「忘れる」「歩き回る」では見分けられない―せん妄と認知症を分ける意識という物差し
第102回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
Alzheimer型認知症〈痴呆〉とせん妄とを鑑別できる症候はどれか。
- a.不穏
- b.徘徊
- c.意識障害
- d.易刺激性
- e.記銘力低下
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
せん妄は身体疾患や薬剤、手術などを契機に急性に発症する意識障害で、注意障害、日内変動、可逆性を特徴とします。Alzheimer型認知症は意識清明のまま緩徐に進行する認知機能障害であり、意識障害の有無が両者を区別する最も本質的な症候です。不穏、徘徊、易刺激性、記銘力低下はいずれの病態でもみられるため、鑑別の根拠にはなりません。認知症患者はせん妄を合併しやすく、急な悪化や意識の変動があれば原因検索と除去を優先し、低活動型せん妄の見逃しにも注意が必要です。「行動」ではなく「意識と経過」で見分ける視点は、高齢者診療のあらゆる場面で役立ちます。
解答・解説
正解はcです
Alzheimer型認知症とせん妄は、どちらも高齢者で記憶障害、見当識障害、興奮や落ち着きのなさなどを示すため、外から見える行動だけでは区別しにくい。しかし両者は本質的に異なる病態である。 ・せん妄: 身体疾患(感染症、脱水・電解質異常、低酸素、低血糖など)、薬剤(抗コリン薬、ベンゾジアゼピン系薬、オピオイドなど)、手術、環境変化などを契機に、数時間から数日の単位で急に発症する軽度から中等度の意識障害(意識の混濁に、錯覚・幻覚・興奮などが加わった状態)である。注意の集中・維持・転換が障害され、症状は1日のうちで変動し、夕方から夜間に悪化しやすい。原因を取り除けば多くは可逆的である。 ・Alzheimer型認知症: 神経変性により、数か月から数年かけて緩徐に進行する認知機能障害である。原則として意識は清明で、注意も病期がかなり進むまでは比較的保たれる。認知症は「意識障害がない状態で」認知機能が持続的に低下したものと定義されるため、認知症の診断にはせん妄の除外が前提となる。 したがって、両者を区別する決め手は「意識障害の有無」である。これに加えて、発症様式(急性か緩徐か)、日内変動の有無、注意障害の程度、可逆性も鑑別に役立つ。一方、不穏・徘徊・易刺激性・記銘力低下は両者に共通してみられうる症候であり、鑑別の根拠にならない。なお、認知症の患者はせん妄を起こしやすく、両者が合併することも多い。その場合でも、ふだんの状態から急に悪化し意識の変動を伴えば、せん妄の合併を疑って原因検索を行う。
選択肢考察
- ×a. 不穏
誤り。不穏(落ち着かず、じっとしていられない状態)は、過活動型せん妄の代表的な症状であるとともに、Alzheimer型認知症の行動・心理症状(BPSD)としても頻繁にみられる。両者に共通するため鑑別には使えない。
- ×b. 徘徊
誤り。徘徊はAlzheimer型認知症では見当識障害や記憶障害を背景としたBPSDとしてよくみられる。せん妄でも、意識が混濁して状況を把握できないまま歩き回ったり、夜間に病棟を出歩いたりすることがある。両者に共通してみられるので鑑別点にはならない。
- ○c. 意識障害
正しい。せん妄はそれ自体が意識障害の一型であり、意識の混濁と注意障害を必須の特徴とする。これに対してAlzheimer型認知症は意識清明な状態で認知機能が低下する疾患であり、定義上も意識障害を伴わない。したがって意識障害の有無が両者を区別する最も本質的な症候である。認知症患者にせん妄が合併した場合も、新たに出現した意識障害はせん妄によるものとして捉え、その誘因・原因の検索と治療を行う。
- ×d. 易刺激性
誤り。易刺激性(ささいなことで怒りっぽくなる、興奮しやすい状態)は、Alzheimer型認知症ではBPSDとして、せん妄では周囲の状況を正しく理解できないことへの反応として、いずれにもみられる。両者で共通するため鑑別には役立たない。
- ×e. 記銘力低下
誤り。記銘力低下(新しいことを覚えられない)は、Alzheimer型認知症では初期から目立つ中核症状である。せん妄でも、意識障害と注意障害のために新しい情報を取り込めず、記銘力は低下する(せん妄中の出来事は後で覚えていないことが多い)。両者に共通するため鑑別には使えない。
せん妄とAlzheimer型認知症の比較
・発症: せん妄は急性(数時間〜数日)/認知症は緩徐(数か月〜数年) ・経過: せん妄は日内変動が大きく、夜間に悪化しやすい/認知症は比較的一定で、ゆっくり進行 ・意識: せん妄は障害される(混濁)/認知症は原則として清明 ・注意: せん妄は著明に障害/認知症は初期には比較的保たれる ・幻覚: せん妄では幻視が多い/Alzheimer型認知症では少ない(幻視が目立つ場合はLewy小体型認知症を考える) ・可逆性: せん妄は原因除去で改善することが多い/Alzheimer型認知症は非可逆的に進行
せん妄の分類と対応
・過活動型(興奮、不穏、幻覚が目立つ)、低活動型(ぼんやりして反応が乏しく、うつ病と誤認されやすい)、混合型に分けられる。 ・対応の基本は原因の検索と除去(感染症の治療、脱水・電解質の補正、原因薬剤の中止など)である。加えて、昼夜のリズムを整える、眼鏡・補聴器を使う、時計やカレンダーで見当識を補うといった環境調整を行う。興奮が強い場合は抗精神病薬を少量用いることがある。ベンゾジアゼピン系薬はせん妄を悪化させうるため、アルコール離脱せん妄などを除き原則として避ける。 ・評価法としてCAM(Confusion Assessment Method)があり、急性発症と変動性、注意障害に加え、思考の解体または意識レベルの変化があればせん妄と判断する。
認知症の中核症状とBPSD
中核症状は記憶障害、見当識障害、実行機能障害、失語・失行・失認など、脳の病変に直接由来する症状である。BPSD(認知症の行動・心理症状)は、徘徊、不穏、興奮、易刺激性、妄想(物盗られ妄想など)、抑うつ、睡眠障害などで、環境や身体状況の影響を受けて出現する。
POINT
・せん妄は意識障害(意識の混濁+注意障害)であり、急性発症・日内変動・可逆性が特徴。 ・Alzheimer型認知症は意識清明のまま緩徐に進行する認知機能障害。認知症の診断にはせん妄の除外が必要。 ・不穏、徘徊、易刺激性、記銘力低下は両者に共通してみられ、鑑別の根拠にならない。 ・認知症患者はせん妄を合併しやすい。急な悪化があればせん妄を疑い、原因を検索する。
