StudyMed医師国家試験

腸は体内最大の免疫器官―粘膜を静かに守る分泌型IgA

第102回医師国家試験 E問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第11問

腸管免疫で重要なのはどれか。

  1. a.IgA
  2. b.IgD
  3. c.IgE
  4. d.IgG
  5. e.IgM

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腸管免疫を担う抗体のクラスを選ぶ問題だ。5種類の免疫グロブリンにはそれぞれ得意な「持ち場」がある。血液の中なのか、粘膜の表面なのか、という視点で考えてみよう。
医学生医学生
免疫の講義で「腸管は体内最大の免疫器官」と習いました。でも、抗体といえば一番多いIgGが主役のような気もします。
ドクタードクター
血清中で最も多いのは確かにIgGだね。でも腸管の内腔は、体の内側にありながら実は「外界」とつながった空間なんだ。そこに抗体を届けるには、上皮細胞を通り抜けて分泌される仕組みが必要になる。それを備えているのがIgAだよ。
医学生医学生
分泌型IgAというのは、血中のIgAとは形が違うんですか。
ドクタードクター
そう。血清中のIgAは主に単量体だけど、粘膜ではJ鎖でつながった二量体として作られる。小腸のPeyer板で抗原刺激を受けたB細胞がIgAへクラススイッチし、粘膜固有層で形質細胞になってIgAを産生する。その二量体IgAが上皮細胞の基底側にある多量体免疫グロブリン受容体に結合し、細胞内を運ばれて内腔へ放出されるんだ。
医学生医学生
組織学実習で、回腸のPeyer板を顕微鏡で探した記憶があります。あそこが抗原を取り込む入口なんですね。
ドクタードクター
その通り。そして内腔に出るとき、受容体の一部が「分泌成分」としてくっついたまま放出される。これが消化酵素からIgAを守る鎧の役目を果たすんだ。タンパク分解酵素だらけの腸管でも壊れにくい、よくできた仕組みだよ。
医学生医学生
分泌型IgAは、病原体をどうやって排除するんですか。補体を使って溶かすのでしょうか。
ドクタードクター
そこがポイントで、IgAは補体をほとんど活性化しない。病原体や毒素に結合して、上皮への付着や侵入を妨げる「中和・排除」が主な働きだ。毎日大量の食物や腸内細菌に触れる腸管で、いちいち炎症を起こしていたら大変だよね。炎症を起こさずに静かに守る、これが粘膜にぴったりの性質なんだ。
医学生医学生
なるほど。じゃあIgGは粘膜にはあまり出てこないんですね。
ドクタードクター
IgGは血液や組織の中で、オプソニン化や補体活性化、ADCCを通じて全身性の液性免疫を担う。唯一胎盤を通過するのも特徴だね。粘膜面への分泌は少ないから、腸管免疫の中心ではない。
医学生医学生
IgMも五量体でJ鎖をもっていると習いました。分泌される可能性はありませんか。
ドクタードクター
鋭いね。IgMもJ鎖をもつので分泌型として粘膜に出ることがあり、IgA欠損症では代償的に働くとされる。ただ普段の主役はやはりIgAだ。IgMは一次免疫応答で最初に作られ、補体の古典経路を強く活性化する抗体として覚えておこう。
医学生医学生
IgEは食物アレルギーで腸に関わりそうですが、防御の主役ではないということですね。
ドクタードクター
そう。IgEは肥満細胞や好塩基球のFcεRIに結合し、抗原で架橋されるとヒスタミンなどを放出してI型アレルギーを起こす。寄生虫への防御にも関わるけど、腸管の日常的な防御とは役割が違う。IgDは血清中にごく微量で、主にナイーブB細胞の表面で抗原受容体として働いている。
医学生医学生
整理すると、胎盤通過はIgG、一次応答はIgM、アレルギーはIgE、粘膜はIgA、ですね。CBTの直前にこの4つを語呂で覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、分泌型IgAは唾液、涙液、鼻汁、気道分泌物、そして母乳、特に初乳にも豊富に含まれる。母乳中のIgAは乳児の腸を感染から守る受動免疫として大切なんだ。
医学生医学生
小児科実習で、初乳をできるだけ赤ちゃんに飲ませるよう指導していたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そうだね。臨床では選択的IgA欠損症も押さえておきたい。日本人では欧米人より頻度が低いけど、多くは無症状で、気道や消化管の感染を繰り返すことがある。そしてIgAを含む血液製剤の輸血でアナフィラキシーを起こしうるから、輸血歴の確認は大事だ。また、IgA腎症のようにIgAが病気の原因側に回る疾患もあるよ。
医学生医学生
同じIgAでも、守る側にも病気の原因にもなるんですね。抗体ごとの性質を理解しておくと、いろいろな疾患につながりそうです。

まとめ

腸管をはじめとする粘膜免疫の主役は分泌型IgAです。Peyer板で感作されたB細胞がIgA産生形質細胞となり、J鎖で結ばれた二量体IgAが多量体免疫グロブリン受容体を介して上皮を通過し、分泌成分を伴って内腔へ分泌されます。分泌型IgAは補体をほとんど活性化せず、病原体や毒素の付着・侵入を阻止して炎症を起こさずに防御し、唾液・涙液・母乳(特に初乳)にも豊富です。一方、IgGは胎盤を通過する全身性液性免疫の中心、IgMは一次応答の抗体、IgEはI型アレルギー、IgDはナイーブB細胞の抗原受容体と、各クラスの持ち場を整理しておくことが重要です。選択的IgA欠損症での輸血時アナフィラキシーやIgA腎症など、臨床の場面にも直結する知識です。

