補体が「出番なし」の過敏反応―Ⅰ〜Ⅳ型分類で解く気管支喘息
第102回医師国家試験 E問題 第25問
国試問題にチャレンジ
補体が関与しないのはどれか。
- a.過敏性肺炎
- b.気管支喘息
- c.自己免疫性溶血性貧血
- d.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
- e.免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〈ITP〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
過敏反応はGellとCoombsの分類でⅠ〜Ⅳ型に分けられ、補体が主に関与するのは抗体が細胞を標的とするⅡ型と、免疫複合体が沈着するⅢ型です。IgEと肥満細胞によるⅠ型、T細胞によるⅣ型では、補体は主な機序に関わりません。アトピー型気管支喘息は典型的なⅠ型反応で補体を必要としないのに対し、自己免疫性溶血性貧血とITPはⅡ型、SLEはⅢ型、過敏性肺炎はⅢ型とⅣ型の混合として補体が関与します。SLEや急性糸球体腎炎などでは補体が消費されて血清補体価が低下し、診断や活動性評価の手がかりになります。「疾患→反応の型→補体の関与」と段階を踏んで考えることが、免疫疾患を体系的に理解する近道です。
解答・解説
正解はbです
テーマ
免疫反応が生体に障害をもたらす過敏反応(アレルギー)は、Gell と Coombs の分類でⅠ〜Ⅳ型(Ⅱ型の亜型としてⅤ型を置くこともある)に分けられる。本問は、各疾患がどの型の反応で起こるかを思い出し、その型に補体が関わるかどうかで判断する問題である。
型ごとの補体の関与
・Ⅰ型(即時型):IgE が肥満細胞や好塩基球の表面の高親和性 IgE 受容体(FcεRI)に結合しておき、そこへ抗原が結合して IgE を架橋すると、ヒスタミンやロイコトリエンなどが放出される。抗原抗体反応から症状までに補体の活性化を必要としない。 ・Ⅱ型(細胞傷害型):細胞表面や組織の抗原に IgG・IgM が結合する。古典経路で補体が活性化され、膜侵襲複合体(MAC、C5b-9)による細胞の破壊や、C3b が付いた細胞の貪食(オプソニン化)が起こる。これと並んで、Fc 受容体を介する貪食や抗体依存性細胞傷害(ADCC)も働く。 ・Ⅲ型(免疫複合体型):血中でできた抗原抗体複合体が血管壁や糸球体などに沈着し、補体を活性化する。生じた C3a・C5a(アナフィラトキシン、C5a は好中球を引き寄せる走化因子でもある)によって好中球が集まり、組織が傷害される。補体は炎症の中心的な担い手である。 ・Ⅳ型(遅延型):感作された T 細胞とマクロファージによる細胞性免疫の反応で、抗体も補体も主役ではない。
考え方
したがって、補体が関与するのはⅡ型とⅢ型であり、主にⅠ型だけで起こる疾患を選べばよい。選択肢のうち、純粋にⅠ型の疾患の代表は気管支喘息である。
選択肢考察
- ×a. 過敏性肺炎
過敏性肺炎は、カビ(夏型過敏性肺炎のトリコスポロンなど)、鳥の糞や羽毛に含まれる蛋白、真菌胞子などの有機粉塵をくり返し吸い込むことで起こる。血中の沈降抗体(IgG)と吸入抗原が肺胞壁で免疫複合体をつくり補体を活性化するⅢ型反応と、T 細胞による肉芽腫形成に代表されるⅣ型反応がともに関わる。Ⅲ型を介して補体が関与するので、「関与しない」には当たらない。
- ○b. 気管支喘息
アトピー型の気管支喘息は典型的なⅠ型反応である。吸入したダニや花粉などが気道の肥満細胞上の IgE を架橋すると、ヒスタミン・ロイコトリエン・プロスタグランジンが放出され、気管支平滑筋の収縮、粘液分泌の増加、血管透過性の亢進が起こる(即時相)。数時間後には、好酸球や Th2 細胞が集まって起こる遅発相の炎症が続く。これらの過程では肥満細胞と好酸球、IL-4・IL-5・IL-13 などの 2 型サイトカインが中心であり、補体の活性化は必要ない。したがって本問の正解である。なお、補体由来の C3a・C5a も肥満細胞を脱顆粒させる作用をもつが、これは喘息の主な発症機序ではない。
