「広がり」か「顔つき」か―大腸癌のステージを決める3つの物差し
第102回医師国家試験 E問題 第28問
国試問題にチャレンジ
大腸癌の病期を規定する因子でないのはどれか。
- a.組織学的分類
- b.壁深達度
- c.リンパ節転移
- d.肝転移
- e.腹膜転移
対話形式の解説
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ドクターまとめ
大腸癌の病期は、壁深達度(T)、所属リンパ節転移(N)、肝転移・肺転移・腹膜転移などの遠隔転移(M)という「癌の広がり」の情報で決まります。リンパ節転移があれば Stage Ⅲ、遠隔転移があれば Stage Ⅳ となり、深達度が深いほど病期は進みます。高分化・低分化腺癌や印環細胞癌などの組織学的分類は腫瘍の「性質」を表すもので病期には含まれませんが、予後の推定や T1 癌の内視鏡切除後に追加手術を行うかの判断などには重要です。また、門脈を介した肝転移が最も多く、切除できれば長期生存も期待できることも大腸癌の特徴です。「広がり」と「性質」を区別して理解することは、病理報告の読み方や治療方針の組み立てに直結します。
解答・解説
正解はaです
テーマ
大腸癌の病期(stage)は、癌がどこまで広がっているか(進展度)を表す指標であり、治療方針の決定や予後の推定に使われる。本問は、病期を決める要素と、病期には含まれない腫瘍の性質を区別できるかを問う。
病期を決める要素
大腸癌の病期は、固形癌の多くと同じく次の三つの軸で決まる。 ・原発巣の局所での広がり:壁深達度(T 因子)。癌が粘膜から粘膜下層、固有筋層、漿膜下層・漿膜へと、腸壁のどの深さまで達しているか。 ・所属リンパ節への転移(N 因子):転移の有無と個数、転移したリンパ節の部位。 ・遠隔転移(M 因子):肝転移、肺転移、腹膜転移(腹膜播種)など。 以前の『大腸癌取扱い規約』では、壁深達度、リンパ節転移、腹膜転移(P)、肝転移(H)、その他の遠隔転移(M)の 5 項目それぞれの進行程度を判定し、そのうち最も進んだものを病期とした。現在の規約は国際的な TNM 分類とほぼ同じ体系で、肝転移と腹膜転移は M 因子の中に位置づけられている。どちらの体系でも、病期は「深さ・リンパ節・遠隔転移」という広がりの情報だけで決まる。
考え方
組織学的分類(高分化・中分化・低分化腺癌、粘液癌、印環細胞癌など)は腫瘍の「性質(顔つき)」を表すものであり、「広がり」ではない。予後や治療方針には影響するが、病期を決める因子には含まれない。したがって「組織学的分類」が正解である。
選択肢考察
- ○a. 組織学的分類
大腸癌の大部分は腺癌で、分化度によって高分化・中分化・低分化に分けられる。ほかに粘液癌、印環細胞癌、まれに扁平上皮癌や腺扁平上皮癌、神経内分泌癌などがある。組織型は腫瘍の性質を示すだけで、癌がどこまで広がったかは示さないため、病期を決める因子ではない。ただし、低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌は悪性度が高いとされる。粘膜下層に浸潤した癌(T1)を内視鏡で切除した後に追加の外科手術が必要かどうかの判断などにも、組織型は使われる。つまり治療方針や予後の判断には役立つが、病期とは別の情報である点に注意する。
- ×b. 壁深達度
壁深達度は T 因子にあたり、病期の基本となる要素である。Tis(粘膜内にとどまる)、T1(粘膜下層まで)、T2(固有筋層まで)、T3(固有筋層を越えて漿膜下層、または漿膜のない部位では外膜まで)、T4a(漿膜表面に露出)、T4b(他臓器へ直接浸潤)と分ける。たとえば Tis でリンパ節転移も遠隔転移もなければ Stage 0 である。リンパ節転移と遠隔転移がない場合、T1・T2 は Stage Ⅰ、T3 以深は Stage Ⅱ となり、深達度が深いほど病期が進む。
- ×c. リンパ節転移
所属リンパ節への転移は N 因子にあたる。遠隔転移がなくてもリンパ節転移があれば、壁深達度にかかわらず Stage Ⅲ となる。現在の規約では、転移したリンパ節の個数(1〜3 個が N1、4 個以上が N2)に加え、主リンパ節や側方リンパ節(下部直腸癌の場合)への転移(N3)といった部位も評価する。Stage Ⅲ は術後補助化学療法の主な対象であり、治療方針を決めるうえで重要である。
- ×d. 肝転移
大腸の静脈血は門脈を通って肝臓へ流れ込むため、肝臓は大腸癌の血行性転移が最も多い臓器である。肝転移は遠隔転移(M1)として扱われ、あれば他の因子にかかわらず Stage Ⅳ となる。以前の規約では H 因子として独立して評価されていた。大腸癌の肝転移は、切除できれば長期生存も期待できるため、切除できるかどうかの評価が重要である。
- ×e. 腹膜転移
腹膜転移(腹膜播種)は、漿膜を越えた癌細胞が腹腔内に散らばって腹膜に生着したものである。遠隔転移として扱われ、あれば Stage Ⅳ となる。以前の規約では P 因子として独立して評価されていた。現在の TNM 分類では、腹膜転移を M1c として、腹膜以外の 1 臓器への転移(M1a)や 2 臓器以上への転移(M1b)と区別しており、予後が特に不良であることが反映されている。
大腸癌の病期分類の概要(現行の規約・TNM 分類に基づく)
・Stage 0:Tis(粘膜内癌)、N0、M0 ・Stage Ⅰ:T1〜T2、N0、M0 ・Stage Ⅱ:T3〜T4、N0、M0(Ⅱa〜Ⅱc に細分) ・Stage Ⅲ:T は問わず N1 以上、M0(Ⅲa〜Ⅲc に細分) ・Stage Ⅳ:T・N は問わず M1(肝・肺・腹膜・遠隔リンパ節などへの転移)
病期と治療の大まかな対応
・Stage 0〜Ⅰの一部(Tis、浅い T1):内視鏡的切除が選択されうる。 ・Stage Ⅰ〜Ⅲ:リンパ節郭清を伴う外科的切除が基本。Stage Ⅲ(およびリスクの高い Stage Ⅱ)では術後補助化学療法を行う。 ・Stage Ⅳ:転移巣と原発巣が切除できれば切除を検討し、切除できなければ全身薬物療法を中心に行う。
臨床分類と病理分類
画像検査や内視鏡などの術前所見による臨床的病期(cStage)と、切除標本の病理検査による病理学的病期(pStage)がある。予後の推定や術後補助療法の判断には主に pStage を用いる。
病期以外に予後や治療方針に関わる病理所見
組織型・分化度、脈管侵襲(リンパ管侵襲・静脈侵襲)、簇出(腫瘍の先進部にみられる小さな癌胞巣)、切除断端などである。これらは病期には含まれないが、T1 癌で追加切除が必要かの判断や、再発リスクの評価に使われる。
POINT
・病期(stage)は癌の「広がり」で決まる:壁深達度(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M:肝・肺・腹膜など)。 ・組織型(分化度など)は腫瘍の「性質」であり、病期を決める因子ではない。ただし予後や治療方針の判断には使われる。 ・リンパ節転移があれば Stage Ⅲ、遠隔転移(肝転移・腹膜転移を含む)があれば Stage Ⅳ。 ・大腸癌の血行性転移は門脈を介する肝転移が最も多い。
