StudyMed医師国家試験

丸い顔と赤い頬が語るもの―満月様顔貌から逆算するCushing症候群の原因

第102回医師国家試験 E問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第38問

9歳の女児の写真を別に示す。  考えられるのはどれか。2つ選べ。

第102回 E問題 第38問の問題画像
  1. a.下垂体腺腫
  2. b.甲状腺機能亢進症
  3. c.副腎腺腫
  4. d.褐色細胞腫
  5. e.Addison病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は顔貌の写真1枚から内分泌疾患を推理し、その原因になりうる疾患を2つ選ぶ問題だ。ポイントは「この顔は何のホルモンが過剰(あるいは不足)すると生じるか」を考え、そこから原因疾患にさかのぼること。まず写真の印象を言葉にしてみよう。
医学生医学生
顔がまん丸で、頬がぽっと赤いです。ただ、9歳の女の子なので、単に太っているだけという可能性も気になります。
ドクタードクター
その迷いは大事だね。写真では顔面が丸く膨らんだ満月様顔貌と、頬部の紅潮、いわゆる多血症様の顔つきが目立つ。これは糖質コルチコイド、つまりコルチゾールが慢性的に過剰になったときの典型的な外見で、まずCushing症候群を想起したい。
医学生医学生
基礎の生理学で、コルチゾールは脂肪の再分布を起こすと習いました。それで顔に脂肪がつくんですね。
ドクタードクター
その通り。コルチゾール過剰では脂肪が顔面・頸部・体幹に集まり、満月様顔貌、野牛肩、中心性肥満になる。一方で蛋白異化が進んで皮膚が薄くなるから、皮下の毛細血管が透けて頬が赤く見えるんだ。同じ理由で赤紫色の幅広い皮膚線条や皮下出血も起こりやすい。
医学生医学生
では、単純性肥満とはどう見分ければいいでしょうか。
ドクタードクター
小児で特に役立つのが成長曲線だ。単純性肥満では体重とともに身長もよく伸びることが多いけれど、Cushing症候群では体重は増えるのに身長の伸びが鈍る。小児科を回るときは、必ず成長曲線を描いて確認する習慣をつけよう。
医学生医学生
なるほど。では問題に戻ると、Cushing症候群を起こす疾患を選べばいいわけですね。
ドクタードクター
そう。Cushing症候群はコルチゾール過剰という病態の総称で、原因は大きく二つに分かれる。ACTH依存性と、ACTH非依存性だ。それぞれ具体的に何があるかな。
医学生医学生
ACTH依存性は下垂体のACTH産生腺腫、つまりCushing病と、肺小細胞癌などの異所性ACTH産生腫瘍。非依存性は副腎の腫瘍ですね。
ドクタードクター
完璧だ。だから下垂体腺腫と副腎腺腫が正解になる。下垂体のACTH産生腺腫では、過剰なACTHが両側の副腎皮質を刺激してコルチゾールが増える。小児では年長児になるとCushing病が原因として多くなるので、9歳という年齢にも矛盾しない。副腎腺腫は自律的にコルチゾールを作るから、負のフィードバックで血中ACTHは低値になる。
医学生医学生
副腎性の場合、小児だと腺腫より癌のほうが多いと聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。特に年少児の副腎性Cushing症候群では副腎癌の頻度が高く、癌ではアンドロゲンも同時に過剰になって男性化徴候を伴いやすい。では残りの選択肢を見ていこう。甲状腺機能亢進症はどうだろう。
医学生医学生
代謝が上がって、食欲はあっても痩せるはずです。顔に脂肪がつくのとは逆ですね。
ドクタードクター
その通り。小児では頻脈や甲状腺腫、眼球突出のほか、落ち着きのなさや成績低下で気づかれることもある。褐色細胞腫も、カテコールアミン過剰で代謝が亢進し、むしろ痩せ型になる。高血圧や頭痛、動悸、発汗が主症状で、顔はどちらかというと蒼白だ。
医学生医学生
Addison病はコルチゾールが足りない病気なので、正反対ですね。CBTの勉強で、ACTHが増えて色素沈着が出ると覚えました。
ドクタードクター
そう、ACTHの前駆体に由来するメラノサイト刺激作用で皮膚や口腔粘膜に色素沈着が起こり、易疲労感、体重減少、低血圧、低血糖をきたす。痩せの方向に働く3疾患は、この顔貌とは合わないわけだ。
医学生医学生
満月様顔貌を見たら、コルチゾール過剰の原因として下垂体と副腎の両方を考える、ということですね。
ドクタードクター
そう。最後に臨床の流れも押さえておこう。まず尿中遊離コルチゾールや深夜のコルチゾール、1 mgデキサメタゾン抑制試験でコルチゾール過剰を確認する。次に血中ACTHでACTH依存性かどうかを判定し、さらに大量デキサメタゾン抑制試験、CRH試験、下垂体MRIや副腎CTで病変の部位を特定する。そして忘れてはいけないのが、小児で最も多いのはステロイド薬による医原性だということ。まず服薬歴を確認するのが鉄則だ。
医学生医学生
喘息やネフローゼでステロイドを使っている子もいるので、問診で必ず聞くようにします。

まとめ

満月様顔貌と頬部紅潮は、コルチゾールの慢性的な過剰による脂肪の再分布と皮膚の菲薄化を反映しており、Cushing症候群を想起させる典型的な所見です。内因性Cushing症候群の原因には、ACTH依存性の下垂体ACTH産生腺腫(Cushing病)や異所性ACTH産生腫瘍、ACTH非依存性の副腎腺腫・副腎癌があり、本問では下垂体腺腫と副腎腺腫が該当します。甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、Addison病はいずれも体重減少や痩せの方向に働くため、この顔貌とは合いません。小児では肥満に身長の伸びの低下を伴う点が単純性肥満との鑑別に役立ち、最も多い原因はステロイド薬による医原性です。顔貌からホルモンの過不足を推定し、フィードバック機構に沿って原因部位を絞り込む考え方は、内分泌疾患全般の診断の基本となります。

