がん死亡は「増えている」のに「減っている」?―死亡数と年齢調整死亡率の読み分け
第102回医師国家試験 E問題 第26問
国試問題にチャレンジ
我が国の悪性新生物について正しいのはどれか。
- a.死亡者数は年間30万人を超えている。
- b.死亡全体に占める割合は50%を超えている。
- c.女性の年齢調整死亡率は上昇している。
- d.部位別の年齢調整死亡率は結腸が最も高い。
- e.部位別の年齢調整死亡率で胃は上昇している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
日本では悪性新生物が1981年以降死因の第1位で、死亡数は1998年ごろに年間30万人を超え、2023年には約38万人に達していますが、死亡全体に占める割合は約3割から4分の1程度で半数には及びません。死亡数の増加の主因は人口の高齢化であり、高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率で見ると、女性は長期に低下、男性も1990年代半ばをピークに低下しています。部位別の年齢調整死亡率は男女計で肺が最も高く、胃はピロリ菌感染率の低下や食生活の変化、早期発見の進歩により大きく低下した一方、乳房は上昇してきました。死亡数・死亡割合・年齢調整死亡率という指標の違いを意識して統計を読むことが、公衆衛生の問題を解く鍵であり、がん対策の現状を正しく理解する基盤になります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
我が国の悪性新生物(がん)の死亡統計について、「死亡数・死亡割合という実数の動き」と「年齢調整死亡率の動き」を区別して理解しているかを問う問題である(本問は 2008 年の出題)。
死亡数と年齢調整死亡率の違い
・がんは高齢になるほど発生しやすい。そのため人口の高齢化が進むと、年齢ごとの死亡の危険が変わらなくても、がんで亡くなる人の実数(死亡数)や、年齢を考慮しない粗死亡率は増え続ける。 ・年齢調整死亡率は、年齢構成の異なる集団や年次を比べるために、基準人口(2020 年以降は平成 27 年モデル人口、それ以前は昭和 60 年モデル人口)の年齢構成に当てはめて計算した死亡率である。高齢化の影響を取り除いた、実質的な死亡の危険の変化を表す。
我が国のがん死亡の状況
・悪性新生物は 1981 年(昭和 56 年)以降、死因の第 1 位である。死亡数は増加が続いており、出題当時の 2000 年代後半で年間 33〜34 万人、2023 年には約 38 万人である。 ・死亡総数に占める割合は、出題当時で約 30%だった。その後は老衰など他の死因の増加により相対的に下がり、2023 年は約 24%である。 ・年齢調整死亡率は、女性では長く低下が続いている。男性では上昇したのち 1990 年代半ばをピークに低下に転じた。 以上から、実数に関する記述である「死亡者数は年間 30 万人を超えている」が正しく、他の選択肢は割合や年齢調整死亡率の動きについての誤りである。
選択肢考察
- ○a. 死亡者数は年間30万人を超えている。
悪性新生物による死亡数は、1998 年ごろに年間 30 万人を超えた。出題当時(2000 年代後半)は年間 33〜34 万人、2023 年には約 38.2 万人(男性約 22 万人、女性約 16 万人)と増え続けている。主な原因は人口の高齢化で、がんにかかりやすい高齢者が増えたために死亡の実数が伸びている。
- ×b. 死亡全体に占める割合は50%を超えている。
死因の第 1 位ではあるが、死亡全体に占める割合は出題当時で約 30%(およそ 3 人に 1 人)だった。2023 年は約 24%(およそ 4 人に 1 人)で、50%には遠く及ばない。近年割合が下がっているのは、がんの死亡数が減ったからではない。高齢化にともなって老衰などによる死亡が大きく増え、死亡総数そのものが増えたためである。
- ×c. 女性の年齢調整死亡率は上昇している。
女性のがんの年齢調整死亡率は、1970 年代以降ほぼ一貫して低下している。胃癌や子宮頸癌の死亡の減少が大きく寄与した。男性は上昇が続いたのち、1990 年代半ば(平成 7 年ごろ)をピークに低下に転じた。男女とも近年は低下傾向にある。女性のなかでも乳癌の年齢調整死亡率は上昇してきたが、がん全体としては低下しているので、この記述は誤りである。
- ×d. 部位別の年齢調整死亡率は結腸が最も高い。
男女を合わせた部位別の年齢調整死亡率が最も高いのは肺癌である。出題当時は肺に次いで胃が高く、その後に大腸(結腸と直腸)が続いていた。現在は大腸と胃の順位が接近・逆転している。結腸だけで首位になることはない。なお、死亡数で見ると男性は肺・大腸・胃の順、女性は大腸が第 1 位である(2023 年)。そのため「女性では大腸が 1 位」と覚えている場合、男女を合わせた年齢調整死亡率と混同しないよう注意が必要である。
- ×e. 部位別の年齢調整死亡率で胃は上昇している。
胃癌の年齢調整死亡率は男女とも長期にわたって大きく低下している。背景には、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の感染率の低下、冷蔵庫の普及による塩分の多い保存食の減少などの食生活の変化、検診や内視鏡による早期発見と治療成績の向上がある。死亡数も長く横ばいから減少傾向にある。
部位別の年齢調整死亡率の長期的な動き(おおまかな傾向)
・胃:男女とも大きく低下 ・子宮:長く低下していたが、近年は横ばい(若い世代での子宮頸癌の増加が問題となっている) ・肝臓:1990 年代後半ごろから低下(C 型肝炎ウイルスの感染者が減り、治療も進歩したため) ・肺:男性は 1990 年代後半まで上昇し、その後は横ばいから低下。男女を合わせた部位別では最も高い ・大腸:2000 年前後まで上昇し、その後は横ばいから緩やかに低下 ・乳房:長く上昇を続けてきた(近年は頭打ちの傾向) ・膵臓:男女ともに横ばいから微増
死亡数の多い部位(2023 年)
・男性:肺 → 大腸 → 胃 ・女性:大腸 → 肺 → 膵臓 ・男女計:肺 → 大腸 → 胃
主要死因の順位(2023 年)
悪性新生物 → 心疾患 → 老衰 → 脳血管疾患 → 肺炎の順である。老衰は近年大きく増えている。
年齢調整死亡率の意義
観察集団の年齢階級別死亡率を基準人口に当てはめて求める方法を直接法という。高齢化の影響を除いて年次の推移や地域の差を比べるのに使う。粗死亡率や死亡数は高齢化の影響を強く受けるため、「実数は増えているのに年齢調整死亡率は下がっている」という現象ががんではよく見られる。
POINT
・がんは 1981 年以降、死因の第 1 位。死亡数は増加を続け、年間 30 万人超(2023 年は約 38 万人)。 ・死亡全体に占める割合は約 3 割から 4 分の 1 程度で、5 割ではない。 ・年齢調整死亡率は男女とも低下傾向(女性は長期に低下、男性は 1990 年代半ばがピーク)。 ・部位別の年齢調整死亡率は男女計で肺が最も高い。胃は低下が著しく、乳房は上昇してきた。 ・死亡数の増加の主因は人口の高齢化であり、年齢調整死亡率で見ると低下している。
