幹部→骨端の順に脂肪髄(黄色髄)へ置換される。 ・成人:造血は中軸骨格(頭蓋骨、椎骨、胸骨、肋骨、骨盤)と、大腿骨・上腕骨の近位端に限局する。 ・高齢者:これらの部位でも脂肪の割合が増え、骨髄の細胞密度(cellularity)は低下する。おおよその目安として「100−年齢(%)」が造血細胞の占める割合とされる。
脂肪髄の可逆性
溶血性貧血や大量出血などで造血需要が高まると、脂肪髄は再び赤色髄に戻り造血を再開しうる。骨髄が線維化した場合などには、肝臓・脾臓で髄外造血が起こる。
骨髄穿刺・生検の部位
・成人:腸骨(後腸骨稜が第一選択、前腸骨稜も可)、胸骨(穿刺のみで生検は不可) ・乳幼児:腸骨のほか脛骨近位部(前内側面) 選ばれる理由は、造血が盛んで、皮膚から近く、皮質が薄く、周囲に重要臓器が少ないことである。
POINT
・造血骨髄は加齢とともに末梢から中枢へ、長管骨では骨幹から骨端へと脂肪髄に置き換わる。 ・最も早く造血能を失うのは脛骨などの四肢末梢の長管骨。 ・成人の造血は椎骨・胸骨・肋骨・骨盤・頭蓋骨と大腿骨・上腕骨近位端で行われる。 ・骨髄穿刺部位:成人は腸骨・胸骨、乳幼児では脛骨も用いられる。