- ×c. 自己免疫性溶血性貧血
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は、赤血球の膜抗原に対する自己抗体で起こる代表的なⅡ型反応である。温式 AIHA では IgG が赤血球に結合し、主に脾臓のマクロファージが Fc 受容体と C3b 受容体を介して赤血球を捕らえ貪食する(血管外溶血)。寒冷凝集素症では IgM が低温で結合して補体を強く活性化し、C3b による肝臓での除去と、MAC による血管内溶血が起こる。直接 Coombs 試験では IgG のほかに補体成分 C3d が赤血球上に検出されることが多く、補体の関与を裏付ける。
- ×d. 全身性エリテマトーデス〈SLE〉
SLE は、抗 dsDNA 抗体などの自己抗体と核抗原がつくる免疫複合体が、腎糸球体・皮膚・血管壁などに沈着して補体を活性化するⅢ型反応が病態の中心である(ループス腎炎が代表)。補体が消費されるため、活動期には血清補体価(CH50)や C3・C4 が低下し、病気の活動性の指標として使われる。また、自己免疫性溶血性貧血や血小板減少などのⅡ型の病態も合併しうる。補体と深く関わる疾患であり、該当しない。
- ×e. 免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〈ITP〉
ITP は、血小板膜の糖蛋白(GPⅡb/Ⅲa など)に対する IgG 自己抗体が結合した血小板が、主に脾臓のマクロファージに Fc 受容体を介して貪食されて減少する疾患で、AIHA と同じくⅡ型反応に分類される。巨核球の障害による血小板産生の低下も関わる。主な機序は Fc 受容体を介する貪食であるが、Ⅱ型反応として補体の活性化(血小板上への C3 の沈着)も病態に関わるとされており、Ⅰ型の気管支喘息と比べると補体が関与する疾患に位置づけられる。
過敏反応の分類と代表疾患
・Ⅰ型(IgE、肥満細胞、補体の関与なし):アナフィラキシー、アトピー型気管支喘息、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、食物アレルギー ・Ⅱ型(IgG・IgM、補体・Fc 受容体・ADCC):AIHA、ITP、不適合輸血、新生児溶血性疾患、Goodpasture 症候群(抗糸球体基底膜病)、天疱瘡、リウマチ熱 ・Ⅲ型(免疫複合体、補体・好中球):SLE、血清病、急性糸球体腎炎(溶連菌感染後)、Arthus 反応、過敏性肺炎(Ⅲ型+Ⅳ型)、IgA 血管炎 ・Ⅳ型(T 細胞、マクロファージ):ツベルクリン反応、接触皮膚炎、移植片拒絶、サルコイドーシス、結核の肉芽腫 ・Ⅴ型(受容体に対する刺激性抗体、Ⅱ型の亜型):Basedow 病(抗 TSH 受容体抗体)。重症筋無力症(抗アセチルコリン受容体抗体)はⅡ型、あるいは受容体を遮断するⅤ型に含めることがある。
補体の活性化経路と働き
・古典経路:抗原と結合した IgG・IgM に C1q が結合して始まる(Ⅱ型・Ⅲ型反応の中心)。 ・第二経路(代替経路):微生物表面などで C3 が自然に活性化される。 ・レクチン経路:マンノース結合レクチンが糖鎖に結合して始まる。 補体の主な働きは、①オプソニン化(C3b)、②炎症の誘導(C3a・C5a のアナフィラトキシン作用、C5a の好中球遊走)、③膜侵襲複合体(C5b-9)による細胞の溶解、の三つである。
血清補体価が低下する主な疾患
SLE(活動期)、急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、クリオグロブリン血症、悪性関節リウマチなど、免疫複合体によって補体が消費される疾患で低下する。
POINT
・補体が関与するのはⅡ型とⅢ型の過敏反応。Ⅰ型(IgE・肥満細胞)とⅣ型(T 細胞)では主な機序に関与しない。 ・気管支喘息(アトピー型)はⅠ型の代表で、補体は関与しない。 ・AIHA・ITP はⅡ型、SLE はⅢ型(活動期に CH50・C3・C4 が低下)、過敏性肺炎はⅢ型+Ⅳ型。