解答・解説

正解はaです

腸管などの粘膜面で働く局所免疫(粘膜免疫)を担う免疫グロブリン(抗体)のクラスを問う問題である。 腸管粘膜は、食物や腸内細菌など大量の外来抗原に常にさらされている、体内最大の免疫器官である。小腸のPeyer板(パイエル板)などの腸管関連リンパ組織で抗原刺激を受けたB細胞は、IgA産生へのクラススイッチを起こし、粘膜固有層に移動してIgAを産生する形質細胞となる。産生されたIgAは二量体(J鎖でつながった2分子)の形で上皮細胞の基底側にある多量体免疫グロブリン受容体(pIgR)に結合し、上皮細胞内を運ばれて腸管内腔へ分泌される。このとき受容体の一部が「分泌成分」として付いたまま放出され、分泌型IgAとなる。分泌成分は消化管内のタンパク分解酵素から抗体を守る。 分泌型IgAは病原体や毒素に結合して上皮への付着・侵入を阻止する(中和・排除)が、補体をほとんど活性化せず、炎症を起こさずに防御する点が粘膜での働きに適している。したがって、5つのクラスのうち腸管免疫の中心はIgAである。

選択肢考察

  1. ○a.  IgA

    IgAは腸管粘膜の形質細胞で大量に産生され、二量体の分泌型IgAとして腸管内腔へ分泌される。病原体や毒素に結合して粘膜上皮への付着・侵入を妨げ、炎症を起こさずに排除する。体内で1日に産生される量が最も多い免疫グロブリンであり、腸管のほか唾液、涙液、鼻汁、気道分泌物、母乳(特に初乳)にも多く含まれて粘膜の局所免疫を担う。母乳中の分泌型IgAは乳児の腸管を感染から守る受動免疫としても重要である。

  2. ×b.  IgD

    IgDは血清中にごく微量しか存在しない。主にナイーブ(未感作)B細胞の表面にIgMとともに発現し、抗原を認識するB細胞受容体として働くと考えられているが、分泌型IgDの生理的役割は十分には解明されていない。腸管免疫の中心ではない。

  3. ×c.  IgE

    IgEは血清中濃度が最も低い免疫グロブリンで、肥満細胞や好塩基球の高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合している。そこに抗原が結合して架橋されるとヒスタミンなどが放出され、I型(即時型)アレルギー反応が起こる。寄生虫(蠕虫)に対する防御にも関与する。食物アレルギーでは腸管が反応の場になることがあるが、腸管の防御免疫を担う主役ではない。

  4. ×d.  IgG

    IgGは血清中で最も濃度が高く(免疫グロブリンの約75〜80%)、半減期も約3週間と最も長い。唯一胎盤を通過して胎児・新生児を守るほか、オプソニン化、補体の活性化、ADCC(抗体依存性細胞傷害)などを通じて主に血液・組織内での全身性の液性免疫を担う。粘膜面への分泌は少なく、腸管免疫の中心ではない。

  5. ×e.  IgM

    IgMは五量体で分子量が最も大きく、抗原に初めて出会ったときの一次免疫応答で最初に産生される。補体(古典経路)の活性化能が高い。J鎖をもつため分泌型として粘膜に分泌されることもあり、IgA欠損症では分泌型IgMが代償的に働くとされるが、通常の腸管免疫で主役となるのはIgAである。

免疫グロブリンの構造

免疫グロブリンは2本のH鎖(重鎖)と2本のL鎖(軽鎖)からなる。H鎖定常部の種類(α、δ、ε、γ、μ)によりIgA、IgD、IgE、IgG、IgMの5クラスに分けられる。

各クラスの特徴の整理

・IgG:単量体。血清中で最多。胎盤通過性あり。半減期が最長(約3週間)。二次免疫応答の主体。オプソニン化、補体活性化、ADCC。4つのサブクラス(IgG1〜4)がある。 ・IgA:血清中では主に単量体、分泌型は二量体(J鎖+分泌成分)。粘膜免疫の中心。母乳(初乳)に豊富。 ・IgM:五量体で最大。一次免疫応答で最初に出現。補体活性化能が強い。胎盤を通過しないため、臍帯血や新生児のIgM高値は子宮内感染を示唆する。 ・IgD:血清中微量。ナイーブB細胞表面の抗原受容体。 ・IgE:血清中最少。肥満細胞・好塩基球に結合し、I型アレルギーと寄生虫防御に関与。

関連事項

・選択的IgA欠損症は、日本人では欧米人に比べて頻度が低いが、原発性免疫不全症の一つとして知られる。多くは無症状だが、気道・消化管感染の反復や、IgA含有血液製剤の輸血でアナフィラキシーを起こすことがある。 ・IgA腎症は、糖鎖異常をもつIgAを含む免疫複合体が腎糸球体メサンギウムに沈着する疾患で、上気道感染後に血尿が出現することがある。

POINT

・腸管をはじめとする粘膜免疫の主役は分泌型IgA(二量体、J鎖と分泌成分をもつ)。 ・分泌型IgAは唾液・涙液・気道分泌物・母乳にも多く含まれる。 ・胎盤通過性はIgGのみ、一次応答で最初に出るのはIgM、I型アレルギーはIgE。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。