解答・解説

正解はa, cです

写真から読み取るべき所見

9歳女児の顔貌写真である。顔面が丸く膨らんだ満月様顔貌(moon face)と、頬部の紅潮(多血症様顔貌)が目立つ。これらは糖質コルチコイド(コルチゾール)が慢性的に過剰となったときに生じる典型的な外見であり、まずCushing症候群を想起する。

なぜこの顔貌になるのか

コルチゾール過剰では脂肪が顔面・頸部・体幹に再分布し、満月様顔貌、野牛肩(buffalo hump)、中心性肥満が生じる。また蛋白異化の亢進で皮膚が薄くなり、皮下の毛細血管が透見されて頬が赤く見える。

設問の考え方

問われているのは「この顔貌をきたす原因疾患」である。Cushing症候群はコルチゾールが過剰になる病態の総称であり、原因は大きく二つに分かれる。 1) ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)依存性: 下垂体のACTH産生腺腫(Cushing病)、異所性ACTH産生腫瘍 2) ACTH非依存性: 副腎腺腫・副腎癌などが自律的にコルチゾールを産生 したがって、選択肢のうちコルチゾール過剰をもたらす疾患を二つ選べばよい。逆に、体重減少や痩せをきたす疾患(甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、Addison病)はこの顔貌とは合わない。

選択肢考察

  1. ○a.  下垂体腺腫

    ACTHを産生する下垂体腺腫では、過剰なACTHが両側副腎皮質を刺激してコルチゾールが過剰に分泌される。これがCushing病であり、写真の満月様顔貌・頬部紅潮を説明できる。小児のCushing症候群では、年長児(おおむね7歳以上)になるとCushing病が原因の中で最も多くなるため、9歳という年齢にも合致する。

  2. ×b.  甲状腺機能亢進症

    甲状腺ホルモン過剰で基礎代謝が亢進し、食欲が増しても体重は減少する。小児ではびまん性甲状腺腫、頻脈、眼球突出に加え、発汗過多、落ち着きのなさ、学業成績の低下、身長の伸びの加速などがみられる。満月様顔貌のような脂肪沈着はきたさないため誤りである。

  3. ○c.  副腎腺腫

    副腎皮質の腺腫がコルチゾールを自律的に産生すると、ACTH非依存性のCushing症候群となり、写真と同じ顔貌を呈する。この場合は負のフィードバックにより血中ACTHは低値となる。なお小児、特に乳幼児の副腎性Cushing症候群では腺腫より副腎癌の頻度が高く、癌ではアンドロゲンも同時に過剰となって男性化徴候を伴いやすい。

  4. ×d.  褐色細胞腫

    褐色細胞腫は主に副腎髄質のクロム親和性細胞から発生し、カテコールアミンを過剰に分泌する腫瘍である。高血圧、頭痛、動悸・頻脈、発汗過多、高血糖などが主症状で、代謝亢進のためむしろ痩せ型となる。顔面は蒼白になりやすく、満月様顔貌はきたさない。

  5. ×e.  Addison病

    Addison病は慢性の原発性副腎皮質機能低下症で、コルチゾールがむしろ欠乏する。ACTH(およびその前駆体に由来するメラノサイト刺激作用)の増加により皮膚・口腔粘膜・外陰部などの色素沈着が生じ、易疲労感、食欲不振、体重減少(小児では体重増加不良)、低血圧、低血糖などをきたす。本問の顔貌とは正反対の病態である。

Cushing症候群の主な臨床像

特異性の高い所見: 満月様顔貌、野牛肩、中心性肥満、皮膚の菲薄化、赤色皮膚線条(幅の広い赤紫色の線条)、易出血性(皮下出血)、近位筋の筋力低下 その他: 高血圧、耐糖能異常、骨粗鬆症、多毛・痤瘡、月経異常、易感染性、精神症状 小児で特に重要なのは「体重は増えるのに身長の伸びが止まる(成長率の低下)」ことであり、単純性肥満(身長も伸びることが多い)との鑑別に役立つ。

診断の流れ

1) コルチゾール過剰の確認: 尿中遊離コルチゾール増加、深夜の血中(または唾液中)コルチゾール高値(日内変動の消失)、少量(1 mg)デキサメタゾン抑制試験で抑制されない 2) ACTH依存性か否かの判定: 血中ACTHが高値〜正常なら依存性、低値(抑制)なら副腎性 3) 病変部位の特定: 大量(8 mg)デキサメタゾン抑制試験、CRH試験、下垂体MRI、錐体静脈洞サンプリング、副腎CT・シンチグラフィなど

小児Cushing症候群の特徴

最も多い原因は外因性(ステロイド薬投与による医原性)である。内因性では、年少児では副腎腫瘍(特に副腎癌)が、年長児ではCushing病が多い。

POINT

・満月様顔貌+頬部紅潮 → Cushing症候群を想起する ・内因性Cushing症候群の原因: 下垂体ACTH産生腺腫(Cushing病)、異所性ACTH産生腫瘍、副腎腺腫・副腎癌 ・甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、Addison病はいずれも体重減少・痩せの方向に働く ・小児Cushing症候群では肥満に成長率低下を伴う点が単純性肥満との鑑別点 ・小児では年少児は副腎性(癌が多い)、年長児はCushing病が多い

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。